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S女小説 女軍慰安夫「早乙女小隊の日々」


S女小説 女軍慰安夫「早乙女小隊の日々」を電子書籍として出版しました。

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内容紹介

冷徹な女性将校、残虐な女軍曹……美しく激しい女性軍人たちに蹂躙、陵辱される男兵卒たち。
大東亜戦争開戦直後、従軍看護婦として比島(ひとう:フィリピン)に招集された早乙女佳乃(よしの)は、ほどなく陸軍少将の播磨(はりま)に見初められ愛人となる。やがて播磨は被虐趣味を告白し、将校服を纏い長靴を履いた長身佳乃の足下にひれ伏すようになる。佳乃は自身の奥底に眠らせていた嗜虐性を徐々に目覚めさせ、もはや戯れでは収まらなくなってくる。播磨の計らいで軍隊の鉄拳制裁を目の当たりにした佳乃は、抑えられない衝動を覚え、ついに自身のための小隊を編成するよう播磨に命令する。一方、内地では身長、体格が及ばぬ理由で徴兵をいったんまぬがれたはずの勤め人田手雅行(まさゆき)が比島への招集を掛けられた。境遇を同じくして南方行きの船室に集う優男たちの行く末は……。

第一章 海ゆかば
第二章 革かおる
第三章 胸きしむ
第四章 声たかく
第五章 肉おどる
第六章 魂のぼる

本文サンプル

第一章 海ゆかば

 

☆ 一

一九四二年 六月

―――いよいよだ……
病院船の甲板から見送りに手を振り、二十六歳の早乙女佳乃さおとめよしのは気持ちを新たにした。高等女学校を卒業し、日本赤十字社で三年間の看護修業。内地の病院で五年間勤務した後、従軍看護婦として招集された。赤十字社に属する看護婦は、有事の場合はそういう決まりになっている。軍人の祖父や父を見て、話を聞いて育ち、お国のために尽くすのが本分だという考えが自然と身についた。だからこそこの道を選んだのだ。紺の制服、帽子、黒の編み上げ靴、白い手袋といった看護婦の正装が、長身美人の彼女をいっそう凜々りりしくみせている。赤十字の腕章を左腕につけ、これから比島ひとう(フィリピン)へ向かい、マニラの陸軍病院に勤務するのだ。昨日まで泣きはらした母親が笑顔で埠頭から手を振り続けるのを見つける。佳乃は、半分、申し訳ない気持ちで一段と大きく手を振ってそれに応える。
「比島はいまや完全に日本のものだから、心配しないで」
佳乃は昨日もそう言ってきかせ、生みの親を少しでも安心させようとした。実際、日本軍は、一九四一年十二月八日の真珠湾攻撃とほぼ同時に比島上陸を開始し、年明けには首都マニラを陥落、ひと月前の一九四二年五月には米軍を敗北に追いやり、比島全土を占領していた。かの地は内地と同じようなものだ。何も心配することはない。汽笛が鳴り、船がゆっくりと動き出す。佳乃は郷愁に引かれる気持ちを振り切るようにして手すりを離れ、舳先の方へ歩いて行く。

一九四二年 七月

「ご気分は、いかがでございますか?」
早乙女佳乃さおとめよしのは寝台の上で目を覚ました陸軍少将の播磨常定はりまつねさだに話しかけた。
「あ、ああ……もうすっかり……」
そう言って半身を起こしかけた播磨はりま佳乃よしのはやんわりと制する。
「まだ、いけません……昨日は、あんなに高い熱があったのですから」
「なんの、これしき……どうせただの風邪です」
「もう一度お測りしましょう……さあ、横になられて……失礼いたします」
そう言って佳乃は水銀体温計を播磨はりまの脇に挟む。
―――なんという……
四十九歳の播磨は、白衣の長身女性に思わず見とれる。いかにも意志の強そうな眼差し、整った面立ちはまるで銀幕女優のようだ。
「どうかいたしましたか?」
「いや……」
陸軍少将である自分にはほとんどの女性が、いや男であってさえも臆するものだが、この看護婦にはまったくそういうところがない。播磨は彼女への思いをいっそう強めた。
「あの……早乙女さんとおっしゃいましたか……」
細身で小柄、言葉が柔らかく物腰も穏やかな播磨は軍服を脱いで伏せているととても軍人には見えない。どちらかというと文弱の徒といった印象だ。
「はい」
「下の名前をお教え願えますか」
そう聞かれ、看護婦は恥じらうような笑みを見せる。
佳乃よしのです。早乙女佳乃ともうします」

播磨は治療が済んでからも、部下の見舞いなど、何かと理由をつけては佳乃が勤める病院を訪れた。挙げ句、ついに自身の宿舎に彼女を招き入れることに成功した。播磨と佳乃が男女の関係に至るまでに出会いからひと月とかからなかった。

「あなたとずっとこうしていられるといいのですが」
播磨は隣で伏す佳乃に話しかける。二人は事を終え裸のままだ。
「え、駄目ですの? 内地に奥様がいらっしゃるから?」
「いや、そうではなくて。かような安穏あんねいはそう長くは続かないだろうと思うのです」
現地ゲリラによる襲撃等は時折あったものの、確かに当時の比島はほぼ平時に近い様相であった。従軍看護婦と軍幹部がこのような逢い引きを行えることが何よりもそれを表していた。
「どうして? 我が国が負けるはずないじゃありませんか」
「米国を見くびってはいけません。このままで終わるはずがない」
「まあ……とても陸軍少将さまの口から出る御言葉とは思えませんわ。そんな気弱な……」
播磨はそれ以上の言葉をふさぐようにして、佳乃と唇を重ね合わせた。

一九四二年 八月

「……も、もう、戻りませぬと。明日も早いことですし」
佳乃は寝台から長椅子へと移動し、乱れた浴衣ゆかたを整えながら言う。度重なる播磨との逢瀬を決して嫌とは思わなかったが、やはり気が引けた。お国に身を捧げるつもりでこの地までやってきたのだ。仮に招集がなかったとしても、志願するつもりでいた。
「心配ご無用。あなたの上司である軍医たちのことはよく存じ上げているし、病院の責任者とは昵懇じっこんの間柄です」
播磨も浴衣を羽織り直して、寝台に腰掛け、丸い眼鏡を顔に戻すと、佳乃の美貌をあらためて確かめるようにする。
「そんなことより、少し頼みがあるのです」
「何でしょうか、わたくしは、少将様のためなら何でも。何なりと」
佳乃は少し離れた位置から背筋を伸ばしてそう言う。
「……うん、その……わたしを、そのあなたの手で、ぶってみてはもらえないだろうか」
その告白そのものが、すでに彼を興奮に導き始めている。
「ぶつ?」
佳乃は一瞬、播磨が何を言っているのか分からなかった。
「そう、この頬を叩いていただけないだろうか」
播磨は指先で軽く自分の顔を叩く。
「ど、どうして、そんなことを……まさか、できません……わたくしが、少将様の頬をひっぱだくだなんて……そんな……」
「どうか、お願いです」
播磨は寝台を立って進み、佳乃が腰掛ける前まで来るとしゃがんで膝立ちし、彼女の太股に手を置いた。
「でも、どうして……わたくしには少将様を叩く理由もありません」
「理由? 理由など……ではこうしましょう……あなたは強いこころざしをもって、この地におもむいたはず。それをあろうことか私は軍の将校という立場にあるにもかかわらず、また、内地に正妻を持つ夫であるのに、あなたといまこのような時間を過ごしている。もちろん、あなたに罪はありません。すべて私の我が儘わがままによることです。私をその手で断罪していただきたい……」
「そんな……それならば、私も同罪ですわ……あなたさまに命じられて嫌々ここにいるわけではありませぬから……」
「いや、それならもう理屈はいいのです。わたしは佳乃殿、あなたさまに叱咤しったされたい。それだけのことです……どうか、お願いします……」
そう言って播磨は佳乃の右手を両手でつかみ、彼女を見上げる。
「そういったご趣味が?」
見下ろす眼差しに、播磨は侮蔑の光を探す。その眼差しに耐えられぬようなそぶりを見せてうつむく。そして、こっくりとうなずく。しばし、部屋を沈黙が包む。軍用車が往来するエンジン音が遠くに聞こえる。
「……分かりました。あなたさまがお望みなら、かなえて差し上げましょう……眼鏡を、お外しになって下さい」
「よ、佳乃殿……」
播磨は嬉々とした表情で、看護婦の命に従う。細い黒縁の丸眼鏡を長椅子の脇の小さなテーブルにそっと置く。そして許しを乞うような、また戒めを望むような目をして、大柄の麗人を見上げる。佳乃は覚悟を決めた眼差しで播磨をしっかりと見据える。佳乃の手が播磨の頬を触る。滑らかな手のひらが頬をなでる。女子おなごにしては大きな手だと播磨は思った。
「あなたは悪いお人です」
佳乃はまるで自分に言い聞かせるようにそう言うと、播磨の頬をひとつ張った。パンという乾いた音が部屋に響いた。佳乃がいたたまれないような表情を見せたので、播磨はすかさず口を開いた。
「いいのです、これでいいのです、ありがとうございます。いや、わたくしが佳乃殿に犯した罪はこの程度にございましょうか? もっと強く、幾度も打ち下ろしてくださいませ……」
「ほんに?」
「ええ」
佳乃の肩がかすかに上下している。興奮しているのだろうか。播磨は、続く殴打に期待を寄せ、目を閉じかけたが、誰にどこを叩かれたのかしっかりと記憶に残したくて目はもちろん、五感と神経を目の前の麗人に集中させる。
「では」
佳乃はそう言いながら、播磨の頬をさすり、手を大きく挙げると、さっきよりも強く頬を目がけて振り下ろした。大きな乾いた音がして、播磨の華奢な体は大きくかしぐ。
「ああ……」
播磨は思わずもだえるような声を漏らす。
「だ、大丈夫ですか……」
佳乃は心配そうに播磨の顔を覗き込む。
「心配は無用です……いや、そのような慈愛だけはどうかご勘弁願いたいのです」
「あ、はい……」
「さあ、もっと……今くらいの強さでかまいませぬから、幾度も私を叩きのめしてくださいませ」
そう言って播磨は頬を差し出した。
「いいのですね……あなたさまがそうおっしゃるならば……」
佳乃の表情が毅然としたものに変わる。浴衣の襟を整え、左手の指先で、播磨の顎を少し上に向けさせる。
播磨常定はりまつねさだ……」
「は、はい……」
「あなたは、お国に命を捧げる人々の上に立つ者として、大きな間違いを犯しました」
「はい……」
「それは罪です」
「はい」
「罪には罰を与えねばなりません」
佳乃の右手が大きく挙がり、播磨の頬を再び打つ。すかさず、その手の甲が戻りしな、反対側の頬を打つ。佳乃はそれを三度往復させて、最後にこれまででいちばん強い一撃を放った。播磨の体が床に投げ出される。佳乃は一瞬、声を掛けようと思ったが、思いとどまった。
「佳乃様、いまのは貴女あなた様のお力のいかほどでしょうか。八分、九分、それとも……」
播磨は体を起こすと長椅子に腰掛けたままの愛人に言った。
「さて、半分、いえ、それほどもいっていないかも。三分くらいですわ」
「そ、そんなにお手加減を……」
「当たり前ですわ。こう見えてもわたくしは幼少の頃から柔術を習っておりましたの」
「佳乃様の本当のお力が見てみたい……」
「そんなことをすれば、播磨様、あなたさまは、人前に出られないお顔になってしまいますわ」
佳乃は播磨の唇の端から少し血がにじんでいるのに気づいて、懐からハンケチを取り出し、それをそっとぬぐってやった。
「それから、佳乃様、私と二人きりのときは、私を下人扱いしてくださいませ。そしてそれにふさわしい言葉を使っていただきたいのです。名前も呼び捨てでどうかお願いします」

それ以降、播磨は逢瀬のたびに、佳乃に殴打をねだり、彼女もそれに応じた。最初は幾ばくかの躊躇があった彼女も次第に大胆になっていった。
「播磨、まだ打ち足りないわ、もう一度頬を出しなさい。もっと私が打ちやすいように」
「は、はっ、佳乃様」
播磨は長椅子の佳乃にさらに近づけるように床に着けた膝をすり寄せる。
「ほら、またけようとする」
殴打の動きに入ると播磨は少し顔を傾けるようになっていた。佳乃の張り手が回を重ねるごとに強くなっていき、播磨は顔が腫れるのを怖れていた。幹部会議などに支障がある。
「ご、ご容赦くださいませ、佳乃様。あまりに貴女様あなたさまの殴打が強いもので、私の頬が腫れてしまいますもので……」
「ご自分から殴れと言っておいて、そんな我が儘を言うのかしら」
佳乃はそんな台詞せりふが言えるほど余裕を持ち始めていた。好奇心が芽生え、この刺激的な播磨との関係に彼女自ら傾倒し始めていた。
「も、申し訳ございませぬ……」
播磨は、その場に跪き、頭を床につけた。佳乃はほくそ笑む。
―――この姿を皆が見たら、どう思うだろう……
遊びだとは言え、陸軍少将に土下座をさせている自分に、これまで味わったことのない満足を感じた。
「よし、播磨、あなたがそこまでするのなら、許してあげます。少しは力を加減して差し上げましょう」
「あ、ありがとうございますっ」
播磨は半分本心で、そう言い、さらに何度も頭を下げる。まるで米つきバッタのように。
「その代わり、数は増やしますよ」
佳乃は、笑ってそう言い、播磨の体に脚を入れて起こし、胸ぐらをつかんで引き上げた。

そんなある日、播磨は自ら運転する軍用車に佳乃を乗せ、監督下にある小隊の訓練地へとおもむいた。車は両脇に草木が覆い繁る道を半時間ほど走り、突如開けたところで止まった。広場を囲むようにして、いくつかの小屋が建ち並んでいる。馬小屋の横に若い軍人が待っており、車をその近くに駐めると、近づいてきて敬礼した。彼は紺の看護婦正装を身に纏った麗人に目を奪われる。ハッとして播磨の方に視線を戻すと、「少将殿こちらです」
軍人は少尉だった。若い少尉は二人を将校用宿舎の一室へと案内した。部屋はがらんとしていて、壁の小さな窓の方に向いて椅子が二つ並べてある。少尉が敬礼をして去っていくと、播磨は、「さあ、そこへ腰掛けてください」と佳乃を促し、自分も座った。外から目立たぬ特製の小窓からは営庭が見渡せた。日頃から目を掛けている少尉に頼んで作らせたものだった。しばらくすると広場を挟んだ正面の兵舎から男たちが出てきて整列を始めた。一五、六人ほどが、横一列に並んでいる。ややあって、少し年かさのいった男が現れ、大声で兵たちをののしると、右の端から一人ずつ、頬に強い平手打ちを張っていった。佳乃が播磨に会うたびに施している所行だが、いま彼女の目に映っているそれはまったくもって容赦のないものだった。大きくかしいだり、よろける者もいたが、皆すぐに直立不動に戻った。
「まあ……、全員が一斉に、皆でなにか間違いでも?」
連帯責任です。ひとりが間違いを起こすと、その場にいた皆の責任になる。それが軍隊というものです」
「まあ……」
佳乃は一瞬、播磨の方を見たが、すぐに視線を広場の方に戻し、次に行われることに注目した。しかし、彼らを叩いた曹長が去ると男たちもすぐに兵舎の方へ戻ってしまった。佳乃は少し残念そうな顔をして、播磨の方を見る。
「佳乃様、次の隊がじきに現れますから」
播磨がそう言うとすぐにその言葉通り同じ人数くらいの分隊が現れ、同じようにあとから出てきた曹長が、罵声を浴びせると一発ずつ兵を叩いていく。ただし、今度は手に何かを持ってそれで殴っている。
「あれは……」
「革製の内履きです」
「そのようなもので……さぞ痛いでしょう……本当に痛そうだわ」
佳乃はそう言いながら、窓の向こうの光景に釘づけになっている。
「あれは、相当に痛いと思われます」
播磨は佳乃をまるで上官のように見立てて言う。
「それに屈辱的だわ。足に履くもので頬を殴られるなんて」
「確かにそうです。肉体的な戒めに加え、精神的な苦痛を与えることによって鍛えるとでもいいますか……」
「物は言いようね」
佳乃は鼻で笑うようにし、その態度が播磨を興奮させる。
「次は?」
去って行く男たちを見て、佳乃が聞く。
「はい、まだ」
次の曹長は、拳で兵たちの頬を殴っていった。全員が例外なくその場に崩れ落ち、しばらくは起き上がれない。それほど強烈な殴打を加えられていた。しかし、佳乃はそれを平然と眺め、「殴る方は痛くないのかしら」と独り言のように言った。
「もう終わり?」
まるで物足りないとでも言うように、佳乃は播磨を見る。

「どういうつもりでわたくしにあんなものを見せたのかしら?」
帰りの車の中で、佳乃は播磨に尋ねた。
「はい、軍隊における鉄拳指導がどれほどのものかを是非、お目に掛けたくて」
「確かに驚いたわ。わたくしがそちらにしている制裁などかわいらしいものね……」
「は、はい……」
「かといって、あなたをあれ以上強く殴ると差し障りがあるのでしょう。あのように革の靴や拳で殴ってもいいというならばやりますけれど」
興奮が甦ってきて、佳乃はつい本心を打ち明けた。
「……」
「できないでしょう」
佳乃は意気地のない男を見る目で、運転席の播磨を向く。
「申し訳ございません」
「それにしても……一度でいいから、私もああいう厳しい指導者の立場になってみたいものだわ」

☆ 二

一九四二年 九月

「今日は、佳乃様のために品物を用意させていただきました」
いつものようにひとしきり頬を打たれた播磨が、別室から風呂敷包みを持ってきて、長椅子の横に置いた。
「どうぞ、お開けくださいませ」
「わたくしに開けさせるの? 播磨、お前が開けなさい」
「はいっ、申し訳ございません。では……」
平然とお前呼ばわりされ、播磨の体に電気が走る。風呂敷の中身は新品の将校用軍服、同じくまっさらの長靴ちょうか革帯ベルト、軍帽だった。いつか体や足の寸法を細かく測られたのはこのためだったかと二十六歳の従軍看護婦は納得した。佳乃は浴衣を脱ぎ、長椅子の上に置く。下着は身につけていない。くびれの利いた大柄の肢体が照明の光にきらめく。染み一つない滑らかな肌に、播磨はあらためて驚く。佳乃が一糸まとわぬ姿になっても恥じらいを感じていないふうに見えるのは、馴れ合いがひとつ、そして自分への蔑みもあるのではないかと思うと播磨は興奮した。自分の宿舎として米軍から接収した離れの一軒家を準備させてよかったと播磨はあらためて思う。そのおかげで、佳乃とこのような大胆かつ奇譚な逢い引きを楽しむことができるのだ。
佳乃はやや青みを帯びた茶褐色、すなわち国防色の軍服の上下を嬉しそうに手に取る。まずは短袴たんこを履く。太股の部分がゆったりとした短い丈のズボンである。ボタンを留め、太くて黒い革帯ベルトを締める。続いて軍衣に袖を通す。佳乃の顔がうっすらと汗ばむのを見て、播磨は米国製であろう大型の扇風機を移動させ、佳乃によく風が当たるようにする。扇風機はゆっくりと首を振り、南国の湿った空気をかき混ぜる。軍衣のボタンを下から止めていくごとに、シルエットが出来上がっていく。女性のくびれ体型に合わせて、腰をきゅっと絞った特注の将校服だ。肩幅は男子用とほとんど変わらない。佳乃の肉体の完成度に播磨はあらためて惚れ惚れする。
播磨はその場にしゃがみ込み、黒い革の長靴ちょうかを持って、佳乃を見上げる。その表情から二十六歳の看護婦は、少将の意をくみ取る。
「播磨、わたくしの足にその長靴を履かせなさい」
「はっ」
「その前に……お前は浴衣を脱いで裸になりなさい」
播磨はあたりを少し気にする様子を浮かべたが、佳乃の「早くっ」という声に弾かれるようにして、帯を解いた。佳乃は長椅子にゆったりと腰掛け、長い脚を組む。
「失礼いたします……」
播磨は長靴の一つを取り、佳乃の片脚に下からあてがう。女性は履き口を両手で引っ張りつま先を伸ばすようにして長靴に足を差し入れていく。最後は床でドスンと踏み下ろす。もう一方も同じようにして履く。
「この長靴も特別にあつらえさせていただきました。佳乃様のおみ足は並の男子おのこよりも、なごうございますので」
佳乃のための特製長靴は踵が高く、つま先も鋭い角度に改良されていた。磨けば磨くほど艶めくであろう上質の牛革がふんだんに使われている。
「それで? わたくしにこんな格好をさせて、いったいどうして欲しいのかしら?」
足元で所在ない様子の播磨を見据えて言う。痩せた裸体で縮こまる中年男には、もはや少将の威信のかけらもなかった。
「さ、早乙女中尉殿……」
中尉ちゅうい?」
佳乃は首の下の襟章を触ってみる。斜めに傾いた四角形は、将校の襟章。一本線上に星二つは、中尉のものである。播磨が彼女のために密かに用意できた最上位の襟章だった。
「も、申し訳ありません。それがわたしに用意できる精一杯で……」
「先日、平気で部下たちを殴っていた人たちの位は?」
「あ、あれは曹長や軍曹です。早乙女中尉殿よりはずっと身分の低い」
「あれくらいでも良かったわ。あまり偉くなると、易々やすやすと拳も振るえないでしょう」
「あ、はい……しかし、何事にも例外はございます。実際に気性が荒く、すぐに手を出してしまう将校たちもおります」
「そう……それがわたくしということかしら? 播磨」
播磨は怯えた表情を作って、佳乃を上目遣いで見る。
「は、はい……」
「では、殴っていいわけね、あなたを。あの惨めな兵隊たちのように。顔を拳でいっていいのでしょう?」
佳乃はつばの付いた軍帽を被ると長椅子から立ち上がり、右の拳を左の手のひらで包んだ。女性のしなやかさと男性の力強さを併せ持ったような大きく美しい手だった。
「ど、どうか……お許しください……早乙女佳乃中尉殿」
播磨は素っ裸のまま床に正座して縮こまる。
「ど、どうか……」
頭を床に着けるように下げる。
「お前のいまの位はなんなの? まさか、裸になって女の足元で土下座する男が少将だなんていわせないよ」
「は、はい……わたくしは……ご、伍長程度のものかと……」
そう言って佳乃を見上げる。すぐに、播磨の期待通りの返事が返ってくる。
「……伍長? ふん、お前は二等兵だ。わたしの前では。いいか、播磨。最下位の駒として、わたしの厳命に従えっ」
長靴の足でドンと床を踏み鳴らす。
「はっ、ははあっ、佳乃中尉殿。誠にありがたき御言葉。この播磨常定二等兵、あなたさまに一生涯忠誠をお誓いいたします……」

「も、申し訳ありません……」
数日後の夜、佳乃と床を共にした播磨は、男としての役割をまったく果たせなかった。
「どうしました……いえ、どうして欲しい?」
裸のまま寝台に腰掛けた佳乃は同じく裸の播磨をじっと見据え、妖しい笑みを浮かべる。
「き、厳しく、ご叱咤くださいませ」
「また軍服に着替えて欲しいのでしょう?」
「は、はい……」
「すぐに持ってきなさい。お前はもちろん、裸のままで」
浴衣を羽織ろうとした播磨をたしなめる。
「はっ」
播磨は眼鏡を掛けて寝台から起きると佳乃の軍装一式を入れた行李こうりを持ってきた。
あれは、用意できていますか?」
「あ、は、い……」
播磨は、興奮の面持ちで、行李から白い布を二つ取り出し渡した。ひとつはふんどしだった。長さ三尺(九十センチ)、幅一尺(三十糎)の白布の端が筒状に縫われ、その筒にやはり白い紐が通してある。越中ふんどしと呼ばれるものである。寝台脇に立った佳乃はそれを広げてみて、床に正座する播磨に放り投げる。
「どうやるの? 履かせなさい」
「はっ」
播磨は、「失礼いたします、佳乃中尉殿、向こうをお向きいただいてよろしいでしょうか……」
「待ちなさい……」
佳乃は壁に立てかけてある大きな姿見すがたみの方へ向かい、その前に立つ。播磨は彼女の背中ごしに鏡に映された立ち姿を見る。佳乃は豊満な胸の前で腕を組んでいる。見事なくびれ具合の腰つきで長い脚を広げて堂々と立ち、部下の播磨二等兵がふんどしを着けるのを待っている。
「遅いっ」
強い声でそう言うとすぐさま振り返り、播磨の頬に平手で強打を放つ。
「ひっ……はっ、申し訳ございません、早乙女中尉殿っ、すぐにかかりますっ……」
播磨はふんどしを佳乃の尻の上から垂れるようにあてがい、上部の紐を腹の方へ回し、自分も前に回って、へそのあたりで結ぶ。佳乃はくすぐったい様子も見せず、堂々と腕を組んだまま、ちょこまか動く播磨の仕事を見下ろしている。

 

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