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小説 S女様リンチ系「逆痴漢電車」


小説 S女様リンチ系「逆痴漢電車」を電子書籍として出版しました。

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内容紹介

女子高に非常勤講師として転任してきた男が女性だらけの通勤電車のなかで遭遇する逆痴漢トラブルそして職場における虐待、陵辱。

週一の授業枠だけでは生活できない四十一歳の非常勤講師、小池則夫は、コールセンターでのアルバイトも余儀なくされる。しかし彼が学校、職場への通勤で使う姫島線電車は、女権企業グループが鉄道および沿線エリアの企業、学校、商圏をも支配する特殊鉄道路線であった。逆痴漢、暴力、女装強要、陵辱……則夫や男たちを待ち受けるさまざまな苦難や屈辱。しかし、最低限の生活をなんとか維持していくためには、この電車に乗り続けるしか、彼らに選択は残されていないように思われた。

第一章 女は男を弄ぶ
第二章 女は男に唾を吐く
第三章 女は男を辱める
第四章 女は男を虐め倒す
第五章 女は男に舐めさせる
第六章 女は男を嫐り尽くす

本文サンプル

第一章 女は男をもてあそ

☆ 一

―――次は、つきはま、月浜。姫島線……女子高、コールセンター方面は、お乗り換えです……
 電車から吐き出された小池則夫こいけのりおは、姫島線に接続する通路に向かう。とたんに周囲の人混みが女性ばかりになる。会話を弾ませながら歩くセーラー服姿の女子高生たち、ジャージやスポーツウェアをまとっているのは体育女子大の学生だ。それにブランド品に身を固めた美しいキャリアウーマン、流行ファッションを取り入れ、溌剌としたOLさんたち。皆、人材派遣会社やコールセンターの正社員様方だ。
 則夫は自分の境遇をつくづく惨めに思う。女子高の非常勤講師としてこの地に転任してきたばかりである四十一歳独身の彼は、コールセンターの契約社員としても働き始めた。産休明けからさらにしばらく休むはずだったはずの女性教諭が急遽、現場復帰したのに伴い、彼の授業枠が週一日に激減したからだった。まさかそれだけでは生活できない。
 姫島線・コールセンター行きの電車はすでにホームに到着している。
 姫島線は、ここ月浜駅から埋め立て地へ走る通称《オンナ沿線》だ。終点には則夫が勤務するコールセンター、その手前に女子体育大学、その前に同じく則夫が非常勤講師として籍を置く女子高、その途中には人材派遣会社などがある。もともと造船所とその関連施設のための専用鉄道だったが、造船所の廃業と共に路線も廃線となった。それを女系コンツェルンが買い取って再開発しようとしているのだった。手始めに復活させた四つの駅周辺に、手持ちの企業や学校を移転させ、これらを起点に女系経済特区へと発展させる計画らしい。時代は変わったものだ。
 小池則夫は今日も先頭から一つ手前の車両に乗る。彼女はまだのようだ。最初入り口付近にいた彼は人混みに押されて、奥へと移動する。出発間際には、女性だらけの満員車両になる。シャンプーや香水、そしてなまめかしい体臭……車両にたちまちオンナの熱気が立ちこめる。
―――今日は、別の車両に乗ったのかな……
 則夫が残念に思っていると、「おはようございます」
 声の方を向くと、まさしくお目当ての彼女、同僚の浅田恭子あさだきょうこだった。
「あ、お、おはようございます」
 コールセンターで同じチームの女性である。大学を出たての二十二歳、色白で目がパッチリとしていて、まるで人形のような顔立ちをした美人だった。白い半袖シャツの出勤服が清潔感にあふれている。緩いウェーブがかかった栗色ヘアは、胸のあたりまで長さがある。則夫はせっかくの通勤時間を彼女と会話したいのだが、すし詰め電車の密着度にそれもはばかられる。気がつくと恭子は耳にヘッドフォンを嵌めて違う方向を向いていた。
―――あ……
 則夫は先頭の女性専用車両への入り口近くに立つ女子高生を見つける。杉崎菜々緒すぎさきななおだ。長いストレートの黒髪に、高校二年生とは思えぬ自信に満ちた目力を持つ彼女は、目鼻立ちのくっきりとした美人で成績も抜群、しかし大いに問題のある生徒である。とにかく素行が最悪だ。けれども誰も彼女を注意できない。なぜならば、女子高の理事長の娘であるからだ。則夫は彼女に見つからないよう少し方向を変えて顔を伏せる。
「や、やめてください……」
 男性の声が聞こえる。則夫は恐る恐る菜々緒の方を見やる。長身の彼女が、三十前後の男性の背後にピッタリとくっつき、後ろから抱くような格好をしている。さらには菜々緒の連れである女子生徒三人が男を前から囲んでいる。則夫は、このような場面を目撃しても教え子たちを注意することができなかった。あの杉崎菜々緒のグループだし、目に映る彼女たちは大柄でいかにも凶暴である。しかし、則夫は女子生徒が囲む隙間から、男性の様子を伺い気に掛けた。いかにも大人しそうな子羊のような男だった。菜々緒が彼のシャツの上から乳首を触っている。
「ああっ……ごめんなさい……すみません……」
 彼は小さな声で助けを求めるように言うけれど、則夫にはどうすることもできない。菜々緒はまだ高二であるが、周囲の女子高生たちはたとえ先輩であっても、理事長の娘を注意することなどできない。女子大生も、OLたちも、面白そうに眺めているか無視するかのどちらかであった。
「ほら、ってきたよ、乳首……」
 菜々緒が嗜虐的な笑みを浮かべて男性の乳首をなで回している。
「ボタン外してあげて」
 菜々緒が男性の真ん前に立つ女子生徒に言うとショートカットの彼女が男性のネクタイを緩め、上からワイシャツのボタンを三つほど外す。
「あああっ……やめてください……」
 男の言葉を鼻で笑い、菜々緒の手が、男性の裸の胸に滑り込んでいく。
「ほら、下着つけてないと、こうして簡単に乳首つままれちゃうよ」
 菜々緒はそう言って男性の左乳首に右手を回し込んでつまみ虐める。
「はあああっ……や、やめて……」
 男性が大きめの声を出すと、目の前の女子生徒が、手を挙げ頬をピシャリと張った。
「あんた、それ以上声だしたら、殺すよ」
 その脅し声が低く、あまりに迫力があったので、男性はすっかり怯えてしまって、女子生徒たちのなすがままになった。

「あ、あの……お姉さん方、私、次で降りますので、どうか、これくらいで……ご勘弁ください」
 男性は卑屈な口調で、女子高生たちに懇願する。
「そう、僕ちゃん、次で降りちゃうの……」
 そう言いながら、菜々緒は腕を下に降ろしてもぞもぞし始める。
「ああああ……」
「さて、可愛い息子ちゃんはどこかしら……」
「や、やめて……お願い……」
「やめてじゃないだろ、触って欲しいくせに」
 そう言って正面の女子高生が、男性の両頬を挟むようにして右手でグッと握る。彼はひな鳥が喘ぐような口の形になって、涙目でパクパクと動かした。
「ちっちゃいなあ、小魚みたいだね」
 菜々緒がそう言うと、他の女子生徒たちも、「どれどれ」とかわるがわる手を下ろして彼のズボンから下半身を引っ張り出し、いじり始める。
―――次は、いちづか、市塚……派遣センター前……
 電車が減速を始めた頃、菜々緒たちからようやく解放された男性は、「す、すみません……」と自分を痴漢した女子高生たちに頭を下げ、逃げるようにその場を離れた。則夫は、そばの浅田恭子に、「僕、ちょっとここで降りますので、すみません、チーム長に少し遅れますって、お願いします」と言付けた。
―――いちづか、市塚です……
 顔色を悪くした男性に、則夫は、「大丈夫ですか」と声を掛けると、彼を抱きかかえるようにして、電車を降りた。ホームを渡った正面にあるベンチに二人して腰掛ける。
「大丈夫ですか……」ともう一度声を掛けると、「はい……大丈夫です、すみません……ありがとうございます」と彼は気を取り直したようにして言った。
「すみません、彼女たち、うちの生徒でして……」
「あ、先生ですか……」
「ええ、非常勤で赴任したばかりなんですが……」
「そうですか……じゃあ、知らないかもしれないけれど、彼女たちには逆らわない方がいいですよ……」
「はい、知ってます。うちの学校の理事長の娘の杉崎菜々緒です」
「ああ、ご存じなんですね……」
「はい、でもどうして、あなたがそんなことを知ってるんですか?」
「女子高の理事長は、派遣センターの役員さんでもありますから。有名ですよ。この界隈でお仕事をいただくには、とにかく女性には逆らってはいけないんです」
「はあ……」
 則夫には男性の言葉が、妙に現実的で身にしみた。
「すみません、ご心配掛けちゃって、もう大丈夫ですから……じゃあ、失礼します」
 彼は立ち上がると、服の乱れを確認して直し、則夫に一礼して、改札の方へ歩いて行った。

☆ 二

 則夫がコールセンターのオフィスフロアに到着した頃、チームでは朝礼が終わろうとしていた。
「す、すみません……申し訳ありません……」
 謝りながらチームのデスクに向かう。
「どうしました?」
 チーム長の長岡雅美ながおかまさみが小池則夫に聞く。二十六歳の彼女が、切れ長の眼差しで直立不動の彼を見据えて言う。
「あ、はい」
 則夫は、さきほど電車で一緒になった同僚の浅田恭子の方をチラと見る。
―――うまく、伝えてくれてないんだろうか……
「聞きました。男の人連れて、一緒に降りたんですって?」
「あ、はい……」
 チームは、彼以外女性が五人。女性ばかりの前で、逆痴漢のことを自分の口からはどうにもいいだせなかった。
「すみません、彼が、その、気分が悪そうだったもので……」
「お知り合い?」
「……い、いえ……そう言うわけでは……」
「ずいぶんと博愛精神に富んでいるんですね……そんな余裕がおあり? まだ研修中のご身分で」
 一回り以上も年下の彼女に、たっぷりと嫌みを言われ、則夫はめげそうになったが、ただただ謝る以外になかった。
「す、すみません……今後、気をつけます……」
「お願いしますよ」
「はい……申し訳ありません……」
「じゃあ、朝礼は終わります。皆さん、今日も一日頑張って、よろしく……小池さんは行きましょうか」
 純白のスーツに身を包んだ彼女は則夫を連れて、広大なフロアを横切り、小さな別室へ入っていく。研修用の特別室だ。十畳ほどの部屋には中央に電話機とノートパソコンが置かれた机があって、そこに二人は向かい合って腰掛ける。
「基本的なことは、もう大丈夫かしら? 今日から実践やってくけど」
 肩までのふわりとした髪型。涼しげな目許は、ハンサムレディーといった印象を抱かせる。
「は、はい……たぶん……」
「たぶん? 大丈夫なの? そんな自信なさげで」
「は、はい……なんとか、やらせていただきます、どうかよろしくお願いします……」
 則夫はおどおどした調子で、チーム長の長岡雅美にうやうやしく頭を下げる。
「じゃあ、やってみようか。フロアじゃヘッドセット着けて全部パソコンでやるんだけど、ここはアナログでいくね。しゃべり方とか対応力見るから」
 雅美はそう言って、紙の電話番号リストを彼に渡す。
「は、はい……」
 則夫はリストの一番上の電話番号を押す。
「間違えないようにね」
「はい……」
 女性の声が出る。若妻といった雰囲気だ。
「あ、お忙しいところすみません……私、○○化粧品の小池と申しますが、奥様でいらっしゃいますでしょうか……」
―――あ、いいです、セールスだったら……
「あ、はい、すみません……」
 すぐに電話は切られた。
「なに、それ?」
 雅美が則夫を蔑むような目で厳しく見つめる。
「もっとはっきりしゃべんなさいよ……そんな言い方じゃ、会社や大事な商品までがいい加減なものに聞こえるでしょ……」
「は、はいっ……すみません……」
 雅美の激しい剣幕に、則夫はたじたじになる。さすがは若くして、チーム長になっているだけはある。
「それからさ、すぐに引き下がるんじゃないわよ、『あ、はい、すみませんっ』て。そんなので注文取れるはずないでしょっ……」
 腕を組んで厳しく注意する。
「はい……」
「次、かけて」
「はいっ」
 則夫は次の番号を回す。やはり若い主婦らしき女性が出る。
「あ、お忙しいところすみません……私、○○化粧品の小池と申しますが、奥様でいらっしゃいますでしょうか……」
 さっきよりは、滑舌を意識してしゃべるが、結果は同じだった。
「次、どんどんやって」
 雅美は則夫にそう命じると席を立ち、灰皿を持ってきて、タバコに火を着ける。十件、二十件かけても、商品説明まで行き着かない。泣きそうになる則夫に、タバコの煙が吐きつけられる。
「なに、休憩してんのよ。続けて、どんどん」
「は、はい……」
 さらに、二十件ほどかけたところで、雅美が止める。反応は依然としてゼロだ。
「甘くないでしょ?」
 何本目かのタバコを灰皿で揉み消しながら言う。
「は、はい……」
 則夫は泣きそうな声を出す。
「朝から遅刻してる場合じゃないでしょ? 人助けできるような身分なの?」
 また蒸し返すのかと思いつつも則夫は「はい……すみませんでした……」と言うしかなかった。
「一件とれるまで、この研修終わらないからね。いい?」
「は、はい……」
 則夫の目から涙があふれるのを確認すると雅美が席から立ち上がった。
「あんたさあ……」
 近づいていって、則夫の胸ぐらをつかみ上げる。
「涙流すくらいなら、最初からきちんとやってよっ」
 そう言って、右手で彼の頬を強く張った。
「あううっ、すみませんっ」
 則夫は涙を飛び散らして謝る。体は女性上司への恐怖で震えている。
―――まさか、手を挙げられるとは思わなかった。個室で指導するというのはそう言うことだったのか……
「続けなさいっ。そのリスト全部。商品説明に行くまでは、昼休みもなしだからねっ」
 そう言い残すと、雅美は席を立って部屋を出た。トイレに入ると下半身がすっかり濡れそぼっているのを確認する。そしてショーツを降ろして、便座に腰掛けると、その潤った秘部に自身の指を入れる。四十過ぎの男が自分に怯えて流す涙を思い出しながら、雅美は自慰にふける。
―――あああ……ああいう男を見てると、徹底的にいたぶってあげたくなるわ……

☆ 三

 ようやく地獄の研修期間は終わったものの、則夫はその日の午前中も皆の前で、こってりと雅美に絞られた。
「一日中、電話かけて、三件って、冗談のつもり? 売れって言ってんじゃないわよ。タダの試供品あげるだけなのに、どうしてそんなに断られちゃうわけ? 給料泥棒だよ、これじゃ。来月から、完全歩合にしちゃおうか? ……」
「す、すみません、そ、それでは生活が……」
「生活掛かってんだったら、もうちょっと真剣にやったらどうなの? まるでやる気が感じられないのよ……」
「申し訳ございませんっ……ど、どうか、これから頑張りますから、長岡チーム長様……どうか……」
 激しい罵声を浴びて、彼はすっかりしょげきっていた。

「大丈夫ですか……」
 隣の浅田恭子が心配そうに声を掛ける。他の女性たちは昼食へと降りていった。
「あ、はい……ありがとうございます……」
 恭子から優しく声を掛けられ、則夫は感極まってしゃくり上げる。
「拭いて」
 彼女からハンカチを渡される。
「小池さんは、大人の男性なんだから、泣いてちゃおかしいですよ」
「あ、はい……すみません……こ、これ洗ってお返ししますので」
 則夫は涙と鼻を拭いたハンカチをポケットにしまった。
「お昼、行きましょうか?」
 思わぬ恭子の提案に、則夫は泣き顔で微笑む。
「あ、はい……」

「少しずつ頑張ればいいんじゃないですか」
 ハンバーグランチを食べながら、恭子は則夫に優しく微笑んでくれる。
「は、はいっ……ありがとうございます……」
「やだ、どうしてまた泣くの? 泣き虫ですね、小池さん」
「すみません……そんなこといってくれるのは、浅田さんだけなんで……」
 則夫は恭子から借りたハンカチをポケットから取り出し涙を拭う。
「あ、あの、浅田さん、聞いてもいいですか?」
 ナポリタンを一口食べ終えて、則夫が聞く。
「はい」
「今朝も見ましたよね。電車のなかで」
「え?」
「あ、あの……派手な感じの女性が、男の人を……」
「ああ……はい……」
「うちの生徒の杉崎菜々緒たちだけかと思ってたんですが、あんなことをするのは……」
「小池さん、知らないの?」
 恭子はぽってりとした赤い唇についたソースを紙ナプキンで軽く拭って言う。
「あ、はいっ?」
「姫島線って、そういう路線なんですよ。有名です」
「そう言う路線って……」
「《逆痴漢電車》です。朝のラッシュアワーは特に……」
「そして、あの電車に乗ってくる男性は、それ覚悟のひとも多いらしいです。覚悟っていうか、半分はやられにきてるようなものね……自分たちから……」
「えええっ……」
 驚きのあまり、則夫はいったんフォークを皿に置いた。
「女性も、ほら、この路線って、S系のひとが多いでしょ。そう言うエリアだから」
「は、はあ……確かに……」
「それで、杉崎菜々緒たちも」
「彼女のところの家系なんかは、まさに女傑揃いだから、生まれ持ったものもあるかもしれない……」
「だったら、僕と一緒に降りたあの男の人も、それを承知で……」
「ええ、だから……ちょっと気まずかったんじゃないかしら、あのひとも……」
「でも、嫌がっているようにも見えましたよ……」
「さあ、どうなんでしょう……でも、知らずにあの人材派遣会社にくるひともいるでしょうからね。本当のところは分からないわ……でも彼は見かけがいかにも軟弱そうだったら、間違いなく標的になるでしょう」
 そう言って恭子は、則夫の顔をまじまじと見る。
「な、なにか? ……」
「いえ、小池さんも、お年の割りに若く見えるし、それに、なんか、かわいらしいお顔してるから……気をつけた方がいいかも……」
「そ、そんな……恭子さん……」
 則夫はつい、彼女を下の名前で呼んだ。恭子はなにも言わず微笑む。則夫はその笑顔にたちまち癒やされ、照れ隠しのようにして、残りのナポリタンを口に運ぶ。

☆ 四

―――次は、じょしこう、女子高前……
「僕、今日は次で降りますので」
 満員電車のなか、則夫は浅田恭子の耳元で言う。
「頑張ってくださいね」
 恭子の愛らしい微笑みが沈みかけていた心を少し晴れやかにしてくれた。
 今日は女子高で教師として働く日だ。女子高勤務は、コールセンターとはまた違った苦難がある。女だらけの職員室。正教員という立場をかざして、産休上がりの国語教師は則夫に厳しく当たり彼を虐めた。そして女だらけの教室には、例の菜々緒たちの不良グループがいる。ただの不良ならいいが、こちらも理事長の娘という立場を最大限に利用して、則夫を好きなようにからかい、いたぶっていた。

「今日の授業はここまでにします。宿題の方、よろしくお願いしときますね」
 則夫は教壇から女子生徒たちにそう言うと、板書を消し、戻り支度を始める。
「ちょっと、小池先生」
 声の方を向くと窓際のいちばん後ろの席から杉崎菜々緒が呼んでいる。
「はい……」
 緊張の面持ちで彼女を見る。杉崎菜々緒が手招きをする。女子生徒の手招きに、教師の方がおもむかなくてはいけないのだろうか。非常勤講師と理事長の娘。その立場の差を思い、則夫は教壇を降り、彼女の方へ向かう。
「呼んだら、すぐにきなよ」
 長い黒髪を艶めかした杉崎菜々緒は机に投げ出したローファーの足で則夫の脇腹当たりを軽く蹴る。菜々緒や不良グループは上履きをダサいと思っているのか、教室内でも革靴を履いていることがあった。
「ああっ……ご、ごめんなさい……」
 則夫は彼女や彼女の取り巻きの前で、そんな卑屈なセリフを言い、怯えた態度をとったことに、少し後悔した。立場を自ら決定的にしたようなものだったからだ。
 セーラー服の胸元には赤い大きなリボンタイがあしらわれていて、菜々緒はそれをいじりながら、則夫に命令を下す。
「お昼買ってきてよ、ウチらの」
「え……」
 則夫がうろたえていると、他の女子生徒が、「いいの? 菜々緒ちゃんに逆らって。あんた非常勤なんでしょ」と言った。
「カバン取って」
 菜々緒は机の脇を顎で指す。則夫は屈辱にまみれながら、それを取ろうとする。
「返事はっ」
 お尻に衝撃が走る。
「あっ、はいっ」
 後ろから他の女生徒がローファーで蹴ったのだ。菜々緒以外の生徒にも暴力を振るわれたことに則夫は動揺する。
「なかに財布入ってるから」
 則夫はカバンのなかから高校生には似つかわしくないブランドものの本革財布を取り出すと菜々緒に渡した。彼女はそのなかから高額紙幣を一枚取り出し、彼に渡す。皆が一斉に注文を彼に言う。
「ちょ、ちょっと待ってください、書きますので」
「そう、書き取りが大切だよね。あんたも授業で言ってたじゃん」
 周りから笑い声が起こる。全員分のオーダーをメモ帳に書き留めると、菜々緒が、「小池ちゃんも好きなの買ってきな。一緒に食べようよ」
「え、……でも……」
 さすがに生徒におごってもらうのは気が引けた。
「んなこと言ってる場合なの? 遠慮しないでよ」
 菜々緒は見透かしたように言う。
「……あ、はい……いいんですか……あ、ありがとうございます」
 正直に言って嬉しかった。則夫の懐事情は、昼をたびたび我慢しなければならないほど逼迫ひっぱくしていたからだ。

「お待たせしました。すみません」
 そう言いながら則夫は売店から買ってきたパンや飲み物を女子生徒たちに配る。もちろん、菜々緒に一番最初に渡し、お釣りも戻す。
「自分のも買ってきた?」
「は、はい……ありがとうございます」
「なに買ったの?」
 他の女子に聞かれ、則夫が説明すると、「二つも買ったんだ。ひとつでいいんじゃないの? 非常勤のくせに」
 笑いが起こったが、則夫は小さな声で、「すみません……」と言うしかなかった。
「でさ、小池ちゃん、さっきなに怒られてたの? 恵子けいこ先生に」
 菜々緒がサンドウィッチの包みを開けながら聞く。用事で職員室に行ったときに、則夫が国語の正教員に激しく罵倒されていたのを目撃したのだった。
「あ、はい……先生に事前にレジュメを提出するよう言われてたのを忘れてまして」
「そうか、恵子先生の方が上司だもんね」
「年齢は小池ちゃんの方が全然上でしょ?」
「恵子先生まだ、二十代だよ」
「小池ちゃん、あんたいくつ?」
「あ、はい……四十一になります」
「いってるねえ」
「四十オーバーだとは驚きだわ」
 セーラー服姿の美女たちは、パンを頬張り、ストローでジュースを飲みながら、思い思いに好き勝手なことを言って、則夫が困惑する様子を楽しんでいた。
「食べなよ、小池も」
 菜々緒が言うと、他の女子生徒も、「食べな、小池」「小池、菜々緒ちゃんにいただきますって言うんだよ」と呼び捨てにし始めた。
「は、はい……杉崎さん、い、いただきます……」
「小池えっ、あんた、ちょっとウルウルきてない?」
 隣にいた女子生徒が言う。
「泣いてんじゃないわよ」と皆が笑う。則夫が惨めさに目に涙を浮かべようが、彼女たちは容赦がなかった。むしろ、そのことになおさら攻撃心を焚きつけられたようだった。
「週一しかないんだから授業、しっかりやんないと。恵子先生に迷惑掛けないように」
 菜々緒は、まるで彼の上司であるかのような口ぶりでそう言った。
「は、はい……気をつけます……」
「でも、週一しか授業なくて生活できるの?」と他の女子。
「説明しな」と菜々緒が嗜虐的な笑みを浮かべて言う。
「あ、は、はい……じ、実はこれ以外の日は、コールセンターの方に行ってまして……いちおう、契約社員としてですね……」
「バイト扱いでしょ? 聞いてるよ」
 菜々緒の母親はこの学校の理事長であると同時に、コールセンターを含む複数企業の幹部でもあった。姫島線沿線の学校や企業は女権企業グループの傘下にある。幹部の娘にもいろいろな情報が入っているようだ。
「バイトが見栄張ってんじゃないわよ」と取り巻きの茶髪女子が則夫の華奢な肩を突く。
「あ、はい……すみません」
 則夫は恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたいような気分だった。
 女子生徒たちは、食べ終えたカスや袋を、まだ食事中の則夫に集める。彼はそれをすぐさまゴミ箱に捨てて戻ってくる。彼のもうひとつのパンが、菜々緒の足元に置かれていた。パンの上で彼女は長い脚を組んでいる。
「小池、こっちきな」
「は、はい……」
「そこ、正座しろ」
 彼をパンの前に座らせる。取り巻きの女生徒たちが興味津々に見守る。他の女子生徒たちも異様な雰囲気に引き込まれるようにして集まってきた。
「お前、見てたでしょ、こないだの朝」
 菜々緒がローファーのつま先を則夫の眉間すれすれに近づけて言う。
「え? ……」
「ウチらが、電車の中で遊んでたときだよ」
 例の痴漢行為のことだと則夫は思った。
「あの彼と電車降りて、なにやってたの?」
「あ、は、はい……気分が悪そうにしてらしたので、大丈夫かなと思いまして……」
 則夫が怯える態度に菜々緒は自分が興奮し始めているのを感じる。
「ウチらのせいで気分が悪くなったって?」
「い、いえ……そう言う意味では……」
 則夫の額から脂汗が流れる。
「そう言う意味じゃん」
 菜々緒の黒い革ローファーのつま先が則夫の眉毛のところに触れる。
「す、すみません……」
「食事、途中でしょ。食べなよ……」
 床に直接置かれたカレーパンを則夫は見つめる。
「で、でも、もう……床に……」
「なに? 汚いから食べられないって? 小池、あんたそんな贅沢言える身分なの?」
「い、いえ……」
「ここの授業だけじゃやってけないくらい困ってんでしょ?」
「は、はい……」
「だったら、床に落ちたパンぐらい食べれるでしょ」
「で、でも、そ、それは……ちょっと……」
 大勢の教え子にしかも女生徒ばかりに見られるなかで、大人の男としてさすがにそれはできないと則夫は思った。
「そう、できない? だったらできるようにしたげようか……」
 菜々緒は冷たい笑みを浮かべ、机のなかに手を入れる。ものを探り当てるとそれを引き出す。指先が出るタイプの黒い革手袋だ。当人たちだけでなく、周囲にも緊張感が走る。女子生徒が教師に体罰を与えようとしているのだから。立場がまるで逆転している。
「歯、食いしばって」
 そう言うと、菜々緒は組んだ脚を広げ、左手を伸ばして則夫の胸元をネクタイごとつかんでひねりあげた。
「ううううっ……く、苦しいです……」
「だよね、そうやってんだから……」
 菜々緒が高二女子とは思えぬ低いトーンの声を出す。
「歯をくいしばれ」
 もう一度、そう繰り返し、則夫が言われた通りにするのを確認すると、強烈な平手打ちを彼の頬に食らわせた。それも一発で終わらせず、二発、三発、四発、五発と叩きのめした。
「ひいいいっ……ご、ごめんなさい……許してください……」
 則夫は泣き声を上げて、十七歳の教え子に許しを乞う。

小説 S女様リンチ系「逆痴漢電車」


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