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S女小説 ヴェスパ・レジーナ「男を壊す女たち」


S女小説 ヴェスパ・レジーナ「男を壊す女たち」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

第一章 美人社長の残酷な鞭打ち

第二章 美貌マネージャーの恫喝

第三章 魅惑の美人店長は隠れS

第四章 女性幹部達による逆輪姦

第五章 社長の娘はJKクイーン

第六章 妙齢の女性上司に犯され

華奢で童顔のバイト男が、アパレル会社の美人上司達に、虐待指導される悲劇

万年フリーターである雛形透(40)は、コンビニのバイト先で知り合った白石希美(20)の紹介で、ヴェスパ・レジーナ(女王蜂)というブランド名を持つ婦人服のアパレル会社へ面接へ赴いた。この春、希美が就職した会社で、彼女の叔母が社長を務めているのだった。マダムやヤングマダムをターゲットとする同社スタッフは、商品モデルを兼任することもあって、長身美女揃い。むろん希美もその一人であった。美人統括マネージャーによる一次面接を経て、チーフデザイナーと社長を兼任するカリスマの麗人、真宮和美(36)との面接に臨んだ透は、幸運なことに、その場でバイト採用。すぐさま感謝のメッセージを希美に送り喜びに浸っていたのも、しかし束の間。翌日の出社から、いきなり現実の厳しさを思い知らされることになるのだった。

本文サンプル

プロローグ

「長いことお疲れさまでした」
雛形ひながたとおるは、一緒にコンビニを出た白石希美のぞみねぎらった。二人は、この店でアルバイトをする同僚だった。店は経営者の事情で昨日閉店し、今日の片付けが最後の仕事となった。
「こちらこそ、お世話になりました」
 短大生の希美もかしこまった仕草で頭を下げた。来春に卒業を控えた二十歳は、つぶらな瞳が魅力的で、まだどこかあどけなさを残す色白の美女だった。
 透が一年前にアルバイトとして入ったこのコンビニに、半年遅れて入ってきたのが希美だった。その美しさと可憐さ、そして快活さに一目惚れしてしまった透だが、四十歳の独身フリーターにとって希美はあまりにまばゆく手の届かぬ存在に思えた。告白する勇気などとてもない。それでも、このまま別れてしまうのはあまりにも名残惜しく、勇気を振り絞ってみる。
「あのぅ……よかったら、少しお茶でもしませんか?」
「え?」
 短大生は、唐突な提案に驚いた表情を見せた。
「あ、いや……ごめんなさい……」
 思わず目を伏せる。最後だからとはいえ、自分のような者がこんな若くて美しい女性を誘うなんて、やはり無謀すぎた。身の程を知らなくては。
「……ああ、お茶、いいですよ。行きましょう」希美は腕時計を見て言った。「友だちと待ち合わせてて、まだ時間が少しあるから」
「あ、ホントに……」
 ついでだってかまわない。勇気を出して誘ってよかった。顔があからさまにほころぶのをこらえる。確か、駅前に新しい喫茶店ができていたはずだ。

「これから、どうするんですか。雛形さん」
 希美の形の良い唇が、タピオカドリンクを太いストローで吸い上げる。
「また、次のコンビニ探さないと」
「ふふっ、好きですね、コンビニ」
「いまはもうこれしかできませんから……」透はため息交じりに自虐的な笑みを浮かべる。「まあ、コンビニって経営者次第だけど」
「確かに……でも、いいオーナーのお店ほど潰れちゃいません?」
「それは言えますね。経営は厳しくなくっちゃいけないってことかな」
「お店をうまく回すには、飴と鞭を使って、いかにアルバイトをこきつかうかってことじゃないですか」
「なるほど……鋭いなぁ」希美の洞察に感心しながら、熱い珈琲を啜る。「で、希美ちゃんは? ……どうするんですか?」
「微妙ですね。卒業まで半年切っちゃってるし……いまから新しいバイト探すのもなんだし、少しのんびりしちゃおうかな」
「いいなぁ、うらやましい限りです……就職のほうは?」
「ええ。アパレル系の会社に、決まりました」
「おめでとうございます! ……学校じゃそういうのを専門に勉強していたの?」
 考えてみれば仕事以外にあまり話したことがなかったので、希美のプライベートをほとんど何も知らなかった。
「生活デザイン学科で、服飾専攻です」
「じゃあ、服のデザインとか?」
「そうですね。自分でデザインして、それを販売するみたいな」
「凄いね!」
「それが夢というか目標ですね。実は社長が叔母で、彼女自身がこの会社の現役デザイナーなんです」
「へえ……それは素晴らしい」
「ええ……でも、要はコネ入社ですよ」そう言って希美は悪戯っぽく微笑んだ。「雛形さんは……独身?」
「……にしか見えないでしょ。甲斐性無しですから……」
 独身どころかこの年になるまで童貞である。小学校の体育の時間以来、女性とは手をつないだことすらなかった。
「自由でいいじゃないですか」
「それって褒められてるのかな……」
 苦笑いする透を見て、希美も笑った。その嫌みのない笑顔がまたチャーミングでたまらない。
「もちろん、褒め言葉ですよ……」
 たわいもない会話をしているうちに、すぐに半時間ほどが経ってしまった。
「……あ、そろそろ行かなくちゃ……ごめんなさい……」
 希美が申し訳なさそうに言う。
「あ、いえ、とんでもない……ありがとうございます。すみません、つきあわせちゃって」
「いいえ。じゃ、新しいバイト探し頑張ってください。また、いつか会えたら、お茶しましょ」
「うん、ぜひ……あの……もし……よかったら……電話番号、交換できませんか……」
 思い切って聞いてみる。
「あ、そうだよね。LINEでいい? ですか」
「も、もちろん……ど、どうやるんだっけ……」
「ふるふるすればいいんですよ」
 携帯電話をスマートフォンに替えたばかりの透は、希美の指南を受けながら、彼女とつながることに成功したのだった。上出来だ。

 その晩、ビールのほろ酔いに任せて、さっそく希美にメッセージを打ってみる。
『こんばんは、雛形です。今日は、ありがとうございました。考えてみたら、希美ちゃんとプライベートの話なんてまったくしたことなかったから、最後にいい記念になりました。また機会があったら、ぜひお話しさせてください』
 一時間ほどして、返事があった。
『こちらこそ。またよろしくお願いします』
 続けて、パンダのおやすみスタンプが送られてきた。
 透も慌ててスタンプを探し、おやすみを返信する。

 次にメッセージを送ったのは、二週間後だ。
『ようやく、次のコンビニが決まりました。今度の店長も優しそうな感じです。潰れないことを祈って(笑)、頑張ります』
 それに対する希美の返事は、おめでとうのスタンプだけだった。
 透は気落ちする。
――やっぱり、迷惑なのかな……
 あんな若い美女が、少しの間だけでも四十のオヤジをまともに相手をしてくれたことに感謝すべきなのかもしれない。

 とはいえ、春になると、やはり気になってついメッセージを送ってみた。
『いよいよ、社会人スタートですね。正社員としてのご活躍、お祈りしています。万年バイトの身分としては、うらやましい限りです』
 送ったあとで、ちょっと卑屈な文面だったかと後悔する。
 その夜は、返信がなく、もうここまでにしようと諦めていたところ、翌日になってメッセージがあった。
『ありがとうございます。雛形さんもお身体に気をつけて頑張ってください。私も夢に向かって励みます』
 その夢は何なのか尋ねようとして、止めた。
――しつこいよな。こんなやりとりを続けたところで、彼女とどうにかなれるわけでもない……
 今のところ付き合ってくれてはいるものの、本当のところは迷惑がられているのではないだろうか。
 そうとはいえ、やはり、ひと月ほどして、いてもたってもいられなくなり、あまり飲めない酒を無理やり飲んだ後、メッセージを打ってしまった。
『お仕事、順調ですか? 僕の方は、なかなかハードです。店長は優しいのですが、その奥さんがお店に出てくるようになって、彼女に叱られてばかりです。すみません、泣き言になっちゃって』
 数日経っても返事はなかった。透は送ったメッセージを読み返して、後悔する。
――酔っ払っていたとはいえ、どうして、こんな情けない文章を送ってしまったのか……
 激しい自己嫌悪に陥り、もう二度とメッセージは送るまい、彼女の人生の邪魔になるようなことはしないと誓った。

 それから、四ヶ月後、九月も終わり、もはや白石希美のことを忘れかけていた頃、スマートフォンに一件のメッセージが入った。希美からだった。
『雛形さん、お元気ですか? 白石です。突然ですが、うちの会社でアルバイトを募集しています。よかったら、面接を受けてみませんか? 私からも推薦させていただきますので』

第一章 美人社長の残酷な鞭打ち

☆ 一

 白石希美が勤める《ヴェスパ・レジーナ》は、三十代から四十代の女性をメインターゲットとしたアパレルショップ運営会社だった。ショップのブランドネームがそのまま社名となっている。関東を中心に全国主要都市に店舗を持ち、これから海外展開も視野に入れた勢いのある企業だ。ヴェスパ・レジーナは、イタリア語で《女王蜂》を意味するらしい。なるほど、マダムやキャリアウーマンの服飾ブランドにはそぐわしい名前だ。
 透の面接は青山にある東京本社で行われた。
「はじめまして、統括マネージャーの桐野きりのです。私が面接を担当させていただきます」
 長い黒髪の女性は言った。年の頃は、三十代前半だろうか。複雑な模様が描かれたセピア調のスーツは、アパレル業種のエグゼクティブにふさわしい印象だ。
「ひ、雛形です。はじめまして。どうぞ、よろしくお願いいたします」
 透は女性の品格や服装の華麗さに圧倒され、貧相な自分がみすぼらしく思われているのではないかと、顔を火照らせた。
 女性は履歴書を手に取って、透に質問しながら内容を一通り確認していった。
「ここのところは、ずっとコンビニが続いてますね」
「あ、はい。でもその昔はいろいろ、清掃や運転も……やっておりました……」
 彼女のクールな口調や印象のせいか、まるで女刑事に取り調べを受けているような錯覚を覚える。
「ところで、雛形さんは、当社でどんな役割を果たしたいですか?」
「え、あああ……」
 突如、重たい質問を受け、透は言葉に窮する。白石希美に誘われるままに応募したアルバイトであった。そのようなことは考えてもみなかった。とりあえず、鬼のように厳しいコンビニオーナー夫人の元から逃げ出したかっただけだ。
「どうですか?」
 女性は、まっすぐに透を見つめる。
「……あ、は、はい……」何か答えねばと一心に考えを巡らす。「じょ、女性が中心の職場と思いますので……それをぜ、全力でサポートさせていただければと……そう、考えます……」
 女性はうっすらと微笑んだ。
「分かりました……では社長にも会っていただこうと思いますので……」
 女性はタブレットを取り出して、スケジュールを確認した。一瞬、ホッとした体に、またもや緊張が走った。
「しゃ、社長に……」
 アルバイトごときに、社長面接まで必要なのだろうか。これまでたくさんの職場を渡ってきたが、社長直々に面接されたことなどなかった。

 一週間後、透は再び同社を訪れた。先週面接を担当した桐野裕子総括マネージャーが社長室へと案内し、自身は仕事場へと戻っていった。
「は、はじめまして……雛形です」
「真宮です。どうぞよろしく」
 渡された名刺には、《ヴェスパ・レジーナ 代表取締役 真宮まみや和美かずみ》とあった。思ったより若い女性だった。三十代半ばだろうか。だとすれば、透より四つ五つ年下であった。栗色のワンレングスが似合う瓜実顔の正統派美人である。なるほど白石希美と血がつながっているだけあって、どこか面差しがある。
「作文読ませていただきました」
 先週の面接終わりに、桐野マネージャーから依頼されたものであった。作文を書くために、ネットで改めてこの会社のことを調べた。このときに、ヴェスパ・レジーナが、昨年よりアジア要所のファッションブティックと提携関係を結び、海外進出を始めていること、その原動力は、代表でデザイナーでもある真宮和美の才能に基づくものであることを知った。「強く美しく」をテーマに、和のテイストを含んだ彼女独自のモードは、ヨーロッパのコレクションにも度々取り上げられていた。もちろん国内でも、積極的に美や洗練を求めるマダムやキャリアウーマンから絶大なる支持を集めていた。
 透はこのヴェスパ・レジーナの裏方として女性たちをサポートしたい旨をなるべく細かく書き記して、マネージャーの指示通り、事前にメールしたのだった。
「よく調べていただいたようですね、うちのこと」
「は、はい……でも、正直に言うと販売が中心だと思っていまして……」透は大げさに驚いた様子で言った。「自社でのデザインや製造をここまで本格的に手掛けられているとは思いませんでした」
「とはいっても、オリジナルの販売は、まだ全体の半分だけどね」
 耳、胸、腕、指と、彼女の体には、いたるところに高価であろう宝飾類が煌めいている。
「は、半分でも素晴らしいと思います……」
「うちのことよく理解して、ここに臨んでくれたことは嬉しいわ」
「は、はい……」
 透は結果を伺うように、女社長を仰ぎ見る。
「……そ、それで……雇っていただけますでしょうか……」
 透は待ちきれぬようにして、年下女性に対しては少々卑屈に響く言葉を口にした。
「うん、そうだね……えっと……ちょっと舌見せてくれる? 舌」
「え?」
「健康チェック、舌を出して。ベロ」
「あ、あい……」
 透は怪訝に思いながらも、和美社長の指示に従った。
「長く伸ばしてみて……そう、伸ばせるだけ長く」
 おかしなことをさせるものだ。しかし、言われるままにできる限り長く伸ばしてみせた。
「なるほど、大丈夫そうね。いいよ、戻して」
「……あ、はぁ……」
 透は狐につままれたような顔をして、女社長の言葉を待った。
「基本的にうちは女性しか採ってこなくて……でも、これからは男性の助けも必要だということで、募集を掛けたんだけど……あなたなら大丈夫そうね。希美の推薦ということもあるし……この場で採用決めたいと思います……アルバイトからだけど」
「あ、ありがとうございますっ」
 透は深々と頭を下げた。しかも、正社員へ登用される機会までありそうな口ぶりではないか。
「明日からさっそく、これますか?」
「あ、明日から……あ……はい……大丈夫、です」
 明日からいきなりとは想定外だったが、了承した。せっかくのチャンスだ。社長の機嫌を損ねてふいにはできない。
「とりあえずは、ここで働いてもらうから」
 女社長は床を指さして言った。
「は、はいっ……」
 社長室付けのアルバイトということか。ようやく直接社長に面接されたことへの合点がいった。

 その晩、さっそく希美にメッセージを送った。
『採用です! 明日から出社します。勤務先は本社の社長室です。ありがとうございます。希美ちゃんのおかげです』
 すぐに返事が来た。
『おめでとうございます! よかったですね』
『また同僚ですね。いや、僕はバイトだから恐れ多いですね』
『いえいえ、同じ会社の仲間としてまた一緒に頑張りましょう♪ 本社に行くことがあったら、覗いてみます』
『はいっ。これからもどうぞよろしくお願いいたします』
『こちらこそ、よろしくお願いします』
『本当にありがとうございます。また何かあったら連絡させてください』
『はーい♪』

「昨日、お話ししたとおり、当面は私のサポートをしてもらいますね」
 革張りのハイバック椅子に腰掛けた真宮和美社長が言う。
「は、はい……よろしくお願いします……」
 透は執務机の脇にしゃっちょこばって応える。
「あなた……ひょっとしてスーツそれだけ?」
 女性社長は一張羅である透のグレースーツを指して言った。面接ももちろん、これだった。
「あ、はい……すみません……」
「だいぶくたびれてるね。アルバイトとはいっても、いちおうはアパレル勤務だから。その格好でここのオフィス、出入りして欲しくないわ」
――あああ……
 そこまでは考えが及んでいなかった。コンビニやファストフードのアルバイトとは訳が違うのだ。
「新調しようか。この際、二三着。渋谷に出した新店舗でメンズ扱ってるのよ。よそのブランドだけど、スーツもいいの揃えてるから」
「え……」
「本来、割引購入は正社員にしか適用しないんだけど。特別扱いしてあげるわ」
「……あ、はい……」
 困惑するしかない。断れば、せっかくの採用がふいになるかもしれない。
――あああ……
 希美の顔が突如思い浮かぶ。
「支払いは、給料天引きで少しずつでいいからね」
「あ、ありがとうございます……」
 透は少し安心して頭を下げる。それであればなんとかなるかもしれない。
 その日は終日、社長室の隣にある資料庫の整理を命じられた。

 本社でのアルバイトを終え、社長の指示通り、渋谷の店舗へと向かう。
「はじめまして。この度、アルバイトということで、本社の方でお世話になることになりました雛形です」
「社長から聞いてます、伊藤です。どうぞよろしく」
 透を待ち受けていたのは、伊藤弘美という女性店長だった。まだ年齢は二十代半ばだろうか。エキゾチックな印象の麗人は、背が高く意志の強そうな眼差しをしている。社長が「うちのスタッフはスタイル抜群の美女揃い」と言っていた言葉に嘘はないようだ。今その姿のまま、ファッション雑誌の表紙を飾ってもなんの違和感もないほどだ。
「遅くにすみません。よろしくお願いします」
 透は長身の店長に頭を下げた。閉店後で、表の入口は閉じられており、もう客はいなかった。
「こちらこそ。スーツを新調ということで」
「ええ……そのようなことになりまして……」
「担当を紹介しますね」
 そう言って店長がオフィスの方へ声がけしようとしたところへ、若いスタッフが、「お疲れさまです」と出てきた。
「の、希美ちゃん? ……」
 一瞬分からなかったほど、髪形とメイクが洗練されていた。アルバイト時代よりずいぶんと大人びた印象だ。
「お久しぶりです」
 懐かしい笑顔に透は込み上げてくるものがあった。アルバイト時代の憂鬱を何度も救われた白石希美の笑顔だ。
 社長の言葉通り、メンズスーツに関しては、ヴェスパ・レジーナのオリジナルデザインではなかったが、厳選したブランドの品ばかりを揃えていた。
「うん、凄くいいと思いますよ、似合ってる」
 希美は姿見に映った透のスーツ姿を見て言う。同じグレースーツでも色が明るくフォルムがしっかりしている。
 さすがはブランド品だ。値段だけのことはある。生地の品質も自分の安物スーツとは雲泥の差だ。透はそう自分に言い聞かせた。
「い、いいね……さすがは希美ちゃんの見立てです……」
「靴もあるんですけど、どうします?」
 古びた靴はこのスーツに合わせるにはいかにもアンバランスだ。それに店長の伊藤弘美も見ているなか、とても断れる雰囲気ではない。この購入はきっと希美の営業成績に反映されるのだろう。彼女のためだ。彼女が喜んでくれるなら。
「あ、じゃあ、せっかくだから……」
 月賦にして給料から天引きという話だから、なんとかなるだろう。それに正社員割引にしてくれるというはずだった。
「ありがとうございますっ」
 結局、スーツの上下、シャツ、ネクタイや靴などを二セット。さらにタイピンなどのアクセサリーと合わせて、総額四十万円近い買い物となった。社員割引にしても三十万円を軽く超えた。この会社に腰を据えて働く覚悟を決めざるを得なくなった。

「うん、悪くない」社長の真宮和美は新しいスーツを着て出勤してきた透を見て微笑んだ。「さすが希美のセレクトね。よく似合ってるよ」
 和美は姪のセンスを素直に褒めた。
「あ、ありがとうございます……」
「本当は、もう一着くらい欲しいところだけどね。それはまた追々、春夏ものとかで揃えましょう」
「あ……は、い……」
「じゃあ、さっそくだけど、着替えて」
 透のために用意された机に畳んだ作業着が置いてある。
「…………」
「何?」透の不満をすばやく嗅ぎ取った和美が声を張った。「何か言いたいことがあるなら言って」

☆ 二

「せ、せっかくスーツを購入しましたので……」
「だから?」
 和美の顔が気色ばんでいくのが分かり、透は言葉を失った。
「い、いえ……」
「それ着たところであなたに接客ができるの?」
「そ、それは……できません……」
 婦人服中心のアパレル知識など皆無だ。
「最初っから説明し直さないといけないのかな……スーツを買ってもらったのは、ヨレヨレの格好で、このオフィスに出入りしてもらいたくない。ただそれだけのこと」
「あああ……は、い……」
「それに、あなたにやってもらう仕事はほとんど手や体を動かす作業だから……それともデスクワークでもしようと思ったの? そんな職歴ないじゃない」
「す、すみません……」
「うち、あなたが考えてるほど甘くないかもよ。どうする、やってけるの?」
「あ……ああ……」
 希美の困惑する顔が頭に浮かぶ。せっかく紹介してもらったのにここでリタイアしては申し訳ない。そんなことになれば、二度と彼女に合わせる顔がないだろう。それは困る。
「スーツの代金は、即金で払ってもらうけど」
 ああ……その問題の方が、より切実かもしれなかった。
「……そんな……いえ、すみません。すみませんでした……」透は慌てて作業着を手に取って頭を下げた。「どちらで着替えてきたらいいでしょうか」
「そこで着替えなさいよ。バイトのためにいちいち着替え部屋なんて用意してないから」
「あ……は、はい……」
 透は恥ずかしさを堪えながら、女社長の目の前で服を脱ぎ、淡いグリーンを帯びたグレーの作業着に着替えた。
「やっぱり、そっちの方がしっくりくるかな。あなたには。基本、掃除やってもらうからね」
「は、い……」
 社長の身辺サポートを中心に、店舗やオフィスで働く女性を支援する単純作業と聞いていたので、衣服の整理や調べ物なども想定していたのだが、甘かったようだ。結局、掃除夫のバイトとして雇われたのだ。
「まずはこの部屋の掃除。午後から出かけるから、掃除機はそのときに。私がいるあいだは、かけないでね」
 和美はまず自身の根城である社長室を完璧に掃除することから命じた。
「はいっ」
「とりあえず拭き掃除から取りかかって」
「しょ、承知しました……」
 与えられた化学雑巾を使い、埃を立てないよう注意しながら机やソファを拭き、磨いていく。さまざまなバイトで掃除の経験は豊富にあったのでそれを踏まえて社長は仕事は与えているのだろう。執務机で仕事をする和美の視線を気にしながら、作業にいそしんだ。まずは雑巾掛けからという言葉があるが、四十歳にもなってまだそんなことから始めなければならない自分が情けなくなる。しかも上司は年下の女性である。
「カタカタうるさい。音を立てずにやって」
 応接テーブルを磨く透に叱咤の声が飛ぶ。
「すみませんっ……気をつけます……」
 透は小さな声でそう言うと、より注意深く周囲にも気を配りながら作業を続けた。

「静かにやれとは言ったけど、手を抜けとはいってないよ」
 掃除の出来映えをチェックして和美は言った。意地悪な姑が嫁に対してするように、指先で拭った埃を透の目の前に突きつけた。
「掃除の経験は豊富だって、履歴書にも書いてあったよね」
「は、はい……」
「あれ、嘘なの? 詐称?」
「い、いえ、う、嘘ではありません……」
「こんなんじゃ、他もたかがしれてるよ。やり直し。最初っから」
「…………」
「何? また不満?」
「いえ、すみません……」
「言っとくけど、あたしこんな感じだから、覚悟はしてて」
「は、い……」
 確かにこれくらい厳しくなければ、浮き沈みの激しいアパレル業界を渡ってはいけないだろう。
「大丈夫? 続けれる?」
「はいっ、すみませんでした……大丈夫です……」
 透は新しい雑巾を手にすると、もう一度応接テーブルを念入りに磨いていった。

「社長、いかがでございましょうか……」
 和美のペースに完全に飲み込まれてしまった透は、彼女に取り入るような物言いを試みる。
「うん、まだ気に入らないところはあちこちあるけど、最初だから大目に見たげるわ」
「すみません……あ、ありがとうございます……」
 昨晩、彼女のことをネットで調べたところ、いくつかの媒体のインタビューに応えていて、業界で一目置かれている存在のようだった。年齢は、三十六歳。自分より四つ年下の女性に顎で使われていることが明らかになって屈辱的ではあるが、カリスマ女史の厳しい指導の下、何とも言えぬ充実感を味わい始めているのも事実だった。
 和美に連れられ、地下の駐車スペースへと移動する。
「車とバイク、洗っといて」
 女社長は、白のメルセデスと黒いハーレーダビッドソンを指して命じた。
「丁寧にやってよ。洗車バイトの経験あるって書いてあったけど、嘘じゃないよね?」
「ほ、本当です。こういった高級車の洗車も経験ありますので、おまかせ下さい、ませ……」
 ここにきて、これまでで一番厳しい上司に当たってしまったのではないだろうか。透は不安になってくるが、これまでと違うのは、その鬼上司が、とびきりの美貌とスタイルを持っているということだ。この女性ひとの下でなら、耐えきれるかもしれない。
「しっかりやって」
「かしこまりました」
 和美はヒールの音をカツカツと響かせて、職場へと戻っていった。

――こんな車には一生乗ることなどないだろう……
 透は柔らかな布で、白く大きなボディを拭き上げながら、自らの才能と努力により若くして財を成した女性に純粋な尊敬の念を抱く。
――さぞかし格好いいだろうな……
 地下の照明を受けて妖しく輝くハーレーのマフラーを磨き上げながら、革の上下を身にまといブーツを履いて跨がる彼女を想像し、鼓動を高めた。

「いかがでしょうか、真宮社長」
「うん、悪くないけど……時間掛かりすぎだね、今日一日終わっちゃったじゃない」
 車とバイクを確認した和美は言った。
「……あああ……すみません……」
 慎重になり過ぎてしまっただろうか。
「タイムイズマネーだからね」
「はいっ、気をつけますので……申し訳ありません……」
「よし、じゃあ、ご飯行こうか」
「え、あ、はい……」
 返事をしながら耳を疑った。自分のような者を食事に誘ってくれるなんて。

 ハイヤーで十五分ほど行った先に、和美が行きつけのイタリアンレストランはあった。
「入社歓迎会だね」
 そう言って和美はワイングラスを軽く掲げた。
「あ……ありがとうございます……すみません、アルバイトの私に……こんな……」
 恐縮しきりで何度も頭を下げる。
「バイトだって、一緒に夢を追う仲間だからね……私のこと真剣にサポートしてくれるんでしょ」
「も、もちろんです……」
 強いアルコールは苦手な透だが、高級ワインの口当たりの良さに驚く。これならいくらでも飲めてしまうかもしれない。
「最初にも言ったと思うけど、頑張ってくれるなら、正社員への登用も考えてるから」
「は、はいっ、頑張らせていただきます」
 口にしたことのないほど高級な酒と料理を堪能し、透はすっかり舞い上がってしまった。
「顔真っ赤にしちゃって」
「すみません、本当はお酒、ほとんど飲めないんですけど。あまりに美味しくて……」
 和美は静かな微笑みを浮かべている。
「ほら、こういうときも、きちんとしたスーツがあると便利でしょ」
「お、おっしゃるとおりです……社長の、真宮社長のご指示に従って、良かったと思っています。ありがとうございます」
 テーブルの皿に額が着きそうになるほど頭を下げる。
「ふふっ、でしょ……少しずつ、揃えていきましょう。あなたのためだから」
「は、はい……そうさせていただきます……」
 デザートを済ませ店を出ると、歩いて行ける距離のバーに少し寄った。その後、二人を乗せたタクシーは、オフィスビルへと戻った。
「あなたも一緒に降りて。もう少しやってもらいたいことがあるから」
「は、はい……」
 妙な不安を覚えたが、もはや和美の言いなりであった。
 奧のエレベータを使って、四階へと上がる。
「ああっ……」
 そこは高級ホテルのような空間だった。
 ソファを並べたラウンジスペースを抜けて、奥の部屋へと進む。
 豪勢なシャンデリアに、大きなベッドやソファ、テーブル。高台にあるため、窓からは都心の夜景が見渡せた。
「プライベートで使ってるの。一息入れたいときとかね」
 そう言う和美に白いバスローブを渡され、シャワーを浴びてくるよう命じられる。お湯を浴びながら何やら良からぬ不安に襲われる。
――いったんどういうことだろう。もう遅いし、用事があるといって、帰らせてもらおう……
 シャワーを出ると、脱いだ衣服がバケットごとなくなっているのに気づく。
――ええっ……
 受け取ったはずの白いバスローブもなかった。
――そんな……
「早く、出といで。そのままでいいから」
 腰にバスタオルを巻いて部屋に戻るとシルクの黒ガウンに身を包んだ和美がベッドに腰掛けていた。

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