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S女小説 名門私立S女学園2「学年制覇」

S女小説 名門私立S女学園2「学年制覇」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

女生徒たちの奴隷と化した男性教諭が、さらなる虐待や陵辱を受ける物語

女子高教諭の弘信が犯した校内不倫の代償はあまりにも大きなものだった。女生徒一人ひとりに土下座で詫びさせられ、裸に剥かれ、さらには全員から総計百発に及ぶ一本鞭の罰を受け、挙げ句の果てにはクラス委員長の早川沙樹とクラス委員葉山静香の二人にペニスバンドで尻穴を貫かれたのだ。しかし強度のS性を秘めた少女たちの野望がこの程度にとどまるはずがなかった。クラスを支配し弘信を奴隷状態に置いた沙樹の次なる目標は、学年全体の制覇であった。

第一章 女生徒たちの靴磨き

第二章 母姉への屈辱舌奉仕

第三章 秘密を握る少女たち

第四章 張形はクラスの備品

第五章 美人留学生の鞭打ち

第六章 尻に名前を刻まれて

本文サンプル

第一章 女生徒たちの靴磨き

☆ 一

「で、では……授業を始めます……始めさせていただきます……」
 稲田弘信は教壇に上がり、二年一組の女生徒たちを伏し目がちに見渡すとそう言った。自分の声がいくぶん震えているのが分かる。彼女たちがこちらを見る目がこれまでと明らかに違っている。一年生最後のクラス会において、弘信の担任教師としての権威は地に堕ちてしまった。無理もない。副担任である新任養護教諭、石坂真由美との校内不倫を生徒一人ひとりに土下座で詫びさせられ、裸に剥かれ、さらには全員から総計百発に及ぶ一本鞭の罰を受け、挙げ句の果てにはクラス委員長の早川沙樹とクラス委員の葉山静香の二人にペニスバンドで尻穴を貫かれたのだ。
 あまりのショックに翌日の終業式はもちろん、年次明けの始業式も副担任の石坂真由美に任せ、学校へは出勤したものの、職員室から出ることができなかった。女生徒たちの前に姿を現す勇気がなかった。彼女たちは単なる余興くらいにしか思っていないのかもしれないが、虐待陵辱を受けた当事者にしてみれば、簡単に割り切ることはできなかった。しかし、いつまでもこもってばかりいる訳にもいかない。仕事をしなくては、自分も家族も生きていけない。
「ボーッとしてないで、早く始めて下さいよ」
 早川沙樹がボブヘアの髪を触りながら、切れ長の美しい目で、弘信に強い視線を送っている。教壇に立っていながら、弘信は上から見下ろされているような気になった。
「あ、はい……すみません……では……新しい教科書を開いてください……今日から、数Ⅱに入ります……は、入らせていただきます……」

 幸い授業を妨害されるようなことはなかった。早川沙樹を始め、全員が真面目に勉強に取り組んでいる。そこだけを見れば、歴史ある女子高の優秀な女生徒たちそのものなのである。授業に熱が入るにつれ、弘信は彼女たちの中に棲む悪魔の存在を忘れそうになる。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。昼休みだ。
「では……時間も来ましたので、今日はここで終わりにします……」
「先生」
「あ、はい……早川さん……」
「今日はずいぶん久しぶりだったね……」
 沙樹は窓際最前列の自席で片頬杖をつき、斜に構えて言う。二年生になって髪が少し長めになり、一段と大人の女性へ近づいている。
「あ、はあ……ちょっと、体調を崩していまして……」
「学校を休むほどじゃなかったんでしょ。出勤はしてたって聞いてるよ」
「え、あ……す、すみません……」
「終業式も始業式も、石坂さんにまかせっきりで、ちょっとたるんでるんじゃない?」
「い、いえ……あ、は、い……」
 次第に強くなっていく沙樹の口調と対照的に弘信は口ごもっていく。
「こっち、おいでよ。アタシが話してるんだからさ」
「あ、はい……」
 弘信は手に持ちかけていた教科書類を教卓に戻すと、沙樹の席へ赴いた。弁当を広げたり、食堂や売店へ赴こうとしていた女生徒たちが寄ってきて人垣を作る。
「座んな、そこ」
 沙樹は体を半回転させ、机の下から脚を出すと、自分の足元を顎で指して言った。
「は、早川さん……」
「早くしなさいよ、言われているでしょ」
 目の大きな葉山静香が弘信の背中を叩いて言う。バレーボール部の長身美女、時本結菜が腕組みをして近づいてくるのが見えて、弘信はすぐさま従った。固い床に跪いて正座の姿勢を取る。
「ねえ、どうして仮病なんて使ったの?」
 沙樹は紺ハイソックスを履いた長い脚を組みながら聞いた。上履きのつま先が弘信の鼻をかすめそうになる。
「はうああ……い、いえ……仮病ではありません……本当に具合が悪くて……」
「でも、学校には来れたわけでしょ」
「そ、それは、そうですが……」
「それが仮病って言うんだよ」
 いきなり上から白いブラウスの腕が伸びてきて、弘信の頭髪を鷲づかみにし、ぐいと引き上げた。
「きひいいいいっ……す、すみませんっ……」
「どうしてサボった? 終業式も、始業式も、今日のホームルームだって、石坂さんにまかせっきりで……あんた、担任なんてやる資格ないよ」つかんだ髪を前後に揺らしながら罵倒する。「ああっ?」
「きひっ、くわあああっ……も、申し訳ありませんっ……」
「いっそのこと、担任と副担任、交代したら?」
 静香の声がする。
「だよね」沙樹が髪をつかんだ手にいっそう力を加えて頷く。「それがウチらの要望だよ……いや、命令かな」
「あああ……早川さん……沙樹様……」
 クスクスと周囲から笑い声が聞こえる。
「何、恥ずかしそうにアタシの名前呼んでんだよ。ここじゃ、やりにくいか?」
 沙樹が言うとおり、さすがに教室では、様付けした女生徒の名前をはっきりと声に出すのにはためらいがあった。
「……は、い……すみません……」
「じゃあ、ウチらもお腹空いてきたし、続きは放課後やろうか……例の場所でさ」

 放課後、弘信は体育倉庫へ赴く前に、石坂真由美のいる保健室を覗いてみる。
「稲田です」
「どうぞ」
 ドアを開けて部屋にへ入ると白衣の美女の足元に跪いた。
「ま、真由美様……」
「どうだった? 授業は」
 栗色のセミロングヘアをかき上げて、二十四歳の美人教師は聞いた。
「は、はい……授業の方は特に問題なかったのですが、今日、これから体育倉庫の方へ呼ばれています……」
「そう、じゃあ、頑張ってこないと」
「は、い……それと、沙樹様の方から、担任と副担任を交代するよう言われまして……」
「……そう」
 弘信は、真由美の顔色をうかがいながら続ける。
「……さすがにそれは人事の領域になりますので……問題があるかと……」
「そうかな。校内の最終的な人事権は校長だよね、確か。学年主任に進言してもらう形を取れば、できるんじゃない?」
「ま、真由美様の方はそれで……」
「私は問題ないわよ。実際、ここのところ生徒の前に出て担任の役割してるのは私なんだから。コソコソしてるあなたが副担任やった方がいいって生徒たちが思うのも当然じゃないかしら」
「あ、あああ……は、い……」
「要は、あなた次第ってことでしょ。どうなの? 表向きも、アタシの下に着く覚悟ある?」
「そ、それは……」
 弘信の中でいろんな思いが錯綜する。世間への体裁もあるし、妻にはどう説明すればいいだろう。責任の負担は減るものの、雑用が多いのはむしろ副担任の方だ。
「も、もう少し、考えさせてください……すみません……」
「ふっ……じゃ、そうなさい……それより早く行った方がいいんじゃない? 体育倉庫で拷問受けるんでしょ、沙樹様に」
 真由美が茶化すように言った。
「ま、真由美様……」
 弘信はすっかり女主人ぶりが板に付いた恋人の言葉に慌てる。壁の時計の時間を見て、「はい、では行って参ります……」と立ち上がり、一礼をして部屋を出た。

☆ 二

 体育倉庫に着いた弘信は、まだ誰も来てないのが分かって安堵した。扉を閉めて明かりを点け、奥の体操マットの上に正座をして待った。
 前室の本倉庫では聞こえていたバレーボール部の打球音や掛け声が、奧のこの部屋ではほとんど聞こえない。
 弘信も最近知ったのだが、かつて教員同士で組まれたバンドの練習場として使われていたことがあって、その際に完全防音処理が施されたらしい。どうりで用具倉庫にしては分厚い扉が使われているわけだ。
 そんなとりとめのない思いに時間を潰していたら、扉が開く音がして女生徒たちが入室してきた。
 委員長の沙樹を始め、静香、結菜、陽子のクラス委員が全員揃っている。加えて、十人を超えるクラスの生徒が見学に来ている。
「あれ?」
 沙樹が正座する弘信の前に仁王立ちになって、首をかしげた。
「あ、はい……」
 遅刻もしておらず、正座の姿勢で待っていた弘信は、自分に落ち度を認めることができず、ただ大きく唾を伸び込んで、沙樹の方へ首を伸ばす。
「服、着てていいの?」
 沙樹が腕を組み、ため息をつく。
「あ、いえ……」
 まさか、裸で待っているのが当然だとでも言いたいのだろうか。
「ウチらが、この部屋でアンタを指導しようっていってんだからさ」と静香が続ける。
「素っ裸になって、待ってるのが当然だよね」
 そう言う陽子は長い黒髪に赤いフレームの眼鏡がよく似合っている。一年次にはかけてなかったので、視力が落ちたのか、もしくはコンタクトをしていたのだろう。
「すみません、言われてなかったもので……」
 弘信は沙樹を仰ぎ見、反省しきりの顔で言った。立ち上がってベルトを緩め、シャツを脱ぎ、ズボンを降ろし、すばやくパンツ一枚になった。沙樹にジロリとねめつけられ、パンツも脱いで気をつけをする。
 嘲るような蔑むような声があちこちから上がるも、大人の男の裸体を目の前にした少女たちの興奮が伝わってくるように弘信は思った。
「言われなかったから、脱いでないんだ……服を着たまま待ってるんだね、お前は……」
 沙樹が、弘信の怯えを弄ぶようにつぶやく。
 白いウェアに赤い短パン……バレーボール部のユニフォームを身につけた結菜が背後に回るのを見て、弘信は思わず、肩をびくつかせる。
「体で分からせてあげようか……」
 沙樹がそう言った次の瞬間、後ろから長くていかにも健康的な腕が回ってきて弘信の首にからみつき、そのままじわじわと締め上げていった。

「くぅううう……く、苦しい、です……」
 弘信は、背後から首を締め上げる結菜の腕を数度叩いた。
「何それ、ギブアップのつもり?」
 沙樹が嗤う。
「もう降参なの?」
 静香が言うと、見学に来た女生徒たちから嘲笑が漏れた。弘信は苦しさと恥ずかしさで顔を赤くする。
「きひいいいっ……許してください……ゆ、結菜、様……」
「弱すぎるよ、アンタ」
 結菜は腕を緩めると、やれやれといった調子で立ち上がる。
「分かった?」
「反省してる?」
「どうすんの、次からは」
 沙樹と静香、陽子が矢継ぎ早に言葉で責める。
「は、はい……すみませんでした、本当に。こ、今度からは、皆様方にお呼び出しをうけたら…………必ず服を脱いでお待ちします……」
 弘信は途中で咳き込みながらも、なんとか応える。
「全裸で?」と沙樹。
「は、い」
「誰か他の人が入ってきたら、どうすんの?」
「そ、それは……」
「どうするつもりなの? 分かんない?」
「す、すみません……」
 うつむく弘信の目に沙樹のローファーが目に入る。クラス委員のメンバーは、ユニフォーム姿の結菜以外、上履きでなく革のローファーだった。
「この頭は、算数の計算しかできないのか?」
 沙樹の足が跳ね上がり、ローファーがコツンと側頭部を蹴った。再び周囲からクスクスと笑い声が上がった。
「も、申し訳ありません……分かりません……」
「そうか、分かんないか……じゃあ、アタシのローファー磨きながら考えよっか……あれ、こっちへもっといで」
 青いバケツを顎で指した。
「は、はい……」
 弘信は裏返しになったバケツを沙樹の足元へ移動させる。昨年度、この上に載った真由美のブーツを舐めさせられたことを思い起こす。
「磨くくらいは簡単だよね?」
「は、い……」
 舐めるよりはよほどましだ。沙樹もきっとあのときのことを思い出して言ったのだろう。弘信はさらのハンカチをポケットから取りだし、すでに黒光りしているつま先にさらなる磨きを掛けていった。沙樹のローファーは、あらためて磨く必要が無いほどに手入れが施されていた。あの手下のように扱っていた兄に磨かせているのだろうか。兄の顔を思い出し、同時に真由美が彼にバックから犯される映像が甦ったので、弘信は慌てて頭から追い払った。
―――ううう……
 クスクスクスとまたもや周囲から笑い声が聞こえたかと思うと頭頂部に冷たい感触があった。ハッとして頭を上げると、沙樹のすぼめた口から唾液が糸のように垂れ落ちて、頭頂部から額、そして眉間を濡らしている。
「ひぃあああっ……」
「ボーッとしてるからだよ」
 結菜の大きな足が背中を蹴る。
「くわううっ……すみませんっ……」
「答えはどうなってんだよ、てめえっ」
 突然、沙樹が叫び、ローファーの甲が弘信の頬を激しく捉えた。
「がぶふううっ……ひいいいっ……も、申し訳ありません……考えつきません……」
 そうだった。問いを投げかけられているのだった。全裸でいるところに誰かが入ってきたらどうするのか……弘信にはまったく思いつかない。
「ひい、だって……聞いた? みんな」
 静香が嗤うと皆がうなずきながら嘲笑を浴びせた。
「すぐに腕立てはじめんだよ」沙樹がローファーで顎を上向かせながら言った。「トレーニング中だとしたら、不自然じゃないでしょ」
「あ、はいっ……」
 弘信は、沙樹に対して否定の返事はありえないとでもいうように裏返った声を出して頷く。
「それにしてもやっぱ全裸はおかしくない?」陽子が笑いながら言う。「いくらなんでも」
「そうだね」静香が続ける。「ブリーフぐらい履かせてあげたら、沙樹」
「確かに」と結菜。
「ほら、みんな優しいね」沙樹がつま先で顎下を軽く蹴る。「ブリーフは履いてていいんだってよ」
「あ、ありがとうございます……」
 弘信は目の前の教え子を見上げて、すぐに再び頭を下げる。短い丈のスカートの奥の白いショーツがチラリと目に入ってしまい、ドギマギする。
「アタシだけにじゃないでしょう」
「はいっ、み、皆さま、ありがとうございます…お、お気持ちに感謝……いたします…」
 弘信は、周囲の女生徒たちにもペコペコと頭を下げる。
「なんか雑じゃない? ウチらには」
 そう言う静香にもう一度、丁寧に頭を下げる。
「あ、ありがとうございます……です……」
「もっとひれ伏せよ」
 ドスンと背中に重たい足が載る。感触からして、結菜のシューズだろう。
「くわああっ……す、すみません……結菜様……」
「静香様も、申し訳ありません……」
「陽子様、ご無礼いたしました……ありがとうございました……」
 クラス委員を一人ひとり名指しして、頭を上げて目をしっかりとあわせ、次いで、床に額をこすりつけ、精一杯の誠意を見せる。他の教え子たちの視線を痛いように感じる。彼女たちはきっとこの事態を目の当たりにして、自分たちも同じように担任を虐めてかまわない。そんな権利が生じたように理解しているのではないだろうか。
「靴磨きはもうおしまいなの?」
 懸命に愛想を振りまいている弘信の背中に、沙樹の冷たい声が浴びせられる。
「あ、いえ、すみません、沙樹様……」
「ほらほら、忙しいよ」
 クラス委員とは別の女生徒の声がして、その周囲が笑う。弘信は、一段と心音を大きくして沙樹の元へ向かった。今度は左の靴で裏返しのバケツを踏んでいる。
「ピッカピカにすんだよ、息でハーハーしながらやってみ」
「あ……はい……」
 弘信は教え子の命令に従って、ローファーのつま先にハーッと息を吐きかけ、ハンカチを使って磨き上げていく。
 他の女生徒たちは、跳び箱や重ねたマットなど、思い思いに腰を落ち着ける場所を見つけて座り、担任教師の醜態を眺めている。
「沙樹も座ったら?」
 静香が折りたたみ椅子を持ってきた。
「ああ、ありがと」
 沙樹は腰を下ろすと、「こういうことはさ、そもそも、アンタが気がつかないと。稲田」
「あ、あああ……すみません……」
「お前、奴隷だろっ? アタシの」
 沙樹はいきなり声を荒げ、激しくバケツを蹴る。けたたましく転がる音が部屋の緊張感を一気に高めた。
「ひいいいっ……申し訳ありませんっ……」
―――泣きそうな顔しちゃって……
―――よほど沙樹が怖いんだね……
―――完全にビビっちゃってるよ……
―――惨め過ぎるわ、稲田先生……
 女生徒たちのひそひそ声が聞こえる。
「要らないんだよ、もう」
 転がったバケツを取りに行こうとした弘信の脇腹に追いかけてきた沙樹の鋭い蹴りが入る。
「ぐはううっ」
 バクンと音がして、哀れな中年教師はしばし、その場にのたうち回る。
―――ぎうううううう……くはぅわああああ……
 呼吸困難と痛みがようやく治まったところで、すぐに正座の姿勢に体を戻し、脂汗を流しながら、厳し過ぎる教え子を怯えきった目で見上げる。
「片方の手で、靴を持って。もう片方で磨くんだよ」
 椅子に座り直した沙樹は組んだ脚をぶらぶらさせながら凄みの利いた声で言う。
「は、はいっ……」
 弘信は、すぐさま命令に従い、土足の底を左手で支え、革靴に息を吐きかけながら、右手のハンカチで磨いていった。
「で、担任と副担任が入れ替わる件はどうした?」
 切れ長の目を持つ女子高生は威厳たっぷりに聞く。
「あ、ああっ、は、はい……さきほど石坂先生にも、相談しまして、させていただきまして、問題ないとのお返事をいただきました……」
 弘信は、この件についてなんらかのアクションを起こしておいてよかったと、とりあえず安堵する。
「だったら、すぐそうしなよ。明日からでも」
「あ、はい……ただ、これは人事に関わることですので、学年主任や校長先生の同意を得る必要が……」
「肩書きなんてあとからでいいでしょ」長い黒髪の陽子が口を挟んだ。「うちのクラスの中で、現実的にあなたが副担任に降格したということで」
「あ、は、はい……」
 クラスでトップクラスの成績を誇る才媛の口から放たれた『降格』という言葉が弘信の胸に重くのしかかる。
 沙樹が椅子から立ち上がり、静香と交代する。
「し、失礼します……」
 弘信は、沙樹よりはいくぶんサイズが小さいと思われる静香のローファーを手に取り、まずは全体の埃を落としていく。
「ホームルームの時間はさ、稲田」
 沙樹が腰に両手を当てて言う。
「は、はい……」
「手は止めないっ。動かしながら聞きな」
 沙樹の大声が部屋に響く。
 結菜のシューズが伸びて来て、弘信の側頭部を軽く蹴る。
「きひっ、す、すみませんっ……」
 慌てて、静香のローファーに息を吐き着け、熱心に磨く様をアピールする。
「ホームルームの時間は……お前はみんなの靴磨きやろうか。暇でしょ。もう担任じゃなくて、副担任なんだからさ」

☆ 三

「では、朝のホームルームを始めます」
 弘信の代わりに担任としてホームルームを進行する真由美の声が聞こえる。
「し、失礼します……」
 弘信は机の脇から出た大きなローファーにハンカチを当てる。長い脚の持ち主はバレーボール部の結菜である。
「しっかり磨きなさいよ」
「は、はい……承知しました……」
 弘信は、長身のハンサム少女をもう一度見上げて、愛想笑いをつくる。やや茶色がかったショートヘアが窓から差し込む朝日に輝いている。周囲の女生徒たちからの蔑視や嘲笑を背中に感じながら、弘信は最後列に座る結菜のローファーを懸命に磨いている。
「石坂先生、ちょっといいですか?」
 真由美の話の途中で、沙樹が手を挙げる。
「はい、どうぞ」
「みんな、稲田先生の靴磨きが気になってしょうがないみたいだから、前でやってもらってはどうでしょう?」
「……ああ……そうね、そうしましょうか」
 たわいのない、教師と生徒のやりとりのように聞こえるが、生徒から教師への実質的な命令である。このクラスにおいて、もはや沙樹の意見は絶対的なものになりつつあった。
 沙樹の指示で弘信は自ら教壇に、窓と教卓の間に、折りたたみ椅子を運び、広げる。そこへノートと筆記具を手にした結菜が座り、濃紺ハイソックスの長い脚を組んだ。
「し、失礼します……」
 弘信は女生徒たちの視線を一斉に浴びながら、再び結菜の大きなローファーを磨いていく。
「手で、しっかり支えてくださいよ」
 強い口調で結菜が上から叱咤する。
「す、すみませんっ……」
 弘信は、蹴りのひとつでも飛んでくるのではないかと、一瞬、体を縮こめる。
「何、ビビってんのよ、あんまりトロいと、ホントに蹴るわよ」
 結菜はそう言って、つま先を少し上下に揺らす。
「ひっ……や、やります……やりますので……」
「やりますので、何よ」
「……お、お許しください……どうか……」
「じゃあ、やってよ、早く」
「は、はいっ……失礼いたしますっ……」
 教室のあちこちから嘲笑が起こる中、弘信は片手で支えた結菜のつま先にハーッと息を吐きかけ、ハンカチを使って丹念に磨きを掛けていく。
「では、実力考査の日程ですが……」
 真由美がホームルームを進めていく。弘信の屈辱極まりない靴磨きが借景やBGMのように、このクラスにおいてごく自然な存在として扱われている。教師に黒革のローファーを磨かせている結菜は太股に置いたノートに几帳面な字で、真由美からの情報をメモしていった。
 メモを取りながら、結菜がおもむろに口を開く。
「稲田」
「は、はいっ」
 いきなりの呼び捨てに、弘信は声を裏返して、長身美少女を見上げる。
「次から、バインダーを用意しときな。メモ取りにくいから」
「あ、はい……承知しました……」
「アンタ、それくらい自分で気づかないと」
 近くの席の沙樹が言った。再びホームルームが中断し、弘信に女生徒たちの視線が集まる。
「ウチらに言わせた時点で、アウトだよ」
 結菜が続ける。
「す、すみません……気がつきませんで、申し訳ありません……」
「ホントに分かってんのかなあ。とりあえず、謝ってるだけじゃね?」
 肩幅の広い女子アスリートは、勘ぐって言う。
「い、いえ、そんなことはありませんっ、時本さん、反省しています、本当です……」
 弘信は焦り声を出し、少し後ろへ下がって、頭を深々と下げた。
「なあんか怪しいんだよなあ」
 上から結菜の声が降って来て、後頭部に固い靴底がのしかかる。
「ああああ……すみません……」
―――あーあ、踏まれちゃってるよ……
―――ふふっ、女の子に土足でね……
―――最高、いや、最低か……
―――土下座教師、頭を踏まれる……
 教室のざわめきが、火照る弘信の体をさらに熱くした。
「稲田」沙樹の声が聞こえる。「今日はペナルティだよ。このホームルーム、終わるまでそのままな」
「あ、は、はい……承知いたしました……」
 後頭部にのしかかる圧力が卑屈な言葉を嘲笑うようにして高まっていく。

 桜女学園では、朝の授業前と午後の授業後に、それぞれ十分間のホームルームが行われることになっている。弘信は、午後のホームルームが始まる少し前に結菜の元へ向かった。机に腰掛けて、クラスメイトと雑談をしている彼女の足元に跪く。
「今朝は申し訳ありませんでした……要領を得ませんで……そ、それで、時本さん、よかったら、もう一度、靴磨きの方を勉強させていただけませんでしょうか」
「何、それ、アタシに取り入ろうってつもり?」
 結菜は白い歯をこぼして言う。
「あ……えへ、すみませんです……」
 図星を突かれ、弘信は頭をかきながら愛想笑いを浮かべる。
「で? 上靴を磨くの? お前、アタシの上靴を磨くのか?」
 背が高い分だけ脚も長い女生徒は、弘信の鼻の先で上履きのつま先を動かしながら凄む。
「あ……いえ……」
「磨きたいんだったら、てめえでローファー取って来いよっ」
 結菜の恫喝が教室に響き、上靴のつま先が弘信の額を小突いた。
「ひいいっ……す、すみませんっ……」

 シューズロッカーまで駆け込んで来て、弘信は困惑する。
―――しまった……時本くんは何番だったっけ……
 結菜の出席番号が定かでない。二十番台だったとは思うが、万が一間違えでもしたら……。想像するだに恐ろしかった。
「どうしました?」
 振り返ると、陽子が立っていた。クラスでいちばんの才媛は今日も長い黒髪に赤い眼鏡がよく似合っている。
「あ、いえ、木橋さん……あの、時本さんの靴って分かりますでしょうか……」
「覚えてないんですか? 出席番号……信じらんない……」
 眼鏡の奥から、強い視線を放ちながら言った。
「あ、ちょっと、思い出せなくて……すみません……」
「そこですよ」
「あ、ああ……」
 陽子が指さした靴箱にはひときわ大きなローファーが置かれていた。
―――そうだよ。大きさで見ればよかったんだ。まったく、どうかしてる……
 弘信は、注意力が散漫になっている自分を心の中で嘆いた。
 手に取るとずっしりと重たく、中敷きには二十六・五センチと表記されている。弘信よりもずっと大きなサイズだ。
「お、大きいですね……」
 思わずつぶやいてしまう。
「いいの、そんなこと言って。結菜、案外気にしてるかもしれないよ」
「ああ……ど、どうか、ご内密に……」
 陽子に懇願する。
「っていうか、次は私じゃないんですか? 靴磨いてもらうの」
―――そうだった……
 陽子も自分のローファーを取りに来たのだ。
「あ、ああ、はい、すみません……ちょっと朝のやり直しがありまして」
「えーっ」
 思いがけぬほど、陽子が気分を害したようだったので、弘信は慌てる。
「あ、で、でも、少ししたらすぐに木橋さんの方に行きます、伺いますので、ちょ、ちょっとだけ待ってください……お待ちください……」
「ふふっ、分かった。なるべく早く来て下さいね」
 陽子はせせら笑うように言うと、目の前の冴えない教師にきっちり手入れさせる心づもりのローファーを手にして、スタスタと教室へ向かった。

 ホームルームが始まり、真由美はいくつかの連絡事項を伝える。「……っと、今日のところは私からはこれくらいです。あと皆さんの方から何かあったら……」しばし全員を見渡す。「特になければ、時間まで自習にします」そう言い残すと、貯まっている残務を処理するために足早に教室を出て行った。弘信が担任時にも行っていた、よくある流れである。
 しかしその弘信は今、教壇の端に正座し結菜のローファーを懸命に磨いている。陽子を待たせているため、手早く片方の足をすませた。
「すみません……向こうのおみ足をよろしいでしょうか……」
「ずいぶん早いわね。もっとちゃんとやってよ」
「あ、あの……それが……すみません、時本さん……木橋さんをお待たせしていまして……」
「何なの、それ」
 舌打ちが聞こえて、結菜のローファーが弘信の側頭部を蹴る。
「はうううっ……も、申し訳ありませんっ……」
 軽く蹴ったつもりだろうが、頭の芯が揺らぐような衝撃だった。クラクラしている弘信の耳に苛立たしげなローファーの足音が聞こえてくる。
「結菜、いいよ私、次で。明日の朝でも」
 陽子の声がそう言っている。弘信は、じっと床を見つめたままだ。椅子をずらす音があちこちから聞こえ、たくさんの足音が集まってくる。
「この馬鹿、まさかのダブルブッキング?」
 沙樹の声がする。
「い、いえ、すみません、先に時本さんをやって、それから木橋さんをと……そのつもりで……」
 弘信はかすかに揺れる黒革のつま先を見つめながら言う。
十分じゅっぷんしか時間ないのにさ、無理でしょ」
「そんないい加減な仕事しようと思ってたわけ?」
 結菜と陽子が畳み掛けるように言う。
「そんな下ばっかり見てないでさ」結菜のつま先が弘信の顎を上向かせる。「どういうつもりなのか、説明しなよ」

「も、申し訳ありません……何と言っていいのか……」
 弘信は、目の前に仁王立ちする結菜と陽子を交互に見上げて言った。
「みんなにいい顔しようとするから、そういうことになるんだよ」
 背中越しに、沙樹の声が聞こえる。
「あああ……」
「違うの?」
 結菜のローファーが頬を蹴る。
「がううっ……そうです、仰る通りです……」
 軽く蹴ったつもりだろうが、上履きの時とは破壊力がまるで違う。早くも口の中で血の味がする。
「で? どうすんだよ」
「きょ、今日は、時本さんのローファーをお磨きします……」
 弘信は、結菜にそう言って、陽子の方へ膝を向けた。
「木橋さん、も、申し訳ありませんが、明日にさせていただけませんでしょうか……」
「わざわざローファー持ってきたんだよ……」
「申し訳ございません……」

 

名門私立S女学園2「学年制覇」

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S女小説 名門私立S女学園1「学級支配」

S女小説 名門私立S女学園1「学級支配」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

名門女子高で過ちを冒した男性教諭が、受け持ちクラスの女生徒たちに脅され虐げられる物語

既婚者である男性教諭は、新任の女性教諭と不倫関係に陥ってしまう。二人は同じ一年一組を受け持つ担任と副担任であった。恋に燃えさかる男女は、あろうことか神聖な職場を愛の巣と化してしまう。さらに、そこにはひとりの目撃者がいた。一年一組のクラス委員長を務める女生徒が禁断の場面を記録に収めてしまっていたのだ。美少女の内面に沸々と湧き上がる嫌悪はやがて濃い嗜虐の色を帯びていく。かくして、男の悲劇は始まったのだった。

第一章 教師たちの甘い秘密

第二章 愛する人に頬打たれ

第三章 体育倉庫での生本番

第四章 教え子の騎上位責め

第五章 美人教師の尿を飲む

第六章 女生徒に捧げる尻穴

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第一章 教師たちの甘い秘密

☆ 一

「気をつけっ、礼」
 クラス委員長である早川沙樹の溌剌とした声が教室に響く。
 稲田弘信が六時限目の授業を終えて、一年一組の教室を出ようとすると、「先生」と同じ声に呼び止められる。
「どうした? 早川君」
「ちょっと、ご相談したいことがあって……」
 ボブヘアがよく似合う美少女は、まっすぐに目を見て言う。
「そう……分かった」
 弘信は相談室で待ち合わせる約束をして職員室へといったん戻った。
 稲田弘信が勤務するのは、さくら女学園高等学校。歴史のある私立の女子高だ。生徒の自主性を重んじる自由な校風が特徴であるが、毎年国公立大学や有名私立大学に多数の卒業生を送り込んでいる名門進学校でもある。弘信の担当教科は数学で、彼はこの春から、沙樹が属する《一の一》の担任でもあった。

 約束の時間に相談室へ行くとすでに早川沙樹が机の向こう側に着席していた。
「あ、先生、すみません。お忙しいところを」
 白い制服ブラウスとチェックスカートの美少女はいったん立ち上がって軽く頭を下げる。六月からの衣替えで半袖になったばかりだ。白くて長い腕も印象的である。
「もう慣れたかい? 入学して二ヶ月経つけど」
 弘信は、気が張っている様子の沙樹をリラックスさせるように優しい口調で声がけしながら向かい側に座る。
「はい、だいぶ……」
「それで? 今日は?」
「あ、いえ……大したことじゃないんですけど、あの、今日の授業で、少し分からないところがあって……」
 そう言って沙樹は脇に用意しておいた数学の教科書を広げる。
 弘信はかすかに膨らんだ胸元を見て思わず生唾を飲みそうになる。
「授業のことだったら、教室で聞いてくれていいのに」
「あ、そうですね……でも、クラス委員のことでもちょっと、ご相談があって……」
 沙樹は慌てて付け足すように言った。
「そう、分かった」
「で、ここなんですけど……この赤線引いてるとこの数式がいまいちピンとこなくて……」教科書を差し出し、弘信が読みやすいよう回転させる。「あ、私、そっちへ行ってもいいですか」
「あ、うん……」
 一見控えめに見えて、いざというときには物怖じせず大胆な行動を取れる性格のようだ。クラス委員長にただ一人立候補したときも、弘信は少し驚いた。
 沙樹は弘信の隣の椅子を引いて座る。
「これは、指数法則だよね……」
「あ、はい……」
 弘信が説明を始めると、沙樹は椅子をずらして身を寄せてきた。シャンプーの優しい香りが、三十八歳の男教師の鼻腔をくすぐり、モヤモヤとした気持ちにさせる。
 ―――間違いない……
 早川沙樹は自分に気があるのだと、弘信は思った。これまでの長い教師経験からそう言える。必要以上に質問をよくしてくるし、この相談室で二人きりにさせられるのも一度や二度のことではない。
―――やれやれ……また、この誘惑に耐えなければならないのか…… 
 しかも相手は新世代のミス桜女子と言っていい、とびきりの美少女である。変な気を起こしそうになる前に突き放しておくか。ただ、聞かれた質問には専門教諭として応えねばならないし、クラス委員として悩みがあるなら担任として相談に乗るのは当然だ。弘信は、数学の不明点に対して、メモ用紙に書き込みながら、懇切丁寧に説明する。説明するほどに、沙樹の質問も増えてしまい、それだけで半時間ほどが経ってしまった。
「あ、早川君悪い……」弘信は腕時計をチラリと見やって言う。「このあと、先生方と会議なんだ。クラスの悩みはまたにしてくれるかな……」
「あ、分かりました……ありがとうございました……」
 沙樹は残念そうな顔を見せると、メモを挟んだ教科書を小脇に抱えて席を立ち、一礼すると出ていった。
「ごめんね、早川君」
 弘信は清楚なブラウスの背中に声を掛けて、職員室へと急ぎ戻った。

☆ 二

 職員会議を終えて弘信は自席へ戻り、授業やテストの準備他、上に提出するレポートなど黙々と残業を行う。周囲の教師が一人去り二人去りして、ついに弘信一人きりになったところで、携帯電話からメッセージを送る。
 しばらくして、一人の女性教諭がやってきた。
「お疲れ様です」
 副担任の石坂真由美は、この春新任したばかりの養護教諭、いわゆる《保健の先生》である。栗色のセミロングヘアを輝かせる二十三歳は、目鼻立ちの整った正統派美人である。色白でどこかハーフっぽい雰囲気も持っている。
「お疲れです、あっちでやろうか」
 弘信は後輩の美人教諭を、今日も入り口近くの応接ソファへ誘う。簡易の応接や教職員のちょっとした休憩に使われているスペースだ。
「どうでした? 今日のクラスは」と弘信が問う。
「特に変わりはなかったようです。保健室に来た生徒もいません」
「そっか……じゃあ、明日のホームルームですけど……」
 二人はそれぞれ担任、副担任として話し合いを進めていく。一段落ついたところで、真由美が冷蔵庫へ飲み物を取りに行った。ペットボトルのお茶をコップに注ぎ、両手に持って戻ってくる。テーブルに置いてソファに座り直した彼女の肩を、弘信がそっと抱き寄せる。
「あっ……、稲田先生、だめ……です……」
 そう言う唇を、こちらに向かせて優しく唇で塞いだ。

 弘信が真由美と男女の関係になったのは、二週間前のことである。その日はいまのクラスを受け持って初めての授業参観だった。高校教師になって、この学校へ勤務するようになって、かなりの年月が経つ弘信であるが、この授業参観ばかりはどうにも慣れずずっと不得手だった。今回も準備から当日の授業と神経をすり減らし、希望者への三者面談も経てすべてが終わった夕刻には、ヘトヘトに疲れ切っていた。
「よかったら、打ち上げがてら一緒に食事でもしませんか?」
 弘信の方から誘ってみた。これほどの美女だし、付き合っている彼氏のひとりくらいはいるだろう。もし断られたら素直に引き下がろうと思っていたが、彼の提案はあっさりと受け入れられた。
「ええ、いいですよ、どこ行きます?」
 真由美は、誘われるのを待っていたようにすら思える歓迎の笑顔を見せて言った。
 行きつけの中でもとっておきの店を選んだ弘信だったが、あまり人目に付くのもよくないと思い、個室をあらかじめ予約して別々に向かった。

「なんか私たち怪しい関係みたい」
 グラスを合わせると、真由美は笑った。一気に疲れが癒やされる思いがした。
「そう?」弘信も照れて笑う。「だけど、一緒に肩を並べて校門を出てさ、そのまま飲みに行くのもね」
「それは確かに……でも、ホント授業参観って緊張しますね」
「疲れた?」
「いえ、先生ほどには。私は横で見てただけですから」
「いや、石坂先生のナイスフォローのおかげで、今回は随分と楽だったよ」
「それなら嬉しいですけど……でも、お疲れになったんでしょ」
「まあね……それはそれなりに……」
 ばつの悪そうに言う弘信を見て、真由美は吹き出すように笑った。
「やっぱり……すみません、次はもっとお役に立てるよう頑張ります」
「いや……実は昔、モンスターペアレントというか……女性なんだけど、凄いひとがいて、それがトラウマになっているというか……」
「あ、そうなんですね……」
 弘信の顔から笑みが消えたのを見て、真由美も申し訳なさそうにして真顔になる。
「いや、ごめん」弘信は慌てる。「今日はよそう、そんな話。石坂先生にゆっくり癒やしてもらいたいから」
「ええ、私でよければ……」
 そう言う真由美のグラスはほぼ空になっている。
「強いんだね、お酒」
「なんか喉渇いちゃって……お酒もきらいでは、ないですね」
 真由美は悪戯っぽく笑った。最高の笑顔だと弘信は思った。ビアグラスを煽って空にし、二人分のお代わりを注文する。

 いい気分に酔って、弘信はこのまま家に帰るのがもったいない気がしてくる。
「カラオケにでも行ってみる? 歌うの好き?」
 酔いに任せて誘ってみた。
「好きですよ。たいして上手くもないですけど」
「いいよ、僕も下手だから。じゃあ、ちょっと行ってみよっか」
「はい」
 真由美がトイレに立った間に、妻に(遅くなりそう)とメールを打ち、会計をすませた。

 カラオケボックスでは、先に座った真由美の隣に弘信も座る。最初は、遠慮気味に距離を取っていたが、飲み放題のアルコールが進み、曲を歌うごとにお互いが接近し、ほとんど肩と腰がくっつくほどになる。
「ぜんぜん上手いじゃない」
 弘信は、感じたままを言ってみた。
「いえ、先生こそ」
 さすがの真由美も頬を赤らめている。さっきの店からトータルで十杯近く飲んでいるのではないだろうか。だいぶ酔っているようだ。
「ほら、曲入ったよ」
 弘信のリクエストで、真由美が歌謡曲の懐メロを歌う。たまらなく愛おしくなり、抱きしめそうになるが、すんでのところで思いとどまる。ところが、歌い終わった真由美は靴を脱ぎ、「酔っちゃった」と弘信の太股を枕にソファに横になってしまった。
―――え……
 弘信は歌いながらドギマギする。曲の間奏になって、下を見ると、仰向けの真由美が目をつぶっている。
―――寝ているのだろうか……
 気がついたら、薄オレンジの唇に自身の唇を当てていた。

 カラオケ店を出た二人は、手をつないでホテル街へと向かったのだった。

☆ 三

「おはようございます……」
「あ、お、おはよう……」
 翌日、多少気まずい空気はあったものの、弘信は努めてこれまで通りの担任と副担任の関係で真由美に接した。
―――あれは一夜限りのことだ……彼女にしても、こちらが妻帯者と知ってるのだから……
 しかしそんなふうに真面目ぶった考えをしようとすればするほど、日に日に真由美への思いが募っていくのだった。

 一週間後、弘信が夕食に誘うと真由美は素直に応じた。そして二人はごく自然にホテルへと足を運んだ。
「どう考えてるんですか? 奥さんいるのに」
 事を終えたあとのベッドで真由美が尋ねる。
「……あ、いや……」
 そう言われると何も言えなくなる。
 弘信が困り切った顔をするのを見て、真由美は悪戯っぽく笑う。
「いいですよ、このままで。私は……こんな感じで……ぜんぜん……」
「あ、ああ……」
 真由美の笑顔に逆にとまどった弘信だったが、彼女がせっかくそう言ってくれるのだったら、久々の恋愛を自分も満喫しようと思った。

 そしてそれから数日後の今、二人きりの職員室。入り口近くのソファで、担任は副担任に唇を重ねた。
「い、稲田先生……」真由美は慌てる。「いくらなんでも、ここでは……学校ですよ……」
「うん……だから……かえって……」
 弘信は胸を高鳴らせ、もう一度真由美を抱き寄せ、接吻する。
「あああ……」
 今度は真由美も脱力して素直に応じた。

 その頃、早川沙樹は、ひとり居残りの部活を終えて校門を出ようとしていた。美術部の部室で水彩画に没頭していたのだ。ふと、担任の稲田弘信の顔が頭に浮かぶ。
―――クラス委員のこと相談に行ってみようかな。でも、こんな時間だし、さすがにもう先生もいないか……
 とりあえず職員室の方へ回ってみることにする。
 校舎に入り廊下を進むと、扉の窓から明かりが漏れている。
―――あ、誰かいる……
 そっと窓から職員室の中を覗いてみた。
「あっ……」
 沙樹は目を疑った。いったん扉から体を外して深呼吸をし、もう一度窓を覗く。
―――信じらんない……
 無意識のうちにポケットからスマートフォンを取り出し、カメラのレンズを窓の向こうの被写体に向ける。音が漏れないようスピーカー部分を親指でしっかり押さえながら、無我夢中でシャッターを切った。

 舌を入れあい、唾液を交換するディープキスまで進むと弘信は、真由美の大きな胸をブラウスの上から揉み始めた。
「あああ……だめ、それは、ここじゃ……」
「ねえ」どうにも収まらなくなった弘信は、いまにも真由美の服を引き剥がさんばかりだ。「保健室、行こうか」

 担任と副担任がソファから立ち上がるのを見て、沙樹は慌てて職員室を離れ、階段のスペースに身を隠して様子を伺う。しばらくして、職員室の明かりが消え、二人の男女が出てくる。職員室の向こうに隣接する保健室へと入っていった。沙樹はそっとあとを追う。
 保健室の扉にも窓はあるが、すりガラスになっていて、中の様子を伺うことはできない。沙樹は唇を噛みしめ、大人たちの密室をあとにした。

☆ 四

 翌日、弘信は担任を務める一年一組での授業を終えた後、教卓前を横切って出て行こうとする沙樹に声を掛ける。
「ああ、早川君」
 沙樹は無視して出て行こうとする。
「ねえ、早川君っ」
 沙樹は、振り返って弘信を睨みつける。
―――おお……機嫌が悪い日かな……
 女子高勤務が長い弘信は、気まぐれな女生徒たちの態度に慣れてはいる。
「こないだの続きやろうか? あの相談」
 弘信は周囲に気を遣いながら、クラス委員の悩み相談について促す。
「ああ、もういいです。解決しましたから」
 沙樹はつれなく言うと、足早に教室を出て行った。

 数日後の放課後、早川沙樹は保健室の扉をノックした。
「はい」
 中から石坂真由美が返事をする。
「早川です」
「どうぞ」
 沙樹が中へ入ると、執務机に向かっていた真由美がこちらを向いた。
「どうした?」
「ちょっと、お腹が痛くて。少しの間、横にならせてもらっていいですか?」
「ええ、もちろん。大丈夫? どうしたのかな。お腹のどのあたり?」
「下の方なので、たぶん生理痛だと……」
「お薬あげようか?」
「大丈夫です。ちょっと休んだら落ち着くと思いますので」
 気丈に言う沙樹を真由美は二床あるうちの奥のベッドへ寝かせ、執務机に戻って書類の整理を再開する。養護教諭は一般教諭に比べて暇だと思われているのか、教頭や上司の教諭から雑用的な仕事を押しつけられることが多かった。新任で覚えることもたくさんあるのでここのところ残業続きである。しかし、そんなストレスを和らげてくれているのが、弘信の存在であった。
 その彼から今日もショートメールが送られてきた。
 真由美はベッドのカーテンをそっと開けて見る。沙樹がうっすらと目を開けて天井を見ている。
「どう? 具合は?」
「ええ、だいぶ……」
「じゃあ、もう少し休んでなさい。先生、ちょっと職員室に用事があるから」
「分かりました……私ももう少ししたら、帰りますので……だいぶ落ち着いたみたい……ありがとうございます……」
「そう……そこ、そのままにしといていいからね……お大事に……」

 真由美は保健室に教え子を残して、職員室へと急ぐ。弘信はすでにソファで待っていた。真由美は誰もいないのをあらためて確認するように職員室全体を見回すと、弘信の元へ駆け寄り自分の方から抱きしめて口づけをする。
「ああ、早くこうしたかった……」
「僕もだよ」
 ホームルームの打ち合わせもよそに、二人は時間を惜しむようにして愛を確かめ合う。
「行こうか」
「あ、待って」
 弘信が立ち上がろうとすると真由美が制した。保健室にはベッドで休んでいる生徒がいることを告げる。
「そうなんだ……」
 弘信はややがっかりした様子を見せる。
「待ってて、ちょっと見てくる」
 真由美は、着衣の乱れを直して立ち上がると、職員室を出て行った。

 真由美は保健室へ入って、「早川さん」と声を掛けてみる。返事がないので、奥のベッドのカーテンをめくるとブランケットはきちんと畳まれ、ベッドは元のままにきれいに整頓されていた。そして、一枚の紙片が置いてあった。
「石坂先生 ありがとうございました。おかげですっかり落ち着きました。お先に失礼します。 早川沙樹」
 真由美は、丁寧な字でそう書かれていた紙をポケットにしまうと、職員室で待つ弘信を呼びに戻った。

☆ 五

―――翌週。
「時間も過ぎたし、今日はこの辺で終わります……」
 六時間目、最後の時限と言うこともあり、つい熱が入って、弘信は授業時間をオーバーしてしまう。真由美との関係が充実してから、仕事にも俄然意欲が増してきている。
 クラス委員長の早川沙樹の「起立!」という声が心地よく響く。
―――今日のご機嫌は大丈夫かな……
 そう思いつつ窓際の一番前の席に目をやる。
「礼!」
 沙樹の表情に柔らかさを見て、弘信はホッとする。
「ありがとうございましたっ」
 皆が帰り支度や部活への移動を始める中から、その沙樹が教卓へ近づいてくる。
「稲田先生、今日、相談室、いいですか?」
「あ、ああ……大丈夫だよ……」
 沙樹の顔にはかすかな笑みが浮かんでいる。それを見て和やかな気持ちになるも、女性の扱いは、特に思春期の女子は難しいと弘信は思う。

 ノックの音があって、「失礼します」と声が続き、相談室のドアが開く。
 約束の時間から十分ほど遅れて、早川沙樹が現れた。
「すみません、遅くなっちゃって……」
 その言葉とは裏腹に、まったく悪びれたふうがないのが弘信の心に引っかかった。
「なんだい、相談って、クラス委員のこと? あまり時間がないから……」
 弘信は、生徒に待たされたことに少々苛立ちを見せながら言う。悪いのは彼女だが、あからさまに怒ったりしては、またややこしいことになる。
「いや、もうクラス委員のことはいいんです……アハッ」
 十六歳の美少女は、たまたまダジャレになってしまったことに、照れ笑いして愛らしい唇に手を当てる。
―――すっかりご機嫌は戻ったようだな……深刻な相談でもないようだ……
 そう思うと収まりかけていた怒りが込み上げてきた。言うべきことは言い聞かせなければならない。
「なんだよ。相談があるなら早く言って欲しいな。たいしたことじゃないんだったら、時間取らせないでくれないか。先生はそんなに暇じゃないんだ。そもそもどうして遅れてきたんだよ。十分も待ってたんだぞ」
 弘信は一気にまくし立てた。
「そんなに怖い顔しないでくださいよ、先生……たいしたことあると思いますよ……」
 その態度と言い草がもはや普通ではなかった。
「いい加減にしろよ、キミ……」
 弘信は声を震わせる。
「待ってください」
 沙樹はそれでも落ち着いた様子で、ポケットからスマートフォンを取り出した。
―――いったいなにをしてるんだ……
 弘信は手首のボタンを外して袖をまくり始める。これ以上の無礼があるならば、教師を侮辱するのであれば、もはや手を上げざるを得ない。女子高での体罰は覚悟がいるが、そうなったらそうなったときだ。
「えっと……あ、これだ、これ、見てもらいたいんですよ」
 沙樹はそう言ってスマートフォンの画面を弘信の方へ向ける。
―――え……
 弘信は言葉を発しようとして、それを飲み込んだ。一瞬、何のことか分からなかった。男と女がキスをしている。見覚えのある場所で……職員室のソファだ。男は自分で、女は副担任の石坂真由美である。
「ふふっ」
 沙樹は何も言わず、意味ありげに微笑むだけだ。
「は、早川君、そ、それ……」弘信はパニックに陥るが、なんとか取り繕えないかと必死で頭を回転させる。「ああ、それは、たまたま、ちょっとふざけてて……」
「ふざけてて?」沙樹はにやつきながら首をかしげる。「職員室ですよ、これ」
「ああ、打ち合わせの流れでね……雰囲気で……そういうことだってあるさ……」
 なんとか強気に言ってのける。
「ああ、そうですか……じゃあ、これも打ち合わせの流れのフンイキ?
 保健室のベッドで、半裸になって絡み合う、弘信と真由美の姿があった。
「こ、これは……どうして……」
―――ああああ……これは、駄目だ……
 万事休すだと思った。
「先生、大変だったんだから、これ撮るの……音が鳴らないカメラのアプリをインストールしたし……ずっとベッドの下に隠れてて、体痛いし……」
「は、早川君……」
 弘信は思わずスマートフォンに手を伸ばそうとする。すかさず沙樹が手元に引っ込め、そのままスカートのポケットにしまう。
「相談っていうのはぁ……こういうの見てしまったんだけど、どうしたらいいでしょうかってことなんですよぉ」
 成績優秀なはずの沙樹が、あえてそうでない女子のような口調を真似て言う。
「早川君……ど、どうか……」
「何?」
「け、消してもらえないだろうか……」
「どうして? ……」
「そんなのが表沙汰になったら……」
「ふふっ、自業自得でしょ。アタシ、ホントにショックだったんだから。稲田先生も、石坂先生も尊敬してたのに……」
「頼む。この通りだから……」弘信は机に両手を突き、頭を下げた。「消してくれないか……」
「なあんか、言葉が上からだな」沙樹は冗談っぽく言う。「お願い、じゃないんですか」
「お、お願いです……消して、もらえませんか……」
 弘信が顔を上げると、ボブヘアの似合う美少女は面白くてたまらないという表情でこちらを見ている。
「先生、奥さんいらっしゃいますよね?」
―――ああああ……
「奥さんはもちろんですけど……担任と副担任が不倫なんて、私たちに対してもすっごい裏切りですよ」
「す、すみません……」
「もうちょっと、ちゃんと謝ってください」
「も、申し訳ありません……」
 弘信は机に頭をつけるようにして詫びる。
「そこに、土下座して謝って。先生」
 沙樹は興奮したまま、顎で床を指して言った。
「は、早川君……」
 弘信は、沙樹の表情をよく確かめるように覗く。
「冗談で言ってるんじゃないですよ、アタシ」
 弘信は観念して席を立った。内鍵を閉めると、女生徒の方へ回って、脇にスリッパを脱いだ。

☆ 六

(保健室で待ってる)
 その日、ほとんどの職員が仕事を終えて職員室からいなくなるころ、弘信の携帯にメールが入った。真由美からだ。背徳的な刺激にすっかり取り憑かれてしまったのか、校内での交接は、いまでは弘信よりも、むしろ彼女の方が積極的になっていた。
 弘信が保健室へ入ると、白衣を着た真由美がいかにも官能的な眼差しをしてこちらを見ている。紅い唇は、濃いめのルージュを塗り直したようだ。
「待ってたわ……」
 真由美は両手を広げて、弘信の抱擁を迎えようとする。
「そ、それどころじゃないんだ……」

 翌々日の放課後、真由美の待機する保健室に、ノックの音があった。
「はい、どうぞ」
「失礼します……」
 入ってきたのは早川沙樹だった。真由美は驚いたが、表情には出さないように努めた。
「ど、どうした? またお腹?」
「いえ、ちょっと気分が悪くて……少し横にならせてもらっていいですか?」
「え、ええ……どうぞ……」
 真由美は手前のベッドに沙樹を寝かせる。
 ドギマギする気持ちを抑えながらも、執務机に向かって今日中にやっておかねばならない仕事を進めた。

 半時間ほどして、書類作成にめどがついたところで、沙樹の様子を伺ってみる。ベッドのカーテンをそっと開けて覗く。
「どう?」
「ああ、ええ、だいぶよくなりました……」
 沙樹はそう言って体を起こし、ベッドに腰掛けた。
「どうした? なんかあった?」
 真由美は覚悟を決めた表情をして、丸椅子に座り、沙樹の顔をじっと見つめる。
「ちょっと、ショックなことがあったから……そのせいかも……」
「聞いたわ、一昨日、稲田先生から」
「そうなんですね」
「どうするつもり?」
「どうするつもりって?」
「とぼけないで。アタシたちの写真を撮って、稲田先生を脅したんでしょ」
「脅してなんていませんよ」
 余裕めいた沙樹の態度に、真由美は貯め込んでいた苛立ちと怒りを募らせる。
「うそ、おっしゃいっ」
 気がついたら、沙樹の頬を強く張っていた。
「ううっ……」
 沙樹は驚いて副担任を見る。
 真由美にしてみれば、教え子に手を挙げるなどもちろん初めての経験だった。教え子だけでなく、これまで一度も他人に暴力をふるったことなどなかった。
「ご、ごめんなさい……つい……」
「いえ……でも、びっくりした……」沙樹は打たれた頬を手で撫でながら言う。かすかに手形がつき赤らんでいる。「で、稲田先生はなんて?」
「別れることになったわ。当然だけど……」
 真由美の言葉に、女の未練がにじんでいる。
「ふーっ」沙樹は天井を見上げて大きく息を吐き、ベッドに後ろ手を着いて、頭の中を整理する。「……稲田先生を呼んでもらえますか……」

「鍵掛けといた方が、よくないですか?」
 沙樹は保健室に入ってきた弘信に言う。弘信は一瞬、真由美の方を気にして、しかしすぐに女生徒の指示に従った。
「は、早川君……」
 弘信が何か言おうとするのを制して、沙樹は「ええっと……」とひときわ大きな声を出す。まるでこの部屋の主導権は自分にあるとでも言いたげに。
 所在なさげにしていた弘信が向かいのベッドに腰掛けようとするのを見て、「ちょっと自分勝手過ぎやしないですか?」と部屋の外にも聞こえそうなくらいの大声を出し、二人を脅かす。
「稲田先生は、床に正座してください」
「早川さんっ」
 真由美がたまらず声を挙げる。
「聞けませんか? アタシの言うこと」
 沙樹の口調がいっそう強まる。
「わ、分かった、分かったから……」
 弘信はスリッパを脱いで脇にやり、冷たくて固い保健室の床に正座した。真由美に、この場は沙樹を刺激しない方がいいという視線を送りながら。
「稲田先生」沙樹は弘信を見下ろして言う。「石坂先生と別れるんですって?」
 

S女小説 名門私立S女学園1「学級支配」

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S女小説 鬼姫劇場(下)「まばゆく逞しく淫虐な女たち」

S女小説 鬼姫劇場(下)「まばゆく逞しく淫虐な女たち」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

笑いの都の舞台裏は、底なしの淫欲を持つS女たちによる男虐逆陵辱の陰惨(下巻)

ストリップ劇場付き漫談家の唐谷マキオと受付嬢の吉川菜々子は、マネージャーである高杉千夜ら鬼女たちから強要された舞台上での男女逆転ペニバン交接をきっかけに、はるか西へと逃避行を図った。駆け落ち先を準備してくれたのは、マキオの旧知の先輩芸人である茂雄だったが、彼はなんと、関西の大御所タレントである下川恵美の夫の席に収まっていた。それを縁に恵美や取り巻き女性たちの影響力の元、マキオと菜々子は、新たなる土地で、一見幸先の良い再出発を果たしたのだが……。

第五幕 逃れた西で待っていた罠と試練

第六幕 理想の夫婦は女性天下の奴隷婚

第七幕 人気バラドルになじられ踏まれ

第八幕 女性向け本番ディルドサービス

第九幕 恋人の華々しきテレビデビュー

第十幕 女王新婦と奴隷新郎の熱き契り

本文サンプル

第五幕 逃れた西で待っていた罠と試練

☆ 一

「すみません、毛布を一枚貸していただけませんか」
 唐谷マキオが頼むと、新幹線の女性パーサーは、グリーン車でないと貸せないのだと申し訳なさそうに応えた。
「ああ、いえ、すみません……」
 かえってマキオの方が恐縮し、女性パーサーに詫びてから、フックにかけた上着に手を伸ばして取って、自分にしなだれかかって寝息を立てている恋人の吉川菜々子に掛けてやった。
 一週間前、所属するストリップ劇場の舞台で、大勢の女性たちが見ている前で、男女逆転の公開セックスを強制させられた二人は、その翌日、逃避行を決断し、今夜、実行に移したのだった。
 行先は関西だ。あの劇場以外に、芸の道を続ける場所はないと思い込んでいたマキオだったが、一か八か、疎遠になっている大阪在住の先輩に連絡を取り、ざっくりと事情を話したところ、とにかく来いとのことだった。
 暗い窓に貼り付いた雨粒が震えながら水平に流れていく。ガラスに映る自分の顔を見つめながら、明日になって二人が逃げたことが分かれば、きっとマネージャーたちは血眼になって探すのだろうと思った。自分も菜々子も劇場関係の電話番号はすべて着信拒否にしてある。一番仲の良かった手品師の中島にはせめて話しておくべきかと思ったが、知って隠しておいたとなると、酷いことになるに違いない。だから申し訳ないと思ったが、彼にも黙って出てきたのであった。

 マキオが頼ったのは、かつて所属していたことのある東京の事務所の先輩で、茂雄という四十歳の漫才師だ。彼は五年ほど前に、関東での活動に見切りを付け、地元である関西に戻っていた。
「ようマキオっ、久しぶりやな」
 茂雄は、夜遅くにもかかわらず、新幹線のホームまで出迎えてくれた。昔はボサボサ頭だった髪型が、きっちり七三にセットされている。黒縁眼鏡を掛けた、マキオと同じくらいの背丈の小男だ。
「茂さん、ご無沙汰しています。ホントすいません、こんなに遅くに。あ、彼女、菜々ちゃんです」
「菜々子です……すみません、お世話になります」
「えろう、べっぴんさんやなあ……お前、やるやないかあっ」
 茂雄は、マキオの背中を叩いた。

 マキオたちが案内されたのは、茂雄の知り合いの劇団が稽古場として使っているという古びた建物の一室だった。
「ここなら、とりあえずはタダで使えるよって、落ち着くまでいててええよ」
「助かります」
「すみません」
 マキオも菜々子も、拝むようにして感謝の意を示した。
「ええよ、ぜんぜん。水くさいこと言いなや」
 茂雄は部屋の説明など少しだけ話すと、「また明日くるから」と言って帰って行った。
 マキオと菜々子は、とりあえず備え付けのシャワーだけ浴びて、疲れ切った心身をひとつのベッドに寄り添わせ、先の見えぬ不安を払拭するようにひとしきり抱き合ったあと、眠りに就いた。

 翌日、茂雄は姿を現さなかった。マキオが電話をすると、急に仕事がかさんできて行きそびれたと詫びた。茂雄だけが頼りのマキオたちは、どうすることもできず、慣れない大阪の街をぶらついたりしながら悶々と過ごした。
 次に茂雄が来たのは、一週間ほど経ってからだった。そろそろバイトでも探さねばと思っていた矢先だった。
「よっしゃ、マキオ、テレビ局に行くで。番組や」
 さんざん待たせたことをたいして悪びれるふうでもなく言った。
「えっ」
 いきなりのことに面食らうが、すぐに着替えて準備をする。菜々子には留守番をしてもらって、茂雄に着いていく。テレビ局は、隠れ家から徒歩で二十分ほどの距離にあった。
「茂さん、番組って何ですか? 誰の番組?」
「メグチャンネルや。下川恵美めぐみの」
「ええっ」
 下川恵美と言えば、関東ではさほど知名度はないが、関西ではいまや女帝と言われている人物である。漫才出身の大御所タレントだ。
「そないびっくりすることないやろ。俺の同期やし」
「そ、そっか……」
 確かに下川恵美と茂雄が無名時代に同期だったという話は聞いた覚えがあった。
「知らんようやな」
「な、何がですか」
「結婚したんや俺ら、実は去年」
「ええええっ……全然、知りませんでしたよ……そんなの……ほ、ホントですか?」
 失礼ながらあまりにもアンバランスな結婚にマキオは驚く。
「まあ、そうやろな。あんまり、おおっぴらにしてないからな、嫁の考えで」
「そうなんですか……」
「恵美の意向でマスコミが黙るくらい、凄いっちゅうことや。東京のお偉いさんにもいろいろコネがあるみたいやし。週刊誌にもほとんど載ってないはずやで」
「なるほど……ええっ、でも凄いですね、ホント……驚きました」
「まあ、芸人として、いまでは相当な差を付けられてしまったけどな。家でもほとんど女王様と奴隷や」
 茂雄は自虐的に笑った。
 そのときは、マキオも冗談と受け止めて一緒に笑ったのだった。
「とりあえず、挨拶だけしとこうや」
 茂雄が恵美に相談したところ、楽屋に連れてくるよう言われたという。
「ええ、ぜひに! ありがとうございますっ」
「いまのうちの嫁の力があれば、マキオひとりくらいどうにでもなるで」
「ほ、ホントですか」
 思わぬ展開に、マキオは胸を躍らせた。
 下川恵美の楽屋へ向かうとすでに入り口に列ができていた。
「ほら、あれが俗に言う《下川もうで》ちゅうやっちゃ」
「へえ! ……」
「大阪のこの業界でなんかやろう思ったら、まず恵美に挨拶せんとあかんのや」
 二人は列の最後尾に並ぶ。
「身内やから言うて割り込んだりするのを一番嫌うんや、うちの嫁は」
 茂雄が缶コーヒーを買ってきてくれた。
「ありがとうございます。何から何まで、すいません、ホント」
 茂雄の親切に、マキオは泣きそうになる。

 半時間ほど待って、マキオたちの順番がきた。マネージャーらしき大柄な女性に案内され、部屋へ通される。
「恵美ちゃん、すんません」
 茂雄は揉み手をしながら、下川恵美にペコペコと頭を下げて挨拶をする。とても夫とは思えない態度だった。
「なん? 茂雄」
 派手な指輪をたくさん嵌めた手に煙草を挟んだ美人タレントは、少々ハスキーな声を出した。テレビで聞きなじみのある声だ。マキオは緊張で顔と体をこわばらせる。まぶしいオーラに、つい視線を落としてしまう。
「ほら、昨日話した……ちょっと恵美ちゃんにぜひご挨拶しときたいちゅうヤツを連れてきてん、後輩の唐谷……」
「ああ、そうやったね」
 ソファにゆったりと座った恵美は、マキオの方に視線を移して微笑んだ。色白の肌に亜麻色の髪がよく似合う美女で、黙っていれば、大御所タレントとういよりも、映画で主役を張れる女優のような佇まいだ。
 そこへ大柄のマネージャーらしき女性がやってきて恵美に耳打ちをする。急激に恵美の表情がこわばった。
「呼びやっ、いますぐ」
 恵美の大声に、茂雄もマキオも肩をびくつかせる。
「茂雄、少し待って。ちょっと勘違いしてる阿呆プロデューサーがおるから」
「あ、はい……」
 茂雄とマキオは部屋の隅の方へ下がる。
 そこへ、くだんのプロデューサーがやってきた。眼鏡にパーマの優男で、年齢は、恵美より少し上ではないだろうか。
「あ、この度は、すみません、先生っ」
 男はいきなり平身低頭で謝罪する。
「ふん、お前どういうつもりや、武井。うちが出した企画に駄目出しって」
「それが……先生、スポンサーの一社がどうにも難色を示しまして……」
「外せや、そんなスポンサー」
 ため息をつくように大きく煙草の煙を吐く。
「そ、そういうわけには……」
「そもそも、そんな我が儘言う素人を説得すんのが、武井、お前の仕事ちゃうんか」
「は、はい……」
「はい言うて、どうすんのや」
 恵美は苛立たしそうに煙草の灰を落とす。
「そ、それは……」
 男は困り果てたようにして天井を見上げる。
「もう、そっちの番組降りようかな」
「せ、先生……」
「ウチだけちゃうで。お前の他の番組でてる若い子も、全部引き上げさせるからな……もうええ、帰れ」
 恵美の事務所には、彼女以外にもたくさんの女性タレントが所属していて、さまざまな番組で活躍していた。それがいなくなると番組が成り立たない。プロデューサーは焦りまくった。
「先生、そ、それだけは、どうか……も、もう一度、スポンサーを説得しますので……」
「もう一度やないやろ。説得できるまでやれや。できんかったら、全部引き上げるで。ホンマに。アタシの性格分かってるよな?」
「は、はい……」
「ふーっ、お前のせいで、朝から気分悪いわ」
 恵美はため息をつきながら、煙草の火を折るように揉み消す。
「す、すみません……」
「さっきから、すみません、すみませんって、それがお前の謝罪か? ああ?」
 興奮で語尾が大声になり、部屋の空気がいっそう凍てつく。
「あ、いえ、あああ……」
「土下座せえや。床に頭こすりつけて……」

「茂雄、待たせたな」
 土下座から解放されたプロデューサーが出ていったあと、恵美はようやく表情を落ち着かせた。
「いや、恵美ちゃん、忙しいとこ、こっちこそ、すんません……」茂雄は、恵美の厳しさにいまさらながら驚いて焦る。「コイツ、唐谷マキオいうんやけど、昨日もチラッと話した通り、昔の事務所の後輩で……ちょっとわけあって、東京からこっちきたんや。なんとかしてもらえんやろか」
「あ、そ」
「いきなりのことで、すみませんっ」マキオも今し方の剣幕に震え上がっている。「唐谷マキオと申します。ピンで漫談をやっております」
「ふうん、可愛い顔してるやん……」
 マキオが東京での活動などを半ばしどろもどろになりながらも一生懸命話すのをしばし黙って頷きながら聞く。
 数分もしないうちに、大柄な女性マネージャーが「先生、そろそろ時間です」と告げに来た。
「お、もうこんな時間か……」恵美は、宝石がちりばめられた腕時計を見て言う。「翔子ちゃん、彼、どっかはいれる番組あったら、入れたって」マネージャーにひと言そう告げると、収録に向かった。

☆ 二

 一週間後、恵美に呼ばれて、マキオは茂雄と一緒に、事務所に向かった。難波の一等地にある白壁の上品なオフィスビルである。
 受付嬢に会釈して、エレベーターに乗り込む。
「これ自社ビルやで」と茂雄が言う。「化粧品の通販とかもやってるんや。恵美は商才もあってな。ホンマ、えげつない女子おなごじゃ」
「テレビショッピング見たことありますよ。ご本人が出てらっしゃる……」
「それや、それそれ」
 最上階に上がって秘書らしき女性の指示でしばらくドア付近のソファで待たされる。部屋から憔悴しきった中年男が出てきて、エレベーターで降りていった。
「あれもきっと、恵美にこってり絞られた口やで」
 茂雄がマキオの耳元で囁いた。
 ドアが開いて、マネージャーの翔子が二人を呼び入れた。大柄な美人マネージャーである。
「おはようさんです」
「おはようございますっ」
 茂雄についてマキオも中に入る。広い部屋には、白と金色の大きなシャンデリアや本革ソファなどの高級家具が配置され、壁は大小様々な絵画で彩られていた。
 部屋中央のソファで、オフィスの筆頭タレントであり、代表でもある恵美が寛いでいる。
「おはよ。そこ、座り」
 テーブルを挟んだ自分の前へと促す。
 茂雄に続いてマキオも腰掛ける。
「し、失礼します」
 運ばれてきたコーヒーをマキオは緊張しながら口に運ぶ。
「で、さっそく本題やけど……」恵美がコーヒーカップを置いた。「今度、うち、番組の制作もやるようになってな」
「へええ……」
 二人とも驚いて頷く。恵美は夫の茂雄にそのようなことは一切相談しない。
「最初にやんのがロケ番組なんやけど、それにアンタら二人で出てもらおうと思うて」
「へえっ、ホンマにっ」
 久々に活躍の場を与えられて、茂雄の顔がほころぶ。代表の配偶者といえど、ここでは一兵卒なのである。
「あ、ありがとうございます」
 マキオは、感激のあまり、何度も頭を下げる。
「でな……」恵美は二人の喜びように満足げな笑顔を作る。「唐谷ちゃんやったよな……」
「はい」
 マキオは背筋を伸ばしてかしこまる。
「アンタこっちきて、事務所入ってないんやろ?」
「あ、は、い……」
「うちにおいで」
「え……ほ、ホントですか……」マキオはまたもや驚き、あまりの嬉しさに声を震わせる。「そうしていただけるならぜひ。あ、ありがとうございます」
 本当なら、条件など確認してから返事すべきなのだろうが、いまのマキオにはそんな余裕はなかった。
「じゃ、決まりやな」
「おおきに。すんません……」
 茂雄も妻に頭を下げ、礼を述べる。
「これから、茂雄は、ラジオかなんかやろ?」
「あ、ああ、うん、そう、いろいろ……」
 本当は、予定などなかったのだが、妻がそんな言い方をしたときは、頷いておかねばならない。表情から忖度しなければならなかった。
「なら、しょうがないな。唐谷ちゃん、ご飯行こか」
 やはりそういうことかと茂雄は思うが、顔には出さなかった。

「す、すみません……こんな美味しいものをごちそうになってしまって……」
 マキオは、恵美から何が食べたいかを聞かれ、彼女が挙げた《天ぷら》という単語に飛びついた。マキオのいちばんの好物だが、こんな上等な天ぷらを食したのは生まれて初めてだった。
「なかなかやろ。ずっと、ひいきにしとんのや……じゃあ、次行こか。もう食べるんはええか?」
「はい、もう充分です。ごちそうさまです。ありがとうございますっ」
 マキオはビールと揚げ物で久々に満たされた腹をさすりながら頭を下げる。
 タクシーに乗って連れられたのは、繁華街からは少し離れたところにある地下のバーだった。
「ここアタシの店やねん」
 まだ少し時間が早いせいか、薄暗い店内にはお客は誰も居なかった。
「何でも好きなの頼みや」
 恵美に続いて、マキオもカクテルを注文する。
 バーテンの女性が、オーナーである恵美に、「新しい彼氏さんですか?」と冗談ぽく尋ねた。
「まだ。これからや。今から仕込むから、彼のんに眠り薬入れといて」と恵美が笑い、マキオもつられて笑った。
「乾杯!」
 二人は二軒目のグラスを合わせる。ほどなくして、マキオを急激な睡魔が襲ってきた。

「ここは……」
 うっすらと目を開けたマキオは、全裸になり、両手両脚が手錠で拘束されているのに気づく。仰向きにベッドに固定されているのだ。
「目ぇ覚ましたか」
 グラスを片手に、恵美が近づいてきた。隣にマネージャーの翔子もいる。二人がかりで、服を脱がせて、ベッドに拘束したのだろう。
「先生っ、これはいったい……ここは? ……」
 マキオはしびれの残った頭を左右に振る。
「さっきのバーの奥の部屋や。アタシ専用の。言うたやろ。薬盛るって」
「ご、ご冗談を……」マキオは懸命に笑顔を作ってみるが、事態が変わらないことを悟ると、表情を沈めた。「ど、どうするつもりなんですか……」
「さて、どうしようか……煮て食おうが焼いて食おうが、ウチらの勝手やで。アンタそういう契約書にさっきサインしたやんか」
 確かに、オフィスを出る直前に、言われるがまま署名し、拇印を押した。
「そ、そんな……」
「それと……アンタ、ウチらに隠してることあるやろ」
「え……」
「前の事務所、円満退社してきたっていったけど。あれ嘘やな。逃げてきたんやろ、お前。連れと一緒に」
「あっ、あああ……す、すみません……つい……」
「意外と狭いんやで、この業界。うちとこにはいろんな情報が入ってきてるし。東京にはつても多いから。高杉千夜のことも知ってるよ。ストリップ劇場のお嬢さんやろ」
「ああああああっ……」
 手が自由になるなら、両手で顔を覆いたかった。
「でも、安心し。うちとこにいる以上は、誰にも手出しさせへんから」恵美は、呆然としているマキオをじっと見つめる。「その代わり、うちの言うことはなんでも聞いてもらうで」
 恵美はスカートに手を入れガータベルトを外すと、黒いショーツを降ろして脱いだ。ベッドに上がり、尻をマキオの顔の方へ向けて跨ぐと、そのままスカートをたくし上げながら腰を降ろし、黒々と繁った秘部を鼻口に押しつけた。
「舐めや。舌奉仕、上手なんやろ。千夜から聞いたで」
「お毛毛、ないね。皮も被っちゃって」
 マネージャーの翔子が笑う。
「どうしたんや? これ」
 いったん腰を浮かす。
「あああ……は、い……」
 マキオはもはや恵美にはすべて正直に話さなければならない気がして、千夜の命令で、恋人の菜々子に剃ってもらったことまで話した。
「でも、ポツポツ伸びてきてるよな。こっちきて、もう剃らんでようなったと思うてんちゃうの」恵美が濡れてきた陰唇でマキオの鼻を咥え込みながら言う。「駄目やで。うちも同じ命令出すで。いつもここは、つるんつるんにしとき」
 恵美は返事を待つようにして、再び少し腰を浮かす。
「はうああああ……」
「分かったかっ」
 両乳首を同時にピンピンと弾く。
「くわうああっ……わ、分かりましたっ……」
「何が分かったんや、こら」恵美の手が、マキオのペニスをグッと握る。「この、皮被りがっ」
「ひいいいっ……分かりましたっ、な、菜々子に頼んで、またきれいに剃ってもらってきますっ……」
「そうか、じゃあ、その菜々子ちゃんとやらも、今度連れといでや」親指の腹で顔を覗かせつつある亀頭を刺激する。「なあ」
「くきいいいっ……はいっ、承知いたしましたアアッ……」
「なんか、虐められ慣れてる感じ……」
 マネージャーの翔子が嘲笑うように言い、マキオの顔が熱くなる。
「舌使いも上手やわ。こら、相当躾けられてるで……なあ」
 ペニスを握る手にぐっと力を込め、返事を待つように腰を少し浮かす。
「ぎひいっ……はいいっ……あ、ありがとうございますぅ……」
「ようし、なら、違う穴も舐めてもらおか」
 恵美はそう言うと、体を上向け、アナルをマキオの口にあてがった。
「はううううっ……」
 アナル舐めは、手品師の中島がよくやらされていたのを知っていたが、マキオは未体験であった。女の尻の穴を口奉仕するなど、たまらない屈辱である。
「ほら、舐めえ」
 熟れた女の菊の紋がマキオの口にグイグイと押しつけられる。

☆ 三

「外側だけやなくて、舌を穴の中に入れんと」
 恵美に命じられたものの、アナル舐めに慣れないマキオは、まだそこまでの踏ん切りが付かない。
「くううううっ……」
「翔ちゃん、煙草持ってきて」
 ややあって、カチリとライターの音がする。フーッと煙を吐く息が聞こえる。
「できんなら、こうや」
 マキオの左の乳首に激痛が走る。
「ぐわああああああっ……」
「右側も焼いたげようか?」
 灼熱が右の乳首に近づいてくる。恵美は火の着いた煙草の先を当てているのだった。
「くひいいいいっ……や、やりますっ、恵美先生っ、やりますのでえええっ……」
「舌の先で、うちのケツの穴、きれいに掃除してくれるんやな?」
「はいいいっ、やりますっ、や、やらせてくださいいっ……」
 マキオは伸ばした舌を細く丸めて、菊の紋の内へと挿入していく。ざらついた感触ときつい匂いが、一気に襲ってくる。
「くうううううっ……」
 経験の浅い漫談師には、あまりにも酷な仕事であった。ひるんでしまったマキオは、思わず舌を引っ込めてしまう。
「乳、いびるぐらいじゃ、足りひんようやな。そうや……この薄ら伸びてきてるチン毛、一本一本、焼いたろか」
 陰嚢に刃物が当たったような激痛が走る。
「ぐわあああああああっ……」
 叫び声を挙げたあと、すぐさま舌を丸めて、アヌスに突っ込み、腸壁を舐め回していく。
「くううっ……そうや、最初っから、そうせんと」
 アナルの刺激を受け、恵美のヴァギナが興奮の淫液をマキオの顎に滴らし始める。
「むむうううう……」
「ようし、一発、嵌め込んだろか」
 マキオのペニスをぐっと握って、上下に激しく擦り始める。
「はうううあああっ……ああっ、あっ、あああっ……」
「そうら、勃ってきた、剥けてきた、だいぶ大きゅうなってきたで……」
 恵美は体を反転させ、騎上位の体勢でマキオの腰を跨ぐ。片膝を立てて、マキオの肉棒を握り直し、自身の淫裂にあてがった。
「いくで。嵌めるで」
「あ、あああああ……先生、どうか……」
「そういいながら、勃ててるやん。嵌めて欲しいんやろ? ホンマは」
「ああああ……」
 マキオは、菜々子の顔を思い浮かべ、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
 恵美は、翔子に預けていた火付き煙草を受け取る。
「どうなんやって」
 くわえ煙草で、マキオの頬に強烈なビンタを張った。
「はうううっ……は、はい……」
「はいじゃ分からん」
 さらに往復ビンタが炸裂する。
「くわっ、かううっ……」
 千夜や咲耶の張り手に勝るとも劣らないほどの激しさだ。
「は、嵌めて……ください……先生……」
「そうか。おねだりされたんなら、やらなしゃあないな」
 恵美は、マキオの亀頭で割れ目を上下に擦りながら言う。肉竿がさらに硬くなっていく。
「いくよ」
 恵美がゆっくりと体重を載せ、淫液にまみれたヴァギナがマキオのペニスをズブズブと飲み込んでいった。
「はくううううっ……」
―――な、菜々ちゃん……ごめん……すみません……
「なんや、お前、しけた悲しげなツラして。もっと悦ばんかい」
 美人タレントは煙草をくわえるとマキオの腋の下をぐっとつかんで、前後に強い抽送を始める。
「はううっ、あああっ、はんっ、やっ、はうあああっ……」
 ひとしきり突くと、体を起こして、くわえた煙草を手に取る。
「それとも、また熱いのが欲しいか?」
 腰を小刻みに動かしながら、火の着いた煙草の先をマキオの乳首に近づける。
「はがああああっ……い、いいですううっ、め、恵美先生、凄いですううっ……」
「何が? アタシの何が、凄いんや?」
「あ、アソコが……」
「ぼかすなや、ボケ。オマ○コってはっきり言わんかい。しゃべくりで飯食っとる端くれやろが、いちおう」
 腰を激しく回し始める。
「はううううっ……は、はい……め、恵美先生のオマ○コ、す、凄すぎます……許して……」
「ふん、まだまだ許さへんよ。お前の彼女とどっちがいい? どっちが名器や」
「は、はうあああっ……も、もう、堪忍してください……」
「駄目や。言え。言わんと、今度のロケ番組、お前を使わんよ」
 派手なダイヤのピアスを揺らしながら言う。
「あっ、ああああっ、そ、それは……」
「あかんやろ? だったら言え」
 ペニスを完全に征服したヴァギナが、くちゅくちゅと音を立てている。
「くわううっ、め、恵美先生のオマ○コの方が、な、菜々子のオマ○コよりも凄いです……」
「どう凄いんや、言うてみい」
 腰を浮かして、カリの部分だけを嵌めた状態から、一気に腰を落として飲み込む。
「うおおおおおっ……」
「し、締まりが強くて、も、ものが全然違います……いちばんの名器です……」
「そやろ。しっかし、お前、きちんと毛剃ってこんから、チクチクして痛いやないか」
「す、すみませんっ……」
「こんなんじゃ、調子出えへんで」
 恵美は苛立たしそうに腰を抜くと、体を前に移動させて、顔面に股間を押しつけた。翔子が持ってきた灰皿に煙草を揉み消す。
「口でいかせろ。責任とれや」
「あ、あい……」
 マキオは恵美の剣幕に気圧されて、必死で舌を使い、ぐっしょりと濡れたヴァギナを舐めまくる。
「そこは、もう充分や。女のチ○ポを舐めえ」
 恵美のヴァギナの上部には、肥大して皮のめくれたクリトリスがそそり立っていた。マキオはそれを咥えてチュパチュパと舐めしゃぶる。
「くうううっ……そうや、それそれ。しっかりフェラすんやで」
 マキオの頭髪を両手でつかんで、腰を打ち込むようにする。
「うぷっ、むぷうううっ……」
「先生、それってもう、イラマチオですね」
 翔子がクスリと笑って言う。
「そうや、逆イラマや」
「きひいいいいっ……」
 マキオの苦しむ顔が、さらに恵美の嗜虐心を煽る。
「こうしたら、どないや」
 鼻をつまんで、股間を押しつけ、呼吸をできなくする。
「むうっ、むぷうううっ」
 マキオは手足をバタバタさせてもがく。
 限界かと思ったところで、恵美が解放してやる。
「ぷはああっ……ゆ、許してください、先生……一生懸命やりますので……」
「そう、必死さが足りひんから、こないな目に遭うんやで」
 マキオは、ますます太さと長さを増しつつある恵美の女根の茎胴をまんべんなく舐め回していく。
「舐めてるばっかやなくて、咥えや」
 マキオは恵美のクリトリスをいかにも長大なものをつっこまれているかのように頬張り、頬をへこませ懸命にあやす。
「そうや、AV女優みたいやな、唐谷、お前。才能あるよ、そっちの……あああ、やっと気持ちようなってきた……」
 恵美は細かく腰を使いながら、天井を仰ぐ。
「いくで、出すでっ、口開けえええっ!」
 大きく開けたマキオの口腔に、恵美のヴァギナから噴出された怒濤の灼熱がほとばしる。その三分の一くらいは、飛び散って口中に収まりきれず、顔面に広くぶちまけられた。
「はううううう……あああ……」

「翔子も一発犯るか?」
 恵美の誘いに、二十六歳のマネージャーは、「えっ」と驚く。あくまでも恵美のサポートに来たまでで、そんなつもりは毛頭なかったし、考えたこともなかった。しかし、四肢をベッドに固定され、顔を女潮だらけにした情けない男を見ていると、自分の中に潜む魔性が首をもたげる。
「犯るって?」
 その意味を確かめるように恵美を見る。
「うちがやってたみたいに、騎上位で嵌め込むんよ」
「でも、チクチクして痛いんじゃ……」
 毛が生え始めているマキオの股間を覗いていった。
「せやった、確かに。今日はやめといたがええかもな」
―――今日は……では、いずれ、この二十六歳のマネージャーにも騎上位で、犯されてしまう日が来るのか……そうなったら……菜々子に……どう説明すればいいのか……
 マキオは顔面にべっとりと降りかかった女潮の甘酸っぱい匂いの中、ぼんやりした頭で考えた。
「じゃあ、ちょっと違うことしよか」
 恵美はそう言うと、翔子にあれこれと指示をした。
 翔子はまずおしぼりを使ってマキオの顔に付着した女潮をきれいに拭き上げた。マキオは口の中いっぱいに広がる女臭にむせながら、東京で千夜が中島にしていたように、小便を飲ませられるようなことがないよう祈った。
 続いてマキオの両手両足の枷がベッドから外され、左右の手足をそれぞれ束ねるように結わえ付けられた。手足を突き上げるような格好で、苦しくて痛いのと同時に、惨め極まりない。
「あああああ……や、やめて……許してください……」
 翔子は大股を広げたマキオの尻を天井に向けて支え、恵美の準備が整うのを待った。

 

 

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内容紹介

女性マネージャーに虐待・陵辱を受ける幕間芸人たちの悲劇(上巻)

売れない漫談家である唐谷マキオ(30)は、再起を賭けるべく、とあるストリップ劇場の面接を受けることにした。合格すれば幕間芸人としての身分が保障され、定職にありつくことができる。面接を行ったのは、劇場支配人の娘でマネージャーである高杉千夜(28)という女性。もともと外資系商社のキャリアウーマンだった彼女は判断力や機知に優れ、そのぶん気が強く、たぶんに嗜虐性を備えていた。千夜は、いきなりマキオに芸を演じさせ、辛口の評価を与えるも、思わせぶりな態度を取ってみせる。ここが正念場だと悟ったマキオは、プライドをかなぐり捨て、床に跪いて懸命に採用を懇願したのであった。それが地獄の始まりであるとも気づかずに……。ただ、一目惚れして交際を申し込んだ受付嬢の吉川菜々子(23)だけが、彼の希望のヒロインだった。

第一幕 美人マネージャーの脚揉み当番

第二幕 モデルボクサーの強打に怯えて

第三幕 女性実業家のペニバン逆レイプ

第四幕 大切な恋人に鞭打たれ陵辱され

本文サンプル

第一幕 美人マネージャーの脚揉み当番

☆ 一

「そこをなんとか、お願いできませんでしょうか」
 唐谷マキオは、額が机に着くほどに頭を下げ、女性マネージャーの高杉千夜ちやに懇願した。もうあとがなかった。ここを断られたら、もはや芸人を辞めて堅気の仕事に就くしかない。それくらいの覚悟で赴いたのだった。
「何度も言ってるけど、幕間まくあいの芸人さんは今のところ間に合ってるし……もし、空きが出たら連絡しますから」
 まだ二十代かと思われる美貌のマネージャーはすげなくそう言った。唐谷マキオは、三十歳の漫談師である。かけだしの頃は、漫才師としてコンビを組んでいたこともあるが、喧嘩別れしてからはピン芸人となった。以来、鳴かず飛ばずのまま、今年で芸歴十二年を迎える。所属事務所との契約も切れ、フリーの立場であった。もはや堅気の仕事を探すしかないと観念していたところへ、知人からこのストリップ劇場を紹介され、面接に挑んだのであった。幕間芸人の立場を確保できれば、なんとか定職にできる。そう思った。
「最低の条件でかまいませんので……」
 マキオはもう一度深々と頭を下げる。早、薄くなりつつある後頭部を美女に見下ろされるのは恥ずかしいが、そんなことを気にしている場合ではない。
「そう言われてもねぇ」
 ため息をつく高杉千夜マネージャーにしても、実のところこの職についたのは一年前のことであった。元々外資系の商社に勤めていた才女であるが、今年の初めに支配人であった父親が他界したのを機に、母親に泣きつかれて、引き継いだ次第である。マネージャーだったその母がいまでは支配人の椅子に座っている。
 目の前のマキオのことは、とりあえず会うだけでも会ってみてくれと知人に頼まれたので、そうしているまでのことであった。
「どうかお願いします、私にチャンスをいただけませんでしょうか……実を言うと、も、もし、ここが駄目なら、もう芸人を辞めようかと思ってるんです」
 マキオにしてみれば、相手が年下の女性であろうが、もはや体裁を気にしている場合ではなかった。二人きりの面接であったのも幸いした。もし人目があったりしたら、こんななりふりかまわずの態度に出られたかどうかは分からない。
「そう、ですか……じゃあ、とりあえず、見せてもらえますか? 何も見ないでお断りするのもなんだし……」
「あ、ね、ネタをですか?」
「うん、今、ここで」
「わ、分かりました……」
 ネタ見せをするのなど久しぶりで、本番より緊張する思いがした。マキオは席を立ち、引きつっているかもしれない頬を両手で揉みほぐした。
「はいっ、では、ありがとうございます……」
 マキオは、機会を与えてくれたことに感謝しつつ、汗をかきかき、渾身の漫談を披露した。

「なるほど……なんか、ほのぼのした感じですね。悪くないけど、迫力に欠けるっていうか……声が小さいのかな」
「あ、ありがとうございます……こ、声は、舞台だともっと張れます、この部屋だと少し、遠慮ぎみになっちゃって……」
 マキオにしてみれば、相手はマネージャーといえど元キャリアウーマンで、就任してまだ一年ほどだと聞いている。芸のことはおそらく素人に近い彼女に意見されたことに憤りとまではいかないが複雑な思いを抱いた。それが少し表情に出たのかも知れなかった。
「舞台なら、もっと本気出せるんだ……」
 千夜は真顔でつぶやくように言った。
「あ、すみません……」マキオは慌てた。怒らせてしまったのではないだろうか。「そう言う意味ではなくて……本気では、やりましたけど……ここで大声を出すと耳障りかと思いまして……」
 女性はマキオが慌てる様子をやや面白げに見ている。少し間を開けて、「じゃあ、舞台でもう一度やって見せてもらいましょうか」

「は、はじめまして、唐谷マキオと言います……」
 客席には、踊り子たちや女性スタッフがまばらに座っている。このような劇場にしては珍しく、女性だけで運営されているらしい。
 ほぼ中央の前よりの席に高杉千夜マネージャーがいるのを見つけて、マキオは生唾を飲み込む。こんなに緊張する舞台は初めてだ。
「すみません、ほとんどの方がはじめましてだと思います。なんせ、テレビにはあまり出たことがありませんので……」
 少しの笑いを期待したのだが、誰もクスリとも笑わない。これでさらに緊張が高まってしまった。もともとはあがり症を克服するために、お笑いを始めたことを思い出す。

―――酷い出来だった……
 千夜と二人きりの事務所に戻ったマキオは、すでに諦めていた。少しは笑いが起こったが、あれは自分が笑わせたのではない。笑われたのだ。どもり、突っかかる漫才師を踊り子や女性スタッフたちにバカにされたのだと思った。十年以上もやっているはずなのにあるまじき醜態だ。結果は聞かずとも分かっている。マキオは、一刻も早く逃げ帰りたい気分だった。
「悪くはないかもね……」
 千夜はセミロングのストレートヘアを触りながら、確かにそう言った。
「え……ほ、ホントですか」
「こんなこといっちゃ、失礼かも分かんないけど、妙に素人っぽいところが新鮮ね。計算でやってるの?」
「え、いえ、あ、まあ、多少は……」
 一転して意外な展開になりつつあることに、急な期待感を覚える。素人などと言われるのは心外だが、このままお笑いを続ける道が開けるのなら、ここはひとまず従順な態度を見せておくべきではないだろうか。
「どうします? その気がないなら、それで別にかまわないけど」
 千夜は、一瞬戸惑いを見せたマキオに、やや憮然としている。
「え、い、いえ……使っていただけるのなら、ぜひ……お願いします……」
 マキオは再び机に額をつかんばかりにして、懇願する。頭を下げたまま、美女の承諾を待っているが、その声は聞こえてこない。マキオはたまりかねて、顔を上げる。女マネージャーは腕を組み、黙ってこちらを見つめている。見つめているというよりも、立場が上の人間が、自分の聞きたい言葉を待って上から見据えているという感じだ。
「す、すみません……」とりあえずそう言うしか、元の空気に戻す術はなさそうだった。「どうか、チャンスをお与えいただけませんでしょうか……」卑屈に過ぎる言葉かも知れなかったが、他の誰に聞かれているわけでもない。何が何でもここをくぐり抜けねば、目の前の女マネージャーに首を縦に振ってもらわねばならないと思った。これからまだまだ先の長いはずの人生がかかっているのだ。
「どの程度の覚悟なの?」
 千夜がポツリと言う。
「ほ、本気です……人生が掛かっています……」
 マキオの言葉に千夜はかすかに首をかしげる。言葉に真実味がないのだろうか。三十路に入ったばかりの男芸人は不安を募らせる。つかみかけたロープが手の届かない高さへと無情に引き上げられようとしている。
「お、お願いします……どうか……」
 マキオは席を立つとテーブル脇に移動して靴を脱ぎ、脇へ揃える。生まれて初めてする行いに体を震わせつつ、その場にしゃがみ込み、赤いタイトスカートを履いた彼女の足元に向けて正座を整えた。
「ど、どうか、お願いです、た、高杉、様……」
 マキオは女マネージャーを見上げる。黒っぽいインナーにデニムのジャケットを羽織った美女は、変わらぬ落ち着きでマキオを見下ろしている。唇とマニキュアの真紅が鮮烈である。しかし彼女は、依然として無言のままだ。
「一生懸命、頑張らせていただきますので、どうか、わたくしを使ってやってくださいませ……」
 必死の思いでそう言うと床に向かって深く頭を下げた。黒いパンプスのつま先が、照明を浴びて妖しい光沢を放っている。

☆ 二

「……では、このあと、また、踊り子さんが出てきますのでね。どうも、ありがとうございあしたぁ……」
 まばらな拍手の中、マキオは舞台を降りる。
「お疲れさま」
 舞台袖で見ていた受付嬢の吉川菜々子が、楽屋へ向かうマキオに声を掛ける。清廉という言葉が似合う二十三歳の美女は、一見このような職場にはそぐわない印象だが、昨今の女性客増加に応えるべく、ストリップ劇場の従来のイメージを刷新したいという高杉千夜マネージャーの意向で、先月からこの職場に就いている。元来お笑い好きのようで、休憩中など、菜々子は芸人たちの漫才や手品を舞台袖から見るのを好んでいた。
「あ、ああ、どうも……」
 そんな菜々子にマキオは一目惚れしていた。こんな魅力的な女性との出会いが待っているのならば、プライドをなげうって、年下の女性マネージャーに土下座までした甲斐があったというものだ。
「結構、ウケてましたね」
 菜々子は、頬にえくぼをつくって微笑んだ。拍手はまばらだったが、このような劇場では拍手があるだけでもありがたい。
「そ、そう?……そりゃどうも、ありがとう……そう言ってもらえると……嬉しいね……が、頑張ります……」
 菜々子を見ると年甲斐もなく、少年時代に戻ったような心持ちになる。マキオは照れて逃げるようにしてすぐ裏手の楽屋へ戻った。

「お疲れさん。ウケてたじゃねえの、なかなか」
 手品師の中島が茶を注いでくれる。口ひげを生やした五十代の小男だ。
「あ、すいません。ですかね……優しいお客さんが多かったのかな……」
「んなことねえよ、オイラんときゃ、結構野次られたぜ」
「そうですか?」
 マキオはズズッとお茶を啜ってまんざらでもなさげにする。
 中島は舞台の上では、タキシードを着て上品な語り口で優雅な手品芸を見せるのに、舞台を降りた途端に口が荒っぽくなる。そのギャップが面白くて、そのうちネタにして舞台で話してやろうかとマキオは思った。
 廊下から気の立った足音が聞こえてくる。
―――カッ、カッ、カッ、カッ……
 引き戸が開いて、劇場マネージャーの高杉千夜が入ってきた。
「ほら、何してるの、悠長にお茶飲んでる場合じゃないでしょ」
 千夜はだいぶ年上であるはずの中島を見下げた口調で注意する。
「あ、お嬢さん、すいやせん、すぐ行きますんで」
 中島は千夜にペコペコと頭を下げながら、部屋を出て行く。踊り子たちの楽屋へ行くのだ。幕間芸人は、彼女たちの雑用係でもあった。
「どう? 少しは慣れた?」
 千夜がテーブルを挟んでマキオの前に、さきほどまで中島がいた座布団の上に座る。
「あ、はい……多少は……」
 面接の日から一週間が経っていた。
 マキオはぎこちない手つきで、千夜にお茶を入れる。
「最初に言ったように、三ヶ月は様子見だから、気を抜かないようにね」
「はいっ……頑張らせていただきます……」
 マキオは座っていた座布団を外し、正座の姿勢を再度整えて、千夜の方へ頭を下げる。
「それと……あなたも、来週くらいから、踊り子たちの楽屋に行ってもらわないと」
「は、はあ……」
 気が進まないが、それがここのしきたりらしい。そのような説明や最低限の給金の話は、すべてマキオが土下座をした後に聞かされた話だった。外資系の商社で百戦錬磨の交渉術を身につけた千夜にとっては、一般常識に疎い下層芸人たちの処遇を優位に進めるなど、赤子の手をひねるより簡単なことのようだった。
「踊り子さんたちの稼ぎで、あなたたちの給金がまかなえるんだからね。くれぐれもそこんとこを忘れないように」
 千夜は積極的な態度を見せないマキオに釘を刺す。
「は、はい……でも、ち、千夜さん……」マキオはおもねる気持ちを込めて、思いきって下の名前で呼んでみる。「踊り子さんたちの雑用って例えば、どんなことを……」
「彼女たちが頼んできたことは、何でも」
「な、何でも……」

 千夜が出ていった後、マキオはしばらく、師匠から破門されて流れてきた落語家と一緒だったがその彼が舞台に上がったところで、手品師の中島が戻ってきた。
「中島さん、踊り子さんたちの雑用っていったいどんなことをするんですか?」
 なんとなく聞きづらいことだったが、思いきって尋ねてみる。
「彼女たちが望むことはなんでもだよ」
 中島は口髭を触りながら、千夜と同じ事を言った。
「例えば?」
「例えば……いや、それは自分で確かめな……」
「え……」
 マキオは、中島が口にできないほどのことをやらされるのかと不安になる。

 マキオは、マネージャー室をノックする。
「はい」
「あ、唐谷です。ま、マネージャー、ちょっとお話しが……」
「どうした?」
 千夜はパソコンのキーボードを叩きながら画面に目をやったまま聞く。
「お忙しいところ、すみません……やはり、ちょっと例の踊り子さんの雑用のことが気になって……中島さんに聞いても、教えてもらえなくて……自分で確かめろって……」
 マキオの話を遮るように、千夜は大きくため息をつくと席を立ち、壁際のソファへ腰掛けた。今日は外で打ち合わせでもしてきたのか、ベージュ色のいかにも上等そうなスーツを身につけている。
「煙草、取って」
 千夜は机の上を顎で指して言う。マキオは一瞬、驚いた表情をして、生唾を飲み込んだが、言われるまま、シガレットボックスとライターを手渡した。
「要はね。そういうことをさ、言われなくてもやるようにするの。アタシが煙草吸うって、もう分かってるでしょ?」
 千夜は煙草に火を着けると大きく煙を吐いた。
「……は、はい……」
 マキオは屈辱に身を震わせながらも、若い雇い主の言葉を懸命に受け入れようとする。
「ボーッと突っ立ってないでさ、そこ座んな」
「え……」
 マキオは椅子を探して、あたりを見回す。千夜が顎で指している場所が、冷たい床の上であることを悟ると、今一度確かめるように彼女の顔を見る。
「早くしなさいよ」
 低く厳しい声にマキオは背筋に寒気を走らせ、すぐに靴を脱ぎ、しゃがみ込んで膝を揃えた。
「あとはね……例えば、足を揉むとか」
「あ、足を……揉む? ……踊り子さんたちの……」
 マキオは愕然とした表情をする。それはあまりにも惨め過ぎはしないか。いくら幕間芸人とはいえ、それなりに志を持って芸を磨いているつもりだ。立場上ある程度の雑用は仕方ないとしても、そのような下人のようなことをさせられる筋合いはないのではないか。
「嫌? できない?」
「あ、いえ……でも、それでは、あまりにも……」
 マキオは長い脚を組んだ豪腕美女の顔色をうかがいながらも、なんとか異議を取り合ってもらえないか言葉尻を濁す。
 とたんに千夜の表情が険しくなった。
「ちょっと、あなた勘違いしてるみたいだから、もう一度、きちんと話しようか」
「あ、は、い……すみません……」
「うちに来るお客さんは、誰に対してお金を払ってるの?」
「それは……踊り子さんたちです……」
「だよね、それは説明したはずだよね。何度も」
 赤いルージュを引いた口がきっぱりと言う。
「は、はい……」
「彼女たちがいなけりゃ、あんたら、舞台に立つことできないんだよ。こんなこと本当はいいたくないけど、そのおこぼれにあずかってるだけの立場だってことを分かってもらわないと」
「あ、ああああ……」
「アタシが言ってること間違ってるかなぁ」
「…………」
「だとしたら、これ以上、話することないわ、あんたに。出てっていいよ、いますぐ」
「あ、いえ……すみませんっ……」マキオは焦って詫びた。「やります、踊り子さんたちの言う通りにします」
「どうだか……そんな中途半端な、甘ったるい考えで、この先、やってけるのかなぁ」
 千夜の厳しい言葉と態度に、マキオは不安と恐怖を募らせる。
「お、お嬢さん……」マキオは、他の芸人たちと同様に、最上位に敬う呼び方をした。「本当に、申し訳ありませんでした」床に額がつかんばかりに謝罪をする。
「いまのアンタのまま、踊り子さんたちのところにやるのは不安だなぁ、ちょっと教育が必要かもね」
「は、はいっ……よろしくお願いします」
 マキオは涙目で、二つ年下の美人マネージャーを見上げた。

☆ 三

「もうちょっと、力出ないの?」
 煙草をくゆらせながら、千夜が言う。彼女の足の裏、土踏まずを押し続けているマキオの親指はもはや吊りそうである。
「すみません……」
 教育をすると言われた日から、ほぼ毎晩、千夜はマキオを呼びつけて、足を揉ませている。
「アンタらを売り込むために営業してきてあげてるんだからね、少しは感謝してもらわないと……そうでしょ?」
「は、はい……ありがとうございます……お、お嬢さん……」
 暇な時間の多い幕間芸人たちをイベントやテレビ番組などに派遣する芸能事務所的な機能を思いついた千夜は、持ち前の行動力でさっそく実行に移すことにした。商社時代のコネを生かして営業に回っているところだ。テレビ出演はもう少し時間が掛かりそうだが、ショッピングモールのイベントや結婚式への芸人派遣は、近々にも動きが出そうな感触だった。
「感謝してるの? 本当に」
「はい、それは、もちろん……」
「じゃあ、証拠を見せてもらおうか……」
 そう言って、千夜は三本目の缶ビールを飲み干した。頬をほんのりと染めて、気分良く酔っているようだった。
「しょ、証拠……と、いいますと……」
 千夜は鋭い眼差しでじっとマキオを見つめる。マキオが耐えきれず、目をそらしかけたそのとき、「舐めて」といい、足の指先を彼の鼻先に差しだした。
「あ、ああああ……」
「何? 感謝してるんじゃなかったの?」
 千夜のこわばった表情にマキオは、一巻の終わりになってしまいそうな気配を感じる。
「お、お嬢さん、分かりました。や、やりますので……でも……」
 マキオはようやく、千夜が多分に嗜虐的な性向を持つ女性なのだと察した。でなければここまでの命令を出すはずがない。
「でも?」
「でも、どうか、他には内緒にしておいてやってください……」
 どうにも免れないと観念したマキオは、声を絞り出すようにしてそう言った。

 

S女小説 鬼姫劇場(上)「強く美しく残酷な女たち」

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S女小説 荒ぶる女神たち「不用僕の運命」

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内容紹介

超女尊男卑へと移ろう世における、男たちの悲哀と絶望

画期的な婦人薬の発明により、女性の知力、体力が大幅に向上し、さらには嗜虐性までが高まった結果、世は超女尊男卑社会へと移行していった。女性主導による専横的な政府は、男を女性に隷属させるための憲法および法律の改正を次々に行い、施行準備を整えていった。地理教員として若草女子高に勤務していた持田(旧姓細野)友弘も、そのような時代の犠牲となったひとりであった。

プロローグ

第一章 女性教師のバター犬

第二章 新任女性に犯されて

第三章 銃を撃つ女生徒たち

第四章 奴隷市場での男売買

第五章 タトゥー美女の浣腸

第六章 処刑に昂ぶる女たち

本文サンプル

プロローグ

「しょうがないよね、そうせざるを得ないことをやってしまったんだから、お前は」
 リビングのソファに腰掛けた妻は、足元に正座させた全裸の夫を見据えて言い放った。ゆるくウェーブが掛かったセミロングヘアに包まれた高貴な面持ちが窓から差し込む午後の日差しに白く輝いている。その眼差しは、下僕である夫への蔑みに満ちていた。
「洋子様……私には、まったく身に覚えのないことで……」
 ろくに食べ物を与えられておらず、栄養失調寸前の夫、友弘は声を震わせる。
「身に覚えのないものがどうしてあんなところにあるの?」
 持田家のパソコンの中から発見されたのは、男が女を陵辱するという、遙か旧い時代の動画ファイルだった。
「し、しかし……洋子様……」
 本当に身に覚えのない友弘は、目に涙を浮かべている。
「まだ言い訳する?」
 妻の洋子は、夫である友弘の額を制裁用ブーツの尖ったつま先で軽く小突く。今や家庭内の女性は多くが土足履きの習慣だ。
「あああ……洋子様……どうか、お許しを……」
 恐怖に夫の両膝はガクガクと震えている。
「読みなさい、声を出して」
 友弘はどうか夢であって欲しいと願いながら、さきほど渡された一枚の手紙を両手で持ち上げ、震える声で読み始める。

「世帯主 持田洋子様
 この度は、若草女子高等学校射撃部の処刑実習にご協力いただけるということで、誠にありがとうございます。
 先般の日程調整通り、二月三日早朝に不用僕を引き取りに伺います。
 処刑は五名の女子部員が機関銃にて執り行う予定です。
 万が一の事情により中止される場合は、二月二日十五時までに、所有女性ご本人が直接ご連絡ください。
*これ以降はいかなる事由がありましても、処刑は中止できませんので、あらかじめご了承ください。
 若草女子高等学校三年一組 射撃部キャプテン(処刑隊長)浅野聖美」
 読み終えた友弘の目に涙があふれ、震える手紙の上にポタポタとこぼれる。
「よ、洋子様……どうか……」
「今度、馬鹿やったら、《不用僕》にするっていったよね、アタシ。冗談だと思ってたの?」
 世の中は変わった。
 女性の知力、体力のめまぐるしい向上を経て、史上初の女性政権が誕生し、国会議員の三分の二以上を女性が占めるようになった。女性優位の風潮が芽生えたかと思うと、それはあっという間に女尊男卑の世の中へと加速されていき、憲法が大幅に改正され、女が男を支配するための新しい法律が次々と制定されていった。
 事の発端は、遠い昔に遡る。女子医大研究グループによる画期的な婦人薬の発明がきっかけであった。新しい薬には人間の基礎能力を大幅に高める作用があった。多くの女性がその薬を、初潮の始まる頃から服用するようになったのだった。男女間の力の差は縮まり、追い抜き、さらに、時を経るごとに広がるばかりであった。その妙薬に男性への嗜虐性を高める成分が含まれていると言う事実は、いまだに公表されていない。
 そして……夫の所有権は妻にあるという憲法改正に基づいて、ついに昨年頭に、妻は夫を不用僕としていつでも殺処分できるという法律が制定され、昨夏から施行されるに至ったのだった。
「うううう……」
 恐怖に震え、怯え、涙を流す友弘を、部屋の隅から、同じく全裸に剥かれた二人の若い男たちが、やはり怯えた表情で状況を見守っている。いつ自分たちも同じ目に遭わされるか分からないからだ。
 一妻多夫が憲法により認められている今、古い夫に飽きた妻が、彼を不用僕として処分することは、いともたやすかった。
 そのとき、持田家に一人の女子高生が訪ねてきた。
 紺のスクールブレザーに白いブラウス、チェック柄のスカートを身につけた女生徒が、若い夫の案内でリビングに通される。
「こんにちは。この度、処刑隊長を務めさせていただきます、浅野です」
 さきほどの手紙の差出人である女子高生、浅野聖美きよみだ。
 玄関口で土足でかまわないと説明を受けた聖美の足元は黒革のローファーに膝下丈の紺のハイソックスであった。
「ご挨拶はっ」
 洋子のブーツのつま先が、友弘の額を強く小突く。
「うがあっ、は、はいっ、すみませんっ……」
 不用僕となった夫の友弘は、そばに立つ女子高生を見上げる。二重まぶたと白い肌の持ち主は、ミスコンの上位入賞者として紹介されても何の違和も感じないほどに完成された美少女だった。
 しかし、礼儀正しさの中に収まりきれない若さの躍動がみなぎる、その佇まいは、女性上位の世の中にどこにでもいそうな、今風の女子高生の一人でもあった。
 友弘は、彼女に見覚えがあった。
―――この少女ひとたちに、自分は殺められるのか……
 友弘は恐怖の中にあってなぜか昂ぶるものを感じる。
「こ、こんにちは……も、持田、友弘です……」
 よろしくお願いします、と言いかけて、やはり口にはできなかった。死ぬのは恐ろしい。
 少女は少し微笑むだけで何も言わずじっと友弘を見下ろした。友弘は、その目力に耐えきれぬように頭を下げ、黒光りするローファーのつま先に視線を落とす。
「この度は、処刑実習へのご協力、ホントにありがとうございます」浅野聖美は、実習材料の提供者である持田洋子に頭を軽く下げる。「何かご質問などあれば、伺おうと思って参りました」
「どうぞ、お掛けになって」
 洋子は自分の隣に誘った。
「はい、失礼します」
「手紙!」
 洋子に言われて、友弘が手元の手紙を震えが止まらない手で渡した。その様子を見て女性たちはうっすらとした笑みを交わす。
「中止のリミットは……今日の十五時ね」
 洋子が壁の時計を見上げると、聖美も一瞥し、「ええ、あと一時間です。私にこの場で言っていただくか、そこに書いてある携帯番号にご連絡いただければ」と、いちおう説明するのが義務であるふうに言った。
「大丈夫。今のところ、そのつもりはないので」
 洋子はきっぱりと言い、もう一度手紙を確認する。
「よ、洋子様……」
 掠れる声ですがろうとする友弘を無視し、妻は元夫の手をはねのけるようにしてブーツの脚を組み直す。
「あ、あと、これはお願いなんですが……」聖美が一瞬、友弘を見下ろした。「処刑前にできれば不用僕をボクシング部のサンドバッグ実習にも使用させていただけないでしょうか」
「……ええ、かまいません……女の子に殺される前に、女の子に叩きのめしてもらうといいわ。それにふさわしいことをやったんですものね、あなたは」
 洋子は厳しい眼差しを友弘にやった。
「ありがとうございます……彼は一体何を? 差し支えなければ」
 そう尋ねる聖美に応えて、洋子は元夫に自らの口で説明するよう命じた。

「なるほど……分かりました。処刑隊のメンバーにも伝えておきます」聖美は友弘の説明を聞いて頷き、洋子の方を向く。「他に、ご質問などは?」
「特に」
 もう気持ちは固まったというように、洋子は頷いた。
「であれば、最後になりますが……処刑の直前に、不用僕には命乞いの機会が一度だけ与えられます」
「どういった?」
 洋子が、言葉を失った友弘の代わりに尋ねる。
「一年生から三年生の女子で構成される処刑隊は、私を含めて五人で、実習時に長靴ちょうかを履きますが、それを一人当たりだいたい五分間ずつ舌で舐めながら……」
「助命を乞うのね」
「ええ」
「その結果、隊長の判断、つまり私ですが、助命に値すると判断した場合は、助命確認の連絡を所有女性、持田様の携帯電話にお入れしますので、助命もしくは処刑の最終判断をお願いします」
「ずいぶん、回りくどいことをするのね」
「ええ、処罰の一環としてですが」
「電話に出なかったときは?」
「不通の場合は、無条件で処刑となります。電話連絡は一度だけです」
「なるほど……命乞いで助かる場合もあるの?」
「私たちでいうと、助命の判断が、半々くらいです。助命の場合は、それから電話連絡で、所有女性に最終判断を委ねますが、これも半々かそれ以下です」
「じゃあ、トータルで八割くらいが処刑?」
「そんなところだと思います」
「だってさ、どうする、お前」
 洋子が黒革ブーツの甲で、友弘の頬をピタピタと打った。
「はうううっ……ど、どうか……お許しくださいませ……」
 友弘の声は震えている。
 いきなり処刑されると言われ、手紙を見せられ、担当者として女子高生がやってきて、現実のようで現実でないのではという思いが、友弘の脳裏で渦巻いている。
「ちょっと、やってみな。命乞い。せっかくだから、見てもらいましょうか。若くてチャーミングな隊長さんに」
「あ、あああ……はい……」
 友弘は、女子高生が見ている前で、妻の土足を舐めることなど、もちろん抵抗があったが、命が助かる確率が少しでもあがるのであれば、そんなことにかまっている場合ではない。
 おずおずと舌を伸ばして、尖ったつま先の裏側をペロリと舐める。確認を取るように妻を見上げ、女子高生の方にも控えめに視線を送る。
「ふっ……」
 聖美は小首をかしげ、思わず鼻で嗤った。
「どう?」
 洋子が尋ねると、聖美は「いや……ちょっと……こんなの、命乞いでもなんでもないですよ」
 憮然として言い放った。
 友弘は、それで我に返ったようになり、焦ってペロペロと舌を使い始めた。妻のブーツの靴底を丹念に舐め上げていく。
「ふふっ、そうそう、その調子で必死にやんないと」
 新鮮な感覚の虐待を面白がる洋子……早くも汗を額から流して必死に命令に従う友弘……女子高生の聖美は、女性上位時代の典型的な夫婦を、冷静に観察している。
「どうかしら?」
 洋子があらためて尋ねた。
「実際、その場にならないと……」聖美は軽くため息をつき、感情のない眼差しを足元の男に与えながら言った。「実弾入りの機関銃を持った女の子たちの足元に跪いてみないと……こんな程度じゃすまないって、そのときにならないと、わかんないかもですね……やっぱり……」

第一章 女性教師のバター犬

☆ 一

―――五年前、二XX一年九月。
 若草女子高等学校に教諭として務めていた友弘は当時、未婚であり、旧姓の細野を名乗っていた。
 放課後、細野友弘は、担当教科である地理の実力テストの採点をしているところだった。
「細野さん、ちょっと」
 肩を叩かれ振り返ると、学年主任の江上則子が立っていた。
「あ、ああ……」
 コツコツと鳴らすパンプスのあとを、友弘は緊張気味に着いていく。
 階段を上がることが分かって、友弘は愕然とする。職員室の上階にあるのは、生徒指導室ならぬ、教員指導室であった。
 紺色のスーツにはち切れんばかりのグラマラスな身を包み、くびれの利いた蜂腰を左右に揺らしながら、階段を上る三十三歳の女性教諭。その後ろ姿は官能的であり、挑発的でもあった。
 教員指導室は上位の教諭が、部下や後輩の教諭を指導する部屋である。絶対女性上位の現世にあっては、女性教諭が男性教諭を叱咤する空間となっている。
 壁際のソファに腰掛けた江上則子が、「そこ、正座して」と自分の足元を指さす。「え……」と一瞬驚いた友弘だが、これまでにない則子の迫力に、大きく唾を飲み込んで、スリッパを脇に脱ぎ、命令通り跪いた。
「ねえ、あなたちょっと勘違いしてない?」
「あ、うん、え……といいますと……」
 もともと、江上則子は友弘の大学の後輩で二つ年下であったが、一浪で入学した友弘がさらに一年留年したため、卒業時には同学年となり、同期として揃って同じ女子高の教諭になったのである。ギリギリの単位で卒業した友弘とは対照的に、彼女は首席卒業のエリートだった。
 女性上位政策が打ち出されてからは、女性の出世がめざましく、則子も半年前に、ついに念願の学年主任に抜擢された。平教員の友弘に、はっきりと職位の差を付けた格好である。
「その、うん、てのだよ。やめな」
 則子は目つきをなおさら鋭くして言う。
「あ、は、はい……」
「いつまでも同期の気分でいられると、こっちも凄くやりにくいから」
「わ、分かった……いや、いえ、分かりました……」
 今日はこれを言うと決めてきたのだろう、江上則子の表情に強い覚悟が見て取れた。それにしてもさすがは元ミスキャンパスである。切れ長の双眸、高い鼻筋、ストレートの黒髪に包まれた美貌は、三十三歳のいま、衰えるどころか、さらに洗練を増している。運動神経も抜群で、大学ではボクシング部に所属しており、プロテストの誘いが頻繁にくるほどの実力の持ち主だった。この女子高でもボクシング部の顧問をしている。
 隣の部屋から、女性教師が男子教師を恫喝する声が聞こえる。続いて平手打ちの音……。友弘の脳裏にはその部屋の様子がありありと浮かぶ。もはや、この学校では日常的な光景になりつつある。女性から男性への暴力は、家庭内であろうが、企業、学校であろうが、敷地内であれば、主たる女性の裁量でいかようにもできる。そのように法律で定められている。女性校長が許可通達を出しているこの学校でももちろん、問題ない。
―――まったく、とんでもない世の中になったものだ……
「ねえ、アタシが大学の後輩だからって、ひょっとして、手を挙げないって思ってる?」
「あ、あああ……」
 隣部屋の剣幕を聞きながら、則子の気持ちが昂ぶっていく。
「けじめ付けようよ、そろそろ」
 そう言いながら、則子が紺色スーツのポケットから、革手袋を取り出した。
「ああああ……江上、さん……」
「江上さん? で、いいの?」
 則子は左手に装着した革手袋の裾を引っ張りながら、グーパーを繰り返し、指先をなじませている。
「え、江上、先生……」
「大学の先輩を殴っちゃいけないなんて、変な前例を作りたくないからさ、アタシも」
「せ、先生、僕に悪いところがあったのであれば、改めますので、ど、どうか暴力は……」
「暴力? 人聞きの悪いこと言わないでよ。女性から男性への鉄拳指導は、法の下に保障されてるんだから。うちの学校では特に推奨されてるし、新しい職員手帳にも書いてあるよね。知らないとは言わせないよ」
「は、はい……」
 則子の両手におどろおどろしい黒革が完全に装着されたのを見て、友弘はもはや覚悟せざるを得なかった。
「それじゃ、打てないでしょ。膝立ちしな」
 則子の革手が伸びてきて、友弘のネクタイをつかみ、さらに自分の方へ引き寄せる。
「くふううううっ……」
「なんて声出してんの、情けない……歯、くいしばんなよ」
「くうっ……」
 友弘は、殴るなら早く終わらせて欲しいと思いながら、奥歯を喰い締める。
「目は開けてな」
 女性にしてはドスの利きすぎた低い声を出す。目を開けると、黒髪の美貌が冷笑を浮かべている。友弘は美しく強い目力に耐えきれず、思わず首を少し右に向けてしまう。
「目ぇそらすんじゃないよっ」
 ネクタイがさらに引きつけられる。
「くううううっ……」
「アタシの目をみな」
 額から脂汗をタラタラと流しながら、視線を則子の双眸に戻す。則子の右腕がさっと上がったかと思うと、頬に強い衝撃を受ける。
「はぐうううっ……」
 想像していたより遙かに強烈な打撃で、脳震とうを起こしたようになる。
「おらああっ……」
 続いて手の甲で返すようにして、反対の頬にもう一撃が放たれる。
「ぐわううううっ……」
 さらにもう一発、かしぐ頬をカウンターぎみに打たれ、友弘は体ごと床になぎ倒された。
「ぎゃはうううっ……」
 口の中が血の味で満たされていく。殴られることは覚悟したが、このように手加減なしだとは想像していなかった。体がガタガタと震える。
「いつまでも寝てんじゃないわよっ」
 パンプスのヒールが友弘の腰を踏みつける。気づけば、則子は立ち上がり、革手袋の手を両腰に当て、鋭い視線で見下ろしている。
「す、すみませんっ……」
 友弘は頭をクラクラさせながら、正座の姿勢に戻り、広めに脚を広げて立つ女性上司の足元に視線を落とす。
「すみません? 何に対してすみませんなの、ねえ」
 パンプスのヒールが太股に刺さる。
「はがうううっ……」
 友弘は何を言えばいいのかとっさには思いつかなかった。
「聞かれてるでしょう、ねえ」
 則子はパンプスを左右にツイストさせ、ヒールをさらにねじ込んでいく。
「ぐわああああっ……」
 慈悲を乞い願おうと顔を上げるが、視線の先の美女は冷笑を浮かべるばかりで、容赦の気配などかけらも見当たらない。友弘は元後輩でいまでは恐ろしい上司になってしまった彼女に対して、何を言うべきか必死になって言葉を探す。
「私が、お、愚かでした……上司である江上先生に対して、うっかりタメ口を使うなどしてしまった自分を深く反省しています……こ、今後は、そのようなことが一切ないよう努めます……」
「アタシには、今後、最上級の敬語を使うこと。いい?」
 則子は興奮の吐息で肩を上下させている。
「……は、はい……」
「他の先生が見てる前でもだよ」
「……わ、分かりました……」
「生徒の前でもね」則子の顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。「女の子たちが見ている前でも、私に恭しく仕える態度でいなさい」
「あああ……」
「返事はあっ」
 革の手が拳になって、友弘の頭を殴りつける。
「うがあっ、はいいいっ……しょ、承知いたしましたあっ……」
「アタシが見逃してきたのをいいことに、さんざん調子に乗ってくれたよね」
 則子は女性特有の執拗さで、すでに完全に彼女の足元にひれ伏している男をさらに責め立てる。
「ほ、本当にすみませんでした……」
 友弘はどうにかして、解放してもらえないかと涙声を出す。
「ふん、それがあなたの謝罪?」
「あ、ああああ……も、申し訳ありません……」
 友弘はさらに頭を下げて、声を震わせる。
「床に頭をこすりつけてさ」腿を踏んでいた則子の脚がサッと上がり、今度は後頭部にのしかかる。「申し訳ございませんでしたって、言うのが本来の謝罪の仕方じゃないの? ねえ」
 アドレナリンが全開になった則子の勢いはもはや止まらない。
 友弘の額が冷たく硬い床に当たって、ゴンと音を立てる。
「うぎゃぐわあああっ……ひいいいっ……も、申し訳ございませんでした……江上先生……」
「それくらいさ、アタシに頭踏まれる前に自分からやってよ。馬鹿なのか? お前」
「い、いえ……は、はい……」
「馬鹿だよな、お前は。そうでしょ?」
「…………」
 頭を踏みつけられたまま、酷い言葉を浴びせられ、もはや男としてのプライドが崩壊寸前であった。
「ビンタから、もう一回やり直そうか?」
 天から注ぐような美しく冷たい声に我に返り、友弘は江上則子の恐ろしさを肝に刻み込む。
「お、仰るとおり、私が馬鹿でした……」
「でした? お前、やっぱり分かってないじゃない」
 則子は踏んだ頭を転がすようにして、そのまま友弘の頬を、横顔を床にさらに強く踏み込む。
「ゆがあああっ……ば、馬鹿です……いまも、そうです……」
「だから?」
「こ、この馬鹿を、どうか、心ゆくまで、ご指導くださいませ……え、江上則子様……」
 顔を踏まれた脚がようやく退かされ、友弘は生きた心地を取り戻す。

☆ 二

―――約一ヶ月後、十月某日。
 この日も、友弘は江上則子に指導室へ呼び出され、職務態度についてこっぴどく罵られ、平手打ちの体罰指導を受けていた。
「すっかりしょげかえっちゃって、可愛いわね」
 二つ年下の女性にそのように言われ、友弘は複雑な思いである。しかし、今や反抗的な態度はもちろん、彼女に対して、どのような意見も申し立ても許されないのだと理解し始めていた。
「せっかくだから、続きの指導をやろうか。それが希望なんでしょ?」
「え……あああ……」
 またもや暴力かと、友弘は気を滅入らせる。
「心配しないで。一日に何度も殴りはしないわよ。こっちだって痛いんだから」
 そう言いながら革手袋を外したので、友弘は少し安心する。さっきから続いていた隣の部屋のヒステリックな剣幕もいつの間にか収まったようだった。
 則子が立ち上がって、部屋のドアの内鍵を閉め、戻りしなスーツの上着を脱いで、テーブル椅子の背に掛けた。
「さあ、おいで」
 友弘の背中を叩いて、壁際のソファに腰掛ける。
 恐る恐る隣に座った友弘の体がグッと抱き寄せられる。
「あああ……え、江上先生……」
 友弘は、想像を遙かに超えた則子の力の強さに驚き、身をすくめる。則子の左腕に肩を抱かれ、淡い色のマニキュアが光る右手で、器用にネクタイが緩められ、シャツのボタンが上から外されていく。
「こ、困ります……本当に……」
 友弘は眉毛を八の字にして、まさしく困惑の表情を作り、則子に懇願の視線を送った。同じ大学とはいえ、学年学部が違うので学生時代はほぼ面識がなかったが、ミスキャンパスの優勝者として有名であった彼女のことはよく知っていた。しかし、その頃抱いていた清廉なイメージからは想像もできない暴力に続く、セクハラであった。
「ふっ」
 年下の美人上司は、友弘の困惑を鼻で嗤うようにして、かまわず彼のシャツの中に指を滑らせ、アンダーシャツの上から指の腹で乳首を弄り始める。
「はあぅ……」
 友弘は思わず、甲高い声を挙げてしまって恥ずかしく思う。
「ほら」則子が笑みを浮かべる。「体は正直じゃない。感じてるんでしょ。乳首、しこってきてるし」
 甘いコロンの香りを漂わせながら、友弘の左乳首をつまんで弄り回す。
「はぅあぁ……江上、先生……」
「そろそろ、下の名前で呼んでもらおうかなあ、アタシも」
 男性教師が女性教師を下の名前で呼んだのであれば、それは忠誠を誓っている証拠であった。
「あ、ああああ……先生……」
「ねえ、また殴られたいの……」
 則子は下着の中に手を滑らせ、友弘の乳首を直につまむ。
「はん、はぅあぁっ……の、則子、先生……」
「アタシのことはこれから、ずっとそう呼びなさい」
「……は、い……」
 女性上司の命令は絶対だ。他の女性教師や女生徒の前でも、則子先生と呼ばねばならなくなったことが確定し、友弘に諦めのような気持ちが訪れた。
「コチコチに勃ってきてるじゃない、乳首」
「はぅあああ……せ、先生、の、則子先生……もう……」
「敏感なんだね、ふふっ、その顔、クラスの子たちに見せてあげたいね」
「あぅはぁあ……の、則子先生、それは……そんなのだけは……」
 受け持ちの女生徒の前で弄ばれる自分を想像して、顔が熱くなる。
「こっちの方はどうなってるのかしら」
 則子の手がスルスルと下へ降り、ズボンのファスナーを開けて、ブリーフの上から、局部をまさぐり始める。
「うううっ……」
「ほら、大きくしちゃって。やっぱり触られて悦んでるんじゃない。正直だね、体は」
 則子の手が興奮で膨らんだ友弘の竿をグッと握り、上下にさするように刺激する。
「はううっ……ふあああっ……も、もう……やめて……ください……」
 付き合ってもいない女性にこのようなことをされるのは、たまらないと思った。
「やめないわよ。やめる理由もないしね」
 女性から男性へのパワハラ、セクハラは、指導の範囲であるならば法律的にも許容されている。
「やめてなんて言えるのは、アタシに忠誠が足りない証拠だよ。この可愛いお口で忠誠をしっかり誓ってもらおうかしら」
「はううっ」
 友弘の口を則子の唇が塞ぎ、唾液が送り込まれる。大きな肉厚の舌が、友弘の口腔の中で猛威を振るう。淫欲の衝動にだけ基づいた愛のないディープキスに蹂躙され、友弘の体から力が抜けていく。
「さあ、声を出して、アタシに忠誠を誓いなさい」
 則子の右手がブリーフの中に侵入し、友弘のペニスを直に握り直す。
「あはむぅっ……の、則子先生……ち、誓います……」
「何をっ」
 握った指にいっそうの力が込められ上下に強く擦られる。
「うくああわあっ……ちゅ、忠誠を誓います……の、則子先生に、ずっと従います、着いていきます……」
「今までみたいに、おざなりな態度は一切許さないからね、いいわね」
 則子の親指の腹が亀頭を押しつぶすように刺激する。
「は、はい……しょ、承知しました、くうううう……」
「何? これは?」
 ズボンから上げた右手の指に、先走りの液がヌラついている。
「あ、あああ……すみません……」
 友弘は、恥ずかしげに目を伏せる。
「生意気にガマン汁なんて出してんじゃないわよ」
 則子が先走り液の付いた指を友弘の口を無理矢理こじ開けるようにして突っ込む。
「はうぅ……」
「自分が出したものは、ちゃんと自分で処分してもらわないとねぇ。きれいに舐めな」
 友弘は、口の中に突っ込まれた則子の指を仕方なしに舌で触る。かすかに甘酸っぱい味がしたが、自身のものだと思うとさほど嫌な気持ちにはならなかった。
「ほら、フェラみたいに、やってみな」
 則子が自身の指を男根に見立てて、友弘の口に抜き差しする。
「はふううっ……はむぅ……」
 友弘は、責められる側の、受け身側の快感が少しだけなんとなく分かる気がした。そういう気分になると自分の方から、ちゅぱちゅぱと音を立てて、則子の指を舐めしゃぶり始めた。
「そうそう、もっとヤらしく、やってみせて」
 則子は手のひらを広げて、親指の先が、友弘の喉奥につかんばかりに押し込み、左右にグリグリと押し回した。
「はむうううっ、くむっ、くわはあっ……」
 友弘の吐きそうに苦しむ顔をしばし愉快そうに眺めたあと、則子はようやく指を出してやる。
「あーあ、私の指、ベトベトにしてくれちゃったね」
 則子は友弘のシャツの裾で、よだれだらけの指を拭く。
「す、すみません……」
「さてと……アタシに忠誠を誓うって言ったよね」
「……は、はい……」
 友弘は生唾を飲み込んで頷く。
 則子は年上の男部下を抱いていた左腕を抜くと、「じゃあ、さっそく態度で示してもらおうかしら」と強い口調で言い、友弘の前髪を鷲づかみにして、乱暴にソファから引きずり下ろした。
「あぐああああっ……の、則子先生……」
 もうそろそろ、解放してください……そんな目をして、友弘は則子を見上げる。
「何、その顔は。同情でも買いたい?」
 則子はそう言って、髪をつかんだ手を前後に揺さぶる。
「くわううっわっ……」
「だいぶ寂しくなってきたんじゃない? 貴重な髪の毛でしょ。いいの? ふふっ」
 則子は、薄くなってきた友弘の後頭部を覗き込むようにして言う。
「ぅううう……」
 友弘は密かなコンプレックスをあからさまに嘲笑われて、これまでのどの仕打ちよりも、辱めを受けた気持ちになった。
「の、則子先生の、仰るとおりに、し、従います……どうぞ、ご、ご命令くださいませ……」
「だよね……忠誠を誓うってそういうことでしょ」
 則子は立ち上がって、タイトスカートを下ろし脱ぐと、友弘に渡した。
「あ……」
「これから、度々、やってもらうことだからね、訓練だよ」
 友弘は、則子の命令に従い、スカートを軽く畳んで、ソファの空いたところに置いた。
「Sit !」
 則子が、英語教師らしい、ネイティブに近い発音で叫ぶ。
「……」
「何、ボーッとしてんのっ」則子のビンタが炸裂する。「そう言われたらさ、アタシの足元に正座だろっ」
 まるで犬みたいだ、と思いながらも友弘は渋々従う。
「もっと、すばやくっ……少し調教が必要だね……」
 そう言いながら、則子はにやりと笑った。
「Garter !」
 戸惑う友弘に、則子は、「一度だけしか、言わないよ」と鷹揚な態度で言い、ガーターベルトの外し方を教えた。
 ガーターベルトが外れると、則子は黒いショーツを脱いで、それを友弘の後方に放り投げた。
 唖然とする友弘に、「ほらあっ」と声を荒げ、平手打ちを食らわせる。
「くわううっ……」
「ご主人様のショーツを取ってこないかっ。忠実な犬だろ、お前はアタシの」

 

S女小説 荒ぶる女神たち「不用僕の運命」

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S女小説 逆DV相談室「鬼妻に怯える気弱夫」

S女小説 逆DV相談室「鬼妻に怯える気弱夫」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

妻に暴力を振るわれた男がDV相談室へ赴くもさらなる不幸に見舞われる物語。

会社をリストラされて主夫となった小池朋也はキャリアウーマンの年下妻に頭が上がらず、日々彼女からの暴力に悩まされていた。ある日、些細なことがきっかけで、妻が逆上し朋也は前歯を折るほどの激しい暴力を受ける。治療を受けた女性歯科医にDV相談室の存在を聞かされ、さっそく連絡をし赴いてみると、男性専門の担当者として彼の相談を受けたのは、岩橋加世子というサディスティックな性向を持つ女性であった。

第一章 厳し過ぎる妻に虐げられて

第二章 女性担当者の屈辱的な指導

第三章 職場で美女の巨根に貫かれ

第四章 女性たちの肉便器に堕ちる

本文サンプル

第一章 厳し過ぎる妻に虐げられて

☆ 一

「どうしちゃったの、その歯」
 職業紹介所の女性担当者は、唇が腫れ上がり二本の前歯を失った私を見てかなり驚いた様子でした。
「ええ、お恥ずかしい話、妻に激怒されまして……」
「そっか……まあ、これだけ仕事が決まらないなら、さすがに奥様もストレスでしょうけど」
 スーツを着た三十代半ばの女性はいつもの淡々とした口調に戻ります。
「年も年ですし……」
 私は新しい仕事を見つけるには年を取り過ぎてしまった自分を嘆きため息をつきます。
「それは言い訳だよ、小池さん」
 年下女性は、平然と私をたしなめました。
「す、すみません……」
「とにかく、その歯をまず治さないと。面接にも行けないよ、それじゃ」
「は、はい……」
「今日はもう止めましょうか」
「あああ、はい、すみません……」
「あんまり無駄なことさせないでくれる? 他にも面倒見なきゃいけない人いっぱいいるんだから」
 女性は私の後ろの方へ視線をやって言いました。振り返ると、いかにも風体の上がらない男たちがうつむき、順番を待っています。彼らをタメ口で、ときに厳しい口調で次々とさばいていくのは、一回りも二回りも年下の女性たちでした。
「申し訳ありません、出直してきます……」

 翌日、私は自宅近くの歯科医院へ行きました。
「どうされました?」
 受付の歯科衛生士が尋ねます。まだ学校を出たばかりであろう、ショートヘアがよく似合う若くて美しい女性です。
「前歯が抜けちゃいまして」
 私は実際に歯がない口でそう言います。
「あ、はい……」女性は私の口元を確かめるように見て、「あらあ」と一瞬同情の顔を見せましたが、すぐに淡々とした態度に戻り、「保険証をお願いします」と事務的に言いました。「お呼びしますので、腰掛けてお待ちください」

 半時間ほど待って、診察室に呼ばれました。
「あらあら、どうしました?」
 女性の歯科医院長は、目を見開いて言います。目鼻立ちのくっきりした、いかにも知的な美女でした。歳は三十代半ばほどでしょうか。
「ええ、ちょっと……」
 女医の美しさに見とれると同時にあらためて歯のない恥ずかしさが湧き上がってきました。
「とりあえず、仮の歯を入れておきましょうね」
 女医は、若い歯科衛生士に指示を出して歯形を取り、他の患者も並行して診ながら、一時間ほどで処置をすませてくれました。他の人たちは簡単な治療だったようで、診察室には私だけとなりました。
「どうしました? ホントに。唇もめくれちゃってるし」
 あらためて尋ねる女性歯科医に、私は甘えたいような気持ちになり、妻から暴力を受けたことを正直に話してみることにしました。

「……そう……家庭にはそれぞれ事情があるのかもしれないけど……一度、相談に行ってみたら?」
「ど、どこに行ったらいいのでしょうか?」
「DV相談室ってのがあるから。女性から男性へってのも最近は多いって聞くわ……ねえ」
「ええ、らしいですね。テレビでもやってましたよ」
 さきほど受付をしていた女性歯科衛生士が応えるのを聞いて、私は初めて彼女もその場にいることを知り、羞恥で顔が熱くなるのを覚えました。

 私は自宅に戻るとさっそくパソコンでDV相談室について調べ、その部署を擁するNPO法人らしき女性センターへ電話を入れてみました。電話に出たのは若い女性の声でした。
「はい、相談室です。どうされました?」
「あの……」
「男性の方?」
「あ、はい……つ、妻に暴力を振るわれていまして……」
「少々お待ちくださいね、専用の担当に代わります」
 私はてっきり男性の悩みには男性の相談員が対応してくれるものと思いきや、代わって出てきたのは、やや落ち着いた声の女性でした。
「奥さんから暴力を?」
「はい……」
「それは大変ね。いつくらいから?」
 私はこれまでの経緯をざっと担当の女性に話しました。
「なるほど……よかったら、一度こちらへおいでませんか。詳しい話を伺いながらじっくり解決を探っていった方がよさそうなので」
 私は相談員とはいえ、見ず知らずの女性に直接会ってこのような相談をすることに一瞬抵抗を感じましたが、《解決》という言葉に引かれ、担当女性の提案に従うことにしました。

☆ 二

「小池と申しますが……」
 私は声を震わせながら受付の窓越しに若い女性に言いました。怪訝そうな顔をされたので、マスクを外します。彼女は腫れた唇を見て、同情の顔を見せます。
「えっと、小池さん、あ……ああ、はい、伺っています」彼女は手元のノートを見て言いました。「面談のお約束ですね」
 電話を取って内線を掛けている様子です。
「副所長、小池さんが見えてますけど……はい、ではいまからお通しします」
 受付嬢は、近くのドアから出てきて、「じゃあ、いきましょうか」と私を廊下を二度曲がった奥の個室へ案内しました。
「その部屋に担当者がいますので」
 そう言って、受付嬢は元の持ち場に戻ろうとしましたが、私に臆病を感じ取ったのか、ノックをして返事があってから少しドアを開けると、「山本です。小池さんがお見えです」
 少々苛ついた様子で足早に立ち去る受付嬢の背中に頭を下げ、もう逃げられないと、覚悟を決めて部屋へ入りました。

「し、失礼します……」
「いらっしゃい、小池さん。お待ちしてました」
 女性は奥の執務机を立ち上がると、中央の応接ソファに私を座らせ、自分も向かいに腰掛けました。
「はじめまして、岩橋です」
 もらった名刺には女性センターの副所長とDV男性相談部の部長を兼任する肩書きで、《岩橋加世子》と書かれていました。年齢は三十代後半くらいでしょうか。このような組織のナンバーツーにしてはかなり若いと思いました。きりりとした美人で、明るい色のスーツをきっちりと着こなしています。電話で話したイメージどおりの女性だと思いました。
「こ、小池と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ここは、どなたかのご紹介?」
「あ、いえ、自分でパソコンで調べて……あ、でも、その前にかかりつけの歯科の先生にDV相談室のことを教えていただいて。それまでは、こんなところがあることも知りませんでした」
「だいたい男の人ってそんな感じですね。知ってても、相談することに抵抗があるようで、なかなかここまでたどり着けないみたい」
「はい、そう思います……私も、その……先生に電話でお誘いいただけたから参りましたが……」
 いくらアドバイスを受ける身だからといって、年下の女性に、先生は言い過ぎかとも思いましたが、目の前の女性副所長は、その呼ばれ方をすんなりと受け入れたふうに頷きました。
「そうなんですよ。お宅みたいなケース、いわゆる逆DVが増えていることは分かってるんだけど、被虐者が男性の場合、なかなか相談にこられないから……小池さんみたいな方は貴重な存在なの。事例としてストックしたいから、できるだけ具体的な話を聞いていきたいんだけどいいかしら?」
「あ、はい……もちろん。私などのでよろしければ……」
 私はあまり深く考えることなく答えました。
「録音とっていい?」
 すでにコンパクトなデジタル式のレコーダーがガラステーブルの上に置かれています。
「あ……」
「もちろん、秘密は厳守よ。私とあなただけの話だから安心して」
 美人担当者にそのように言われてじっと目を見つめられ、私には「はい」としか返答できませんでした。
「じゃあ、始めますね」
 レコーダーのスイッチが入れられました。
「電話で伺ったことと重複するかもしれないけれど、もう一度聞きます。奥さんからの暴力。歯が折れたのは顔を殴られたから?」
「あ、はい……」
「平手? それともグー?」
「……ひ、平手です」
「平手? で、歯が折れるの? ホントに?」
「……あ、いえ……」
「ちょっと」
 岩橋副所長は真顔になっていったんレコーダーを止めました。私は緊張で身を固くします。
「正直に話してくださいね。なに聞いても驚かないから。事実と違うこと話されるとこちらとしても協力できないし、なんにも解決しないよ」
 少々強い口調で言われます。
「す、すみません……」
「ちょっと待って」
 岩橋副所長は、話を続けようとする私を制してレコーダーを再スタートしました。
「最初からいこうか。玄関先で靴磨きさせられてたんでしょ。で?」
 私は突如厳しさを露わにした女性を前に、すべてを正直に話すことにしました。
「はい……彼女が働いてますので、朝、出かけるときに」
「うん、働いてもらってるんだよね」
「あ、はい、で、もちろん、昼間のうちに、靴磨きはやってるのですが、朝、実際に彼女が履いてみて、艶が悪かったり、仕上がりが気に入らないときは、その……玄関先に呼ばれて、磨き直すよう言われるんです」
 私は恥ずかしさに耐えながら、告白しました。
「ごめんなさい、もう少し大きな声で話してもらえるかな?」
 岩橋副所長は、レコーダーを私の方に押し出しました。
「あ、はい……すみません……」
「彼女が履いたままの靴を、磨いてるの? それは彼女の要望?」
 気のせいか、女性副所長は少し私を小馬鹿にしたような表情を見せました。
「は、はい……以前はいったん脱いでくれていたのですが、いつの間にか……そういうことに……」
「それは、不慣れな家事のミスが続いたり、あなたの仕事がなかなか決まらないことと関係してるのかしら」
「それは……まあ、あると思います……」
 私はなんだか責められているような気分になりました。
「それで? 歯を折られた日は?」
「はい、すみません……突然寒くなった日で、妻が膝丈の革ブーツを履いていくと言い出したんです」
 詳細を口にすることでその日の情景がありありと頭に再現されていきます。
「うん」
「まず、それをすぐ履ける状態にしておかなかったことを叱られまして……」
「殴られたの?」
「はい……平手打ちを……ここに……」
 私はそう言って頬に指を当てます。
「だけど、それくらいじゃ歯は折れないでしょう」
「……はい……」
「続けて。細かくね。状況を」
「……先生が仰られたとおり、それまでいろいろ失敗も続いていて、私の仕事も一向に決まる気配がなかったので、妻の苛立ちはかなりのようでした。私にブーツを履かせるよう言ったのです」
「うん、履かせたの?」
 少しは同情を買えるかと思った私は、女性のあっさりした物言いに戸惑いました。
「はい……情けなくてなりませんでした……」
「それはそうだろうけど。とりあえず事実をありのまま聞かせて」
 岩橋副所長が淡々とした口調で言ったので、私はつい心情を吐露してしまったことを恥ずかしく思い、顔を熱くしました。
「艶がまったく出ていないと、厳しく叱られまして……その場で磨くよう言われました」
「ブーツは磨いてなかったの?」
「私としてはシーズンオフに手入れしてしまったつもりだったんですが……」
「でも彼女から見て、仕事が甘い……できてないと判断されたわけね」
「は、い……」
「それで?」
 女性はうつむいた私の頭を起こすように強い声を出し、切れ長の美しい目から強い視線を送ってきます。私たちの夫婦関係に俄然興味が増した様子でした。
「ブーツは面積が広いので時間が掛かりまして……彼女から、煙草を持ってくるよう言われました……だけど、さすがに私としても夫としてのプライドがありますから、すぐには言うことを聞けませんでした」
「彼女が自分で取ってきたの?」
「いえ……じっと睨まれ、その前に平手打ちもされてましたので……」
「結局あなたが取ってきたわけね」
 女性副所長は鼻で笑うようにして言いました。
「はい……それが、すぐに言うことを聞かなかったことが、さらに彼女をイライラさせてしまったようで……」
「まあ、それはね……で?」
「私に靴磨きをさせながら煙草を吸い始めて……それで……わざとなのかわかりませんが、煙が私の方にふわーっと吐きかけられたようになって。私は実は煙草の煙が苦手でして……少しぜんそくの気があるものですから……咳き込んでしまったんです……」
「うん……」
「それが彼女の目にはどうも大げさでわざとらしく映ったらしく……」
「殴られたの?」
「はい……いえ……」
「正直に言って」
「…………け、蹴られました……」
「顔を蹴られたのね。ブーツを履いた脚で。前歯が折れるくらい強く」
「は、い……」
 私はそのときの状況をはっきりと思い起こすと、あまりの惨めさに感極まり、涙があふれ出てきて、女性担当者が見ている前で、嗚咽を漏らしました。

☆ 三

「いつまでも泣いてたって、解決しないよ。どうすればいいか考えましょう。まずあなたがどうしたいかだよ。一番簡単なのは、暴力を告発して、彼女とさよならする……」
 艶っぽいルージュの唇がきっぱりと言います。
「え!」
 予想外の言葉に私は顔を上げ涙にかすんだ目で、女性副所長を見つめました。
「それだけ酷い目にあってるんだから、しょうがないでしょう」
「そ、それは……」
「嫌? どうして?」
「彼女を愛していますし、彼女がいなければ生きていかれません」
 どちらも本心でした。
「別れたくはないのね。わかりました。彼女なしで生きていけないってのは、経済的な依存が高いということ?」
「は、はい……仰るとおりです」
「その辺、もう少し詳しく聞かせてもらえる?」
 女性副所長の目の前で思いっきり泣いてふっきれたのか、もはやなんでも話す気になっていました。
「家計はすべて妻が自分で管理しています。私の自由になるお金はほとんどありません」
「あなたの貯金は? 一年前までは働いてたんでしょ」
「そ、それが……ありません。お恥ずかしい話ですが、給料も低くて、私の分はすべて生活費の一部に充てられていましたので……」
「今は?」
「食費や生活費のためのクレジットカードを預かってますが、自分のためには一切使えません」
「お小遣いとかは?」
「毎日、千円札か五百円玉を一枚、彼女の気分でどちらかを……たいていは朝、出かけるときにもらっています……ただ、靴磨きの出来が悪かったり、彼女の機嫌の悪いときは、それも最近ではもらえないことがあります……」

「だいたい分かったわ」
 岩橋副所長は私の話をひととおり聞くとレコーダーを止めました。
「私はこれからどうすれば……」
 話すばかりで、一向に解決策をもらえない私は少し焦りました。
「まず、あなたの話を聞いて私が感じたことを言いますね」
 女性はすこぶる落ち着いた態度でじっと私を見つめます。まるで高いところから見下ろされているように錯覚しました。
「はい……」
「ひとことで言うと、あなたリスペクトが足りないわ。奥さんに対して」
「り、リスペクト……」
「尊敬しないと。もっと、女性を。食べさせてもらっているのなら、なおさら。それが足りないから、そういうことになるのよ」
「そ、そんな……」
 まさか自分に非があると思っていなかった私はうろたえました。
「もちろん、暴力はいいことじゃないよ。だけど、奥さんにしてみれば、そうでもしないと、あなたがきちんとできないから、家事も仕事も……じゃないの?」
「……は、はい……そ、それは確かに……」
 自信たっぷりの強い口調で言われると、岩橋副所長の言葉が正論のように聞こえてきました。
「それに、あなたは奥さんとの結婚生活をこれからも続けたいんでしょう?」
「それは、もちろん、そうです……」
「だったら、なおさらでしょ。靴磨きにしても、煙草取ってくるにしても、言われてやるんじゃなくて。むしろ、あなたの方から率先してやるようにすれば?」
「た、確かに、妻にもそのように言われます」
「そりゃそうでしょう!」岩橋副所長はことさら声を大にして言いました。「あなた養ってもらってるんだからさ。それなりのことやってあげないと」
「わ、分かりました。そのように気をつけてみます……」
 私はタジタジになり、半ば逃げるようにして、相談室を出ました。去り際に、自宅と携帯の電話番号を聞かれ、一瞬躊躇しましたが、今後助けてもらわねばならないこともあると思い、正直に伝えました。

☆ 四

―――二週間後。
「い、いってらっしゃいませ……」
 鼻の穴から滴る血を啜って私は、玄関から出て行く妻の後ろ姿に正座の姿勢で頭を下げます。
 家の電話が鳴りました。
「はい、小池でございます……」
 先週、電話を取る際に、うっかり、小池です、と言ってしまって、妻に思いっきり蹴られたすねがまだ痛みます。

S女小説 逆DV相談室「鬼妻に怯える気弱夫」

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小説 「男虐連鎖」Sに目覚める女たち

小説 「男虐連鎖」Sに目覚める女たちを電子書籍として出版しました。

内容紹介

バーガーショップでバイトする中年男が、女性店長や女性スタッフたちに虐待・陵辱され続ける物語

ハンバーガーショップでアルバイトをしている植草康夫(40)は、バイトの後輩、女子高生の七瀬彩香(17)にセクハラ・パワハラまがいの指導をつい行ってしまう。事実は店長の伊沢瑶子(32)に発覚し、クビを宣告されるも、どんな命令にも従うという条件でなんとか雇用をつないでもらう。しかし、それが地獄のはじまりだった。瑶子店長による虐待・陵辱は、康夫の直属の上司、桜田由美の前でも繰り広げられ、普段は清楚な印象の由美の奥底に眠っていた嗜虐性に火を着けた。そして、その火は次から次へと、康夫の周囲の若く美しい女性たちに伝播していくのであった。

第一章 瑶子店長の厳しい叱咤と殴打

第二章 由美マネージャーへの土下座

第三章 バイト女子高生・彩香の踏み

第四章 バイト女子高生・理恵の陵辱

本文サンプル

プロローグ

「ごめんなさい……」
 七瀬彩香が焦がしてしまったハンバーグを前に声を絞り出す。
「だから、いつも時間を気にしてっていってるでしょ」
 植草康夫は彩香の度重なる失敗にため息をついた。
「はい……すみません……」
「それ捨てて、もう一度、最初っから……あんまり材料無駄にしないでよ。店長に怒られるのは私なんだからね」
「はい、わかりました……」
 四十歳の植草康夫も、十七歳の七瀬彩香も、ともにハンバーガーショップのバイト店員である。印刷会社をリストラされた康夫がこの店に雇われたのが一年前。女子高生の彩香がバイトとして入ってきたのが、三ヶ月前である。
 今日は店長の指示で、康夫は朝早くから店に出てきて、彩香にハンバーガーの作り方を指導しているのであった。
 康夫は椅子に座って彩香の仕事ぶりを観察する。店長やマネージャーがいるときは、こんな横着はできないが、いま彩香と二人きりの店内で、まるで自分が店主であるかのように康夫は振る舞う。
 彩香はやや茶色がかったショートボブヘアで、紺色のバイザーを被っている。赤いシャツにチェック柄の短いタイを結び、黒のスカートを履いている。調理をするときは、その上からやはり黒のショートエプロンを巻いている。膝下は紺のハイソックス。靴は学校でも履いている黒のローファーだ。
 美形で長身、笑顔も愛らしい彼女はすでに店の看板娘になりつつあった。

「今度はどうでしょう、植草さん」
 待ちくたびれた康夫がホールの客席に腰掛け雑誌を読んでいるところへ、彩香がハンバーガーを載せたトレーを運んでくる。
「どれどれ」
 康夫はトップのバンズを外して中を確認する。上から香草、トマト、チーズ、ハンバーグ、タマネギ、レタスの順にきちんと整えられている。かなめのハンバーグを特に念入りに観察するともとの形に戻して一口ぱくついた。
 彩香は不安げに康夫の顔色をうかがう。
「どうでしょうか……」
「うーん、肉はまだ焼きすぎだけどなんとか許容範囲だ。具材のバランスもまあいいかな……ただし……」康夫はショートボブに包まれた小顔を見上げて言う。「仕上げるのに時間が掛かりすぎだな。こんな冷えたハンバーガー、お客さんに出せないよ」
 康夫はかつて、年下の女性店長に言われた屈辱の台詞をそのまま彩香に返す。
「あああ……」
「ザンネンっ」康夫は嗜虐的な笑みを浮かべる。「さあ、じゃあこれも罰だね。食べて」
「植草さん、私、もう、そんなに食べられません……」
 二回分の失敗作をすでに食べさせられている彩香は、困惑する。
「何言ってるんだよ、七瀬君。じゃあ、この冷え切ってちっとも美味しくないハンバーガーは、どうするんだい? 自分の失敗は自分で責任取らないと。さあ、そこに座って。食べるんだ……」
「は、い……」
 彩香は仕方なく、康夫の向かいに着席する。
「早く」
 康夫に急き立てられ、観念した表情をして両手でハンバーガーをつかむ彩香。
「ちょっと待った」
 康夫はすばやくキッチンに戻って、さきほどの焦げたハンバーグと余りの野菜を皿に取ってくる。
「こいつも挟まないとね」
「そんな……植草さん……」
「当然です。具材を余らして怒られるのは私なんだから、さっきも言ったでしょ」
 康夫は嫌らしい笑みを浮かべながらトップのバンズを外し、具材を追加する。
「特製のダブルバーガーだ。失敗作だけどね。さあ、大口を開けて一気にいって」
「…………」
 彩香は白く長い指でハンバーガーをつかむと大きな口を開け、整った歯列で、上下のバンズを一気に噛んだ。
「そう、一気に、そのままいっちゃえ。飲み込むんだよ」
 康夫は、彩香が口の端から肉汁を垂らしながら苦しそうにハンバーガーを頬張る姿に、官能の色を感じ、思わず立ち上がる。
「ほら、どんどん、噛んで。持っててあげるから」
 彩香の方へ移動し、左手で後頭部を支え、右手で具材がはみ出そうなハンバーガーを押してやる。
「あふ、はふう、はむううう……」
 彩香が目を白黒させたので、いったんハンバーガーを外してやる。
「なにか……飲み物を……ください……」
 潤んだ目でそう訴えかけられると、さらに意地悪をしたくなってくる。
「ふん、駄目だよ。そんな甘えた声を出したって。これは失敗をした罰なんだから。朝飯と勘違いしてるんじゃないだろうな。ちゃんと完食したら、飲ませてあげるよ」
「そんな……」
 しかし、康夫が頑として譲りそうにないことを悟ると諦めて大きな口を開けた。
「そう、素直にならなくっちゃ」
 康夫は彩香の唾液でぐっしょり濡れたハンバーガーを再び彼女の口に押し込む。
「うぐううむうう……」
「あはは、そう、そう、よく噛んで、食べて、食べて……」

「あらあら、ポロポロこぼしちゃって、ったく行儀のなってないお嬢さんだね。お里が知れちゃうよ」
 たっぷりの肉と野菜を挟んだハンバーガーをなんとか完食した彩香をさらに追い込むように言う。
「きれいに食べなきゃ。落ちた野菜、もったいないでしょ……拾って食べて」
 テーブルに直に落ちた具材を顎で指して言う。
「……はい……」
 素直に手でつまんで口へ持って行こうとする彩香を見てなぜか性的な高ぶりを覚える。
「手なんて、使うんじゃねえよ……」
「え?」
 驚いて見上げた彩香を脅すように、「口で直接食べろって!」店内に響き渡る大声を出す。
「あ……え……」
「言ってるだろ。罰だって。言われたとおりにやれ。じゃないと、もう教えないぞっ」
 康夫は気分が高ぶるままに、怒鳴り散らす。
 少しの沈黙のあと、彩香がテーブルに顔を着け、落ちた野菜を口で拾い食べ始めた。背中がかすかに震えている。
 彩香がテーブルに顔を伏せている間に、康夫はトレーに残った野菜をつかんで床にそっと落とす。
「おい、テーブルの上だけじゃないぞ」
 彩香の襟首をつかんで引き上げる。
「いやん……」
「見て見ろ、床をっ。ポロポロこぼして。出鱈目だな、キミはっ。それも拾って食べろ」
「あああ……そんな……」
 康夫は指導者の威厳を示すように腕を組み、再びホールに響き渡る大声で「やれっ、いますぐにっ」と言い放った。
「あんまり、聞き分けがないようだったら、それも口でやらすぞ」
 テーブルの下に潜って、野菜を拾い、躊躇しつつも口に入れる彩香を見ながら康夫はほくそ笑む。そして、先ほど彩香に入れさせた飲みかけのホットコーヒーを口いっぱいに含むと、再びカップに吐き戻した。
「ようし、ようやく完食したな」
 床掃除を終え、再び椅子に座った彩香の肩に手を掛ける。
「約束通り、飲ませてあげるよ、ドリンクを」
 自分の飲みかけのコーヒーカップをバイト女子高生の前に差し出す。
「でも、これは……」
「飲み物だったら何でもいいんだろ? そう言ったじゃないか」
「これは……いいです……あとでお水飲みますから……」
「駄目だ。ここまでがあなたの義務だよ。それともなにかい、僕の飲みかけは嫌だって言うの? 大丈夫だよ、そっち側は口着けてないからさ」
「でも……」
「早くしないと、時間なくなっちゃうよ」
 彩香は意を決したようにかすかに頷くと両手でカップを取り、冷めたコーヒーに口を付ける。
「全部飲み干せよ。飲みたいって言ったのは、彩香ちゃんなんだから」
 下の名前をなれなれしく呼ばれ、不快な視線を康夫に投げながらも、彩香は一気にコーヒーを飲み干した。
「ふふっ、飲んじゃった……」
 康夫は鼻で嗤って、従順な女子高生を見下ろす。
「な、なんですか……飲めっていうから……」
 含みのある康夫の笑みに、彩香は怪訝な表情を見せる。
「いや、いいよ。わかった。罰は終わりだ。じゃあ、もう一度キッチンに戻って、ハンバーガーを作ろう。今度はどこがよくないのかそばでじっくり見ててあげるから」

 一緒にキッチンに戻り、彩香がバンズと具材を準備している間に、オーブンの温度を元の設定に戻しておく。
―――こんなに高くしておいたら、そりゃよっぽど注意しないと焦げちゃうよ……ふふふ……

「はい、ハンバーグ焼けたよっ」
 康夫のかけ声を合図に、彩香がオーブンから取り出し、準備していたバンズと野菜の上にセットする。
「そうそう、良い感じだね」
 康夫は彩香の後ろにピタリと体を寄せる。小男の康夫は少し背伸びして、彩香のうなじに息を吹きかける。
「やっ、植草さん……」
「ほら、野菜はもっと均一に広げないと……」
 彩香の腕をつかみ、つま先立ちしながら股間を尻の間にこすりつける。
「ちょっと、もう止めてください……ホントに……」
 そのとき、表のドアが開く音が聞こえた。植草はさっと体を外して、ホールに飛び出し、気をつけの姿勢を取ると、入ってきた麗人に大きな声で挨拶する。
「店長、おはようございますっ」

第一章 瑶子店長の厳しい叱咤と殴打

☆ 一

数日後―――十月二十九日

「じゃあ、お先、失礼します」
 キッチンやホールの片付けと反省ミーティングを終えて、マネージャーの桜田由美とバイト女子高生の七瀬彩香が店を出て行く。壁の時計は二十二時に近づこうとしている。残ったのは、店長の伊沢瑶子とバイト中年、植草康夫の二人だけだ。客席ホールの一角、四人掛けのソファテーブルに向かい合って座っている。
 ナイトクラブのママでもある瑶子はゼブラ柄のぴったりとしたワンピースに黒いジャケットを羽織り、黒いピンヒールを履いている。彼女の出勤は夕方からで、店の切り盛りはほぼマネージャーの桜田由美に任せている。
「植草さん、あなた、明日から来なくていいよ」
 三十二歳の美人店長は康夫の目をしっかりと見据えて言った。
「えっ、ど、どういうことでしょうか……」
「彩香ちゃんにセクハラやってるよね。アタシらが見てないところで」
「あ、いえ……」
 幾ばくかのお金を貸していることや彩香の性格からいって、密告される確率は低いと思っていたのだが、甘かったようだ。
―――ちょっと、やり過ぎてしまったか……
 彩香が嫌がる顔をすればするほど、興奮してつい度を超してしまったことを後悔する。
「そういう人間はうちには要らないから」
「す、すみません……店長。もう二度としませんので……どうか、今回は、お見逃しいただけないでしょうか……」
 そう言いながらも康夫としては、店長を含めて四人―――店長はほぼ直接の業務にはかかわらないので実質は三人しかいないうちの一人が抜けて、果たして店が回っていくのだろうかとどこか余裕めいた気持ちもあった。それが顔に出ていたのだろう。瑶子がすかさず口を開いた。
「アンタがいなくなってもさ、妹がすぐに来てくれるからね。まったく問題ないよ。またいつでも復帰したいって言ってたし。専業主婦で暇なんだから」
 そうだった。康夫がくる前までは、瑶子の妹がキッチンの多くを切り盛りしていたのだ。彼女が復活するのであれば、戦力としては康夫以上だ。
「ほ、本当に、すみませんでした……どうか、店長様、ご容赦ください……」
 康夫はテーブルに頭を着けて、愚行を詫びた。
「いいじゃない。ここ辞めて、好きにセクハラさせてくれるようなお店に行けば」
 康夫の焦燥ぶりを見て瑶子の胸に悪戯心が湧いてくる。
「そんな……」
 肉体労働も頭脳労働もさして得意でない康夫にとって、このハンバーガーショップはようやく手に入れた職場だった。この店にたどり着くまで何度面接に足を運んだことだろう。送った履歴書は数え切れない。そもそも面接までたどり着けないのだ。なにをやっても長続きせず、大した職歴のない四十男に世間の風は冷たかった。
「っていうか、反省してる? ホントに。ぜんぜん、そんなふうに見えないんですけど」
「店長様……」
 康夫はソファタイプの椅子から立ち上がる。フロアに出て、瑶子の足元に向けて跪く。
「も、申し訳ありませんでした……本当に、反省しています……この通りです」
 人生で初めてする土下座が、年下の女性相手だとはよもや思いも寄らなかった。無言の反応に康夫は頭を上げる。
「具体的にどういうことやったわけ? 彩香ちゃんに」
「……あ、はあ……」
「じっくり聞こうか。灰皿持ってきて」

「なるほどね……」
 瑶子は煙を大きく吐きながら康夫を見下ろす。中年バイトは、固い床の上の正座で痺れきり、感覚がなくなってきている脚をこっそり動かしてさする。
「すみません……」
 早く解放して欲しい一心ですべてを正直に話した康夫は、縋るような視線を送る。
「やっぱり、クビでしょう。それは、普通……」
「そこをどうか……心を入れ替えて働きますので……皆さんにお仕えする気持ちで……」
「皆さんって?」
「店長様はもちろん、マネージャーや彩香さんにも……」
「当然だよね」
「あ、はいっ……」雇いなおしてもらえる希望が見えて、康夫は嬉々とした表情を見せる。「あ、ありがとうございます……」
「早いよ、それは。とりあえず試用期間からやり直しだね。無期限で」
「え……あ……はい……」
「嫌? なら、いますぐ出てっていいよ」
「い、いえ……すみません……ありがとうございます……」
「時給も最低賃金に戻すからね、さっそく明日から」
「あ、はい……」
 高校生の彩香よりも下の待遇になるのかと思うとやりきれなかったが、この職場でいままで通り働かせてもらえるならば、それでもありがたい。
「それと、アンタがさっき自分で言ったことだけど、アタシらに仕える気持ちで働くんだよね?」
「は、い……」
「覚悟してね。植草……アンタ」
「…………」
 名前を呼び捨てされたことにショックを隠せない。
「もう、さんちゃんも着ける気にならないよ。アンタには。悪いけど…………嫌?」
「い、いえ……別に嫌ではありません……」
 康夫は無理矢理笑顔をつくり、特に気にしないそぶりを見せる。
「そう言う立場でやり直したいって言ったのそっちでしょ。違ったの?」
「は、はいっ、そうです。すみません……ぜんぜん、呼び捨てていただいてかまいません……」
 再び、紅い唇から「クビ」という言葉が出ないよう必死に願う。
「いつまでも、勘違いしてんじゃないわよ、ねえ、植草……」
 しかし、呼び捨てられるたびに心に穿たれた穴が深さを増していくようだった。
「…………」
「返事はっ!」
 うなだれる康夫に瑶子は容赦のない叱咤を浴びせる。
「は、はいっ」
 康夫は驚き、声を裏返らせる。
「大体さあ、その歳で雇ってもらってるって自覚がないんじゃないの? 普通だったら使わないからアンタみたいなの」
「すみません……」
「謝るばっかじゃなくてさ、そっちからなんかしようって気にはならないの? アンタ、アタシに仕えるっていま言ったじゃない」
 形の良い耳を飾るスネークのピアスが照明の反射に躍る。
「は、はい……な、なんでもおっしゃってください……従いますから……」
 康夫はともかくも硬い床の正座から解放されたい一心でそう言った。
「なに、その投げやりな感じ……」瑶子は、軽く舌打ちして波打ったライトブラウンの髪に手をやり、さらに視線を鋭くする。「じゃあさ、靴磨いて」
 瑶子はくびれの利いた腰をソファ席の端まで移動させ、左脚のパンプスを康夫の膝につかんばかりに差し出した。
「あ、いえ、それは……」
 まさかの瑶子の命令に驚き、冗談であることを確かめるために顔を見上げる。彼女が少しでも笑みを見せればそれに乗じて、笑い声を上げようと思った康夫だったが、そんな素振りはかけらも見られず、「なんでもやるんでしょ。やってよ、磨いて」
「ほ、本当にですか……」
「真面目に言ってんのよ、これからクラブに出るんだから、身だしなみきちんとするの当然でしょ」
「あ、はい……」
 そう言われれば、従わざるをえない気分になってくる。
「で、でも道具が……」
「ハンカチくらい持ってるでしょ。クリームは塗ってあるから、から拭きするだけでも艶は出るわ」
「……は、い……」
 康夫はポケットを探り、ハンカチを取り出す。いったん広げて、裏返しにたたみ直し、まったく使用していない面を使うことを女性店長に示した。
「ようし、じゃあ、あっち行こ。じっくりやってもらうわ」
 瑶子は店の入り口近くにある横長ソファに移動した。主にテイクアウト客が使う、前にテーブルのないスペースだ。先に出た二人がシャッターを下ろしてくれているので外からの目は心配なかった。

「あ、あの……店長、様……よろしくお願いします……」
 康夫はやけにヒールが高くつま先が鋭利に尖った瑶子のパンプスを磨きながら言う。
「ふっ、なにが?」
 瑶子は鼻で嗤い、手にしたスマートフォン越しにこちらを見下ろす。
 康夫としては、ここまでのことをやらされたからには、店にずっとおいてもらえる保障がもらいたかった。それほどの酷い仕打ちだと思った。
「あの、これまで通り、ここで働かせてもらえれば……いただければと……」
「だから、それはアンタ次第だって、ウ・エ・ク・サ」

☆ 二

一週間後―――十一月五日

「じゃあ、お先、失礼しまーす」
 いつものように二十二時近くにミーティングが終わり、今日はバイト女子高生の七瀬彩香だけが店を出る。
「うん、お疲れ。明日もよろしくね」
「お疲れさまっ」
 伊沢瑶子店長が労いの声を掛け、マネージャーの桜田由美も手を振って見送る。由美は店長お気に入りの右腕で、年齢は二十八歳。清楚な印象の和風美人だ。
「お疲れでした……」
 バイト中年の植草康夫も合わせるように声を掛けるが、その声は細く、なにかに怯えているように聞こえた。
「さてと……もう少し話そうか」
 瑶子店長が康夫の向かいのソファに戻り、由美も隣に座る。
「何度も言うけどさ、穴が空いたレタスをお客に出すなんて致命的だからね」
 瑶子が繰り返す。今日もクラブへの出勤前でワインレッドのワンピースに身を包んでいる。

 

小説 「男虐連鎖」Sに目覚める女たち

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S女小説 アマゾネスウェーブ3「女軍支配の奴隷艦」

S女小説 アマゾネスウェーブ3「女軍支配の奴隷艦」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

海自練習艦《ひめぎく》内外で、女性自衛官による指導という名の暴力に怯え震え続ける男子隊員たち

アマゾネスウェーブ2「矯正指導を厳となせ」続編(最終編)

女性海上自衛官=ウェーブが支配する練習艦《ひめぎく》。日が経つほどに、彼女たちの男曹士に対する指導は厳しくなっていくばかりだった。特に自分たちよりも明らかに能力の低い中年曹に対する扱いは酷く、糟屋肇やその仲間は、肉体的にも精神的にも壊れる寸前まで追い込まれていく。男たちは部下というよりももはや女性隊員たちの奴隷としてひたすら奉仕、忍従する日々を強いられた。そんな地獄のような《ひめぎく》の中にあって、肇らにとって、唯一の頼れる女性上司、癒やし的存在が二十四歳の美人分隊士、二階堂留美三尉だったのであるが……。

第九章 便器を舐めろと命じられ

第十章 格闘訓練という名の虐待

第十一章 血に飢えた女上官たち

第十二章 極東の港に口開く地獄

本文サンプル

第九章 便器を舐めろと命じられ

☆ 四十一

「死にたくなったら……」先任伍長の杉浦香織が、足元で彼女のブーツのつま先を舐めている本木に言う。「いつでもアタシのところに来なよ。ひと思いにやったげるから」
 本木は返事をする代わりに、ペチャペチャと舌音をいっそう強く立てる。
「そう、死に物狂いでやんな」ハスキーな香織の声が艦のエンジン音に交じって船艙の狭い機械室倉庫に響く。「死ぬ気でやればなんだってできるでしょ」
「は、はいっ、伍長殿……」
 肇も本木に負けじと、香織の左足ブーツのつま先から側面に唾液をまぶしていく。

 香織からの無線電話で、分隊長の井村文乃一尉とその補佐役である二階堂留美分隊士が上甲板から船艙に降りてきた。直前に、靴舐めを解放された肇と本木が固い倉庫の床に正座したまま首をうなだれている。
「あれで……」香織が天井の管から垂れ下がっているロープを指して言う。「首を括ろうとしたようです」
 二人がどのような反応を示すのか知りたくて肇は少し顔を上げ、上目遣いに伺う。二階堂留美は驚きの表情を見せたが、井村文乃分隊長は、一瞬目を見開いただけで、続きの説明を待つように長い睫の瞳を香織に向けた。二人とも言葉がない。
「指導がよほど堪えたのかもしれませんが……ただ……」
「ただ?」
 文乃一尉がそこでようやく声を発する。
「本当に死ぬ気はなかったようです……」香織が苦々しそうに本木を見下ろす。「どうも、はったりのようで……こういうのが一番たちが悪い」
「そうなのね……」
 井村文乃一尉はつぶやくように言うと、反論は許さぬと言った視線を本木に送る。
「念のために医官に相談しては……」
 二階堂留美がたまりかねたように口を開く。
「私としては……」香織は文乃と留美を交互に見る。「むしろ、今回の彼の行為は、艦の《特別指導体制》への妨害、もっといえば侮辱として受け止めているのですが」
「そ、そんなことは……」
 本木が焦って、女性たちを見上げ首を振る。助けを求めるように肇にも視線を寄こす。
「は、い……そ、そういうことは、ないと……思いますが……」
 肇は恐る恐る本木を擁護する。一歩間違えると自分に火の粉がかかる状況に声が震える。
「確かに……」井村文乃が言う。「杉浦伍長のおっしゃることはよく分かります」
「分隊長……」
 留美が、男たちのうろたえる様を見て、文乃に声を掛ける。
「二階堂さん」文乃が留美をたしなめる。「ここは大切なところだよ。ここで甘い顔見せると、艦長たちが今まで苦労してやられてきたことが台無しになるかもしれないわ」
「ええ」香織がすかさず同調する。「甘やかせば、いくらでもつけあがりますから、彼らは」
 上司や先輩格の二人にそこまで言い込められると、留美としてももはや言葉がなかった。
「それで……」香織が言う。「本木はしばらくまた私のところで、預からせてもらえませんか」
「分かりました。お願いします」二十九歳の分隊長が、三十八歳の先任伍長を頼もしそうな目で見る。「上には私の方からいいように説明しておきます」
「助かります」
 香織は文乃一尉に礼を述べると、肇にロープや一斗缶を片付けるよう命じ、本木を連れて倉庫を出て行った。

「糟屋」
「は、はい……」
 井村文乃一尉に呼ばれ、肇はすぐに気をつけの姿勢を取る。もはやこの艦の女性に糟屋三曹などと職位込みで呼ばれることはなくなった。
「今回の本木のことは他言しないように」
「は、い……承知いたしました……」
「真似する馬鹿が出てこないとも限らないからね」
「はいっ……」
 肇は紺色の制服に身を包んだ麗人に忠誠を誓うように敬礼する。

 艦内放送により、本木を捜索していた二十三班の男子隊員は全員、午前中の持ち場に向かうよう指示を受ける。今日も厳しい課業がさっそく開始されるのだ。
 船艙よりひとつ上の甲板にあるトレーニングルームに向かう途中で、肇は寺井とすれ違う。
「よう、結局、どこにいたんだよ、本木は」と寺井が声を掛けてくる。
「あ、ああ……それが、どうも、杉浦伍長に直接指導受けて、船艙の談話室を掃除していたみたいで……」
 肇は女性上官たちに指示を受けた通りの説明をする。
「なんだよ……じゃあ、お嬢さんの勘違いじゃねえかまた……」
 寺井は二階堂留美三尉のことを懲りずにそのように言った。
「やめといた方がいいって、寺井さん、本当にそういう言い方は……」
 いつになく真剣な肇の口ぶりに一段と頭が薄くなった中年曹の笑みが陰る。
「どうした……しっかしよ、本木を探し回ったおかげで朝飯抜きだよ……」
「しょうがないですね……急がなくちゃ、もう……」
「ああ、だな」
 それぞれ陰鬱な気分で持ち場に向かう。

☆ 四十二

 正式には保養室と呼ばれるトレーニングルームは、十畳ほどの広さがあり、ベンチプレスやトレッドミル、懸垂棒、サンドバッグなど、筋肉を増強する設備が所狭しと並べられ、奥の方には、柔軟体操のできるマットレスも二枚敷かれていた。ここの掃除が肇の担当である。
 奥で女性がベンチプレスを挙げている。それが天海渚艦長であることに気づき、肇は焦る。
「あ、し、失礼いたしましたっ……」
 毎日、筋トレを欠かさないというのは本当のようだった。
「これから清掃を命じられているのですが、いかがいたしましょうか……」
 肇は長袖Tシャツと短パン姿で汗を流す渚艦長に恐る恐る伺いを立てる。ラフな装いの中にあっても格調や威厳という彼女の魅力が損なわれることは一切なかった。
「もうすぐ終わるから、始めてていいわよ」
 肇には到底挙げられそうにないような重さのバーベルを上げながら渚が言う。額からは玉の汗がこぼれている。
「は、はい……すみません、じゃあ、向こうの方からやらせていただきますので……」
 用具ロッカーからモップを出し、床を磨き始める。
 ほどなくして扉が開き、数人の女性たちが入室してくる。
「あ、お疲れさまですっ」
 モップを片手に敬礼をする肇の視線の先には、岩村亜美二曹がいる。班員の女性海士三名も一緒だ。
 四人の曹士は肇を無視して、奥でベンチプレスに励む艦長へ挨拶に行く。
「天海艦長、相変わらず凄いですね」亜美が感心して言う。「何キロを挙げているのですか」
「七十よ」
 渚艦長は挙げたバーベルをホルダーに戻すと上半身を抜いて、ベンチに腰掛けた。
「わたくしは六十までですね」
 亜美がそう言うと、伊丹冴子士長も「私もです」、川村仁美二士も「私も六十ですね」
「毎日続ければもっといけるわよ、あなたたち若いんだから……竹内一士だったっけ? あなたは相当いくでしょう」
「そ、そうですね……八十くらいまでなら」
 艦長に直接話しかけられ、やや緊張気味に応える。日本人男性の平均値が、四十五から五十キロだから、彼女たちの筋力レベルがいかに凄まじいかがわかる。
「凄いね、やって見せて」
 渚艦長がベンチを立ち上がり、竹内玲奈に譲る。
「糟屋っ」と岩村亜美二曹が肇を呼びつける。
「ウェイト、十キロ足して。できるよね?」
「は、はい……」
「計算できるのか?」
「あ、はいっ……」
 馬鹿にしきった口調の亜美に愛想笑いを送ると棚から五キロのウェイトを取ってバーベルの片側に装着する。
「一つずつとってくるんだ」
 仁美があきれたように言うと、冴子も、「それくらい、まとめて持って来いよ。どんだけ非力なの?」
「す、すみません……」
 八十キロに増量されたバーベルを玲奈が持ち上げる。Tシャツの袖から白い筋肉が盛り上がっているのがわかる。
 女性たちから歓声が上がり、渚艦長も「さすがだね」と笑い、首にかけたタオルで汗を拭うと、「じゃあ、頑張って」と言い残して出口へ向かった。
「お疲れさまでしたっ」
 艦長の背中に女性隊員たちが次々に挨拶を送る。肇もそれに交じって、頭を下げながら声を出す。
「お、お疲れさまでございました……」
 七十キロに落としたバーベルに岩村亜美二曹が挑戦し、「くううっ」と声を挙げながら何とかクリアした。
「班長、さすがですね」
 感嘆の声を挙げた伊丹冴子、川村仁美の二人は、六十キロにトライし、揃ってクリアした。
「ところでカス、お前は何キロ上がるの?」
 腕組みをした岩村亜美二曹が、モップ掛けに戻った肇を見据えて言う。
「いえ、そんな……私は、ぜんぜんです……」
「ぜんぜんってどのくらいだよ」
「あ、あまりやったことないので……」
 《ひめぎく》に載せられるような中年曹が自分からトレーニングルームに向かうようなことはまずなかった。
「ようし、じゃあ、測定だ」
「で、でも、わたくしは掃除が……」
「ここを監督してるアタシがやれっていってんだよ。いいからやれよ、命令だ」
 岩村亜美二曹が声を荒げる。
「は、はい……」
 川村仁美にモップを取り上げられ、六十キロのバーベルの下に潜るよう命じられる。
「こ、こんなのとても……」
「男でしょ。しかもいちおうは自衛隊所属の」八十キロを挙げた竹内玲奈一士が呆れたように言う。「六十くらいあげようよ」
「ほら握って」
「は、はい……」
 鉄棒を握って力を込めるも、これを彼女たちがやるように腕を伸ばしきって持ち上げることなど無理だ。しかし命令ならばとりあえずやるしかない。渾身の力を込める。
「ふくううううっ……」
 バーベルがわずかに上がったが、すぐ力尽きて元に戻す。
「なんだよ、それえ」
「ふざけてんの? お前」
 女子たちが騒ぐ。
「す、すみません……」
 ウェイトが五十キロに落とされる。
「さすがにこれなら挙がるでしょ」
「は、はい……」
 しかし胸の上に腕を伸ばしきって静止させるには至らない。
「も、もう駄目です……」
 肇はこれほどの動作で乳酸を出しきってしまう自分の筋力を情けなく思う。
「嘘でしょ」
「ちょっとお、引いちゃうレベルだね……」
「マジ、キモい」
「どんだけ非力なんだよ」
「よ、四十キロなら、たぶん大丈夫だと思います……」
「当たり前だろ」
「そんなの部活やってる女子中学生でも挙げちゃうよ」
 あまりの腑抜けぶりに白けムードが漂う。
「ちょっと待って。カス、お前、四十キロいけるって言ってるけどさ、本当だろうね」
 亜美が仁美に指示して、バーベルのウェイトを四十キロに落とした。
「挙げてみろ」
「は、はい……」
 バーを握ってゆっくりと挙げていくも、続けざまのリフティングで力が入らない。
「え、マジですか?」
「腕、もうガタガタ震えてるし」
 渾身の力を込めて、腕を伸ばしきったつもりだが、すぐに力尽きて、バーベルを戻す。
「なんだよそれ、最低三秒は止めなきゃ。はい、もう一回」
―――あああああ……
「絶望的な顔すんじゃないよ、これくらいで。何やってんの、お前」
「やれよ、早くっ」
 岩村亜美が短パンから伸びた長い脚を上げて、肇の腹を靴で踏み込む。
「あぐううっ……は、はいっ……や、やりますぅっ」
 渾身の力を込めるもバーベルが二度と上がることはなかった。
「糟屋、お前、そんな非力で、いざいくさとなったらどうすんの?」亜美がため息混じりに言う。「ウチらの背中に隠れて、そうやって泣くのか?」
「目に涙一杯貯めちゃって」
「同情引こうっていう気がヤらしいわ」
「班長、気合い入れ直してあげましょうよ」
 女性海士たちが、岩村亜美班長をけしかける。
「ようし、立て、お前」
 ベンチプレスを降り、恐る恐る立った肇の首に亜美が腕を回して、ヘッドロックで固め、マットレスの方へ連れていく。
「うくあああああっ……許して、ください……」
 豊満な乳が顔を覆い、母のような柔らかさや暖かさを感じる一方で、力強い腕が容赦なくグイグイと首を締め付ける。
―――はあうううう……
 Tシャツに短パン姿の亜美は壁を背にして尻を床に着け、大きく広げた股の間に肇を仰向けに寝かせて、あらためて首を締め上げる。
「あうう……は、班長、殿……ど、どうか……」
 プロレスファンの竹内玲奈一士が寄ってきて、チョークスリーパーの形を亜美に教える。首の下にL字に通した右腕の手首を縦に曲げた左腕で固定し、力を加える。
「締め落としちゃおうか」
―――くふううううっ……
「班長、こういうのもありますよ」玲奈がそう言って肇の両脚をとると4の字に交差させて短パン姿の長い脚を絡める。「4の字固めだあっ」
―――うむおおおおおっ……
 すねが折れんばかりの痛みに肇はのたうち回ろうとするも、首を亜美にしっかり固定されており、悲鳴を上げることもままならない。
「竹内一士、脚へし折っちゃっても平気だよ。こんなやつ、使い物にならないんだから」
 亜美はそう言って、少しだけ首を緩めてやる。
「そうですか……」
 玲奈が笑いながら脚に力を入れる。
―――ぎゃああああああっ……
「うるさいよ、お前はっ」
 伊丹冴子士長の靴が、肇の腹を踏む。
―――うくうっ……
「ちょっと力入れただけで、痛いんですね。脚4の字って」
 川村仁美二士が感心するように言う。
「やってみる?」
 玲奈がようやく脚を外し、肇はホッとするも、すぐにスレンダーな仁美の脚が絡みついてくる。
「こうやって、そこに脚かけて、つま先をコイツの太股の裏に入れて」
「こうですか……」
―――くうううううっ……
「そう、それで、少し力入れてみて」
―――うがあああああああっ……
「うるさいよ、お前はっ」
 肇の大きな叫びにムカついた亜美が腕に力を込めて締め上げていく。
―――うくうううああうううむうう……
 肇の意識が静かに遠のいていく。

「ほらっ、起きなっ」
 頬の痛みに肇が目を開けると虹のイラストが入ったTシャツを着た川村仁美二士が馬乗りになって往復ビンタを放っている。
「はううっ……ああああ……」
「やっとお目覚め? 大いびきかいちゃって」
「きれいに落ちちゃったね」
 肇は目をぱちくりとさせる。股間が少し湿っているのを覚える。
「あああああ……す、すみません……」
「掃除だろ、お前の仕事は」仁美が立ち上がり、肇の脇腹を軽く蹴る。「早く続けなよ」
「は、はいっ」
 頭をクラクラさせながら立ち上がり、壁に立てかけておいたモップを手に取って、床掃除を再開する。肇が気絶している間に、女性たちは皆、筋トレ器具やサンドバッグなどを使って一汗かいたようで、部屋の匂いが一段と濃くなっている。
「きょ、今日もご指導ありがとうございました……」
 肇は入り口に立ち、部屋から出て行く女性上官たち一人ひとりに頭を下げる。
「竹内一士、プロレス技いろいろ教えて下さいよ」と仁美。
「いいよ、実験台はたくさんいるからね」
「壊れたら上に頼んでまた補充すればいいだけの話だし」
 彼女たちのそんなやりとりを見送りながら、肇は脚の痛みとめまいを同時に覚える。
 

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女性が支配する海自艦内で、ますます激しい矯正指導を受ける男子隊員の物語

アマゾネスウェーブ「血潮の女権革命」続編

海上自衛隊の特別練習艦《ひめぎく》に乗艦する糟屋肇三曹は、女性艦長が発した「特別指導体制」の号令の元、女性幹部や下士官から暴力を含んだ徹底指導を受ける。さらには、当初は遠慮がちだった、二十歳前後の女性海士たちも、幹部たちの全面支援により、男子隊員を積極的に指導し始めたのだった。大海に浮かぶ密閉空間の中で、遙か年下の女性上官にひたすら殴られ、蹴られ続ける中年曹……。ただ、女から男への行き過ぎた指導に疑問を持つ、二階堂留美三尉だけが、肇の心の支えであった。

第五章 女性班長様のブーツ磨き

第六章 美人曹士たちの的になる

第七章 犬なら匂いで嗅ぎ分けろ

第八章 生きたいなら服従すべし

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第五章 女性班長様のブーツ磨き

☆ 二十一

「今日は金曜日か……」
 艦内の食堂から漂ってくるカレーの匂いに気づいて糟屋肇はつぶやく。金曜日の昼食にカレーライスが饗されるのは、海軍時代からの伝統だ。曜日の感覚を失わないためらしいが、確かに不規則な当直生活を繰り返していると、体内時計がおかしくなってくる。
 通常ならば、職歴とともに職位も上がり、きつい当直からも放免されるものだが、肇ら《ひめぎく》の男子海曹の場合は違う。就任したての海士、もしくはそれ以下の待遇で、若い女性隊員たちに厳しくこき使われている。
 肇はバケツを片手に管だらけの狭い廊下を歩く。向こうから若い女性が歩いてくる。女性隊員は職位にかかわらず、男子からはすべて上官扱い。それがこの艦のルールだ。
「お疲れさまです」
 肇は壁に背中をピッタリとくっつけて敬礼し、二十代半ばほどの女性海曹に道を譲る。当初は答礼があったのだが、男子には応じなくてもよいという通達が出されてからは、答礼する女性はほとんどいなくなった。ただでさえ忙しく、それぞれにストレスを抱えている艦内だ。少しでも省力したいのが人情だろう。いまの海曹も、チラと肇を見ただけで、早足に過ぎ去っていった。
 続いて、明らかに新任海士と思われる年頃の長身ウェーブ(WAVE:女性海上自衛官の略称)が急ぎ足でやってくる。よく見ると、新しく肇たちの班に加わった三人の女性海士のうちのひとり、竹内玲奈れいな一士だった。他の女性曹士同様、彼女も紺色迷彩の戦闘服に身を包んでいる。
 基本的にこの艦に乗っている女性は身長一六五センチ以上で、肇ら一六〇センチ以下の男子隊員からみれば、全員が長身なのだが、あえて長身というときは、一七〇センチ以上だ。一七五センチオーバーも珍しくなく、一八〇センチを越える女性海士もいる。その竹内玲奈一士も一七五センチの背丈があった。
「お疲れさまです」
 肇は先ほどと同じように、歩みを止めて体を九〇度回転させ、壁に背中をつける。しかし、握ったバケツを引っ込めるのがわずかに遅れて、玲奈一士の脚にうっかり当たってしまう。
―――ガツッ……
「あっ」
「いったあ!」
 玲奈はやや大げさと思えるほどの大声を挙げて、膝をさする。
「す、すみませんっ……」
「なにやってんのよっ」
 玲奈は両手で肇の頭を挟むようにして壁をドンと突き、上から睨みつける。
「も、申し訳ないです……」
「殴っていいって言われてんだからね、岩村班長から」
「あ、いえ……はい……」
「次は、絶対、許さないかんね……」
 急いでいたのか、今回はまだ躊躇があったのか、竹内玲奈一士は、大きな舌打ちをすると去って行った。同班になって何度か、今日のように怒鳴られ脅されはしたが、これまでのところ、まだ彼女には殴られたことがなかった。
 肇は胸をなで下ろす。
―――しかし、次は絶対やられるな。手を挙げてくるに決まってる……ああいう風にして、ここの女たちは少しずつ距離をつめてくるんだ……
 実際に男子中年曹への教育的体罰は、職位にかかわらずすべての女性隊員に対して、上層部より許可というよりもむしろ奨励されていた。出世にも影響するという噂が立ち、多くの若い女性海士たちが、男たちに体罰を与える空気を探り、タイミングを計っているようだった。
 肇は、気短な女性隊員とすれ違わないように祈りながら、カレーの匂いが充満する食堂を抜けて女性下士官専用の科員室へたどり着く。
 部屋をノックすると、出てきた女性海曹に、「失礼します、二十三班員の糟屋です。岩村班長殿に呼ばれて参りました」
「どうぞ」
「はいっ、失礼します」
 中へ入ると、化粧品と煙草の混じったような匂いがする。科員室は基本的に禁煙のはずなので、女性たちの吐息や体から発散される匂いだろう。とにかくこの艦の女性はヘビースモーカーが多い。
 肇はベッドに腰掛けている岩村亜美三曹を見つけると近づいて敬礼する。敬礼しながら当直あけの頭がクラクラとしてくる。本来ならすでにこの時間はベッドで休めるところだが、これから目の前の上官の当番兵として奉仕しなければならないのだ。彼女が部下であった過去がすでに頭から消え去りつつあった。
 岩村亜美もたった今、当直から戻ったばかりのようでまだ上下迷彩の戦闘服を身につけていて、編み上げのブーツも履いたままだった。
「上官殿、お疲れさまでございます」
「うん、脱がせて」と長い脚を床に放り出す。
「あ、はい……」
 部屋に同僚女性が二人ほどいたのが気になったが、動作が遅れると亜美の平手打ちがすかさず飛んでくると思ったので、すぐにしゃがみ込んで正座する。
「ねえ、なにか気づかない?」
 編み上げの紐を緩めようとする肇に大股を開いた亜美が言う。見上げるとほどいた髪が肩に掛かっている。
「……あ、はい……とても、魅力的でお美しく……」
「ふっ……」二十六歳の女性二曹が、白い歯を見せる。「なに寝とぼけたこと言ってんのよ。靴が汚れてるでしょ、見えないの」
 肇は顔を真っ赤にする。後ろから同僚女性たちのクスクス笑いが聞こえる。
「お前に、そんなこと言われても仕方ないんだよ」
 長い腕が伸びてきて胸ぐらをつかみ、強烈なビンタを一発張られる。
「はうううっ……す、すみませんっ……」
「汚れた靴を磨けって言ってんだよ、脱がせる前にさ。当たり前だろ、そんなこと」
 そう言って女班長は、つま先に鉄板の入った編み上げ靴の片脚で肇の太股を踏みつける。
「あううっ……」
 痛みを堪えながら、バケツに放り込んでおいた靴磨き道具の袋を取り出す。持ってきておいてよかった。
「し、失礼します……」
 膝を踏みつけた靴にブラシを掛ける。艦内には泥などないので、さほど汚れているとは思えない。水しぶきの跡とつま先や縁の方に埃がうっすらとある程度だ。しかし、そんな不満をもちろん口にするわけにはいかない。上官が汚れていると言ったら、汚れているのだし、彼女が満足できる仕上がりにならなければ……そう……殴られるだけだ。
「真ん中の方がやりやすい?」
 亜美はそう言うと、今度は股間を踏みつけてきた。彼女の長い脚は、楽々と肇の急所に到達し、つま先にぐっと力を込める。
「はあうううっ……」
「やらしい声だしてないでさ、ちゃんとやってよ」
「じょ、上官殿……」
 刺激と痛みにもだえながらもなんとか布を靴に当てて、汚れを拭き取っていく。
「クリームもしっかり塗って、艶出すんだよ」
 そう言って、今度は踵で肇の肉竿をグリグリと踏み込む。
「ぐわうううああっ……か、かしこまりましたああっ……」
 女性曹二人が肇の顔が見える位置に回り込んできて、同僚が遙か年上の男部下にセクハラをくわえる様子を見て面白がっている。
「お前たちへのセクハラ、パワハラは上から奨励されてんだからね」
 肇に向けた亜美の台詞に、同僚が、「ホント?」と聞く。
「うん、音を上げて自衛官を辞めたくなるくらいやっていいって。だって、こんな使えない奴らを食べさせるなんて、税金の無駄遣いでしかないでしょ」
「確かに……」
 亜美の同僚は二人とも腕を組んで頷いている。

「いかがでございましょうか。上官殿……」
 肇は、亜美が広げているファッション雑誌を裏から見上げて恐る恐る声を掛ける。亜美は雑誌を脇へ置くと、「どれ」と威厳たっぷりの所作でブーツの艶を確かめる。「ようし、靴磨きはなんとかできるようになったようね」
「あ、ありがとうございます……上官殿に鍛えていただいたおかげです……」
「ふっ……」亜美が蔑みの目で見据える。「男としてのプライドもなんにもないんだね、お前は、ホント……ねえ、知ってる?」近くの同僚に声を掛ける。「コイツ昔さ、アタシの上司だったんだよ」
「え、マジ?」
「ホント。佐世保にいた頃……ね」
「それがいまじゃ、亜美の靴磨き?」用事で離れていたもう一人も聞きつけてまた戻ってくる。「なんでもやるんだね。そのうち、下着だって洗ってくれるんじゃない?」
「やだー、最低」と同僚。
 つられて肇も笑ってしまう。そんな馬鹿な話はないという顔を思わずしてみせる。そうだ、元部下だったのだ、彼女は。かつて自分の下に着いていた女の下着を、娘のような年頃の女子の下着を、五十間近の男が洗うなんて、そんなことができるわけがない。無理だ。
「ふーん」
 亜美が嗜虐的な表情で見下ろす。こんな男に自分の下着を洗わせる気などなかったが、それ以上にいまの顔つきが気にくわない。少しでも女を舐めたような態度を見せるのであれば徹底矯正する必要がある。
「そうだね。洗ってもらおうか」
「え、いえ……じょ、上官殿……」
 肇は二十六歳の長身女性を見上げて本意を探る。
「なに? アタシの下着を洗濯しろって言ってんのよ。ブラとショーツ、それと靴下もね……そこの引き出しのビニル袋に入ってるから、持ってって」
 どうやら冗談ではなさそうだった。
「し、しかし……岩村班長殿……バスでは皆の目がありますので……それに、万が一紛失してしまっては……」
 風呂場で女物の下着を洗濯するところを想像してゾッとする。ものがものであるだけに、盗難にあわないとも限らない。
「それは、お前の責任だよ。なくしたりしたら承知しないよ。大問題だかんな」
「この艦内で男が女子の下着盗んだなんてなったら……」
 同僚が意地の悪そうな口調で言う。
「上の会議に掛けられて、一発解雇だよね……」
「そう、懲戒解雇は間違いないだろうね」
 別の同僚の言葉を、あらためて亜美が言い直す。
 懲戒解雇……肇がもっとも忌み嫌う、聞きたくない言葉だ。
「バスじゃなくて、洗濯室で洗えばいいじゃない」
 再び同僚から声が飛ぶ。
「そうだよね、どうしてそうお前は機転が利かないの? 糟屋」
 亜美が磨きたての靴で肇の腕を蹴る。
「あううっ……は、はいっ……すみません……」
「とっとと段取りつけな……分かってると思うけど、洗濯機使うなんて横着すんじゃないよ。手洗いで丁寧にね。アタシの下着は。安物じゃないんだから」
「は、いっ」
「ほらっ、とっとと靴を脱がせて、脚を揉めっ」
「あ……は、はい……」
 編み上げの紐を解いて黒革の靴を脱がせる。固い床の上に、正座の足がしびれてくる。苦痛にゆがむ顔を亜美が意地悪そうな目で見下ろしてくる。
「靴下も脱がせて。それも洗っときなよ、もちろん」
「か、かしこまりました……」
 黒い靴下を脱がせて、香ばしい匂いとともに下着のビニルに入れる。
 揉めと言われてもどこからどう手を着けていいのか迷っていると、「んとにお前は、なんにもできないね……」素足のつま先で額を軽く小突かれる。「土踏まずを親指で押して、それからふくらはぎだよ……糟屋……カス、お前はこれから『カス』でいいね」
 背中で女性二人の笑い声が起こる。
 ファッション雑誌を手にした亜美の脚をひとしきり揉むと彼女は「眠くなってきた」と肇に部屋の掃除を命じ自分は下着だけの姿になってブランケットに潜り込んだ。
 肇も眠い目を擦りながら、なるべく音を立てないように床を掃き、持ってきたバケツに水を汲んで、命令されていた部屋の拭き掃除を一通り済ませた。手抜かりがないか、肇なりに念を入れてチェックすると、科員室に戻って少し仮眠することにした。

☆ 二十二

「糟屋くん、昼だよ」
 寺井に起こされ目を覚ます。時計を見ると一三時五分前だった。カレーの匂い漂う食堂へ向かう。女性曹たちの食事サポートは、別班の男子曹たちが行っていた。
「食事当番なしはありがたいね」
「しかも今日はカレーだし」
 二十三班(岩村班)の男たちは眠い目を擦りながらもカレーライスとサラダの載ったプレートを前に幸せそうな顔をしている。
「いただきます」
 六人がそれぞれに手を合わせて昼食を始める。
「大丈夫かい、ちゃんと噛める?」
 肇は向かいに座った片山を心配そうに見る。眼鏡の片山は誰の目にも明らかなほど顔を腫らせている。彼がこれまで少し顔を腫らせて戻ってくることはあったが、それは艦長に殴られていたからなのだとようやくわかった。
「ええ、なんとか。まだだいぶ痛いですけど……」
「先生には診てもらった?」
「はい……それくらいなら大丈夫と……」
 片山は苦笑いをしながらスプーンを口に運ぶ。
「何が大丈夫だ」隣の寺井が憤る。「気が狂ってるよ、ここの女どもは、まったく……」
「寺井さん……」
 向かいに座る赤ら顔の関島がなだめる。寺井は関島と一緒に、たしか杉浦香織伍長の相手をさせられたはずだ。おそらく寺井は自分と同じような惨め極まりない役割を強制されたのだろうと肇は想像した。
 取り繕っていたような幸せが次第にしぼんでいき、いつも以上にどんよりとした空気が男たちを包んでいった。

「なにやってんの」
 洗濯室の洗い場で水を流し下着を洗おうとした肇を、見回りに立ち寄った第三分隊の若い女性海士長が咎める。
「あ、すみません……班長の命令で下着を洗濯に……」
「ていうか誰? あんた」
「あ、第二分隊の糟屋です。申し遅れました……」
「応急長の許可は? 聞いてないわよ」
「あ……それは、まだ……」
 水事情のよくない艦内では真水の使用については厳しく管理されている。もちろんそのことを知らないわけではなかったが、洗うものがものだけに、こういう場合、どう上にお伺いを立てて良いものか迷いながら洗濯室まで来てしまった。たまたま誰もいなかったのでいまこっそりやってしまえば大丈夫だと勝手に判断してしまったのだった。
「あなた、アタシたちの許可もなしに、勝手に水使ってるの?」
 女性はことを大げさにする意図を多分に込めて、大声を放った。
「も、申し訳ありません……」
 まだ二十代前半と思われる迷彩服女性に平謝りする。

 肇はどうすればよいか分からぬまま、士官室の二階堂留美分隊士を訪ねた。まさに新任海士の気分である。女性がつくった独自のルールで動いているこの艦では最下層の立場であることがあらためて身にしみた。
「そう……岩村班長も言い出したら聞かないから、そこはとりあえず従っといた方がいいでしょうね」
 留美は仕事の手を止め、脇に起立する肇を見上げて言う。立場としては留美の方が亜美より上であるが、現場の下士官とはなるべく良好な関係を保っておきたい。聡明な彼女は、ここは静観すべきと判断した。
 一方肇としては、男部下に女物の下着を洗わせるなどと言う暴挙をいさめてもらうことを少しは期待していたので多分にがっかりとした。
「だけど、応急長はよく知ってる先輩だから」
 留美はここから離れた壁際の席でパソコンを開いている西谷美玲二尉のところへ肇を連れていく。
 二十七歳の応急長は留美からの説明を一通り聞くと、「そうね……下着洗うのは別にかまわないけど……ひとり分のために貴重な真水を使うのは困るわ。五人分とか、それ以上まとめてやるのなら、許可出せないこともないけど」
「そうですか……」留美が肇に変わって返事をする。「五人分以上なら大丈夫ですね」

「ど、どうすれば……」
 肇は席に戻った留美に指示を仰いだ。
「聞いてたでしょ」
 仕事の資料をめくりながら、ぶっきらぼうに言う。よほど忙しい様子だ。
「やはり五人分の下着を、でしょうか……」
 まさか男の下着を混ぜるわけには行かない。かといって下着の洗濯許可を直接頼める女性など、この艦内にいるはずもなかった。
 留美は無言で仕事に集中している。
「分隊士殿……お願いできませんでしょうか……」
「私に頼むことじゃないでしょ。そこは班長に相談して」
 留美はいらついた調子で応える。こういうときの彼女には逆らわない方がいい。一見、柔らかい物腰だが、根は気丈なのだ。
「……うう……は、はい……ありがとうございました……お忙しいところをすみませんでした……」
 肇は仕方なくすごすごと退散する。

「どうでした? 洗濯の件は」
 夜の巡検の帰り際に、二階堂留美が聞く。
「そ、それがまだ……班長になかなかお会いできず……いまからまた相談に行くつもりです……」

 

S女小説 アマゾネスウェーブ「血潮の女権革命」

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内容紹介

女性幹部が支配する海自艦船内で、恨みを含んだ矯正指導を受け続ける男子隊員の物語

五十歳を目前にして、二曹への昇任試験に失敗した糟屋肇三曹は、海上自衛隊の特別練習艦《ひめぎく》への転属を命じられた。万年三曹の肩たたき船と言われる《ひめぎく》を実質的に運用しているのは「WAVE(ウェーブ)」の略称で呼ばれる女性自衛官たちであった。他艦で女性に不利益な事件が起こる度に、女性艦長が定める艦の規律は、男性クルーに厳しい内容へと更新されていったが、糟屋肇が乗船した直後、それはこれまでとはまったく違った次元の「特別指導体制」へと引き上げられたのだった。

第一章 直属上司はうら若き乙女

第二章 男の非力を嗤う女海士達

第三章 完全女性上位体制の発令

第四章 上級幹部の部屋付当番へ

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第一章 直属上司はうら若き乙女

☆ 一

くれですか……やはり……」
糟屋肇かすやはじめはうなだれる。
「はい、基地は呉ですが、そこから北上する艦船ですので。お体に気をつけて」
 辞令書を渡した女性事務官は、微笑を浮かべながらも感情を抑えるようにして言った。極めて事務的な態度だった。
「ありがとうございます。長いことお世話になりました」
 二〇代半ばの女性事務官に一礼して四十八歳の海上自衛官は建物を出る。
 佐世保基地の敷地内ベンチに腰掛け、港に浮かぶヘリコプター搭載型護衛艦を前に、濃紺の作業着に忍ばせておいた缶コーヒーを開ける。春の昇任試験前に同僚から言われた言葉を思い出す。
―――糟屋、俺たちたぶん、これがラストチャンスだぞ。ここで、二曹に上がっておかないと、《ひめぎく》行きになっちまうぞ……
 《ひめぎく》は、五年前から運用が開始された特別練習艦で、その主な目的は女性幹部(士官)の指導力強化および女性曹士の実践力鍛錬にあった。そして、《ひめぎく》にはもうひとつの役割があるというのがもっぱらの噂だった。それは、任務遂行能力の低い中高年の万年三曹を肩たたきすることである。同僚は続けた。
―――いいか糟屋、俺たちはもうじき五十だ。しかも、俺もお前も体格の面でハンディがある。おまけにお前は独身ときてる。このまま三曹のままだったら、近いうちに《ひめぎく》行きになるのは確実だよ……
 同僚は試験間近になってもなかなかやる気を示さない肇の肩を叩いた。
―――なあ……《ひめぎく》行きになった連中がどうなるか知ってるか? 年下の女に奴隷みたくこき使われるんだぜ……
 にわかには信じがたい話だった。
―――そんな馬鹿なって思ってるだろ……だって現に《ひめぎく》にいったん乗って無事に復帰できた人間なんていないんだから。みな音を上げて自主退官するか、女たちの万年奴隷だよ……
 結局、危機感を募らせたその同僚は二曹に無事昇格した。彼の言葉どおり、肇だけが《ひめぎく》が待っている呉基地行きを命じられたのだった。
「噂だろ、そんなの。誰かがつくった……」糟屋肇は、目の前の護衛艦がたなびかせる旭日旗を眺めて、生ぬるい缶コーヒーをあおった。「そんなことあり得ないじゃないか……」自分に言い聞かせるようにつぶやき、アルミの缶を握りつぶす。

―――二週間後。
 呉基地に到着した糟屋肇は赤煉瓦庁舎の門をくぐり、指定された個室で待機する。衣類や生活品をつめたビニルバッグを椅子に置き、壁に設えられた鏡の前に立つ。いつも濃紺の作業着ばかり着ているので、白い制服姿がなんだかぎこちなく映る。また少し痩せた。ベルトの穴がもう一つ奥になった。女だらけのふねに乗せてもらえるなんて、かえってありがたいことだ、などと強がってはみたものの、心のどこかで怯えている自分がいた。転属を言い渡された日から、食欲が急激に落ちて、体重は五〇キロを切ろうとしていた。
 肇はバッグの隣の椅子に腰掛け担当者を待つ。
 ほどなくしてノックの音がした。
「はいっ」
 肇の返事を聞いて、ドアが開く。純白の海自制服に身を包んだ若い女性が入室してきた。肇は彼女の肩に階級章があるのを見て、すばやく立ち上がり、敬礼する。
「か、糟屋肇三曹です。佐世保基地より、この度こちらに着任することになりました」
 しなやかな動きで答礼した女性幹部は、着席するよう促し、自分もテーブルを挟んだ向かいに座る。
「二階堂です。よろしくお願いします」
 二階堂留美三尉はやや緊張気味に口を開く。一昨年、防衛大学校を卒業し、一年に及ぶ幹部候補生学校での教育訓練を経て、国内巡航に続く遠洋練習航海を終えた二十四歳は、海の職場にようやく慣れつつあったが、自分の父親ほどの年齢の男性を直接の部下として迎えるのは初めての体験になる。
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 肇は遠慮がちに留美の顔を見る。いくら年下の女性であろうが、上官と話すときには目を逸らしてはならない。整った面立ちに意思の力をもたらしているのは二重まぶたの澄み切った双眸であり、品位を与えているのはスッと通った鼻筋だった。四十八歳の独身男にはまぶしすぎる美しさだった。
「もう承知かと思いますが、私たちと一緒に乗ってもらうのは、特別練習艦の《ひめぎく》です」
 練習艦は、士官教育のために使用される艦で、通常護衛艦タイプの艦船が使用される。自衛隊で使うので護衛艦などという婉曲な呼称を与えられているが、要は軍艦である。国際法上もそう呼ばれている。
 ひめぎくの乗員は、総員約一五〇名。うち一割ほどが幹部で、艦長、副長をはじめ幹部は全員女性だという。肇が噂で聞いた通りだった。
「はいっ」
 肇は留美が説明の間を置くたびに、目を見て、好印象を与えるための返事に努める。思ったよりすんなりと年下の女性上官を受け入れている自分に驚く。
「なにか、ご質問は?」
 艦について一通りの説明を終え、留美が聞く。
「あ、あの……男性の乗組員は、やはり私のような年代ばかりの……」
 言い淀む肇に留美は多少苛立ちの表情を見せて、首をかしげる。
「い、いえ、すみません……なんでもありません……出航は、いつでありましょうか……」
「明日です」
「明日!」
「ええ……じゃあ、もう、行きましょうか、艦へ……あとのことは、中に入ってからの方がいいでしょうから」
 皆の前で聞きにくいことがあればと思って、事前に個別の時間を取った留美だったが、ここで打ち切ることにした。
「はいっ、よろしくお願いいたします」
 そう言って深々と頭を下げる肇に、留美の方は軽く会釈を返すと立ち上がり、キビキビとした動作で部屋を出て行く。中年海曹は荷物を抱えて、慌ててあとを追う。立ち上がってみて、自分がいかに背の低い男であるかを痛感させられた。前を歩く女性は、特段高いヒールを履いているわけでもないのに、自分よりかなり上背がある。

 艦に入ればなおさらだった。大きな女たちの指揮、指導で小さな男たちがちょこまかと動いている。
 女性艦長の意向で女性隊員は身長一六五センチ以上を中心に、男性隊員は一六〇センチ以下限定で選ばれていた。
「男性の部屋は、少し狭くて申し訳ないんですが……」
 そう言いながら留美が案内した下甲板の男子科員室は、通常の護衛艦が備えている三段ベッドとロッカーの雑居区画だったが、確かにスペースにしてもベッドの規格にしてもやや小ぶりだと、肇は思った。事実そのとおりで、すべては女子の科員室にゆとりをもたせるためのしわ寄せであった。
「い、いえ、大丈夫です……」
 肇は自分ひとりだけが、稼働中の艦にあとから乗ることが初めての経験だったので、そのことについて尋ねた。
「いえ、糟屋さんだけじゃありませんよ。この班にも、他の班にも転属は多数います。昨日も、その前も、搭乗日がずれているだけで。ただ、私もまだ乗ったばかりで詳しくは知りませんが、この艦は特別で、独自のルールも多いと聞いています……なんにしろ、糟屋さんだけではありませんから」
「そ、そうですか……」
 安心していいのかよくわからない返答だったが、肇は了解したように何度か頷いた。
「じゃあ、上がりましょう。みな、明日の出航に向けて、準備を進めていますから……作業服に着替えてください」
「はいっ」
 濃紺の上下に着替えて、連れて行かれたのは食料の搬入現場だった。いったん露天甲板に上がった後、岸へかけたタラップを降りる。大半の食料は搬入済みだったが、このトラック一台分が最終到着便とのことだった。
「彼、新しく入った糟屋三曹」
 留美が長身の女性二曹に紹介する。
「あ……」
 肇は絶句する。七年前、佐世保の部下であった岩村亜美だ。当時は十九歳でまだ一士だった。しかし目の前の帽子と腕の階級章は肇より上の二曹だ。二十六歳にして、四十八歳の肇を追い抜く出世である。
 亜美も一瞬驚いた様子だったが、「どうも。お久しぶりです」と努めて冷静を装い、「そこに入ってお願いします」とバケツリレーの列に、かつての上司を嵌め込んだ。
「お元気でしたか……」
 そう言いかけた肇を制し、そんな悠長な話にいま付き合っている暇はないとばかり、「はいっ、スピードあげてえっ、間に合いませんよ、そんなんじゃあっ」
 亜美は、痩せて小柄な中年男たちが汗をかきかき、食材の段ボールを搬入する列へ大声を浴びせる。
「はいっ」
 声を揃える男たちに、肇も慌てて返事をあわせ、作業に参加する。
「じゃあ、岩村さん、よろしく」と留美。
 敬礼する亜美の姿をチラリと見た肇は、彼女の成長ぶりに驚いた。自信を持って任務に当たっている気概が伝わってくる。このふねにいる女性は、すべてそうなのかもしれない。肇は、早くも荷物を運ぶ腕にきつさを感じながら思った。これまで男中心の職場で見てきた女性隊員たちとはちょっと違う。

☆ 二

「これ、マジで間に合わないですねえ」
 白い制服に制帽、ズボンを履いた岩村亜美が、汗まみれになって働く男たちの脇を大股で歩きながら、これ見よがしに言うと、大きくため息をついた。どうやら、艦上では女性は制服(夏は白、冬は紺)、男は作業服の濃紺になっているようだ。
 亜美が無線電話で応援を要請すると、すぐに甲板から、四人の女性海士たちが降りてきた。やはり、白の上下で、全員が亜美と同じかそれ以上の長身だった。体躯はみな一見スリムに見えるが、屈強さを感じさせる。日々、鍛錬を怠っていないことは、動きを見れば分かる。全員が若く、二十代前半だ。女たちは、男の列と平行になるように別の列を組み、亜美の指示を待つことなく、率先して食料を積み込み始めた。男の列より一人少ないにもかかわらず、彼らの倍近いスピードで荷物が次々と運び込まれる。
「はい、男性、頑張ってください」
 亜美がパンパンと手を打ちながら、一人ひとりに発破をかけていく。
―――屈辱的だ……
 肇は頭ではそう思いつつも、体の方がついていかない。他の男たちも似たり寄ったりだ。圧倒的な女性たちの馬力を目の当たりにして、もはや諦めの気持ちが生じたのか、安堵したのか、中年男たちが運ぶ荷物はさらにスピードを落とした。
 そうするうちに、さらに他の部署からも、体力の有り余った女性海士たちが降りてきた。
「はい、じゃあ、男性さん、作業やめえっ」
 亜美は、肇たちに手を止めさせ、彼女たちに取って代わらせた。
「どうしたの?」
 通りがかった井村文乃一尉が仕事にあぶれて所在なくしている男たちに目をやって尋ねる。二十九歳の彼女は、肇が所属する第二分隊の分隊長である。男たちは文乃の存在に気づくと敬礼をして、その場で直立不動の姿勢を取る。肇も慌てて皆にあわせる。
「あ、分隊長……」
 岩村亜美二曹から事情を聞き終えた井村文乃一尉は、腕組みをして男たちの列の前をゆっくりと歩く。
「きちんと整列しなさいっ」
「はいっ」
 しとやかなルックスに似合わぬ大声に驚き、男たちはバラバラだった間隔を整える。肇も左右を見て自分の立ち位置を調節する。
「気をつけええっ」
 さらなる大声に男たちはびくついて姿勢を整える。
「休めっ……その姿勢のまま……女性たちの仕事ぶりを見ていなさい」
 長い睫を持つ女性一尉は、男たちにいくぶん侮蔑が交じった視線を放ちながら言う。
「はいっ」
 目の前で若い女性たちが食料の段ボールを次から次へ艦内へ運び込んでいる。声を出し合い、溌剌とした雰囲気で、肇たちのような悲観的な態度はみじんも見られない。
「あなたたち、どういう状況か分かってる? 仕事を取り上げられたのよ」
「はいっ……申し訳ありません」
 返事までは揃っていたが、その後の謝罪の言葉はバラバラにしかも尻切れトンボの調子に終わる。それが覇気のなさに映り、普段は物静かな井村文乃一尉の怒りを誘う。
「ねえ、情けないと思わないの? いい年した男が。揃いも揃って」
 十も一回りも、あるいはそれ以上も年下の女性に強い説教を受けても、男たちはまったく反論などできない。艦の中は完全なる階級社会であるからだ。
「あれ、なんの荷物運んでるの? ねえ、寺井三曹」
 文乃は、目の前で顔をこわばらせている五十過ぎの貧相な海曹をねめつけて言う。
「あ、はっ、食料です、だと思います」
「だよねえ」
 文乃は中年男たちを見回してひときわ大きな声を出す。
「自分たちで食べる物資すら、まともに運べないってどういうことよ」
「はっ……申し訳ありません」
 肇は多少うんざりした表情で皆にあわせる。他にもそのような態度を示した仲間がいたようだった。
「なに? なにか不満?」
「いえっ……申し訳ありません……」
 男たちに悲壮な雰囲気が漂う。
 そのとき文乃一尉に無線が入る。
「了解、すぐ行きます」
 レーダー部署で新規格の機器導入の際にトラブルが生じたようだった。機器管理に詳しい文乃一尉のアドバイスを受けたいとの要請だった。
「岩村さん」文乃は、岩村亜美二曹に声を掛ける。「彼ら、作業が終わるまで、このままで」
「はいっ」
 亜美の敬礼を受け、井村文乃一尉は甲板に戻っていった。

「ごくろうさま」
 岩村亜美二曹は、トラック一台分の食料を積み終えた女性海士たちをねぎらうと、惨めに整列させられている中年男たちを眺めやる。
「ねえ……こんなんじゃ、先が思いやられますよ」
 一七〇センチを越す長身の二十六歳が一人ひとりの顔をざっと見渡しながらあきれたように言う。肇は心なしか、自分を見ている時間が少し長かったように思えた。
「はいっ……も、申し訳ありません……」
 脚を少し開き、後ろで腕を組んだ四十、五十の男たちは、うつむきかげんで声を絞り出す。二十六歳の女性二曹に行動を支配されていることに恥ずかしさを噛みしめている。彼女の元上司であった肇はなおさらだった。
「甲板に上がって、あなたたちにでもできる作業をやりますから。今度は真剣に取り組んでくださいね」
「……は、はいっ……」
 幾人かはその言われ様に納得がいかない様子だった。
「いいですねっ」
 亜美は返事のやり直しを命じるように強い口調でもう一度問う。
「はいっ」
 男たちは悔しさをにじませながらも今度は声を揃える。

 課業を終え、一七時ちょうどに夕食が始まる。肇たちの班の順番になり、食堂へ降りて金属製のトレーを取ろうとすると、すぐ後ろに並んでいた同じ班の寺井という男が、「あ、それは女性専用だ。男子はそっち」と一回り小さなトレーを指さした。肇は一瞬絶句したが、「あ、どうも」と小さな声で言いながら、寺井に頭を下げると、目の前で仕事をしている女性の給養員(調理係)の目に遠慮し、小さなトレーにふさわしい控えめな盛りで、肉や野菜の料理を装っていった。

「いや、まいったね。驚いたでしょ」
 寺井がトンカツのソースをつけた口で、肇に言った。五十二歳の寺井は同じく三曹であるが、彼はもう一年ほど、この《ひめぎく》に乗り続けているという。
「はい……びっくりしました。女性が天下のふねだとは聞いていましたが」
「でもね、こんなもんじゃないよ。あの二人はまだ優しい方だよ。怖いのは先任伍長だ」寺井はあたりを見回し、他の科員たちが集まってきたのを見て声を潜める。「もちろん女だけど」
「そ、そうなんですね……」
「とにかく、この艦では絶対、女に逆らっちゃいけないよ」

 ほとんどの雑用は男子科員の仕事である。寺井は食卓番として皿洗いに従事し、肇は食堂の床を拭き掃除する。女性下士官の監視の目があるので、もちろん手を抜くことなどできない。

 床掃除などの雑用を終えた肇が、ようやく風呂に入り、科員室に戻ってベッドの上に疲れた体を横たえていると、周囲が慌ただしくなる。
―――もうこんな時間か……
 時計を見ると一九時半、巡検の時間だ。同じ班の六人が揃って、廊下に並び、整列する。

 

S女小説 アマゾネスウェーブ「血潮の女権革命」