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S女小説 虐めて濡れる(下)


S女小説 「虐めて濡れる(下)」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

男の弱さを悟った女たちは、彼が泣けば泣くほど、とことん追い込み弄ぶことに熱情を注ぐ。

女傑揃いのイベント会社第一課の中で、ひとり仕事が取れず立場をなくしている坂下郁夫(39)は、S女課長の江上貴子(30)から高校時代の同級生である社長を営業先として紹介される。その相手こそ、元恋人である桐谷恭子(30)であった。貴子に勝るとも劣らないサディスティンである恭子が出した発注条件は自身の飲尿命令に従うこと。無事仕事を受注することができた郁夫に、貴子ら第一課の女子たちは、上司である立場からその過程を厳しく問い詰める。男のプライドと引き換えに受注したことを郁夫の口から明らかにさせると、自分たちも同じ快感を得ようと、とことんに追い詰めていった。そんな中、新人社員の岸本麻由子(22)だけが唯一郁夫の味方であった。彼女の微笑みだけを支えに苦難を耐え忍ぶ彼の心身に、しかし、さらに厳しい試練が次から次へと襲いかかってくるのだった。

第一章 飲尿の命令

第二章 生贄の肛門

第三章 愛妻の鞭打

第四章 汚辱の人馬

第五章 決死の告白

第六章 淑女の変貌

本文サンプル

第一章 飲尿の命令

☆ 一

「では……桐谷社長……なにとぞ、よろしくお願いいたします……」
 シャワーを浴び、口をゆすいでスーツ姿に戻った坂下郁夫は、元恋人である女性社長、桐谷恭子に深々と頭を下げた。吐く息に彼女の匂いが濃く残っている。
「うん、見積りよろしくね」
 郁夫の口に尿を排した女性権力者は、にっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます……失礼いたします……」
 苦しく、惨め極まりない時間だったが、これで明日、課長の江上貴子に十分な報告ができそうだ。

 郁夫が自社に戻った頃には時計はもう十九時少し前を指していた。この時間なら、第一課のオフィスに残っているのは、新人の岸本麻由子だけだろう。
「ただいま」
「あ、おかえりなさい、坂下さん」
 ノートパソコンを前に残業をしていた麻由子がこちらを向いて愛らしい笑みを浮かべる。どんなに遅くなっても、彼女の疲れた表情は見たことがない。若さとバイタリティをうらやむと同時に、郁夫は自分も見習わなければと思う。それに、いまだに郁夫のことをさん付けで呼んでくれる課員は、彼女だけであった。課長らには、部下にさんなど着ける必要はないと言われているはずだが、二十近く年上の男をくん呼ばわりするのにはさすがに抵抗があるのかもしれない。いや、彼女生来の優しさからだろうと思いたい。
「あ、岸本、さん……岸本さんに頼まれてた資料のコピー、まだなんだけど、いまからすぐにやるので……」
「ああ、大丈夫ですよ、あれ、明日でも」
「ホントに? 助かります……怖い女性ひとたちの分を急いでやらなくちゃならないから……ハハ……」
 郁夫は隣の空席を見やって、麻由子に苦笑いをみせた。
「あれ? なんかいいことありました?」
「え、どうして?」
「なんかぁ……雰囲気がいつもと違いますもん、いいことあったでしょ」
「うん、実を言うとね……」
 郁夫は、桐谷恭子の会社のイベント受注がほぼ確定的であることを、顔をほころばせて話した。
「凄い! やったじゃないですか、おめでとうございます」
 拍手をして我がごとのように喜んでくれる麻由子を郁夫は心から愛おしく思った。
「あ、あと……あれ、ありがとうね……」
「え?」
「ほら、忘年会のとき……真山さんの役職、こっそり教えてくれたこと……」
 口パクで『リーダー』と示してくれたのが麻由子だった。
「ああ、いえ……あのときは、ホントに危ないと思ったから」
 郁夫が彼女の役職を思い出して口にしなければ、真山由香里リーダーに土足で顔を蹴られるところだったのだ。
「あんな大柄な人にやられてたらと思うと、ゾッとするよ」
 と、そのとき、廊下から複数のヒール音が響いてきた。
――ああ……
 郁夫の背筋に冷たいものが走り、麻由子はパソコン作業に戻る。

 オフィスに入ってきたのは、江上貴子課長だった。側近の宮本真理恵係長、真山由香里リーダーも続いて入室してきた。
「お、お疲れさまです……」
 打ち合わせがてら食事でもしてきたのだろう。三人とも少し、酒が入っているようだ。頬をかすかに染め、アルコールの呼気を漂わせている。皆、郁夫の挨拶を無視して、それぞれの席に着き、パソコンを立ち上げ、仕事を始める。郁夫も二人の側近から頼まれていた作業に急ぎ取りかかった。
「どうだったの?」十分ほどして、江上貴子課長が、パソコンに目をやったまま唐突に言った。「ねぇ、坂下」
「あ……は、はいっ……」郁夫は慌てて席を立ち、九つ年下の美人課長のデスクへ向かった。「あ、桐谷社長の案件でしょうか?」
「それしかないでしょ、あんたが持ってる案件は。頭おかしいの?」
 口元にはかすかに嘲笑が浮かんでいるが、目は笑っていない。
「す、すみません……」
「というかさぁ……あたしが戻ってきたら、まず、その報告でしょう……言わなかったら、しないつもりだったわけ?」
 貴子は美しい顔をゆがめて、苦々しそうに言った。
「い、いえ……そんなことはありません……い、いまは、お忙しいかとばかり……」
 郁夫はあたふたして言う。
「へぇ、じゃ、あたしのせいなんだ」
 貴子は机に置いてある革手袋を苛立たしそうに取り、装着し始める。
「ち、違いますっ……も、申しわけありません……」
 慌てて何度も頭を下げた。
「おかしいよ、坂下、お前、やっぱり」
 鬼女課長がため息交じりに言う。
 側近の二人、宮本真理恵、真山由香里が仕事の手を止めて、郁夫を注視している。新人の岸本麻由子だけは、ときおり目線をこちらへ投げながらもパソコン画面に集中を戻そうとしている。
「すみませんっ……」
「そんなのばっかじゃない、あんた。口で言っても分かんないってことでしょ」
 貴子は革手袋を嵌め終えた両手を開いたり握ったりしている。
「か、課長……」
「もう、手袋嵌めちゃったんだからさ、覚悟決めなよ」
 貴子は椅子を後ろへ引き、九十度回転させて郁夫のほうを向いた。
「……あああ……は、い……」
 皆の前で、殴られるのはもはや免れないようだ。主任の二人がいないだけでも幸運と思うべきなのかもしれない。
「あたしに立たせるの? いいけど、手加減なしでいくよ」
「あ、い、いえ……」
 手加減なしという言葉に恐れをなし、郁夫はサンダルを脱いで貴子の前に膝立ちする。
「いい加減にしないと、坂下、お前」
 貴子の左手が伸びてきて郁夫のネクタイをつかみ上げる。
――くうううっ……
 岸本麻由子が心配そうな目で一瞬こちらを見た。なんとか耐えて、悲鳴だけは上げないようにしよう。
「いくよ」
 革手が高く上がったのを見て、郁夫は歯を食いしばった。
――パーン……
「あううっ……」
――パーンッ……
「うがっ……」
――パーン……
「ぐおおっ……」
 静寂のオフィスに、革の掌が頬を打つ音がこだまする。引き上げられていたネクタイが緩められ、郁夫はうなだれる。なんとか悲鳴を上げずにすんだが、にじむ涙を堪えることはできなかった。
「す、すみませんでした……」
「謝るんなら、こっちしっかり見なよ」
 貴子の革手が顎をつかんで引き上げる。
「……は、い……申しわけありません……」
 郁夫が見上げた視線の先には、自信に満ちた美貌がこちらをじっと見下ろしている。
「上司が忙しいなんて、勝手に判断するんじゃないよ。先にひと声掛けないから、痛い目に遭うんだろうが」
「は、はいっ、すみません……」
「すぐに手を抜こうとするだろ、お前。楽なほう、楽なほうに行こうとして」
「はい、課長の仰るとおりです……」
 貴子の顔色がサッと変わり、いきなり強烈な平手打ちが再度郁夫の頬を捉える。
「がううっ、きひいいっ……」
 予想しない一撃に思わず悲鳴を上げてしまう。
「適当な返事してんじゃないよっ」
「も、申しわけございませんっ……課長……」
 郁夫は怯えきった目で、貴子を見上げる。恐怖で膝がガクガクと震えている。
 貴子はその様子を見て微笑む。気が晴れたという表情をして、首を少し回し、脚を組み直した。
「で? どうだったの」
「あ、は、はい……」郁夫はパニックになっていた頭を落ち着けるべく、一度深呼吸をする。「…………い、一応、ほぼうち一本に絞って発注いただけることは間違いありませんで……見積もりを提出するよう言われました……」
「そんなの、最初っから分かってたことでしょ。あたしにはそういう口ぶりだったよ」
「そ、それが……相見積もりのお考えも少しお持ちでしたようで……」
 郁夫は、口答えにならないよう、言葉に気をつけながら言う。
「そう……じゃあ、それが坂下、あんたの営業努力によって、うち一本に仕向けることができたと……そう言いたいわけね」
「あ、は、はい……ま、まあ……」
 久々に手柄を報告することができそうな流れに、郁夫は淡い期待を抱く。今日は、このくらいで許してもらえないだろうか。
「どうやって口説き落としたの? ぜひ聞かせてもらいたいわ」
「そ、それは……昔のよしみもありましたので……」
「いや、恭子は、あなたが元カレだったからって理由だけで、温情示すような甘い女性じゃないわ」
 側近の二人と麻由子が、驚いた様子を見せる。郁夫と恭子がかつて恋人同士だったことは、貴子以外は知らなかったはずだ。
――あああ……
 とてつもなく悪い予感がする。
「それは、あなたが一番よく分かっているでしょう?」
 たしかに貴子課長の言うとおりだった。女子大生時代から抜け目がなかったが、久々に再会した恭子は、クールさに一段と磨きがかかっている印象だった。
「は、はい……それは……」
「だったらなに? どうやって恭子を落としたの? 聞かせてよ」
「あ、あの……課長……あ、あとで、ご報告という形では駄目でしょうか?」
 郁夫は恐る恐る伺いを立ててみる。
 貴子の拳が、机をドンと叩く。まだ革手袋を嵌めたままだ。
「いまここで話して聞かせろって言ってんのよ、あたしがっ」
「ひっ、はっ、はいっ……」
 麻由子の前でまたもや悲鳴を上げてしまい、郁夫は赤面する。
 しかし、どう言えばいいのだろう。まさか、本当のことを話すわけにはいかない。仕事欲しさに恭子社長のおしっこを飲んだなんて皆のいる前でとても口にできない。

☆ 二

「ねえ、聞かせてって。どうやって、恭子からいい返事引き出したの?」
 そもそも、当社一本に決まっている話だと言って恭子を紹介したのは、貴子課長、あなたではなかったか。郁夫は貴子の執拗さをいぶかしんだ。だが、上司の質問には応えなければならない。
「あああ……はい……なんといいますか、それは、もう、とにかくこちらの誠意とやる気をお見せして……」
「だから、それをどうやって見せたのかって」
 貴子がカツンとヒールを踏みならした。
「ひっ」郁夫は顔を引きつらせる。「……あ、はい……あ、頭を下げました。何度も……」
「どんなふうに? 普通に頭下げたくらいじゃ、いい返事しないと思うけど、彼女」
 おおかた予想はついているのだろう。もはやごまかせないと思った。
「は、はい……床に手をついて……お願いしました……」
「元カノに……」貴子は身を乗り出して、郁夫の顎をつまみ上げる。「土下座したの……お仕事くださいって」
「は、はい……」
 斜め前に座っている宮本真理恵係長が「ふふっ」と笑った。「課長、実際にやってもらったらどうですか?」
「いいかもね……どう思う? 真山」
 貴子は真理恵の向かいの真山由香里リーダーにも意見を求めた。
「ええ、見てみたいです……いつも、あたしたちが教えるばっかりだから」
「そうだね。たまには、坂下さんから教わるのもいいかもね」貴子が赤い唇の端に笑みを浮かべる。「大ベテランの男性社員さんがどうやって仕事をとってくるのか」
「か、課長……どうか……ご勘弁を……」
「え?」貴子は耳に手を当て、よく聞こえないふりをする。「ああ、ここじゃ狭いって……じゃ、会議室行こうよ」
「課長、すみません」
 密かに帰り支度をしていた麻由子が立ち上がる。
「あなたもだよ、一緒に教わらないと……坂下の貴重な営業手法を」
「そ、それが……ちょっとさっきから具合が悪くて……」
 小首をかしげる貴子に、「すみません……課長、ちょっと始まっちゃったみたいで……」
 麻由子は恥ずかしそうに、生理による体調不良を申告した。
「ああ、そう……じゃ、しょうがないね、今回は。早く帰って、ゆっくり休みな」
「はい、ありがとうございます、すみません、皆さん」
 郁夫は麻由子がいなくなったことに胸をなで下ろした。彼女にだけは、惨めな姿を見られたくない。

 女性たちは、郁夫の背中を押して、会議室へ連行する。
「ほら、やってみせろ。どうやって恭子社長を口説き落としたのか」
 貴子が長机に軽く尻を預けて立っている。ゆるくウェーブの掛かった栗色の髪が麗しい。その両脇には宮本真理恵係長、真山由香里リーダーの二人が同様の姿勢で控えている。
「は、はい……」
 郁夫は貴子の前でオフィス用のサンダルを脱ぎ、脇に揃えて正座した。
「私を桐谷恭子と思って、やってみな」
 ブラウンのビジネスワンピースに身を包んだ貴子が一歩前に出て仁王立ちする。
「はい……き、桐谷社長様……ど、どうか、この案件を、我が社に、わたくしにお任せいただけませんでしょうか……」貴子を真っ直ぐに見上げて言う。「こ、このとおりです……」床にしっかりと額を着けて懇願した。

「顔あげな」
 その声が貴子から発せられるまで郁夫は頭を下げ続けねばならなかった。
 機嫌を伺うように、床に手を突いたまま、貴子を見上げる。
――ああ…………どうか……
 貴子の面立ちが、恭子と重なった。貴子もとてもグラマラスな女性で、背格好も近く、同類の雰囲気を持っている。
「それで……説得できたの?」
「あ、はい……」
「本当に? それだけで?」
「は、い……」
「そう……嘘ついてない? あたしに」
「い、いえ……それは……」
「誓える?」
「どうなんだよ」
 貴子がさらに一歩前に出て、黒いパンプスで郁夫の手の甲を踏んだ。
「うっ……あああ、ち、誓います……」
 そう言わざるを得なかった。
「そうなんだ……あたしが聞いてる話とちょっと違うんだけどなぁ」
「か、課長……」
 郁夫は思わず、貴子を仰ぎ見る。
――あああ……
 嗜虐的な笑みを見て、本当に聞いているのだと思った。
「す、すみませんっ、申しわけありませんっ……」
「なにが?」
 貴子は踏んだ手の甲を左右に踏みにじる。
「ぐあああっ……い、言います……」
「なにを?」
「じ、実は……桐谷社長様のほうから条件を出されまして……」
「どんな?」
 側近二人も、興味津々で郁夫を見つめている。彼女たちはどうやら真実を知らないようだ。
「か、課長……」
 この際、貴子のほうから言ってくれたほうが、よほど楽だろうと思ったが、鬼上司はあくまでも、郁夫自身に告白させたいようだった。
「教えてよ、早く」
 もう一方のパンプスが、反対の手の甲を踏んだ。
「ぐあああっ……い、言います……言いますのでええっ……」
 これ以上の痛みにはとても耐えられそうになかった。

「まじですか?」
「え、どういうこと?」
 宮本真理恵も真山由香里も郁夫の告白が信じられないと言った表情をしている。
「頭に入ってこなかったんだって……」貴子のパンプスが軽く郁夫の額を小突いた。「もう一回、最初っから」
「ううっ……は、い……桐谷社長様から、お、おしっこを飲むなら、仕事を与えると言われました……」
「おしっこって、あなたのおしっこ?」
 知ってか知らずか真理恵が聞く。
「ほら、よく伝わってないじゃない」
 貴子が今度は強めにこめかみを蹴った。
「うがあっ……ひいっ……すみませんっ……」
「宮本の質問に答えろよ」
「はいっ、み、宮本係長……わたしのではなくって、その……桐谷社長のおしっこを飲むならと……」
「元カノなんでしょ」
 由香里が言った。
「は、い……」
「要は、社長に出世した元カノに、仕事が欲しけりゃおしっこを飲めって言われたわけよ。彼は」
 貴子が鼻で嗤うように言うと、真理恵と由香里が汚いものを見るような視線を郁夫に送る。
――ううう……
 郁夫はいたたまれなくなり、貴子が履く黒いパンプスの爪先をじっと見つめる。
「で……なんて答えたの? お前は」
 見つめていた爪先が動いて、郁夫の顎を上向けさせた。
「うっ……」――あああ……そんな……
「言えよ、仕事いただいたんだろ?」
「はい……」
「拒否してたら、今ごろあたしにいい報告できてないはずだもんね」
「そうです……」
「今月ゼロ確定だったもんね?」
「ううう…………」
「言えよ」
 黒革の爪先があごの下をぐっと突き上げる。
「うぐあぁ……ひぃ……はいっ……の、飲むといいました……」
「そんな偉そうな言い方したの?」
「あ、いえ……お飲みします……ぜひ、飲ませてくださいと……お願いしました……」
「で、飲んだの?」
「………………」
「どうなんだよっ」
 貴子が声を荒げた。
「ひっ…………は、は、い……」
――ひゃーっ……
――うえーっ……
 側近二人が、悲鳴のような声を上げた。
「男としてのプライドないのか? お前」
「…………」
「答えろよ」
 貴子の爪先が郁夫の喉元をえぐる。
「うげっ……はい、あ、ありません……」
「だよね……あったら、そんなことできるわけないもんなぁ。いくらなんでも、男が女のおしっこを飲むなんて」
 爪先をいったん引くと頭頂部に載せて、そのまま踏みしだいた。
「あううう……」
――ゴチッ……
 額が床を叩く。
「ぎあああっ……」
「脚疲れちゃったよ。ちょっと脚置きに使わせて、お前の頭。それくらいしか使い道ないでしょ」
「ひいいっ……ううう……」
「どうした? 悔しいか? なあ」
 体重を傾けて、左右に踏みにじる。
「うごああああっ……」
「悔しいなら、人並みに仕事取って来いよ。自分の実力でさぁ。こんな目に遭うのも、全部が全部、てめぇのふがいなさだろうがっ」
 貴子は小鼻を膨らませて言う。
「ひいいいっ、はいっ、すみませんっ、仰るとおりです……」
「女の小便でも飲まないと仕事とってこれないんだろ、お前」
「…………」
「違うのかよっ」
 さらに体重を載せて踏みつける。
「うぎゃあああっ……はいっ、そうです……」
「言えよ、自分で」

「よく聞こえない。もう一回、最初っから」
「は、はい……わ、私は女性様のおしっこを飲むことでしか、仕事をとってこれない駄目社員です……どうか、第一課の皆さまで、厳しい指導をお願いいたします……」
 惨めに過ぎるセリフを十回近くいわされたところでようやく、貴子の許しが降りた。

☆ 三

 翌朝、朝礼が終わると、郁夫はすぐさま貴子のデスクに向かった。
「課長、桐谷コーポレーションさんへの見積りが仕上がりましたので、チェックをお願いします」
 家にノートパソコンを持ち帰り、夜中の三時までかけて作った見積書を渡す。
「そこ置いといて」
 貴子は高速でキーボードを叩きながら、視線をパソコン画面に向けたまま言う。
「はいっ、よろしくお願いします……失礼します」
 九歳年下の女性上司に一礼して席に戻った。

 貴子がパソコンを閉じて見積書のチェックを始めた。他の女性課員たちは皆、外出前で、それぞれ資料づくりなどの準備をしている。
「坂下」
「はいっ」
 貴子に呼ばれて、すぐに席を立って向かう。
「これ、安すぎるよ。ただでさえ、数字ないんだからさ、お前。せっかくのチャンス活かさないと。うち一本に絞ってもらってるんでしょ?」
「え……は、はい……」
「五割増しくらいでいけるよ、この内容だったら」
「あ、はぁ……」
「どうした? もっと自信持ちなよ。エガミの看板に」
「あ、はいっ、すみません……」
「お前だって、あんなことまでやらされてさぁ、割に合わないでしょ。この金額じゃ」
――あああ……
 事情を知っている側近の二人、宮本真理恵と真山由香里が同時に吹き出し、クスクスと笑う。
「どうしたんですか?」
 主任の日野圭子が聞いた。
「いや、頑張ったんだよ、坂下君」
 斜め向かいの真理恵係長が言う。
「え、なになに? どういうことですか」
 圭子が隣の由香里リーダーに聞く。
「ご本人から聞いてみて」
 郁夫の額から冷たい汗が噴き出す。
――あああ……
「そもそも、ここから値引き要求してくるかもしれないでしょ。その数字で対応できるの?」
 貴子が話を戻した。
「あ、い、いえ……すみません……」
「馬鹿、やり直せ」
 貴子は郁夫の腹を軽く小突いて言う。
「うっ、は、はいっ、承知しました。申しわけありません……」
 郁夫は見積書を引き取り、席に戻って貴子の意向に沿えるよう再計算する。午前中には、また、恭子の会社に向かわねばならない。
「なに頑張ったの?」
 隣の圭子が興味津々に聞いてくる。
「す、すみません、主任。ちょっと、急ぎの仕事でして……」
「日野、邪魔しちゃ駄目だよ」貴子が笑みを浮かべて言う。「坂下、崖っぷちなんだから」
「分かりました、じゃ、課長、行ってきます」圭子はバッグを肩に立ち上がった。「あとでゆっくり聞かせてよ」郁夫の背中を叩いて、出ていった。

「なかなか、いい値段だね。思ってたより」
 桐谷恭子は、郁夫が手渡した見積書を見て言った。
「社長、申しわけありませせん……わたくしとしては、もう少し勉強させていただきたかったんですが……社内的に、それが限度で」
「貴子が、そんなに安くするなって?」
 恭子が薄笑いを浮かべて見つめる。
「い、いえ……それは……」
「ふふっ、よほど怖いみたいね、江上課長が……あたしとどっちが怖い?」
 スティック状の豪華なイヤリングが照明に煌めいている。
「…………」
 郁夫はもはやなにも言えず、愛想笑いを浮かべるしかなかった。
「まあ、いずれ社長になるだろうからね、貴子は。逆らいようがないよね、あんたとしては。永遠の上司だもんね……ただ、あたしとしても、この数字じゃ、ちょっと納得できないな」
 郁夫は、ここへくる前、貴子に言われた言葉を思い起こす。
――基本、値引きは許さないから。どうしても折れるときは、覚悟しなよ。あたしも恭子と同じことをあんたにやってもらうから……
「あああ……社長様……」郁夫は応接ソファを降り、恭子の斜め前に跪く。「どうか、お願いします……このとおりです……」床に頭を着けて懇願した。
「……あなたさぁ、それやれば、なんとかなると思ってない? 土下座するのは勝手だけどさ。そんなのいくらの価値もないよ……ズバリ言おうか、あたしの希望額は……」
 恭子が提示した金額は、奇しくも郁夫が最初に見積もって貴子に提出した数字とほぼ同じだった。
「ああ、そ、それは……」
「ふふっ、これじゃ、とても、貴子課長に報告できないって?」
「……あああ……社長様……」
「そう顔に書いてるよ」
「まあ、貴子は昔っからの親友だし、あんたとも付き合ったことのある間柄だし……分かった。この数字でいいけど、外してたオプション項目戻してくれるかな」
 翻訳機の設置に関する部分で、リース料を計上していたが、社内の機材を利用すれば、経費は大幅に抑えることができそうだった。
「あ、は、はい……承知しました……なんとか、やらせていただきます……あ、ありがとうございます……」
「うん、あとひとつ条件」
「え……あ……は、い……」
 郁夫は落胆の表情を見せる。たしかに恭子がこれだけで済ませてくれると考えるのは甘いだろう。
「今晩付き合ってよ」

 いったん社に戻った郁夫は、妻の恵梨香にメッセージを送る。
『今日、お客さんの接待で、遅くなるから、夕食はすませてきます。ごめんなさい、急で』
 給料の激減で、彼女にはまったく頭が上がらなくなっていた。

「少し建物増えたかな」
 ホテルのレストランから夜景を見ながら、恭子が言う。
「もう、十年近くなりますので……」
 かつてクリスマスイブに一緒に訪れた場所で二人はディナーを共にしている。
「懐かしいね。プレゼント交換したよね」
「……あ、ええ……」
「そいえば、あれ、うちに置いたままだったでしょ」
 首輪のことを言っているのだと思った。
「あ、はぁ……ま、まだあるんですか……」
「あるんじゃないかなぁ、どっかに」
 別なパートナーと、また倒錯的な交際を続けているのだろうか。いまの彼女の財力があれば、きっとやりたい放題だろう。手の指を見る限り、結婚はしていないようだ。イヤリングや指輪などいかにも高価な宝飾品に身を包み、エステにもお金を掛けているのだろう。美貌に一段と磨きが掛かっている。亜麻色の髪の毛も、学生時代よりも艶が増して輝いている。特別なコンディショナーでも使っているのだろうか。
「恵梨香ちゃん、元気?」
 恭子は、肉厚のステーキにナイフを入れながら聞く。
「あ、はい……」
「家にいるんだ。専業主婦?」
「ええ、でも、私の給料が大きく下がってしまったので、来年は働きに出てもらうことになるかもしれません……そうしないともう、やっていけませんので……」
「そっかぁ、大変だね。エステティシャンとして?」
「はい、おそらく……」
「あなたも、頑張んないと、うちもなんかあるときは、お願いするつもりだから」
「はいっ、な、なにとぞ、よろしくお願いいたします」
 郁夫はいったん背筋を伸ばして元恋人に深く頭を下げた。
「奥さん知ってるの? 今日、あたしと会うって」
「い、いえ……それは……」
 今日会うことはもちろん、再会したことすら言っていない。
「知ったら、驚くだろうね」
「しゃ、社長……」
「心配しなくったって、言いやしないよ」

 食事を終えて、恭子は店のスタッフに会計をテーブルに持ってくるよう求めた。郁夫が財布を出そうとすると、「いいよ」と制した。「どうせ接待経費なんて持たされてないだろうし、家計も大変なんでしょ」
「あ、いえ……これはでも……」
「大丈夫。だけど、もう少し付き合ってよ」
「あの、あまり遅くなると妻が……」
「そう……そいえば、これ覚えてる?」
 恭子がスマホを操作して画面を見せた。
「ああっ……」
 再生される動画に映っているのは、若かりし頃の郁夫だった。女性の足の裏を懸命に舐めている。恭子の足だ。
――ああっ……
「ふふっ、かわいいね。うぶだよね」
「そ、それは……」
 そのような写真や動画は、別れたときに消去してくれていたはずではなかったか。
「恵梨香ちゃんに送ったげようか、これ。あと貴子にも」
「そ、そんな……ど、どうか……それだけは……」
「つき合えるよね、もう少し」
「あ、は、い……」
 恭子はテーブルに伝票を持ってきたスタッフに、ダブルベッドの部屋を取って、そこへデザートを持ってくるよう注文した。
――きょ、恭子さん……
 郁夫はうろたえるも、もはや、ただただ従うしかなかった。

「懐かしいね、この景色も」
 恭子は、ライトアップされた橋や夜の海を行き交う船の明かりを部屋の窓から眺めて言う。
「で、ですね……」
 応えながら、郁夫は気が気でなかった。結婚して以来、浮気はもちろん、妻以外の女性とホテルの部屋に入ったことなど一度もない。恵梨香との固い約束だ。
 部屋のチャイムが鳴り、郁夫が出る。ホテルスタッフがワゴンに乗せて持ってきたデザートのケーキとコーヒーのトレーを受け取り、窓際のテーブルの上に置いた。
「懐かしくない? これも」
 恭子は、生クリームのたっぷりかかった苺のショートケーキを見ながら言った。
――あああ……
 一緒に入ったカフェでの出来事が甦る。
「しゃ、社長……恭子さん……」
「この靴も、覚えてるよね」
 膝丈のブーツの脚を見せて言う。
――あうあ……
 よく見れば、あのとき、百貨店で郁夫がプレゼントした一足だった。

☆ 四

「トイレ、行きたいんじゃないの?」
 ケーキを前に、恭子が言う。
「あ、いえ、いまは……」
「行きたいんでしょ、行きたいよね」
「あああ……は、い……」
 恭子の強い物言いに気圧され、郁夫は仕方なくトイレへと入る。スマートフォンを取り出してチェックすると、妻の恵梨香からメッセージが入っていた。
《食事が要らないなら、前の日から言っといてもらわないと困ります》
――だから……急に決まった接待なので、仕方がなかったんだよ……
 郁夫は、ため息をついてそう返事を打とうとするも、いったん書いた文面を読み返して消した。
――だめだ……いまは耐えるしかない……彼女が会社の女子みたいに荒々しい態度に出ないだけでもありがたいと思わなくちゃ……
《ごめんなさい……給料にも反映する大事な接待が急に決まったものだから……いつもありがとう……》

 トイレから戻るとケーキの皿はテーブルから消えていた。あの日と同じだ。
「座って」
 恭子は顎で床を差して言う。ケーキの皿もそこにあった。
「は、い……」
 この部屋に足を踏み入れてしまった以上、もはや彼女の言いなりになるしかない。女王様の気が済むまで頑張って、できるだけ早く帰してもらおう。
「もう少し、こっちきて……」
 郁夫は正座の脚を擦って前に出る。
「ケーキ食べたい?」
「いえ……ああ……は、い……」
 どうせまた踏んだケーキを惨めに食べさせられるのだろう。
「そう……」
 恭子は椅子から立ち上がるとブーツの右脚を上げ、郁夫の首筋に載せた。
――ああっ……
 そのまま首根っこをぐいと踏みつけられる。
「くわっ……」――はあああ……
 ホワイトクリームのたっぷり載ったケーキが目の前に迫ってきて、思わず腕に力を込めて抵抗する。
「や、やめて……」
「食べたいんでしょ、食べなよ」
 震える腕を嘲笑うように、恭子が脚を踏み降ろした。郁夫の顔面がケーキにのめり込む。
「くぅわあああっ……むむううう……」
 繊細にデコレートされたショートケーキが一瞬にして崩壊し、大部分が郁夫の顔面に貼り付いている。
――ううう……なんて酷いことを……
 起き上がろうとする郁夫の背中に、柔らかな圧がのしかかる。恭子が跨がってきたのだ。
「あうああ……」
 首になにかが巻き付けられる。
――首輪だ……
「ようし、いいお顔、見に行こうか」

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