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S女小説「妻の下僕に堕ちるまで」

S女小説「妻の下僕に堕ちるまで」を電子書籍として出版しました。

mywife

内容紹介

可憐な若妻に下僕として仕えるに至った夫の物語。

出版会社の地方支社に勤務する会社員湯村郁夫(31)は、部署の後輩で社内アイドルだった香澄(25)と結婚。同時に香澄は寿退社するが、夫は都会生活を望む彼女のために会社に願い出て、一年後に本社へ転勤。夫婦は晴れて東京での生活を始める。夫の郁夫は新規部署に配属になるも、そこでの直属上司は地方支社時代に彼の後輩だった松井貴子(29)だった。ロサンゼルス支社から戻ったばかりの彼女に、かつて部下として寵愛を受けた香澄は再会し、影響を受ける。次第に変わっていく妻香澄にうろたえるばかりの郁夫はついに彼女の日記を盗み見し、その事実に驚愕する。

第一章 妻の日記

第二章 昂ぶる願望

第三章 下僕生活

第四章 姉妹への謝罪

第五章 女の怒り

第六章 牡犬の果て

本文サンプル

第一章 妻の日記

☆ 一

私の名前は湯村郁夫ゆむらいくお。二十二歳で大学を出て教育関連の出版会社に就職し、サラリーマンとしては、まずまずであろう人生をスタートさせました。当初半年ほどは、研修などを含めて東京にいましたが、今ひとつ都会の空気になじみきれず、郷里の地方都市にある支社への転勤を希望しておりました。会社にとってはそれがまさしく好都合だったようで、私の意向はすぐに受け入れられました。
「湯村さん、若いのに中央に残りたがらないなんて珍しいわね。だけど、正直言って助かるわ。こっちは人員過剰だったから」
私の会社の特徴は、女性が管理職に多く登用されていることでした。私の直属上司だった当時の係長もその上の課長も女性でした。社長を始め、役員の過半数が女性であることが大きな理由かと思われます。
地方支社へ転勤し、やはりそこでも上司は女性で、私はそこそこに可愛がってもらいながら、地方ならではののんびりとした空気のなか、さほど困難でもない業務をこなす毎日でした。
松井貴子まついたかこが私の部署に転勤してきたのはそれから二年後でした。彼女もこの地の出身で、私と同じ動機や流れをたどったようでした。年齢は二つ下、私の二年後輩になります。目力が強く、いかにも利発そうな美人は、国立大学出身で、モデルのように背が高くスタイルも良く、非の打ち所のないような女性でした。彼女がまだ東京での研修時に、出張で初めて見たときは、年下にもかかわらず、おいそれと声を掛けるには畏れ多いオーラを感じました。
「私の場合、別に東京が嫌いってわけじゃないんですけどね……研修で湯村さん見かけて、一目惚れしたから、追いかけてきちゃった」
そんなことが即座に言える女性でした。ウィットに富んでいて頭の回転が速い。もちろん、冗談だと分かっていましたが、彼女にそんなことを言われていい気にならない男はいないでしょう。その日から、私は松井貴子の虜になりました。まずは、仕事の面で頼りになりたく思い、彼女が困っていそうなこと、今後困りそうなことまで先回りしてサポートしていきました。
「ありがとうございます。助かるわ、湯村さん。さすがっ」
そんな風に、彼女は他人を乗せるのがうまく、そのうち、私以外にも松井貴子信者が増えていき、その手助けの波に乗るようにして、彼女はあっという間に支社の誰よりも仕事を把握し、こなせるようになりました。揚げ句、二年ほど経つ頃には、私と同じ肩書きの主任へと昇格したのです。それでも彼女は、「私がここまでこれたのは湯村さんのおかげです」と私を先輩として立て続けてくれました。
同じ頃、地元採用で入社してきたのが短大卒の植村香澄うえむら かすみでした。当時二十歳でしたが、《可憐》という形容がまさしくしっくりくる純真乙女でした。まだどこかに少女の面影すら残していました。化粧などしなくても美しい白い肌。大きな瞳にはけがれというものがまったく見当たりませんでした。一目見た瞬間身震いがするほどでした。「美しい」のナンバーワンが松井貴子なら、「可愛い」の最上級は、植村香澄でした。彼女は松井貴子の元で仕事をすることになりました。松井貴子のスキルやノウハウを直に教え込まれ、植村香澄かすみもみるみる実力をつけていきました。松井貴子は悪い虫除けの役割も果たしました。香澄ほどの社内アイドルを男子社員が放って置くわけにはいきませんが、貴子の目が届いている間は誰も手を出すことができませんでした。私にしても同じです。松井貴子がいる間は、食事に誘うことすらできませんでした。
転機が起こったのはその二年後。会社がロサンゼルスに出版拠点を出すことが決まったとき、そのコアスタッフとして白羽の矢が立ったのが、英語力も抜群な松井貴子でした。出身地であるこの地やこの支社には人一倍愛着があった彼女ですが、千載一遇の機会と異国でキャリアを高めてみたいという向上心がそれを上回ったようでした。熟慮の上、ロスへの転勤を決断しました。彼女に二年間育ててもらった香澄は涙を流して別れを惜しみました。私も涙ぐんで、彼女の最後の日を見送りました。
松井貴子が去って、私の香澄への思いはさらに強まりました。松井貴子をサポートしたように、私は自分のことは二の次になるほど、仕事の面に置いて香澄を全力で支援しました。もちろん、松井貴子の擁護から外れフリーの立場になった彼女を、周囲の男が放って置くはずはありません。私以外の幾人かと、食事や映画のデートくらいはしていたようです。私はある日、断られるのを覚悟でプロポーズしました。断られたらもうあきらめようと思っていました。
「あなた以外にも、二人からプロポーズされたわ。だけどね……床に跪いてまでしてくれたのは、郁夫さん、あなただけだったよ」
それが本当に決め手になったのかどうかは分かりませんでしたが、とにかく私は彼女と結婚したくて必死でした。その思いが伝わったのかもしれません。
松井貴子が転勤してからおよそ一年後、私は香澄と結婚しました。
時期を同じくして、松井貴子もロサンゼルスで結婚したようでした。現地のフレンチレストランでシェフをしている男性だと、はがきに書いてありました。
「へえ、さすが貴子先輩って、感じね。なんだか、すべてにおいて格好いいわ」
ファッションモデルのような服装をして、やや年配の彼氏と写真に写る貴子のはがきを見て、香澄はつぶやくように言いました。
「しかし松井姓は変わらないんだね。婿養子なのかな」
私は彼女の美貌に改めて感嘆しながら、気になったことを口にしました。

☆ 二

香澄との結婚生活は何もかもが理想通りでした。会社を寿退社し、専業主婦となった彼女は相変わらず美しく、料理も上手で、きれい好き。私も仕事が終わればすぐに帰宅し、彼女の美味しい手料理を弾む会話とともに味わう日々。二人の2LDKマンションは、幸せに包まれていました。しかし、一年後、地方都市での穏やかでのんびりした生活に終わりがきました。東京への転勤が命じられたのです。とはいっても、これは私の希望によるものでした。正確には、香澄の要望です。
「一度は、東京で生活してみたいわ……」
テーマパークや観劇、美術館など、東京には地方にはない女性の楽しみがたくさんあります。心から愛する妻の願望であれば、私が動かないわけにはいきません。また、私の方でも少し刺激を求めていた時期でしたので、二人の総意として、東京への転属志望を出しておいたのでした。一年後、東京本社で事業拡張に伴う部署の新設がありましたので、晴れてそちらに転勤となりました。私の志願は今回も会社にとって渡りに船だったようです。
東京本社に初出社の日、配置辞令が掲示され、私は驚くことになります。新設された図書設備課という部署へ配置されたのですが、そこの課長に松井貴子の名があったのです。ロサンゼルスでの引き継ぎに時間が掛かっているようで、彼女の出社は一週間後ということでした。私は帰ってさっそく妻の香澄にその話をしました。
「そうなんだ……」
彼女としても複雑な心境のようでした。自分にとっては尊敬する先輩ではあるけれど、自分の夫が元後輩で年下の彼女に使われることになるわけです。
「ま、まあ、僕はあまり気にしてないけどね。というか、彼女は優秀だし、リスペクトしてるから、一生懸命仕えさせてもらうつもりだよ」
私のその言葉を聞いて、香澄はいくぶん安心したようでした。
「うん、そうね。頑張ってね。それにしても貴子さんと同じ東京にこれから住めるなんて、嬉しいわ。たまに会えるかもしれないし」
香澄の貴子への心酔ぶりは相当なもので、私の境遇よりも、彼女との距離が縮まったことにむしろ喜びを感じている様子でした。

「湯村さん、お久しぶり」
松井貴子は初出社するなり、私にまず握手を求めてきました。彼女は自信と熱意に満ちていました。そして、舶来のスーツや装飾品を身につけた彼女の美貌は一段と磨き上げられていました。仕事が出来る大人の女性としての魅力がますます輝いていました。
「ここで頑張って三年以内にはこの課を部に昇格させたいの。そのためには、湯村さんの力が必要だわ。よろしくお願いします」
そう言って私に頭を下げてくれました。私はそれを見て、ここでも彼女を全力で支えようという気力が湧いてきました。
初日に私たちは昼食を共にしました。
「しかし、松井さん、よくロサンゼルスから帰ってこれましたね」
彼女の方が上司である限り、タメ口は終わりにしなければいけない。敬語を使わなければならない。これは、再会した瞬間からそうすると決めていました。彼女もそのことには異存はないようでした。
「うん、まあ、いろいろあって……ロサンゼルスの方もなんとか軌道に乗ってきたし、私がいなくても大丈夫かなって思って」
「旦那さんは? あっちでシェフをされてたんですよね、確か……」
「うん、それがね……」
交通事故で腕を怪我してしまい、指先を動かせなくなり、シェフを断念せざるをならなくなったとのことでした。東京に戻ってきたのはどうやら、そのことも大きな理由のようでした。
「旦那さん、いま、お仕事は?」という私の質問に、貴子さんは大きくかぶりを振りました。
「大きな子供を養ってるようなものよ」

☆ 三

「貴子さんが、遊びにおいでって、ご自宅に」
一ヶ月ほど経った我が家での夕食時、香澄が嬉しそうに言いました。二人は時折、電話で連絡を取り合っているようでした。
「え? ああ……そうなの……」
正直言ってあまり気が進みませんでした。
「僕は遠慮しとくよ。香澄ちゃん、ひとりで行っておいで」
「ええっ、どうして?」
松井貴子の部下になって、一ヶ月。彼女は海外での厳しいビジネス経験を経て、恐ろしいほどに変貌を遂げていました。かつて私の下で働いていた女性とはすでに別人でした。他の同僚の前で、彼女に叱責されることもしばしばでした。同僚はすべて女性でした。妻の香澄の前でもし、あのような態度をとられたら、と思うと私はゾッとしました。香澄に社内でのありのままを話す気にはなれませんでした。貴子さんに心酔している彼女は、私よりも彼女の方に肩入れして、私の話しぶりを伝えてしまうかもしれません。そうなると会社での私の立場はますます厳しくなります。
「会社で毎日会ってるしさ、向こうも気疲れしちゃうだろうし……」
「だって、貴子さんが二人でおいでっていってるのよ」
「社交辞令だよ。それは。いいから、君ひとりで行っといで」
私は少し投げやりぎみに言いました。
「そう……わかった」
香澄は少し気分を害したかもしれませんでしたが、私もそれを取り繕おうとは思いませんでした。休日に口うるさい上司を訪ねる暇があったら、ゆっくり寝ていたい。松井貴子に日々、急き立てられ、どやされて、私はとても疲れていました。

「どうだった?」
松井家のランチに招かれた香澄に、私は夕食時、そう問いかけました。
「うん、楽しかったよ。旦那さんも凄く優しそうな人で」
「だろうな。婿養子になってくれるくらいだし、写真通りの感じ?」
私が写真で見た限り、ロサンゼルスに単身渡りシェフとして身を立てていたにしては、少々頼りなさげに見える細身の優男やさおとこでした。身長も妻の松井貴子よりずいぶん低かったように思います。
「旦那さん、ひろしさんね、うん、見た目のままだね」
「ふうん、貴子さんは別に何も言ってなかった? 僕のこと」
「どうして?」
香澄はこれまであまり見せたことのないような意味ありげな笑みを浮かべます。
「いや、別に……」
私は困ったようにして白身魚の皿に視線を落としました。
「結構、厳しく鍛えられてるんだって? 貴子さんに」
香澄のその言葉に私はドキリとしました。
「あ……ああ……別に、そうでもないんだけど……」
「家で、落ち込んだりしてないか、気にしてたよ。貴子さん」
「あ、そう?」
私はとぼけましたが、そう妻に言ってくるくらいなら、もう少しお手柔らかに願いたいものだと思いました。

その翌々週も香澄は、松井貴子の家に遊びに行くと言いました。
「また行くの?」
「うん」
「そんなにお邪魔していいの?」
「だって、向こうがおいでって言ってくるんだから」
「香澄ちゃんだって行きたいんでしょ」
「そうだよ。なんか問題でもある?」
以前ならそんな物言いを私にすることはありませんでした。貴子さんの家に通い始めてから、彼女はどこか変わったように思いました。

「嫁がたびたびお邪魔してるようで、すみません」
私はそれまで知らぬ振りをしていたことについて上司の貴子さんに詫びました。
「いえ、私が呼んでるんだから、いいの。あなたもそのうち、一度おいでたら? 気が向いたらでいいけど」
そう言って貴子さんは微笑みました。そのとき私は、彼女に初めて《あなた》と呼ばれました。それまでは湯村さんだったのに。

「ふう、なんだか疲れちゃった」
ある日の夕食後、香澄がそう言いました。その日は、終日、買い物やら役所の用事やらで出歩いていたようでしたが、そんなセリフを今まで彼女の口から聞いたことがなかったので、意外に思いました。
「郁夫ちゃん、お皿洗ったりしないよね?」
彼女は悪戯っぽく微笑んで言いました。私のことはこれまでさんづけでしたが、そのとき初めてちゃんづけで呼ばれました。
「別にいいよ。洗うから」
休日で、ずって寝転がってましたし、もてあましていたところだったので、お安いご用とばかりに、皿洗いにいそしみました。水を触っているうちに心も少し落ち着きました。

次の週の土曜日も、妻の香澄は終日出歩いてきたようでした。
「皿、洗おうか?」
私は自ら、皿洗いを買って出ました。
「助かるわ、よろしく」
少しばかりは遠慮があるかと思いきや香澄はすぐにそう返しました。その口ぶりはどこか貴子さんに重なるところがありました。
―――あれだけしょっちゅう会ってるんだから、それは影響受けるよな……

☆ 四

その日の夜、私たち夫婦はちょっとしたことからいさかいを起こしました。テレビのチャンネル争いです。どこのカップルにもありそうなたわいのない言い争い。
「分かった。じゃ、ドラマにしよ」
折れてくれそうにない香澄に私は白旗を揚げ、スポーツ中継からチャンネルを変えました。
「もう、始まってるじゃない。毎週見てたのにぃ」
私が譲っても、彼女はふてくされた態度を変えませんでした。私はうろたえました。こんな彼女は初めてです。
「そんなにふくれないでよ。ごめんだからさ」
私は機嫌をとるようにそう言いました。
「脚揉んで」
CMが始まると彼女は唐突に言いました。
「え?」
「脚揉んでくれたら許してあげる」
少々屈辱的ではあるけれども、彼女の白くて長い脚を揉むことは、男にとって嫌なことではありません。長く一緒に暮らしている夫婦であってもそれは新鮮な体験に思われました。
「わ、わかった……やるから、許して。香澄ちゃん、お願い」
私は照れ隠しもあって、少しふざけるような調子で、彼女の脚に向かいました。
「真面目にやってよ。本当に足疲れちゃってるから」
私のそんな態度をいさめるようにして、彼女は言いました。その口ぶりの背後に、松井貴子の姿が浮かぶようでした。
「う、うん……」
本当は、はい、と返事をしなくてはならないのではないだろうか、というほどに彼女の態度はクールでした。
「ちょっと待って、ごめん」
私は気を落ち着けるためにいったんトイレに行きました。戻ってくると香澄は黙ってドラマを見ています。どこを揉んだら良いのか聞くのもはばかられるほど彼女はテレビに集中しています。私はソファの下に正座に近い形で座り、彼女の左脚のふくらはぎを下から両手で揉み始めました。学生時代にテニスをしていた彼女の脚は見た目より筋肉質でしまっていました。
「だいぶってるみたいだね」
私が言うと、「しっ」と彼女は静かにするよう言いました。脚を揉みながら無理な姿勢で、私も最初はドラマを見ていましたが、首を横に向けてテレビを見るのがきつくなり、途中から見てもよく分からなかったので、体勢を戻して考え事を始めました。
―――それにしても、貴子さんの家で彼女は何をしてるんだろう? 単におしゃべりに行ってるだけか? 確か旦那は主夫らしいけど、彼はその間は? ……
私は彼女が毎日、パソコンで日記をつけていることを思い出しました。
―――多分、貴子さんの家に行ったときのことはつけてあるだろう。なんとか、見ることはできないだろうか…………ああ、いや、簡単だ。だけど、夫婦とはいえ、日記を見るのはまずいかな……
彼女の日記を盗み見ることがさほど難しいことではないと気づいた私は、しばし好奇心と闘わなければなりませんでしたが、最終的に行動に移すことにしました。
「あと、土踏まずも、揉んでくれる? ごめんね」
脚をずっと揉ませ続けて、さすがに悪いと思ったのかCM中に香澄はそう言いました。
「ううん」と私は首を振ります。
思い浮かんだ出来心を実行する気になっていたので、むしろ彼女に罪悪感を先行させていました。
「こう?」
私はテレビを背に、彼女の足の裏に正対する格好になり、両親指で彼女の土踏まずを押します。
「うん、いいけど、頭下げてくれる。テレビ見えない」
「あ、ごめん……」
私は這いつくばるようにして、頭を伏せます。足の裏の埃をなぜるように落とし、親指を使って土踏まずを指圧します。彼女は明るいグレーのルームウェアを着ていました。下はミニスカートで股間から白い下着が見え隠れしますが、夫婦だからか気づいてないのか彼女は気にならない様子です。私の方がどぎまぎさせられました。年下妻に足の裏を揉まされているという事実のせいかもしれません。
ほどなく指が疲れてきました。こんな作業は日頃やらないので当然です。許しを得るように、彼女の顔を見上げますが、依然としてテレビに熱中しています。私の視線に気づかないことはないと思うのですが、無視されているのかもしれません。私はほどほどのところで、もう一方の足に移ります。結局、ドラマが終わり、彼女がトイレに立つまで、続けなければなりませんでした。

私たちは夫婦でひとつのパソコンを使っています。それぞれにアカウントを持っていて、パスワードを入力し、ログインして使います。ですが、私が管理者としてセットアップしたパソコンだったので、彼女のファイルは私のアカウントから見ようと思えば丸見えの状態でした。

☆ 五

翌日、彼女がまたもや松井貴子宅に出かけて行った午後、私は胸を高まらせながら、パソコンデスクに座りました。罪悪感を抱きながらも、彼女のフォルダを開き、目当てのファイル群を見つけました。それはワープロファイルで、月ごとに別れていました。几帳面な彼女らしい整理の仕方でした。
私は彼女が松井家に行った日の日記を探しました。一番最初のものが見つかりました。

一九九七年五月十二日(日)
―――
松井家にお邪魔して、貴子さんと再会。四年ぶりに会う彼女は一段と輝いて見えた。私もあんな女性になりたいと改めて思う。私たちがソファでくつろいでいるところへ、旦那さんがお茶を出してくれて、まるで主夫といった感じ。四十二歳っていってたけど、そんな年上の男性でも貴子さんにかかっては、しょうがないか……。ロサンゼルスのことなど、いろんな話をしてくれたけれど、D&Sの話が面白かった。ちょっと刺激的♪ さっきいろいろ調べてみたけど、凄い世界があるんだなあ。まだまだ私はひよっこだわ。しかし、ひょっとしてこちらの夫婦もそういう関係? はっきりは聞かなかったけれど、どうもそんな気配が。
―――

―――D&S? ……
聞いたこともないその言葉を、その場でネット検索しましたが、社名などの固有名詞が出てくるばかりで、私にはなんのことか分かりませんでした。

一九九七年五月二十六日(日)
―――
こないだお邪魔したばかりなのにまたしても松井家を訪問。貴子さんが家事のことで旦那さんを叱っていた。かなり厳しく。旦那さんも、食べさせてもらっている負い目があるのか、しゅんとしてまったくの無抵抗。怒られるまま。正直言って、ちょっと情けないって思った。旦那さん、うちの郁夫と同じで、百六十センチちょっとくらいしか身長がなくて、貴子さんは百七十センチもあるから、よけい哀れな感じ。圧倒されてるんだもん。考えてみたら、貴子さんは、郁夫の上司だから、うちのもあんなふうに叱られてんのかな。もしかして。
貴子さん、家事のことだけでは叱り足りないみたいで、私への挨拶の仕方が良くなかったって言って、旦那さんに何度もやり直しをさせた。私もどうしていいか分からないからそのまま受けた。彼の繰り返しの挨拶を。だって、貴子さんの家だから。正直言って、優越感みたいな気分は感じた。なんだろう、これ。
私たちがしゃべっている間中、旦那さんは脇で起立したまま。下がっていいとか、座っていいとか言われてないからだと思う。やはり松井家はD&Sを実践していた。DはDominance(支配)でSはSubmission(服従)。妻が夫を服従させる関係。ロサンゼルス時代の隣家がたまたまそうで、夫婦で行き来する間に感化されたらしい。基本はCFNM(クローズド・フィーメイル・ネイキッド・メイル:Clothed Female Naked Male)、つまり夫は服を着た妻の前で、裸でいなければならないってこと。私に事前にそれとなく知識だけを話したのは、反応を見て、実践しているのを見せて良いかどうか、確かめたんだと思う。おそらく。ということは、それなりの反応をしたのかな。私……。
私さえよければ、次回からは、いつもの松井家の状態で、旦那さんが裸の状態で接客するって言われたけれど、さすがにそれはちょっと考えさせてくださいって言っちゃった。いくらなんでもなあ。よその旦那さんの裸を見るのはショックが大きすぎる。パンツも履かせないっていったから、本当に全裸だもん。
―――

香澄の身長は、百六十八センチで、私は百六十二センチ。私たち夫婦の間では、身長差のことはタブー、と思っていましたが、日記には平然と書かれていました。そのことにまずショックを受けました。そして、私のことを郁夫と呼び捨てにしています。《うちの》という言い方も気になりました。書き言葉とはいえ、それもこれまでの彼女だったらありえないことでした。彼女は確実に変わってきています。いえ、松井貴子に変えられているのです。

一九九七年六月五日(水)
―――
貴子さんから電話があって、今週末のお誘い。行きますって言っちゃった。ということは旦那さんの全裸を見るってことだな。正直言って見て見たい気もしないではない。何事も経験、経験!
―――

一九九七年六月九日(日)
―――
リビングでいつものように待ってたら、旦那さんが、お茶とお菓子を運んできてくれた。うん、いつも通り。彼が服を着ていないという以外は♪ イメージできていたからか、思ったより恥ずかしくもなかったし、驚きもしなかった。彼も小ぶりね。フフッ。そう、アレの小ささを貴子さんに私の前で指摘されて、彼は恥ずかしそうな泣きそうな顔をしてた。「夫婦関係もオープンになったことだし仕事やってもらおうか、ひろし」って長い脚を組みながら貴子さん。その言い方、命令の仕方が本当にサマになってるわ。なんと彼に脚を揉ませ始めた。もちろん、旦那さん、いえ浩は、従うしかない。足の裏のツボやふくらはぎなどを一生懸命マッサージする彼を見て、けなげに感じる。「香澄さんの脚も揉んであげなさい」って言うから、私は一瞬驚いたんだけれども、せっかくの機会だし、お願いすることにした。よその旦那さんに脚揉んでもらえるなんて、まずないからね。とっても気持ちよかった。そう、揉んでもらうカラダ的な気持ちよさと、あとは精神的なこと。なんだろう、ホント。それから玄関からヒールを持ってこさせて、足に履いたままの靴磨き。敷物や磨く道具を手早く準備して、本当によく訓練されてるみたい(笑) 私のパンプスも磨いてもらった。おかげでピッカピカ。「ありがとうございます」って言ったら、貴子さんに駄目って言われた。下男にお礼なんて要らないんだって。「凄いですね、貴子さん」って言ったら、まだまだこんなものじゃないらしい。なんだか、また次が楽しみになってきた。
―――

香澄が私に脚を揉ませたのは、やはり貴子さんの影響でした。でなければ、いくら不機嫌だったとはいえ、彼女がそんなことを私にさせるはずがないのです。

その日の夜、私たちは住まいから徒歩で行けるお気に入りのレストランに出かけました。
「ひょっとして明日も行くの?」
翌日が日曜日だったので、そう尋ねてみると、「うん、言ってなかったっけ? 言ったよね」とベージュのワンピースに身を包んだ彼女は微笑んで言いました。
「あんまり頻繁にお邪魔するのもどうなの?」
「いいじゃない。お招きを受けてるんだから」
彼女は平然と私の言葉を否定するようになりました。こんなこと、地方にいた頃はありませんでした。
「僕もいっていいかしら」
私は貴子さんに以前、誘われていたことを思い出し、遠慮気味に言ってみました。
「明日は止めといた方がいいわ」
香澄は紙ナプキンで形の良い口元を拭きながら言います。
「どうして?」
「オンナだけの大事な話があるから」
貴子さんの旦那さんが全裸で彼女たちに仕えていることまでは知っています。それ以上のことを香澄が見たり体験したりすることを私は怖れました。しかし、それを無理に止めさせたりすると、日記を見たことを感づかれるかもしれません。私はもう少し様子を見ることにしました。そうするしかなさそうでした。
「煙草吸っていい?」
「え?」
私が驚く顔の前で、香澄はバッグから煙草とライターを取り出し始めています。きっぱりとしたその言い方に私はむしろうなずかされた恰好で、彼女はすかさず火をつけると吸いたくてたまらなかったとでもいうようにして即座にフッウウっと強く煙を吐きました。少し前から、彼女が煙草を吸っているだろうということには実は気づいていました。匂いで分かります。妻は近くにいたウェイトレスに灰皿を持ってきてもらいました。
「男の人の前では吸わないつもりだったんだけど、なんだか急に吸いたくなっちゃった」
私は自分が男の勘定に入ってないような気になり、少しばかりショックを覚えました。しかし彼女の煙草を持つ手のしぐさは思ったより悪くありません。むしろ格好良いと思いました。私は自分の妻が煙草が似合う女性だということに気づき、なぜか胸の鼓動を高めました。
「煙草吸う女ってどう?」
「うん、僕は全然かまわないし、むしろカッコイイとさえ思う。だけど、僕の奥さんには健康でいて欲しいから……」
「止めて欲しい?」
「う、うん、できれば……」
「やだっていったら?」
「……香澄ちゃんが、それでも吸いたいっていうんだったら……僕は、うん、止めない……」
妻は意味ありげな笑みを浮かべます。
「そんな言い方したら私が止めるとでも思った?」
「い、いや……」
クールな彼女のものいいに私は戸惑いました。
「安っぽいドラマじゃないんだからさ……」
冷静にそう言われて、私は赤面し、体が火照るのを感じます。
彼女はフーッと大きく煙を吐くと、「やっぱ、軽いのダメだなあ。元のに戻そ。美味しくないや」
副流煙と呼ばれる煙が私の方へやってきます。煙草の煙は吸わない人のところに向かってくるというのは嘘ではありません。私は軽く咳き込みました。
「それ演技? じゃない?」
妻はまるで女優のような美しい微笑みを煌めかせます。批判的めいたことを言われているにもかかわらず、私はこの時間、いま、彼女といるだけで、それだけで素晴らしいと思いました。それほどの魅惑的な笑みでした。
「で、でもやっぱり……体に良くないんじゃない?」
「妊娠したら止めるわ。子供ができるまで、いろいろ体験しておきたいの。いろんなことを」
そう言われると私は煙草のことや他のことも渋々了承するしかないように思いました。

翌日、香澄は昼の少し前に出かけていきました。行先はもちろん、貴子さん宅です。

☆ 六

香澄が外出している間、私は気が気でありませんでした。テレビをつけても見続ける気にならず、すぐにリモコンを切りました。このところ妻の外出が多いせいか、家の中が散らかりがちです。掃除機を掛け、少し片付けようかとも思いましたが、それでは彼女の思うつぼにはまってしまうと考え、止めました。ソファに腰掛け、ボーッと前を見つめていると、テレビの下の棚にビデオテープの箱が無造作に置いてあるのが目に入りました。

 

S女小説「妻の下僕に堕ちるまで」(Amazon:Kindle)

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小説 S女様リンチ系「逆痴漢電車」

小説 S女様リンチ系「逆痴漢電車」を電子書籍として出版しました。

train

内容紹介

女子高に非常勤講師として転任してきた男が女性だらけの通勤電車のなかで遭遇する逆痴漢トラブルそして職場における虐待、陵辱。

週一の授業枠だけでは生活できない四十一歳の非常勤講師、小池則夫は、コールセンターでのアルバイトも余儀なくされる。しかし彼が学校、職場への通勤で使う姫島線電車は、女権企業グループが鉄道および沿線エリアの企業、学校、商圏をも支配する特殊鉄道路線であった。逆痴漢、暴力、女装強要、陵辱……則夫や男たちを待ち受けるさまざまな苦難や屈辱。しかし、最低限の生活をなんとか維持していくためには、この電車に乗り続けるしか、彼らに選択は残されていないように思われた。

第一章 女は男を弄ぶ
第二章 女は男に唾を吐く
第三章 女は男を辱める
第四章 女は男を虐め倒す
第五章 女は男に舐めさせる
第六章 女は男を嫐り尽くす

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第一章 女は男をもてあそ

☆ 一

―――次は、つきはま、月浜。姫島線……女子高、コールセンター方面は、お乗り換えです……
 電車から吐き出された小池則夫こいけのりおは、姫島線に接続する通路に向かう。とたんに周囲の人混みが女性ばかりになる。会話を弾ませながら歩くセーラー服姿の女子高生たち、ジャージやスポーツウェアをまとっているのは体育女子大の学生だ。それにブランド品に身を固めた美しいキャリアウーマン、流行ファッションを取り入れ、溌剌としたOLさんたち。皆、人材派遣会社やコールセンターの正社員様方だ。
 則夫は自分の境遇をつくづく惨めに思う。女子高の非常勤講師としてこの地に転任してきたばかりである四十一歳独身の彼は、コールセンターの契約社員としても働き始めた。産休明けからさらにしばらく休むはずだったはずの女性教諭が急遽、現場復帰したのに伴い、彼の授業枠が週一日に激減したからだった。まさかそれだけでは生活できない。
 姫島線・コールセンター行きの電車はすでにホームに到着している。
 姫島線は、ここ月浜駅から埋め立て地へ走る通称《オンナ沿線》だ。終点には則夫が勤務するコールセンター、その手前に女子体育大学、その前に同じく則夫が非常勤講師として籍を置く女子高、その途中には人材派遣会社などがある。もともと造船所とその関連施設のための専用鉄道だったが、造船所の廃業と共に路線も廃線となった。それを女系コンツェルンが買い取って再開発しようとしているのだった。手始めに復活させた四つの駅周辺に、手持ちの企業や学校を移転させ、これらを起点に女系経済特区へと発展させる計画らしい。時代は変わったものだ。
 小池則夫は今日も先頭から一つ手前の車両に乗る。彼女はまだのようだ。最初入り口付近にいた彼は人混みに押されて、奥へと移動する。出発間際には、女性だらけの満員車両になる。シャンプーや香水、そしてなまめかしい体臭……車両にたちまちオンナの熱気が立ちこめる。
―――今日は、別の車両に乗ったのかな……
 則夫が残念に思っていると、「おはようございます」
 声の方を向くと、まさしくお目当ての彼女、同僚の浅田恭子あさだきょうこだった。
「あ、お、おはようございます」
 コールセンターで同じチームの女性である。大学を出たての二十二歳、色白で目がパッチリとしていて、まるで人形のような顔立ちをした美人だった。白い半袖シャツの出勤服が清潔感にあふれている。緩いウェーブがかかった栗色ヘアは、胸のあたりまで長さがある。則夫はせっかくの通勤時間を彼女と会話したいのだが、すし詰め電車の密着度にそれもはばかられる。気がつくと恭子は耳にヘッドフォンを嵌めて違う方向を向いていた。
―――あ……
 則夫は先頭の女性専用車両への入り口近くに立つ女子高生を見つける。杉崎菜々緒すぎさきななおだ。長いストレートの黒髪に、高校二年生とは思えぬ自信に満ちた目力を持つ彼女は、目鼻立ちのくっきりとした美人で成績も抜群、しかし大いに問題のある生徒である。とにかく素行が最悪だ。けれども誰も彼女を注意できない。なぜならば、女子高の理事長の娘であるからだ。則夫は彼女に見つからないよう少し方向を変えて顔を伏せる。
「や、やめてください……」
 男性の声が聞こえる。則夫は恐る恐る菜々緒の方を見やる。長身の彼女が、三十前後の男性の背後にピッタリとくっつき、後ろから抱くような格好をしている。さらには菜々緒の連れである女子生徒三人が男を前から囲んでいる。則夫は、このような場面を目撃しても教え子たちを注意することができなかった。あの杉崎菜々緒のグループだし、目に映る彼女たちは大柄でいかにも凶暴である。しかし、則夫は女子生徒が囲む隙間から、男性の様子を伺い気に掛けた。いかにも大人しそうな子羊のような男だった。菜々緒が彼のシャツの上から乳首を触っている。
「ああっ……ごめんなさい……すみません……」
 彼は小さな声で助けを求めるように言うけれど、則夫にはどうすることもできない。菜々緒はまだ高二であるが、周囲の女子高生たちはたとえ先輩であっても、理事長の娘を注意することなどできない。女子大生も、OLたちも、面白そうに眺めているか無視するかのどちらかであった。
「ほら、ってきたよ、乳首……」
 菜々緒が嗜虐的な笑みを浮かべて男性の乳首をなで回している。
「ボタン外してあげて」
 菜々緒が男性の真ん前に立つ女子生徒に言うとショートカットの彼女が男性のネクタイを緩め、上からワイシャツのボタンを三つほど外す。
「あああっ……やめてください……」
 男の言葉を鼻で笑い、菜々緒の手が、男性の裸の胸に滑り込んでいく。
「ほら、下着つけてないと、こうして簡単に乳首つままれちゃうよ」
 菜々緒はそう言って男性の左乳首に右手を回し込んでつまみ虐める。
「はあああっ……や、やめて……」
 男性が大きめの声を出すと、目の前の女子生徒が、手を挙げ頬をピシャリと張った。
「あんた、それ以上声だしたら、殺すよ」
 その脅し声が低く、あまりに迫力があったので、男性はすっかり怯えてしまって、女子生徒たちのなすがままになった。

「あ、あの……お姉さん方、私、次で降りますので、どうか、これくらいで……ご勘弁ください」
 男性は卑屈な口調で、女子高生たちに懇願する。
「そう、僕ちゃん、次で降りちゃうの……」
 そう言いながら、菜々緒は腕を下に降ろしてもぞもぞし始める。
「ああああ……」
「さて、可愛い息子ちゃんはどこかしら……」
「や、やめて……お願い……」
「やめてじゃないだろ、触って欲しいくせに」
 そう言って正面の女子高生が、男性の両頬を挟むようにして右手でグッと握る。彼はひな鳥が喘ぐような口の形になって、涙目でパクパクと動かした。
「ちっちゃいなあ、小魚みたいだね」
 菜々緒がそう言うと、他の女子生徒たちも、「どれどれ」とかわるがわる手を下ろして彼のズボンから下半身を引っ張り出し、いじり始める。
―――次は、いちづか、市塚……派遣センター前……
 電車が減速を始めた頃、菜々緒たちからようやく解放された男性は、「す、すみません……」と自分を痴漢した女子高生たちに頭を下げ、逃げるようにその場を離れた。則夫は、そばの浅田恭子に、「僕、ちょっとここで降りますので、すみません、チーム長に少し遅れますって、お願いします」と言付けた。
―――いちづか、市塚です……
 顔色を悪くした男性に、則夫は、「大丈夫ですか」と声を掛けると、彼を抱きかかえるようにして、電車を降りた。ホームを渡った正面にあるベンチに二人して腰掛ける。
「大丈夫ですか……」ともう一度声を掛けると、「はい……大丈夫です、すみません……ありがとうございます」と彼は気を取り直したようにして言った。
「すみません、彼女たち、うちの生徒でして……」
「あ、先生ですか……」
「ええ、非常勤で赴任したばかりなんですが……」
「そうですか……じゃあ、知らないかもしれないけれど、彼女たちには逆らわない方がいいですよ……」
「はい、知ってます。うちの学校の理事長の娘の杉崎菜々緒です」
「ああ、ご存じなんですね……」
「はい、でもどうして、あなたがそんなことを知ってるんですか?」
「女子高の理事長は、派遣センターの役員さんでもありますから。有名ですよ。この界隈でお仕事をいただくには、とにかく女性には逆らってはいけないんです」
「はあ……」
 則夫には男性の言葉が、妙に現実的で身にしみた。
「すみません、ご心配掛けちゃって、もう大丈夫ですから……じゃあ、失礼します」
 彼は立ち上がると、服の乱れを確認して直し、則夫に一礼して、改札の方へ歩いて行った。

☆ 二

 則夫がコールセンターのオフィスフロアに到着した頃、チームでは朝礼が終わろうとしていた。
「す、すみません……申し訳ありません……」
 謝りながらチームのデスクに向かう。
「どうしました?」
 チーム長の長岡雅美ながおかまさみが小池則夫に聞く。二十六歳の彼女が、切れ長の眼差しで直立不動の彼を見据えて言う。
「あ、はい」
 則夫は、さきほど電車で一緒になった同僚の浅田恭子の方をチラと見る。
―――うまく、伝えてくれてないんだろうか……
「聞きました。男の人連れて、一緒に降りたんですって?」
「あ、はい……」
 チームは、彼以外女性が五人。女性ばかりの前で、逆痴漢のことを自分の口からはどうにもいいだせなかった。
「すみません、彼が、その、気分が悪そうだったもので……」
「お知り合い?」
「……い、いえ……そう言うわけでは……」
「ずいぶんと博愛精神に富んでいるんですね……そんな余裕がおあり? まだ研修中のご身分で」
 一回り以上も年下の彼女に、たっぷりと嫌みを言われ、則夫はめげそうになったが、ただただ謝る以外になかった。
「す、すみません……今後、気をつけます……」
「お願いしますよ」
「はい……申し訳ありません……」
「じゃあ、朝礼は終わります。皆さん、今日も一日頑張って、よろしく……小池さんは行きましょうか」
 純白のスーツに身を包んだ彼女は則夫を連れて、広大なフロアを横切り、小さな別室へ入っていく。研修用の特別室だ。十畳ほどの部屋には中央に電話機とノートパソコンが置かれた机があって、そこに二人は向かい合って腰掛ける。
「基本的なことは、もう大丈夫かしら? 今日から実践やってくけど」
 肩までのふわりとした髪型。涼しげな目許は、ハンサムレディーといった印象を抱かせる。
「は、はい……たぶん……」
「たぶん? 大丈夫なの? そんな自信なさげで」
「は、はい……なんとか、やらせていただきます、どうかよろしくお願いします……」
 則夫はおどおどした調子で、チーム長の長岡雅美にうやうやしく頭を下げる。
「じゃあ、やってみようか。フロアじゃヘッドセット着けて全部パソコンでやるんだけど、ここはアナログでいくね。しゃべり方とか対応力見るから」
 雅美はそう言って、紙の電話番号リストを彼に渡す。
「は、はい……」
 則夫はリストの一番上の電話番号を押す。
「間違えないようにね」
「はい……」
 女性の声が出る。若妻といった雰囲気だ。
「あ、お忙しいところすみません……私、○○化粧品の小池と申しますが、奥様でいらっしゃいますでしょうか……」
―――あ、いいです、セールスだったら……
「あ、はい、すみません……」
 すぐに電話は切られた。
「なに、それ?」
 雅美が則夫を蔑むような目で厳しく見つめる。
「もっとはっきりしゃべんなさいよ……そんな言い方じゃ、会社や大事な商品までがいい加減なものに聞こえるでしょ……」
「は、はいっ……すみません……」
 雅美の激しい剣幕に、則夫はたじたじになる。さすがは若くして、チーム長になっているだけはある。
「それからさ、すぐに引き下がるんじゃないわよ、『あ、はい、すみませんっ』て。そんなので注文取れるはずないでしょっ……」
 腕を組んで厳しく注意する。
「はい……」
「次、かけて」
「はいっ」
 則夫は次の番号を回す。やはり若い主婦らしき女性が出る。
「あ、お忙しいところすみません……私、○○化粧品の小池と申しますが、奥様でいらっしゃいますでしょうか……」
 さっきよりは、滑舌を意識してしゃべるが、結果は同じだった。
「次、どんどんやって」
 雅美は則夫にそう命じると席を立ち、灰皿を持ってきて、タバコに火を着ける。十件、二十件かけても、商品説明まで行き着かない。泣きそうになる則夫に、タバコの煙が吐きつけられる。
「なに、休憩してんのよ。続けて、どんどん」
「は、はい……」
 さらに、二十件ほどかけたところで、雅美が止める。反応は依然としてゼロだ。
「甘くないでしょ?」
 何本目かのタバコを灰皿で揉み消しながら言う。
「は、はい……」
 則夫は泣きそうな声を出す。
「朝から遅刻してる場合じゃないでしょ? 人助けできるような身分なの?」
 また蒸し返すのかと思いつつも則夫は「はい……すみませんでした……」と言うしかなかった。
「一件とれるまで、この研修終わらないからね。いい?」
「は、はい……」
 則夫の目から涙があふれるのを確認すると雅美が席から立ち上がった。
「あんたさあ……」
 近づいていって、則夫の胸ぐらをつかみ上げる。
「涙流すくらいなら、最初からきちんとやってよっ」
 そう言って、右手で彼の頬を強く張った。
「あううっ、すみませんっ」
 則夫は涙を飛び散らして謝る。体は女性上司への恐怖で震えている。
―――まさか、手を挙げられるとは思わなかった。個室で指導するというのはそう言うことだったのか……
「続けなさいっ。そのリスト全部。商品説明に行くまでは、昼休みもなしだからねっ」
 そう言い残すと、雅美は席を立って部屋を出た。トイレに入ると下半身がすっかり濡れそぼっているのを確認する。そしてショーツを降ろして、便座に腰掛けると、その潤った秘部に自身の指を入れる。四十過ぎの男が自分に怯えて流す涙を思い出しながら、雅美は自慰にふける。
―――あああ……ああいう男を見てると、徹底的にいたぶってあげたくなるわ……

☆ 三

 ようやく地獄の研修期間は終わったものの、則夫はその日の午前中も皆の前で、こってりと雅美に絞られた。
「一日中、電話かけて、三件って、冗談のつもり? 売れって言ってんじゃないわよ。タダの試供品あげるだけなのに、どうしてそんなに断られちゃうわけ? 給料泥棒だよ、これじゃ。来月から、完全歩合にしちゃおうか? ……」
「す、すみません、そ、それでは生活が……」
「生活掛かってんだったら、もうちょっと真剣にやったらどうなの? まるでやる気が感じられないのよ……」
「申し訳ございませんっ……ど、どうか、これから頑張りますから、長岡チーム長様……どうか……」
 激しい罵声を浴びて、彼はすっかりしょげきっていた。

「大丈夫ですか……」
 隣の浅田恭子が心配そうに声を掛ける。他の女性たちは昼食へと降りていった。
「あ、はい……ありがとうございます……」
 恭子から優しく声を掛けられ、則夫は感極まってしゃくり上げる。
「拭いて」
 彼女からハンカチを渡される。
「小池さんは、大人の男性なんだから、泣いてちゃおかしいですよ」
「あ、はい……すみません……こ、これ洗ってお返ししますので」
 則夫は涙と鼻を拭いたハンカチをポケットにしまった。
「お昼、行きましょうか?」
 思わぬ恭子の提案に、則夫は泣き顔で微笑む。
「あ、はい……」

「少しずつ頑張ればいいんじゃないですか」
 ハンバーグランチを食べながら、恭子は則夫に優しく微笑んでくれる。
「は、はいっ……ありがとうございます……」
「やだ、どうしてまた泣くの? 泣き虫ですね、小池さん」
「すみません……そんなこといってくれるのは、浅田さんだけなんで……」
 則夫は恭子から借りたハンカチをポケットから取り出し涙を拭う。
「あ、あの、浅田さん、聞いてもいいですか?」
 ナポリタンを一口食べ終えて、則夫が聞く。
「はい」
「今朝も見ましたよね。電車のなかで」
「え?」
「あ、あの……派手な感じの女性が、男の人を……」
「ああ……はい……」
「うちの生徒の杉崎菜々緒たちだけかと思ってたんですが、あんなことをするのは……」
「小池さん、知らないの?」
 恭子はぽってりとした赤い唇についたソースを紙ナプキンで軽く拭って言う。
「あ、はいっ?」
「姫島線って、そういう路線なんですよ。有名です」
「そう言う路線って……」
「《逆痴漢電車》です。朝のラッシュアワーは特に……」
「そして、あの電車に乗ってくる男性は、それ覚悟のひとも多いらしいです。覚悟っていうか、半分はやられにきてるようなものね……自分たちから……」
「えええっ……」
 驚きのあまり、則夫はいったんフォークを皿に置いた。
「女性も、ほら、この路線って、S系のひとが多いでしょ。そう言うエリアだから」
「は、はあ……確かに……」
「それで、杉崎菜々緒たちも」
「彼女のところの家系なんかは、まさに女傑揃いだから、生まれ持ったものもあるかもしれない……」
「だったら、僕と一緒に降りたあの男の人も、それを承知で……」
「ええ、だから……ちょっと気まずかったんじゃないかしら、あのひとも……」
「でも、嫌がっているようにも見えましたよ……」
「さあ、どうなんでしょう……でも、知らずにあの人材派遣会社にくるひともいるでしょうからね。本当のところは分からないわ……でも彼は見かけがいかにも軟弱そうだったら、間違いなく標的になるでしょう」
 そう言って恭子は、則夫の顔をまじまじと見る。
「な、なにか? ……」
「いえ、小池さんも、お年の割りに若く見えるし、それに、なんか、かわいらしいお顔してるから……気をつけた方がいいかも……」
「そ、そんな……恭子さん……」
 則夫はつい、彼女を下の名前で呼んだ。恭子はなにも言わず微笑む。則夫はその笑顔にたちまち癒やされ、照れ隠しのようにして、残りのナポリタンを口に運ぶ。

☆ 四

―――次は、じょしこう、女子高前……
「僕、今日は次で降りますので」
 満員電車のなか、則夫は浅田恭子の耳元で言う。
「頑張ってくださいね」
 恭子の愛らしい微笑みが沈みかけていた心を少し晴れやかにしてくれた。
 今日は女子高で教師として働く日だ。女子高勤務は、コールセンターとはまた違った苦難がある。女だらけの職員室。正教員という立場をかざして、産休上がりの国語教師は則夫に厳しく当たり彼を虐めた。そして女だらけの教室には、例の菜々緒たちの不良グループがいる。ただの不良ならいいが、こちらも理事長の娘という立場を最大限に利用して、則夫を好きなようにからかい、いたぶっていた。

「今日の授業はここまでにします。宿題の方、よろしくお願いしときますね」
 則夫は教壇から女子生徒たちにそう言うと、板書を消し、戻り支度を始める。
「ちょっと、小池先生」
 声の方を向くと窓際のいちばん後ろの席から杉崎菜々緒が呼んでいる。
「はい……」
 緊張の面持ちで彼女を見る。杉崎菜々緒が手招きをする。女子生徒の手招きに、教師の方がおもむかなくてはいけないのだろうか。非常勤講師と理事長の娘。その立場の差を思い、則夫は教壇を降り、彼女の方へ向かう。
「呼んだら、すぐにきなよ」
 長い黒髪を艶めかした杉崎菜々緒は机に投げ出したローファーの足で則夫の脇腹当たりを軽く蹴る。菜々緒や不良グループは上履きをダサいと思っているのか、教室内でも革靴を履いていることがあった。
「ああっ……ご、ごめんなさい……」
 則夫は彼女や彼女の取り巻きの前で、そんな卑屈なセリフを言い、怯えた態度をとったことに、少し後悔した。立場を自ら決定的にしたようなものだったからだ。
 セーラー服の胸元には赤い大きなリボンタイがあしらわれていて、菜々緒はそれをいじりながら、則夫に命令を下す。
「お昼買ってきてよ、ウチらの」
「え……」
 則夫がうろたえていると、他の女子生徒が、「いいの? 菜々緒ちゃんに逆らって。あんた非常勤なんでしょ」と言った。
「カバン取って」
 菜々緒は机の脇を顎で指す。則夫は屈辱にまみれながら、それを取ろうとする。
「返事はっ」
 お尻に衝撃が走る。
「あっ、はいっ」
 後ろから他の女生徒がローファーで蹴ったのだ。菜々緒以外の生徒にも暴力を振るわれたことに則夫は動揺する。
「なかに財布入ってるから」
 則夫はカバンのなかから高校生には似つかわしくないブランドものの本革財布を取り出すと菜々緒に渡した。彼女はそのなかから高額紙幣を一枚取り出し、彼に渡す。皆が一斉に注文を彼に言う。
「ちょ、ちょっと待ってください、書きますので」
「そう、書き取りが大切だよね。あんたも授業で言ってたじゃん」
 周りから笑い声が起こる。全員分のオーダーをメモ帳に書き留めると、菜々緒が、「小池ちゃんも好きなの買ってきな。一緒に食べようよ」
「え、……でも……」
 さすがに生徒におごってもらうのは気が引けた。
「んなこと言ってる場合なの? 遠慮しないでよ」
 菜々緒は見透かしたように言う。
「……あ、はい……いいんですか……あ、ありがとうございます」
 正直に言って嬉しかった。則夫の懐事情は、昼をたびたび我慢しなければならないほど逼迫ひっぱくしていたからだ。

「お待たせしました。すみません」
 そう言いながら則夫は売店から買ってきたパンや飲み物を女子生徒たちに配る。もちろん、菜々緒に一番最初に渡し、お釣りも戻す。
「自分のも買ってきた?」
「は、はい……ありがとうございます」
「なに買ったの?」
 他の女子に聞かれ、則夫が説明すると、「二つも買ったんだ。ひとつでいいんじゃないの? 非常勤のくせに」
 笑いが起こったが、則夫は小さな声で、「すみません……」と言うしかなかった。
「でさ、小池ちゃん、さっきなに怒られてたの? 恵子けいこ先生に」
 菜々緒がサンドウィッチの包みを開けながら聞く。用事で職員室に行ったときに、則夫が国語の正教員に激しく罵倒されていたのを目撃したのだった。
「あ、はい……先生に事前にレジュメを提出するよう言われてたのを忘れてまして」
「そうか、恵子先生の方が上司だもんね」
「年齢は小池ちゃんの方が全然上でしょ?」
「恵子先生まだ、二十代だよ」
「小池ちゃん、あんたいくつ?」
「あ、はい……四十一になります」
「いってるねえ」
「四十オーバーだとは驚きだわ」
 セーラー服姿の美女たちは、パンを頬張り、ストローでジュースを飲みながら、思い思いに好き勝手なことを言って、則夫が困惑する様子を楽しんでいた。
「食べなよ、小池も」
 菜々緒が言うと、他の女子生徒も、「食べな、小池」「小池、菜々緒ちゃんにいただきますって言うんだよ」と呼び捨てにし始めた。
「は、はい……杉崎さん、い、いただきます……」
「小池えっ、あんた、ちょっとウルウルきてない?」
 隣にいた女子生徒が言う。
「泣いてんじゃないわよ」と皆が笑う。則夫が惨めさに目に涙を浮かべようが、彼女たちは容赦がなかった。むしろ、そのことになおさら攻撃心を焚きつけられたようだった。
「週一しかないんだから授業、しっかりやんないと。恵子先生に迷惑掛けないように」
 菜々緒は、まるで彼の上司であるかのような口ぶりでそう言った。
「は、はい……気をつけます……」
「でも、週一しか授業なくて生活できるの?」と他の女子。
「説明しな」と菜々緒が嗜虐的な笑みを浮かべて言う。
「あ、は、はい……じ、実はこれ以外の日は、コールセンターの方に行ってまして……いちおう、契約社員としてですね……」
「バイト扱いでしょ? 聞いてるよ」
 菜々緒の母親はこの学校の理事長であると同時に、コールセンターを含む複数企業の幹部でもあった。姫島線沿線の学校や企業は女権企業グループの傘下にある。幹部の娘にもいろいろな情報が入っているようだ。
「バイトが見栄張ってんじゃないわよ」と取り巻きの茶髪女子が則夫の華奢な肩を突く。
「あ、はい……すみません」
 則夫は恥ずかしさのあまり、穴があったら入りたいような気分だった。
 女子生徒たちは、食べ終えたカスや袋を、まだ食事中の則夫に集める。彼はそれをすぐさまゴミ箱に捨てて戻ってくる。彼のもうひとつのパンが、菜々緒の足元に置かれていた。パンの上で彼女は長い脚を組んでいる。
「小池、こっちきな」
「は、はい……」
「そこ、正座しろ」
 彼をパンの前に座らせる。取り巻きの女生徒たちが興味津々に見守る。他の女子生徒たちも異様な雰囲気に引き込まれるようにして集まってきた。
「お前、見てたでしょ、こないだの朝」
 菜々緒がローファーのつま先を則夫の眉間すれすれに近づけて言う。
「え? ……」
「ウチらが、電車の中で遊んでたときだよ」
 例の痴漢行為のことだと則夫は思った。
「あの彼と電車降りて、なにやってたの?」
「あ、は、はい……気分が悪そうにしてらしたので、大丈夫かなと思いまして……」
 則夫が怯える態度に菜々緒は自分が興奮し始めているのを感じる。
「ウチらのせいで気分が悪くなったって?」
「い、いえ……そう言う意味では……」
 則夫の額から脂汗が流れる。
「そう言う意味じゃん」
 菜々緒の黒い革ローファーのつま先が則夫の眉毛のところに触れる。
「す、すみません……」
「食事、途中でしょ。食べなよ……」
 床に直接置かれたカレーパンを則夫は見つめる。
「で、でも、もう……床に……」
「なに? 汚いから食べられないって? 小池、あんたそんな贅沢言える身分なの?」
「い、いえ……」
「ここの授業だけじゃやってけないくらい困ってんでしょ?」
「は、はい……」
「だったら、床に落ちたパンぐらい食べれるでしょ」
「で、でも、そ、それは……ちょっと……」
 大勢の教え子にしかも女生徒ばかりに見られるなかで、大人の男としてさすがにそれはできないと則夫は思った。
「そう、できない? だったらできるようにしたげようか……」
 菜々緒は冷たい笑みを浮かべ、机のなかに手を入れる。ものを探り当てるとそれを引き出す。指先が出るタイプの黒い革手袋だ。当人たちだけでなく、周囲にも緊張感が走る。女子生徒が教師に体罰を与えようとしているのだから。立場がまるで逆転している。
「歯、食いしばって」
 そう言うと、菜々緒は組んだ脚を広げ、左手を伸ばして則夫の胸元をネクタイごとつかんでひねりあげた。
「ううううっ……く、苦しいです……」
「だよね、そうやってんだから……」
 菜々緒が高二女子とは思えぬ低いトーンの声を出す。
「歯をくいしばれ」
 もう一度、そう繰り返し、則夫が言われた通りにするのを確認すると、強烈な平手打ちを彼の頬に食らわせた。それも一発で終わらせず、二発、三発、四発、五発と叩きのめした。
「ひいいいっ……ご、ごめんなさい……許してください……」
 則夫は泣き声を上げて、十七歳の教え子に許しを乞う。

小説 S女様リンチ系「逆痴漢電車」

Kindle小説サンプル

S女小説 女軍慰安夫「早乙女小隊の日々」

S女小説 女軍慰安夫「早乙女小隊の日々」を電子書籍として出版しました。

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内容紹介

冷徹な女性将校、残虐な女軍曹……美しく激しい女性軍人たちに蹂躙、陵辱される男兵卒たち。
大東亜戦争開戦直後、従軍看護婦として比島(ひとう:フィリピン)に招集された早乙女佳乃(よしの)は、ほどなく陸軍少将の播磨(はりま)に見初められ愛人となる。やがて播磨は被虐趣味を告白し、将校服を纏い長靴を履いた長身佳乃の足下にひれ伏すようになる。佳乃は自身の奥底に眠らせていた嗜虐性を徐々に目覚めさせ、もはや戯れでは収まらなくなってくる。播磨の計らいで軍隊の鉄拳制裁を目の当たりにした佳乃は、抑えられない衝動を覚え、ついに自身のための小隊を編成するよう播磨に命令する。一方、内地では身長、体格が及ばぬ理由で徴兵をいったんまぬがれたはずの勤め人田手雅行(まさゆき)が比島への招集を掛けられた。境遇を同じくして南方行きの船室に集う優男たちの行く末は……。

第一章 海ゆかば
第二章 革かおる
第三章 胸きしむ
第四章 声たかく
第五章 肉おどる
第六章 魂のぼる

本文サンプル

第一章 海ゆかば

 

☆ 一

一九四二年 六月

―――いよいよだ……
病院船の甲板から見送りに手を振り、二十六歳の早乙女佳乃さおとめよしのは気持ちを新たにした。高等女学校を卒業し、日本赤十字社で三年間の看護修業。内地の病院で五年間勤務した後、従軍看護婦として招集された。赤十字社に属する看護婦は、有事の場合はそういう決まりになっている。軍人の祖父や父を見て、話を聞いて育ち、お国のために尽くすのが本分だという考えが自然と身についた。だからこそこの道を選んだのだ。紺の制服、帽子、黒の編み上げ靴、白い手袋といった看護婦の正装が、長身美人の彼女をいっそう凜々りりしくみせている。赤十字の腕章を左腕につけ、これから比島ひとう(フィリピン)へ向かい、マニラの陸軍病院に勤務するのだ。昨日まで泣きはらした母親が笑顔で埠頭から手を振り続けるのを見つける。佳乃は、半分、申し訳ない気持ちで一段と大きく手を振ってそれに応える。
「比島はいまや完全に日本のものだから、心配しないで」
佳乃は昨日もそう言ってきかせ、生みの親を少しでも安心させようとした。実際、日本軍は、一九四一年十二月八日の真珠湾攻撃とほぼ同時に比島上陸を開始し、年明けには首都マニラを陥落、ひと月前の一九四二年五月には米軍を敗北に追いやり、比島全土を占領していた。かの地は内地と同じようなものだ。何も心配することはない。汽笛が鳴り、船がゆっくりと動き出す。佳乃は郷愁に引かれる気持ちを振り切るようにして手すりを離れ、舳先の方へ歩いて行く。

一九四二年 七月

「ご気分は、いかがでございますか?」
早乙女佳乃さおとめよしのは寝台の上で目を覚ました陸軍少将の播磨常定はりまつねさだに話しかけた。
「あ、ああ……もうすっかり……」
そう言って半身を起こしかけた播磨はりま佳乃よしのはやんわりと制する。
「まだ、いけません……昨日は、あんなに高い熱があったのですから」
「なんの、これしき……どうせただの風邪です」
「もう一度お測りしましょう……さあ、横になられて……失礼いたします」
そう言って佳乃は水銀体温計を播磨はりまの脇に挟む。
―――なんという……
四十九歳の播磨は、白衣の長身女性に思わず見とれる。いかにも意志の強そうな眼差し、整った面立ちはまるで銀幕女優のようだ。
「どうかいたしましたか?」
「いや……」
陸軍少将である自分にはほとんどの女性が、いや男であってさえも臆するものだが、この看護婦にはまったくそういうところがない。播磨は彼女への思いをいっそう強めた。
「あの……早乙女さんとおっしゃいましたか……」
細身で小柄、言葉が柔らかく物腰も穏やかな播磨は軍服を脱いで伏せているととても軍人には見えない。どちらかというと文弱の徒といった印象だ。
「はい」
「下の名前をお教え願えますか」
そう聞かれ、看護婦は恥じらうような笑みを見せる。
佳乃よしのです。早乙女佳乃ともうします」

播磨は治療が済んでからも、部下の見舞いなど、何かと理由をつけては佳乃が勤める病院を訪れた。挙げ句、ついに自身の宿舎に彼女を招き入れることに成功した。播磨と佳乃が男女の関係に至るまでに出会いからひと月とかからなかった。

「あなたとずっとこうしていられるといいのですが」
播磨は隣で伏す佳乃に話しかける。二人は事を終え裸のままだ。
「え、駄目ですの? 内地に奥様がいらっしゃるから?」
「いや、そうではなくて。かような安穏あんねいはそう長くは続かないだろうと思うのです」
現地ゲリラによる襲撃等は時折あったものの、確かに当時の比島はほぼ平時に近い様相であった。従軍看護婦と軍幹部がこのような逢い引きを行えることが何よりもそれを表していた。
「どうして? 我が国が負けるはずないじゃありませんか」
「米国を見くびってはいけません。このままで終わるはずがない」
「まあ……とても陸軍少将さまの口から出る御言葉とは思えませんわ。そんな気弱な……」
播磨はそれ以上の言葉をふさぐようにして、佳乃と唇を重ね合わせた。

一九四二年 八月

「……も、もう、戻りませぬと。明日も早いことですし」
佳乃は寝台から長椅子へと移動し、乱れた浴衣ゆかたを整えながら言う。度重なる播磨との逢瀬を決して嫌とは思わなかったが、やはり気が引けた。お国に身を捧げるつもりでこの地までやってきたのだ。仮に招集がなかったとしても、志願するつもりでいた。
「心配ご無用。あなたの上司である軍医たちのことはよく存じ上げているし、病院の責任者とは昵懇じっこんの間柄です」
播磨も浴衣を羽織り直して、寝台に腰掛け、丸い眼鏡を顔に戻すと、佳乃の美貌をあらためて確かめるようにする。
「そんなことより、少し頼みがあるのです」
「何でしょうか、わたくしは、少将様のためなら何でも。何なりと」
佳乃は少し離れた位置から背筋を伸ばしてそう言う。
「……うん、その……わたしを、そのあなたの手で、ぶってみてはもらえないだろうか」
その告白そのものが、すでに彼を興奮に導き始めている。
「ぶつ?」
佳乃は一瞬、播磨が何を言っているのか分からなかった。
「そう、この頬を叩いていただけないだろうか」
播磨は指先で軽く自分の顔を叩く。
「ど、どうして、そんなことを……まさか、できません……わたくしが、少将様の頬をひっぱだくだなんて……そんな……」
「どうか、お願いです」
播磨は寝台を立って進み、佳乃が腰掛ける前まで来るとしゃがんで膝立ちし、彼女の太股に手を置いた。
「でも、どうして……わたくしには少将様を叩く理由もありません」
「理由? 理由など……ではこうしましょう……あなたは強いこころざしをもって、この地におもむいたはず。それをあろうことか私は軍の将校という立場にあるにもかかわらず、また、内地に正妻を持つ夫であるのに、あなたといまこのような時間を過ごしている。もちろん、あなたに罪はありません。すべて私の我が儘わがままによることです。私をその手で断罪していただきたい……」
「そんな……それならば、私も同罪ですわ……あなたさまに命じられて嫌々ここにいるわけではありませぬから……」
「いや、それならもう理屈はいいのです。わたしは佳乃殿、あなたさまに叱咤しったされたい。それだけのことです……どうか、お願いします……」
そう言って播磨は佳乃の右手を両手でつかみ、彼女を見上げる。
「そういったご趣味が?」
見下ろす眼差しに、播磨は侮蔑の光を探す。その眼差しに耐えられぬようなそぶりを見せてうつむく。そして、こっくりとうなずく。しばし、部屋を沈黙が包む。軍用車が往来するエンジン音が遠くに聞こえる。
「……分かりました。あなたさまがお望みなら、かなえて差し上げましょう……眼鏡を、お外しになって下さい」
「よ、佳乃殿……」
播磨は嬉々とした表情で、看護婦の命に従う。細い黒縁の丸眼鏡を長椅子の脇の小さなテーブルにそっと置く。そして許しを乞うような、また戒めを望むような目をして、大柄の麗人を見上げる。佳乃は覚悟を決めた眼差しで播磨をしっかりと見据える。佳乃の手が播磨の頬を触る。滑らかな手のひらが頬をなでる。女子おなごにしては大きな手だと播磨は思った。
「あなたは悪いお人です」
佳乃はまるで自分に言い聞かせるようにそう言うと、播磨の頬をひとつ張った。パンという乾いた音が部屋に響いた。佳乃がいたたまれないような表情を見せたので、播磨はすかさず口を開いた。
「いいのです、これでいいのです、ありがとうございます。いや、わたくしが佳乃殿に犯した罪はこの程度にございましょうか? もっと強く、幾度も打ち下ろしてくださいませ……」
「ほんに?」
「ええ」
佳乃の肩がかすかに上下している。興奮しているのだろうか。播磨は、続く殴打に期待を寄せ、目を閉じかけたが、誰にどこを叩かれたのかしっかりと記憶に残したくて目はもちろん、五感と神経を目の前の麗人に集中させる。
「では」
佳乃はそう言いながら、播磨の頬をさすり、手を大きく挙げると、さっきよりも強く頬を目がけて振り下ろした。大きな乾いた音がして、播磨の華奢な体は大きくかしぐ。
「ああ……」
播磨は思わずもだえるような声を漏らす。
「だ、大丈夫ですか……」
佳乃は心配そうに播磨の顔を覗き込む。
「心配は無用です……いや、そのような慈愛だけはどうかご勘弁願いたいのです」
「あ、はい……」
「さあ、もっと……今くらいの強さでかまいませぬから、幾度も私を叩きのめしてくださいませ」
そう言って播磨は頬を差し出した。
「いいのですね……あなたさまがそうおっしゃるならば……」
佳乃の表情が毅然としたものに変わる。浴衣の襟を整え、左手の指先で、播磨の顎を少し上に向けさせる。
播磨常定はりまつねさだ……」
「は、はい……」
「あなたは、お国に命を捧げる人々の上に立つ者として、大きな間違いを犯しました」
「はい……」
「それは罪です」
「はい」
「罪には罰を与えねばなりません」
佳乃の右手が大きく挙がり、播磨の頬を再び打つ。すかさず、その手の甲が戻りしな、反対側の頬を打つ。佳乃はそれを三度往復させて、最後にこれまででいちばん強い一撃を放った。播磨の体が床に投げ出される。佳乃は一瞬、声を掛けようと思ったが、思いとどまった。
「佳乃様、いまのは貴女あなた様のお力のいかほどでしょうか。八分、九分、それとも……」
播磨は体を起こすと長椅子に腰掛けたままの愛人に言った。
「さて、半分、いえ、それほどもいっていないかも。三分くらいですわ」
「そ、そんなにお手加減を……」
「当たり前ですわ。こう見えてもわたくしは幼少の頃から柔術を習っておりましたの」
「佳乃様の本当のお力が見てみたい……」
「そんなことをすれば、播磨様、あなたさまは、人前に出られないお顔になってしまいますわ」
佳乃は播磨の唇の端から少し血がにじんでいるのに気づいて、懐からハンケチを取り出し、それをそっとぬぐってやった。
「それから、佳乃様、私と二人きりのときは、私を下人扱いしてくださいませ。そしてそれにふさわしい言葉を使っていただきたいのです。名前も呼び捨てでどうかお願いします」

それ以降、播磨は逢瀬のたびに、佳乃に殴打をねだり、彼女もそれに応じた。最初は幾ばくかの躊躇があった彼女も次第に大胆になっていった。
「播磨、まだ打ち足りないわ、もう一度頬を出しなさい。もっと私が打ちやすいように」
「は、はっ、佳乃様」
播磨は長椅子の佳乃にさらに近づけるように床に着けた膝をすり寄せる。
「ほら、またけようとする」
殴打の動きに入ると播磨は少し顔を傾けるようになっていた。佳乃の張り手が回を重ねるごとに強くなっていき、播磨は顔が腫れるのを怖れていた。幹部会議などに支障がある。
「ご、ご容赦くださいませ、佳乃様。あまりに貴女様あなたさまの殴打が強いもので、私の頬が腫れてしまいますもので……」
「ご自分から殴れと言っておいて、そんな我が儘を言うのかしら」
佳乃はそんな台詞せりふが言えるほど余裕を持ち始めていた。好奇心が芽生え、この刺激的な播磨との関係に彼女自ら傾倒し始めていた。
「も、申し訳ございませぬ……」
播磨は、その場に跪き、頭を床につけた。佳乃はほくそ笑む。
―――この姿を皆が見たら、どう思うだろう……
遊びだとは言え、陸軍少将に土下座をさせている自分に、これまで味わったことのない満足を感じた。
「よし、播磨、あなたがそこまでするのなら、許してあげます。少しは力を加減して差し上げましょう」
「あ、ありがとうございますっ」
播磨は半分本心で、そう言い、さらに何度も頭を下げる。まるで米つきバッタのように。
「その代わり、数は増やしますよ」
佳乃は、笑ってそう言い、播磨の体に脚を入れて起こし、胸ぐらをつかんで引き上げた。

そんなある日、播磨は自ら運転する軍用車に佳乃を乗せ、監督下にある小隊の訓練地へとおもむいた。車は両脇に草木が覆い繁る道を半時間ほど走り、突如開けたところで止まった。広場を囲むようにして、いくつかの小屋が建ち並んでいる。馬小屋の横に若い軍人が待っており、車をその近くに駐めると、近づいてきて敬礼した。彼は紺の看護婦正装を身に纏った麗人に目を奪われる。ハッとして播磨の方に視線を戻すと、「少将殿こちらです」
軍人は少尉だった。若い少尉は二人を将校用宿舎の一室へと案内した。部屋はがらんとしていて、壁の小さな窓の方に向いて椅子が二つ並べてある。少尉が敬礼をして去っていくと、播磨は、「さあ、そこへ腰掛けてください」と佳乃を促し、自分も座った。外から目立たぬ特製の小窓からは営庭が見渡せた。日頃から目を掛けている少尉に頼んで作らせたものだった。しばらくすると広場を挟んだ正面の兵舎から男たちが出てきて整列を始めた。一五、六人ほどが、横一列に並んでいる。ややあって、少し年かさのいった男が現れ、大声で兵たちをののしると、右の端から一人ずつ、頬に強い平手打ちを張っていった。佳乃が播磨に会うたびに施している所行だが、いま彼女の目に映っているそれはまったくもって容赦のないものだった。大きくかしいだり、よろける者もいたが、皆すぐに直立不動に戻った。
「まあ……、全員が一斉に、皆でなにか間違いでも?」
連帯責任です。ひとりが間違いを起こすと、その場にいた皆の責任になる。それが軍隊というものです」
「まあ……」
佳乃は一瞬、播磨の方を見たが、すぐに視線を広場の方に戻し、次に行われることに注目した。しかし、彼らを叩いた曹長が去ると男たちもすぐに兵舎の方へ戻ってしまった。佳乃は少し残念そうな顔をして、播磨の方を見る。
「佳乃様、次の隊がじきに現れますから」
播磨がそう言うとすぐにその言葉通り同じ人数くらいの分隊が現れ、同じようにあとから出てきた曹長が、罵声を浴びせると一発ずつ兵を叩いていく。ただし、今度は手に何かを持ってそれで殴っている。
「あれは……」
「革製の内履きです」
「そのようなもので……さぞ痛いでしょう……本当に痛そうだわ」
佳乃はそう言いながら、窓の向こうの光景に釘づけになっている。
「あれは、相当に痛いと思われます」
播磨は佳乃をまるで上官のように見立てて言う。
「それに屈辱的だわ。足に履くもので頬を殴られるなんて」
「確かにそうです。肉体的な戒めに加え、精神的な苦痛を与えることによって鍛えるとでもいいますか……」
「物は言いようね」
佳乃は鼻で笑うようにし、その態度が播磨を興奮させる。
「次は?」
去って行く男たちを見て、佳乃が聞く。
「はい、まだ」
次の曹長は、拳で兵たちの頬を殴っていった。全員が例外なくその場に崩れ落ち、しばらくは起き上がれない。それほど強烈な殴打を加えられていた。しかし、佳乃はそれを平然と眺め、「殴る方は痛くないのかしら」と独り言のように言った。
「もう終わり?」
まるで物足りないとでも言うように、佳乃は播磨を見る。

「どういうつもりでわたくしにあんなものを見せたのかしら?」
帰りの車の中で、佳乃は播磨に尋ねた。
「はい、軍隊における鉄拳指導がどれほどのものかを是非、お目に掛けたくて」
「確かに驚いたわ。わたくしがそちらにしている制裁などかわいらしいものね……」
「は、はい……」
「かといって、あなたをあれ以上強く殴ると差し障りがあるのでしょう。あのように革の靴や拳で殴ってもいいというならばやりますけれど」
興奮が甦ってきて、佳乃はつい本心を打ち明けた。
「……」
「できないでしょう」
佳乃は意気地のない男を見る目で、運転席の播磨を向く。
「申し訳ございません」
「それにしても……一度でいいから、私もああいう厳しい指導者の立場になってみたいものだわ」

☆ 二

一九四二年 九月

「今日は、佳乃様のために品物を用意させていただきました」
いつものようにひとしきり頬を打たれた播磨が、別室から風呂敷包みを持ってきて、長椅子の横に置いた。
「どうぞ、お開けくださいませ」
「わたくしに開けさせるの? 播磨、お前が開けなさい」
「はいっ、申し訳ございません。では……」
平然とお前呼ばわりされ、播磨の体に電気が走る。風呂敷の中身は新品の将校用軍服、同じくまっさらの長靴ちょうか革帯ベルト、軍帽だった。いつか体や足の寸法を細かく測られたのはこのためだったかと二十六歳の従軍看護婦は納得した。佳乃は浴衣を脱ぎ、長椅子の上に置く。下着は身につけていない。くびれの利いた大柄の肢体が照明の光にきらめく。染み一つない滑らかな肌に、播磨はあらためて驚く。佳乃が一糸まとわぬ姿になっても恥じらいを感じていないふうに見えるのは、馴れ合いがひとつ、そして自分への蔑みもあるのではないかと思うと播磨は興奮した。自分の宿舎として米軍から接収した離れの一軒家を準備させてよかったと播磨はあらためて思う。そのおかげで、佳乃とこのような大胆かつ奇譚な逢い引きを楽しむことができるのだ。
佳乃はやや青みを帯びた茶褐色、すなわち国防色の軍服の上下を嬉しそうに手に取る。まずは短袴たんこを履く。太股の部分がゆったりとした短い丈のズボンである。ボタンを留め、太くて黒い革帯ベルトを締める。続いて軍衣に袖を通す。佳乃の顔がうっすらと汗ばむのを見て、播磨は米国製であろう大型の扇風機を移動させ、佳乃によく風が当たるようにする。扇風機はゆっくりと首を振り、南国の湿った空気をかき混ぜる。軍衣のボタンを下から止めていくごとに、シルエットが出来上がっていく。女性のくびれ体型に合わせて、腰をきゅっと絞った特注の将校服だ。肩幅は男子用とほとんど変わらない。佳乃の肉体の完成度に播磨はあらためて惚れ惚れする。
播磨はその場にしゃがみ込み、黒い革の長靴ちょうかを持って、佳乃を見上げる。その表情から二十六歳の看護婦は、少将の意をくみ取る。
「播磨、わたくしの足にその長靴を履かせなさい」
「はっ」
「その前に……お前は浴衣を脱いで裸になりなさい」
播磨はあたりを少し気にする様子を浮かべたが、佳乃の「早くっ」という声に弾かれるようにして、帯を解いた。佳乃は長椅子にゆったりと腰掛け、長い脚を組む。
「失礼いたします……」
播磨は長靴の一つを取り、佳乃の片脚に下からあてがう。女性は履き口を両手で引っ張りつま先を伸ばすようにして長靴に足を差し入れていく。最後は床でドスンと踏み下ろす。もう一方も同じようにして履く。
「この長靴も特別にあつらえさせていただきました。佳乃様のおみ足は並の男子おのこよりも、なごうございますので」
佳乃のための特製長靴は踵が高く、つま先も鋭い角度に改良されていた。磨けば磨くほど艶めくであろう上質の牛革がふんだんに使われている。
「それで? わたくしにこんな格好をさせて、いったいどうして欲しいのかしら?」
足元で所在ない様子の播磨を見据えて言う。痩せた裸体で縮こまる中年男には、もはや少将の威信のかけらもなかった。
「さ、早乙女中尉殿……」
中尉ちゅうい?」
佳乃は首の下の襟章を触ってみる。斜めに傾いた四角形は、将校の襟章。一本線上に星二つは、中尉のものである。播磨が彼女のために密かに用意できた最上位の襟章だった。
「も、申し訳ありません。それがわたしに用意できる精一杯で……」
「先日、平気で部下たちを殴っていた人たちの位は?」
「あ、あれは曹長や軍曹です。早乙女中尉殿よりはずっと身分の低い」
「あれくらいでも良かったわ。あまり偉くなると、易々やすやすと拳も振るえないでしょう」
「あ、はい……しかし、何事にも例外はございます。実際に気性が荒く、すぐに手を出してしまう将校たちもおります」
「そう……それがわたくしということかしら? 播磨」
播磨は怯えた表情を作って、佳乃を上目遣いで見る。
「は、はい……」
「では、殴っていいわけね、あなたを。あの惨めな兵隊たちのように。顔を拳でいっていいのでしょう?」
佳乃はつばの付いた軍帽を被ると長椅子から立ち上がり、右の拳を左の手のひらで包んだ。女性のしなやかさと男性の力強さを併せ持ったような大きく美しい手だった。
「ど、どうか……お許しください……早乙女佳乃中尉殿」
播磨は素っ裸のまま床に正座して縮こまる。
「ど、どうか……」
頭を床に着けるように下げる。
「お前のいまの位はなんなの? まさか、裸になって女の足元で土下座する男が少将だなんていわせないよ」
「は、はい……わたくしは……ご、伍長程度のものかと……」
そう言って佳乃を見上げる。すぐに、播磨の期待通りの返事が返ってくる。
「……伍長? ふん、お前は二等兵だ。わたしの前では。いいか、播磨。最下位の駒として、わたしの厳命に従えっ」
長靴の足でドンと床を踏み鳴らす。
「はっ、ははあっ、佳乃中尉殿。誠にありがたき御言葉。この播磨常定二等兵、あなたさまに一生涯忠誠をお誓いいたします……」

「も、申し訳ありません……」
数日後の夜、佳乃と床を共にした播磨は、男としての役割をまったく果たせなかった。
「どうしました……いえ、どうして欲しい?」
裸のまま寝台に腰掛けた佳乃は同じく裸の播磨をじっと見据え、妖しい笑みを浮かべる。
「き、厳しく、ご叱咤くださいませ」
「また軍服に着替えて欲しいのでしょう?」
「は、はい……」
「すぐに持ってきなさい。お前はもちろん、裸のままで」
浴衣を羽織ろうとした播磨をたしなめる。
「はっ」
播磨は眼鏡を掛けて寝台から起きると佳乃の軍装一式を入れた行李こうりを持ってきた。
あれは、用意できていますか?」
「あ、は、い……」
播磨は、興奮の面持ちで、行李から白い布を二つ取り出し渡した。ひとつはふんどしだった。長さ三尺(九十センチ)、幅一尺(三十糎)の白布の端が筒状に縫われ、その筒にやはり白い紐が通してある。越中ふんどしと呼ばれるものである。寝台脇に立った佳乃はそれを広げてみて、床に正座する播磨に放り投げる。
「どうやるの? 履かせなさい」
「はっ」
播磨は、「失礼いたします、佳乃中尉殿、向こうをお向きいただいてよろしいでしょうか……」
「待ちなさい……」
佳乃は壁に立てかけてある大きな姿見すがたみの方へ向かい、その前に立つ。播磨は彼女の背中ごしに鏡に映された立ち姿を見る。佳乃は豊満な胸の前で腕を組んでいる。見事なくびれ具合の腰つきで長い脚を広げて堂々と立ち、部下の播磨二等兵がふんどしを着けるのを待っている。
「遅いっ」
強い声でそう言うとすぐさま振り返り、播磨の頬に平手で強打を放つ。
「ひっ……はっ、申し訳ございません、早乙女中尉殿っ、すぐにかかりますっ……」
播磨はふんどしを佳乃の尻の上から垂れるようにあてがい、上部の紐を腹の方へ回し、自分も前に回って、へそのあたりで結ぶ。佳乃はくすぐったい様子も見せず、堂々と腕を組んだまま、ちょこまか動く播磨の仕事を見下ろしている。

 

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内容紹介

マゾの自覚がある中年男が、女性ばかりのオフィスに派遣登録され、彼女たちのS性を目覚めさせる。
美女ばかりのオフィスに派遣スタッフとして送り込まれた良夫は、歓迎会の席で、自分はM男であることを告白する。好奇心を刺激されながらも、最初は様子を見ていた女性たちだが、次第に自分のなかのS性に目覚め、暴走を始める。想像以上の暴虐に、怯えおののく良夫に、唯一、優しく接してくれたのが、二十歳の新入社員、夏美であった。

第一章 カミングアウト
第二章 男の潮吹き
第三章 淫欲の餌食
第四章 うら若き嗜虐心
第五章 サド妻の奔放
第六章 淑女の暴虐

本文サンプル

第一章 カミングアウト

☆ 一

「ちょっと、ぼんやりしすぎじゃないですか?」
 打ち合わせテーブルに呼びつけられ、増田良夫ますだよしおは上司の瀬口朝香せぐちあさかに注意を受ける。
「すみません……」
 リストをうっかり見落として、注文の商品を送りそびれた。あまりに到着が遅いという顧客からの電話で、さきほどミスが発覚したのだ。
「しかも、一回目じゃないでしょ」
 先週も同じ間違いをしたことを三十二歳の美人課長はとがめる。
「は、はい……すみません……」
 契約社員として先月入社したばかりの四十二歳は身をすくめてうつむくばかりだ。
「おはよう」
 部長の大島洋子おおしまようこが、ダークグレーのスーツに身を包んで入ってくる。
「お、おはようございます……」
「どうした?」
 穏やかでない空気を察して、洋子が朝香に聞く。
「彼が《美容茶》を送ってなくて、お客さんからクレームが……」
「え、また?」
「ええ……」
「いいわ、あなた仕事に戻って。あとは私がやるから」
 部長の大島洋子は課長の瀬口朝香にそう言い、バッグを置いて、指導を入れ替わる。
「どうしようか、増田さん」
「え……」
「え、じゃないでしょ。うちの信用に関わることだから。商品の送り忘れなんて。それをこんなに簡単に何度もやられたらたまったもんじゃないわ」
「す、すみません……」
「もう何度も聞いた、それ。派遣会社さんに電話入れようか」
「あ、いえ、大島部長、それはどうか……」
 派遣会社の担当女性を拝み倒してようやく手に入れた職場だ。ここをクビになれば、またしばらく無職に後戻りだ。
「それはどうか、何よ。言葉を省略しないで、ちゃんといいなさいよ」
「あ、はい……大島部長、それは、派遣会社様に連絡するのはどうか、ご容赦くださいませ」
「だけど、担当の彼女、誰だっけ……ええと、仁科にしなさんか……彼女言ったよ。使えなかったらいつでも別のと交換しますって」
「ああ、どうか、それだけは……お許しください」
 良夫は、仁科という名前を聞いて身震いをした。仁科由香にしなゆか……暴力も辞さない彼女の熱血指導を思い出す……。

「いい加減にしてくださいよ」
 三度目の遅刻で、派遣先からクビを言い渡された良夫を呼びつけて、派遣会社正社員の仁科由香は激しく問いただした。
「どういうつもり?」
「すみません……夜勤の掛け持ちがあったもので、ほとんど、寝ていませんで」
「それが、言い訳になると思ってんの?」
 二十七歳の美人担当者は、四十二歳の良夫にもはや敬語など使う気も起こらないようだった。夜の派遣も由香に紹介してもらった仕事なので少しは斟酌しんしゃくしてもらえると思った良夫が甘かった。
「いえ、はい……すみません……」
「はい? ……ちょっと、別室行こうか」
「あ……」
 うろたえる良夫を引っ張って、由香は個室に連れて行く。畳が敷かれた六畳ほどの何もない部屋だった。懲罰房のような空間だ。由香は内鍵を閉め、「防音部屋だから」といい、靴を脱いで奥に行くよう良夫に命ずる。自分も靴を脱いで上がり、向かいに良夫を立たせる。
「いい加減にしてくんないかな……」
 そう言うと激しい平手打ちを良夫に食らわせた。
「あうっ……」
 まさか本当に暴力を振るわれると思っていなかった良夫は、痛みと恐怖で体を震わせる。
「訴えたかったら、そうしな……その代わり、仕事にありつけることなんて一生ないだろうから。こっちはむりやっこ仕事見つけてきてあげてさ、世話してんのに……」
 彼女の言う通りだと良夫は思った。こんな自分に仕事を探してきてもらえるだけでもありがたいと思わなければならないのだ。
「訴えるなんて、そんな。由香さんには感謝しかありません……」
 おもねる気持ちを込めて、下の名前で呼んだ。由香は、少し落ち着いた様子で腕まくりをする。
「そう、でも感謝の気持ちがあるんだったら、どうして、何度も遅刻すんの? アタシに恥じかかせたいんだ……」
 自分の言葉に興奮するようにして、激しい平手打ちをもう一発食らわせる。
「あひっ……す、すみません、由香さん……反省しています……反省していますので……」
 良夫はその場にひざまずく。
「本当にすみませんでした……」
 目の前には、仁科由香の長い脚。黒いストッキングを履いた女性担当者の脚がある。それがいまからどう動くのか。良夫は自分を厳しく指導する女性をゆっくりと見上げる。紺色のタイトスカートに同色のジャケット、白いインナーがぐっと盛り上がり、彼女の豊満なバストを表している。男を見下ろす視線には嗜虐の悦びが感じられる。

―――遠慮なく、指導してください……
 もともと由香にそう願い出たのは、良夫の方だった。
―――殴っていただいても結構です……
 最初、彼女は冗談と受け止めていたようだが、少しアルコールが入っていたこともあって、良夫がすべてを告白すると驚きながらも納得してくれた。
―――へえ、増田さんって、そういう人なんですね。じゃあ、遠慮なくやっちゃおうかな。私……
 良夫は、思い切って、由香を居酒屋に誘ってよかったと思った。元来お酒好きだった彼女は、駅前で偶然会った良夫の誘いに簡単に乗ってきたのだった。

 慎重な彼女は、暴力を振るってから、「訴えたかったら、そうしな……そのかわり……」と予防線を張るようなことを言ったが、そもそも良夫の希望なのだから、いくら怪我しようが良夫には訴える気持ちなどさらさらない。
「由香さん……どうか……気合いを入れてやってください……私、たるんでいるようなので……」
「そうだね、ちょっと増田ちゃんはたるみすぎだね。どうしようか……」
「あ、あの……由香さん、どうか、私のことは呼び捨てにしてやってくださいませ。《さん》づけはもちろん、《ちゃん》も何もつける必要はありませんので……」
「そう……じゃあ、どうしようか、増田」
「あ、足蹴にしてもらってかまいません……」
「いいの?……」
 腕組みをして良夫を見下ろしている。
「はい……」
 黒いストッキングの片脚が目の前から消えて、背中に重たい衝撃がのしかかってくる。
「ううっ……あ、ありがとうございます……」
 見上げると、彼女は興奮を表情に浮かべている。
「あ、あの、由香様、仁科由香様、私の頭の下げ方は十分でしょうか、この程度で……」
 そういって、顔を伏せる。
「ふん、高いわね、頭が……」
 ストッキングの片脚が再び上がり、良夫の後頭部を踏みつける。
「ああああっ……申し訳ございません……」
「いいの、こんなことやられて、アナタ、頭踏まれてるのよ、女のアタシに……」
 由香は、ぐいぐいと脚に力を込めていく。
―――ううううううっ……ひいいいっ……
「あ、ありがとうございます……由香様……あ、あのもしよろしければ、ビンタをあと、十発ほどいただけませんでしょうか……気合いを入れてください……」
「いいの、そんなこと言って、知らないわよ……アタシこう見えて、結構力強いんだからね」
「は、はい……覚悟は出来ています。鼻血が出てもかまいませんので……」
「言ったわね……じゃあ、立ちなさい……」

 良夫は、彼女自らの意思で殴られていると念じ込み、懲罰を受けた。興奮しきった仁科由香は、良夫の頬を本当に鼻血が出るまで、往復に平手打ちした。そのときの恐怖を今、大島洋子の前で噛みしめている。
「大島部長……」
 良夫は椅子を降り、彼女の足元に跪いた。そして、床に頭をつける。
「申し訳ございません……あ、あの……反省していますので、今回だけはお見逃しいただけませんでしょうか……」
「ちょ、ちょっとやめてよ、びっくりするじゃない……」
 いきなり土下座をしてきた良夫に面食らっている。開いていた脚を慌てて閉じる。
「すみません……でも、どうか……ここを辞めさせられたら、私、本当に行くところがないんです……大島部長様の言うことはなんでもききますので、どうか、置いてやってくださいませ……」
 良夫は悲しげな目で、洋子を見上げる。
「とにかくさ、ミスは困るわけ」
 ビジネスの修羅場を数多くくぐり抜け、三十代で部長にまで上り詰めた洋子であっても、いきなりの良夫の卑屈な態度に困惑しきりの様子だ。
「すみません、私がいたらなくて……厳しい指導をしていただいてかまいませんので……」
「厳しい指導、ね……それでミスがなくなるならいいけど……」
「は、はい……努力します。とにかく、配送に関しては徹底的に気をつけますので」
「うん、そこは最低限、絶対におさえてね……分かったわ、椅子に戻りなさい」
 良夫は、土下座をする前と後で、洋子の言葉遣いや態度が少し変わったことに気づいた。これから、この大島洋子部長と瀬口朝香課長には徹底的にしごかれることになるだろうと想像すると背中がゾクゾクしてきた。

 この職場はマンションの一室で、美容系通販会社の一部署になっている。ここに通うのは契約社員である増田良夫の他、部長の大島洋子、課長の瀬口朝香、そしてもう一人、この春入社した高本夏美たかもとなつみという二十歳の正社員がいた。ストレートの黒髪に愛くるしい面立ちの彼女に良夫は一目惚れをした。独身の四十二歳にとってあまりにもまぶしすぎる存在だった。自分の娘のような年頃の彼女だが、身分の上では上司に当たる。正社員と契約社員の違いは大きかった。しかし彼はその身分の差を喜んで受け入れた。
「夏美さん、コーヒーおれしましょうか」
 良夫は隣の席の彼女に声を掛ける。親しみを込めて、すぐに下の前で呼ぶようにしたのだが、彼女もたちまちそれを受け入れてくれた。
「え、いいんですか、じゃ、お願いします……」
 彼女は笑って答える。女性たちは、良夫のそういった態度を徐々に理解し、受け入れ始めていた。

「明後日、飲みに行こうか、みんな……増田さんの歓迎会やってなかったし」
 部長の洋子が言う。皆、予定も異論もなかった。良夫は、あれ以来、顧客の信頼を失うような大きなミスはなかったし、これで、雇用の継続が認められたのだと思うと嬉しくなった。
「あ、ありがとうございます……」
「お店どうしようか。少人数だけど、予約しといた方がいいよね」
 洋子がそう言うと良夫が、「あ、大島部長、私、やっときましょうか?」
「大丈夫?」と長身の朝香が強い視線で見下ろす。
「は、はい……なんとか」
「わかった。じゃあ、まかせる」
 そう言う洋子に良夫は、予算や料理の希望を聞いて、店探しを始めた。完全個室で雰囲気のいい居酒屋が見つかったので、洋子に確認を取ると、そこでいいという了解が得られた。

☆ 二

「ええっと、じゃあ、増田さんの歓迎会ってことで……」
 歓迎会当日、洋子が、良夫にひと言を促す。
「あ、はい……ふつつかな者ですが、ど、どうかよろしくお願いします……」
「なんか、嫁入りみたいだね」
 皆笑って、乾杯をする。座敷個室のテーブルを部長の大島洋子、課長の瀬口朝香、正社員の高本夏美、そして派遣社員の増田良夫の四人で囲んでいる。
「でも、ホント、ありがとうございます。これからもずっと雇っていただけると言うことでよろしいのでしょうか」
 良夫は向かいの洋子にわざと卑屈な物言いをしてみる。
「ミスがなければね。致命的な」と彼女も良夫の態度に応える言葉を放つ。
「しっかし、びっくりしたわよ、いきなり土下座なんてしてくるから」
 そう言う洋子に、朝香も夏美も驚いた様子だった。良夫は恥ずかしげにうつむく。
「え、いつ?」と朝香。
「ほら、あのとき。送り漏れで、あなたに交代して叱ったでしょ。アタシが」
「ああ……」
 右前の朝香が興味深げに良夫を見る。
「ひょっとしてさあ、叱られて喜ぶタイプ?」
「あ……どうでしょうか……もしかして、そういうところもあるかもしれません……」
 良夫は照れながら言う。隣の夏美の視線を感じてドキドキする。彼女はどんな風に思っているだろう。
「正直に言ってみ、M男ちゃんなの? アナタ」と洋子。
「うん、だったらさ、それなりにこっちも接するから」と早くもアルコールで顔を赤らめた朝香が言う。
「ええ、ホントですか」と夏美が高い声を上げる。
「…………かも……しれません……」
 良夫はウーロン茶のグラスを握ったまま恥ずかしそうに下を向く。
「そうか……どんなことやって欲しいの?」
 課長の朝香が積極的に聞いてくる。
「いえ、別にそんな……あ、でも、ミスしたときなどは、厳しくお願いします。遠慮は要りませんので……」
「厳しくって、どの程度によ」
「叩いてもいいわけ?」
 上司二人が畳み掛けるように聞いてくる。
「は、はい……」
「そんなこと言うなら、本当に殴っちゃうよ……」
 洋子がそう言ってビールを一気に飲み干す。
「あ、はい……あ、部長、お代わり頼みましょうか……」
「うん」
「アタシも」と朝香。
「はい……夏美さんは、大丈夫ですか?」
「うん、私はまだ」
 これまで《はい》だった返事が、《うん》に変わった。二十歳になったばかりの女性の返事が。良夫は、個室を出て、飲み物をオーダーしに行く。
「増田ちゃん、これ押せば、オーダー取りに来てくれるんだよ」と朝香が戻ってきた良夫にテーブルの上のリモコンボタンを指さして言う。真っ赤なマニキュアにドキリとする。洋子が笑う。夏美も微笑んでいる。
「ああ……」
「そう言うとこなのよ、アナタ。ちょおっと抜けてるでしょ」
「はい……すみません……」
「でもいいじゃん、オーダーいちいち、取りに行かせようよ……ねえ、そう言うのもOKでしょ、増田ちゃん……」
 意地悪そうな目をして言う朝香に、良夫は、「あ、はい……それがご命令であれば……」
「だよね、上司様の命令だもんね」
「は、はい……あと……」
「何?」
 洋子がタバコを取り出してくわえる。上司二人はタバコをよく吸うが、これまで男性の前では控えてきた。
「あ、火、お着けします」
 良夫がそう言うと、洋子は笑みを湛えて顔を前に出す。良夫はライターを手に取り、緊張の面持ちで、女性上司のタバコに火を着ける。洋子は美味しそうに吸うと煙を脇に避けて吐く。
「あ、大島部長、煙、普通に吐いてもらってかまいませんので、避けたりしないで……」
「ああ、そうか……で、何だっけ?」
「あ、あと、よかったら、呼び捨てでお願いします」
「名前を? 増田って?」
「どうして?」
「この中で、私がいちばん年上ですけれど、皆様の部下ですから、それの方が立場がはっきりしますし……」
「そう、あなたがいいって言うんだったら、私らはいっこうにかまわないわよ、増田」
 そう言って、洋子が笑う。
「夏美ちゃんも、増田って呼んでいいの? 増田」
 朝香もタバコをくわえる。すかさず、良夫が手を伸ばして、火をつける。
「はい……夏美さんがよければ、もちろん……」
「いえ……私はさすがに……」と二十歳になったばかりの夏美が照れる。
「正社員と契約社員だから、上下関係はあるわね。確かに」
「はい、それはもちろん、承知の上です」

 良夫は、女性三人のオーダーを聞いて、外へ出る。
「あ、すみません」
 さっきと同じ若い女性スタッフを呼び止める。
「注文いいでしょうか?」
「あ、あのよろしかったら、室内のベルを使ってもらっていいでしょうか」
「そ、それが……女性上司たちから、私の態度がよくないので罰として、直接注文を取りに行ってこいと言われてまして……中川様、申し訳ありませんが……ご協力いただけませんでしょうか……」
 良夫は泣きそうな顔をすると、女性の名札を見て言った。
「あ、はい……分かりました……ご注文どうぞ……」
 女性は少し笑ってそう言った。

 お酒がワインになると女性たちは急に飲むペースが速くなった。
「ワインお代わり。ボトルで頼んじゃおうか」
 洋子の声に反応して、すぐに良夫はメニューを調べる。
「デキャンタってのがありますけど……」
「ああ、それでいいわ。あとチーズ系のおつまみも」
「はい、かしこまりました」
 良夫は廊下へ出て、しばらく待つ。さきほどの中川という若い女性を見つけ、オーダーを伝える。女性はあきらかに不機嫌な顔をしていた。もう、四回ほどになる。
「あの、申し訳ないですけど……」
「すみません、中川様……こうやって注文を取らないと、酷い目に遭わされるんです。とても怖い上司なんです」
 若いスタッフの目は―――あなたより若い女性たちじゃないですか、そんなにペコペコ、ビクビクして情けないと思わないんですか、男として―――とでも言いたげであった。
「ど、どうか、お願いします……」
 良夫は、周りに誰もいないのを確認すると、その場にひざまずいて頭を下げる。
「あ、あの、お客様……そんな……分かりました……注文お聞きしますから」
 女性が慌ててしゃがみ、良夫の背中に手を当てる。良夫が立ち上がると、廊下を曲がって人がやってきた。
「すみません、中川様、本当に情けない限りで……」

「遅いじゃない、増田」
「何やってたの?」
「そ、それが、直接注文を取りに行くことが、こちらのスタッフ様にご迷惑だったみたいで……そのお詫びを……」
「そうなんだ……っていうか、アンタが言い出したんだよ、このシステム……」
「はい……、それで、その方がこちらに来られたときに、もう一度、しっかりお詫びしたいと思いますので、それをご指導いただけますでしょうか……あの、謝る態度などを厳しくお願いします……」
「分かった。本当に厳しくやるよ。ウチら鬼上司ってことになってるんでしょ」
「は、はい……そうです……すみません……」
 勘の良い朝香の言葉が嬉しかった。

「おまたせしました」
 中川という名札をつけたアイドル顔のスタッフが、注文の品をテーブルに並べる。
「あの、ごめんなさいね、さっきから、うちの部下がご迷惑掛けてるみたいで」
「あ、いえ、ぜんぜん……」
 女性は顔の前で小さく手を振り恐縮している。
「ちょっと、お忙しいところ悪いんだけど、彼を厳しく指導してるところだから協力してもらえないかしら」
 そう言われて女性は、「あ、はい……」と答え、トレーをいったんテーブルに戻す。
「きちんと謝れよ」と朝香。
「あ、もう、それは、大丈夫ですので……」
 手を振って遠慮する女性に、朝香が、「悪いけど中川さん、彼がどんな謝り方するか確認したいの。協力して」と言う。だいぶ酔っているようだった。女性は客の座敷に座り込むわけにもいかず立ったままだ。良夫は自席から、そちらに向かって「申し訳ございませんでした」と謝った。
「なんだよそれ」
「そんな謝り方があるの?」
 女性上司たちが良夫を責めるところを夏美はただ笑ってみている。
「何度も、注文を直接伺ってしまい、中川様にご迷惑をおかけして、申し訳ございませんでした」
「増田、オマエなんでそんな場所から偉そうに言ってんの?」
「彼女の前で土下座しろ、土下座」
「お客様、もう本当に……」
 中川という女性もそう言いながら、その雰囲気を楽しむ兆しをみせ始めている。アイドル顔にかすかな笑みが浮かんでいる。
「だめだめ、中川さん、こういうことはきちんとしないと……」
 洋子が女性の腰に手を掛けていう。
「増田、ほら、早くいきな」
 朝香が顎で示す。
「は、はい……」
 良夫は、女性スタッフの足元へと移動し、その場に跪く。
「中川様、何度もご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんでした」
 肌色のストッキングに包まれたつま先に向かって頭をつける。
―――夏美さんの前で、恥ずかしい。こんな惨めな姿をどういう思いで見ているのだろうか……
「ごめんなさいね、あとはボタンで頼むから」と洋子。
「あ、いえ、私は別に、本当にもう……」
「ほら、許してくれるんだって、お礼は?」
 朝香が促す。
「あ、中川様……」
 良夫はアイドル顔のスタッフを見上げる。彼女は遠慮がちな言葉とは裏腹に勝ち誇ったような顔をしてこちらを見下ろしているように彼には見えた。
「お許しいただいて、ありがとうございます。以降、気をつけますので、今日のところはこのくらいでご容赦くださいませ……」
「どう、いいかしら?」
「あ、はい……分かりました」
「ごめんなさいね。お忙しいところ、お手間とらせちゃって」

「どう? ご気分は?」
「興奮した?」
 夏美の横に戻った良夫に、上司たちが聞く。
「あ、はい……」
 良夫は、照れてうつむく。
「独身だよね。増田は。え、じゃあさあ、彼女とかとはどうなわけ? やっぱり相手がS?」
 朝香が興味津々の面持ちで聞く。
「い、いえ……」
「何よ、照れずにちゃんと答えて。上司が聞いてるんだから」
 洋子が笑みを浮かべながらも強い口調で言う。
「はいっ、すみません」
 良夫は正座し直す。
「増田さん、ずっと正座なんですけど。痛くないんですか?」
 夏美が笑って言う。
「あ、いえ……痛いですけど、崩していいって言われてませんので」
 それを聞いて皆笑う。
「うん、言ってないよ。質問にきちんと答えたら、崩させてあげるよ」
「は、はい……分かりました」
 良夫は苦痛に顔をゆがめる。
「これまでにつきあった彼女がSなのかどうなのか、答えなさい」
「あ、あの……それが、恥ずかしながら、私、これまで女性とおつきあいしたことがありませんで……」
―――ええええっ
 女性たちが驚く。朝香がワインを噴きそうになる。
「ちょっとお、冗談やめてよ。いくつだっけ、増田」
「あ、四十二です……」
「まったくないの? つきあったことが……」
「は、はい……」
「まさか、風俗専門とか……」
「い、いえ、それも、ありません……そう言うのは何だか怖くて……」
―――え?
「増田、あんたまさか……」
「童貞?」
 良夫は顔を真っ赤にして下を向く。
「やばいんじゃない……ちょっと、それは……」
「天然記念物発見だね」
「そうか……増田は童貞だったか……」
「すみません、皆さん、どうかここだけのお話に……」
 そう言って懇願するように三人の顔を見ていく。少々軽蔑の色をはらんだ夏美の笑みを見て、背筋が熱くなる。
「言わないわよ」
「誰にそんな話すんのよ」
「そうかあ……増田が童貞だったとはねえ……」

☆ 三

「お、おはようございます、夏美さん」
 マゾでしかも童貞であることを同僚女性たちに告白した翌日、良夫はいつものように二番目に出勤してきた高本夏美に挨拶をする。ストライプの入った紺のベストとスカートを身につけている。会社から支給されているOL服だ。
「おはようございます」
 いつもと変わらない笑顔で安心した。軽蔑されるのはいいが、ひかれて無視されるのがいちばん恐ろしい。
「夏美さん、コーヒーでいいですか?」
「うん、お願い」
 二十歳以上も年下の彼女に《うん》と言われるだけで背筋がゾクッとする。
「お待たせしました。すみません……」
 夏美がふふっと声を出して笑う。良夫が些細なことで謝るのが面白いのだろう。
「うちのホームページって、夏美さんが作られたんですか?」
 ホームページの管理が夏美の主な仕事だった。インターネット通販が売り上げの大部分を占めるので重要な役割だ。
「まさか。業者の人に頼んだんです」
「ですよね。バカなことお聞きしてすみませんです……」
 良夫はわざと夏美に愛想笑いを浮かべ、自分をおとしめるようにした。
 それを見て、夏美は口に手を当て笑う。
「面白いですか?」
「うん、面白い」
「あ、あの、夏美さんにお願いがあるんですけど」
「はい」
「増田って呼び捨てはあれにしても、私に敬語を使っていただく必要はありませんので……」
「…………分かった。そうする」
 夏美は少し考えて、返事した。

「あ、瀬口課長、おはようございます」
 朝香が出勤してきた。首に大きなパール粒のネックレスを掛け、白いスーツが格好良く決まっている。
「コーヒーでよろしいでしょうか」と尋ねてすぐに準備する。
「もう、いちいち聞かなくていいからさ、私が出社したらすぐに入れな」
 朝香がそういうと向かいの席の夏美も、「私も」と言った。
「はい、承知しました。明日からそうさせていただきます。すみませんです……」
 良夫は二人の女性に大げさにペコペコと頭を下げる。朝香が居酒屋での強烈な上下関係をそのまま翌朝に持ち越してくれていることが良夫にはたまらなく嬉しかった。

「増田」
「はいっ」
 朝香に呼ばれ、良夫はすぐに席を立ち、夏美の後ろを回って、課長デスクの脇に直立不動の姿勢で立つ。夏美が笑いをこらえているのが分かる。
「コピー、二部ずつ」
 朝香は、わざと良夫の顔を見ずにそう言って、かなりの厚みがある資料を渡す。
「はいっ」
 良夫はコピー機の電源が入ってないのに気づき、しまったと思いながらスイッチを入れ席に戻る。
「すみません、今入れましたので……」
 朝香の方に小声でそう言う。
 朝香はそれを無視して、キーボードを打っている。

 ようやくコピー機が起動したところで、このオフィスの主である洋子が出勤してきた。
「大島部長、おはようございます」
 良夫は、席を立ち、部屋の入り口を横切る彼女の姿を追いかけるようにして言う。部長室は隣だ。
「おはよ」
「すぐにコーヒーを淹れますので」
「うん、お願い」
 朝香に頼まれた仕事を気にしつつ、急いで部長室に朝の一杯を届けに行く。部屋に戻り、朝香に「すみません、すぐにやりますので」と声を掛け、慌てて資料をコピーする。

「お待たせしました。瀬口課長、すみません」
 良夫はコピーを二部、キーボードを黙って打つ朝香の脇に置くと、自席へ戻った。無言の朝香が、部屋に緊張を作っている。いや緊張しているのは良夫だけかもしれない。夏美は変わらず、仕事に集中している。

「増田」
 良夫がコピーした資料を一通り眺め、朝香が声を掛ける。
「はいっ」
「ちょっと、あっち行こうか」
 打ち合わせテーブルのある部屋へ連れて行かれる。
「何これ? どういうつもり?」
 テーブルの上にコピーされた資料が放り投げられる。
「曲がってるし、ホッチキスの位置が逆、ゴミが映ってるけど、コピー機のガラス拭いた?」
「あ……いえ……すみません」
「あんた、厳しく指導してっていったよね」
「は、はいっ」
「遠慮なく、やらせてもらうわよ」
「はい、すみません……」
 あまりの剣幕に良夫は本当に恐ろしくなってきた。
「あとさ、朝来たら、コピー機の電源、入れとくよう言ってなかったっけ、アタシ」
「あ、はい……言われました」
「どうして、言われたことやってないのよっ」
 オフィス中に響き渡るような大声を上げる。
「はいいっ……も、申し訳ありません……」
 自分の声が震えていることに良夫は気づく。直立不動の姿勢を取って身を固める。朝香にはそれが殴られるのを待っているような態度に見えた。
「殴ってもいいんだったよね。そいえば……」
「……は、い……」
「歯、くいしばんな……」
 白いシャツを腕まくりする。色白ながら、骨太のしっかりした腕が現れる。テニス部の主将として高校時代に県大会に出場したこともある。マゾ男は自分の夫くらいだけかと思っていた朝香は、勤め先にまで同類が現れて驚いていた。男をいたぶるのには実は慣れている。

 打ち合わせ室の方から、激しい殴打音と中年男の情けない悲鳴、謝罪、嘆願の声を聞いて、夏美は興奮を感じている自分に驚いていた。

 その日以来、課長の朝香は、夏美が見ている前で、良夫を厳しく指導した。それは指導というよりも日々、虐待に近づいていった。部長の洋子もそれを黙認していた。

「増田」
 部長室から洋子の声が聞こえる。
「はいっ」
 すぐに席を立って向かう。
「大島部長、お呼びでしょうか」
「うん、来月の二十三日、部署で温泉一泊旅行やるから、計画つくって持ってきて。女性三人はこの日都合良いけど、アンタもいいよね?」

S女小説 ミストレスオフィス「Mの告白」

Kindle小説サンプル

S女小説「ガールズバンドグルーピー」

S女小説「ガールズバンドグルーピー」を電子書籍として出版しました。

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内容紹介

ガールズバンドのグルーピー(性的追っかけ)となって陵辱や虐待を受ける男たち。
恋人・彩(20)の誘いでガールズバンド「サディスティクス」のライブを見た和也(25)はひと目で、美しき女性ロッカーたち(20-23)のとりこになる。彼女たちの女性限定ライブに、彩の協力で女装までして乗り込んだものの……。

第一章 女装の行方
第二章 地獄のミューズ
第三章 マワされた夜
第四章 女子大学園祭
第五章 鞭を振るう女たち
第六章 夜は貴女のために

本文サンプル

プロローグ

グルーピー【groupie】……もともと音楽バンドを意味する「グループ」から派生した言葉で、その相手と親密な関係(肉体関係、ときには精神的つながり)を望む女性(ときに男性)のことを指す。侮蔑的な表現としてあえて「グルーピー」という言葉が使われることもある。英語圏では「ミュージシャン、アーティストに会おうとする(追っかけをする)少女」と意味されている。(出典:Wikipedia)

 

―――サンキュー……
アンコールの曲が終わり、ステージの長身美女たちが去ると、枝元えだもと和也かずやは、呆然としていた。コンサート会場をあとにしながら、恋人の上野あやが話しかけてくる。
「凄い迫力だったね」
「う、うん……」
女性だけの四人組ロックバンド《サディスティクス》。そのパワフルな演奏に、二十五歳のフリーターは打ちのめされていた。和也自身もアコースティックデュオを組んでいるのだが、音楽のジャンルはもちろん、演奏やパフォーマンスのレベルが段違いだと思った。
「誰が、あやちゃんの知り合いなんだっけ?」
「ベースのユリナさん。彼女が私のクラスメイトの友人なの」
「同じ大学?」
「うん」
彩は二十歳の女子大生。清廉なイメージの美人で、少し茶色がかったナチュラルなショートヘアが、よく似合っていて愛らしい。二十五歳の和也とはファストフードのアルバイトで知り合った。
「ボーカルの人、よく声出てたよね。超美人だし」
「うん、確かに……」と和也。
「彼女が、ヒトミさんで、ギターがカナコさん」
「ギターの人も上手いよね。音も格好良かったし」
「だね。あれなんていうギター?」
「レスポールっていうんだよ。女性であの重たいギターをあんなに格好良く弾ける人を初めて見たよ」
「ふうん。でも、みんな背が高かったよね」
「うん、特にベースの人」
「あ、そう、ベースのユリナさんは、百八十センチ以上あるんだよ、確か」
「他の女性ひとたちも百七十センチくらいあるんじゃないの」
そう言いながら、和也は少し惨めな気持ちになった。自分の身長は、百六十三センチで、恋人の彩より二センチ低い。彼女は百六十五センチある。
「うん、あるでしょうね」
彩は和也の横顔を見ながら、身長の話題を振ったのは失敗だったかと思った。
「ドラムも迫力だったね。彼女もきれいだったわ」
「うん……」
全員が美形で、背も高く、ビートの利いた音楽性も素晴らしく、演奏技術もハイレベル。今はまだアマチュアらしいけど、このバンドならすぐにでもプロデビューできるだろうと和也は思った。
チケットを買わされた彩の誘いで、あまり気乗りせずにつきあった和也だったが、すっかりサディスティクスの虜になってしまった。

第一章 女装の行方ゆくえ

☆ 一

「うん、和也だったら大丈夫。絶対女の子で通るから」
彩は和也の目に淡いアイラインを引きながらいう。
「本当に大丈夫かな……」
和也はまんざらでもない表情をして鏡のなかの自分を覗いている。

「私の服が私より似合ってるなんて、ちょっと悔しいんですけど」
彩はふわふわしたピンクのシフォンスカートを履いた和也を見て言う。
「そ、そう?……」
「うん、すね毛もほとんどないし、ホントはストッキングなしでもいけるんじゃない?」
そう言いながら彩は、自分のパンティストッキングを和也に渡す。
「どうやって、履いたらいいのかな……」
照れるようにする彼を、恋人はかいがいしく手伝ってやる。ブルーのショーツの下に盛り上がったものを見つけ、彩は「ふふっ」と口に手を当てて笑う。

「これ着けたら、たぶん完璧だよ」
そういって彩は、和也の長めの髪を上手にピンでまとめ上げ、その上から、ゆるくウェーブが掛かった明るいブラウン色のウィッグを装着してやる。
「ほらっ」
彩は着せ替え人形を楽しむ少女のような目で、彼を見る。
「あとはこのジャケットを着て」と白いブラウスの上に、ベージュのジャケットを着せる。
「これ肩から掛けてごらん」
紫色のショルダーバッグを渡す。

「ほ、本当にバレないかな……」
やはり不安がる和也に、「大丈夫、完璧、完璧」と彩は言う。
「靴も、二十三センチ半で履けるよね?」
「う、うん……」
靴まで彩と同じものが履けることが、さすがに和也は恥ずかしいと思った。しかし、そのおかげで、サディスティクスの女性限定ライブになんとか潜り込むことができそうだった。
「私も、バイトがなかったら、行きたかったな」
「ごめんね、僕だけ。でもどんなライブだったか、明日しっかり報告するよ」
「うん、いってらっしゃい」
「いってきます」
和也は少しドキドキしながら、彩がひとり暮らしするマンションをあとにする。

生まれて初めてスカートというものを履いて歩く和也は、股間がスースーする感触を楽しむ。
(これがスカートか……いまの季節はいいけれど、冬になったらこれは寒いだろうなあ。女子もなかなか大変だ……)
九月も終わりに近づき、ようやく残暑が去ろうとしていた。駅までの道すがら、和也は特別な視線を感じない。彼の女装は、今のところ、道行く人々を完全にあざむいている。和也のなで肩から少しずつショルダーバッグが落ちてくる。それを彼は、頻繁に戻さなくてはならなかった。恋人の彩はそんなことはないようだから、自分は女性よりもまあるい肩をしているのだ。女性の格好をしていると、そういうことが逆に嬉しく感じられるのが不思議だった。
駅のコンコースへと上がる。本当は、ヒールを借りて履きたかったのだが、さすがに最初からそれはハードルが高いと思い、つま先が丸くてかわいい、焦げ茶の編み上げ靴を借りた。これなら、男ものの靴とほぼ同じように歩ける。ヒールが高くないので、背は低いままだが、それもかえって女の子っぽくていい。
日曜日の夕方、繁華街へ向かう電車はさほど混んでいなかった。なかでも人がまばらな一番後ろの車両に和也は乗る。空っぽの運転席の窓を逃げていく景色をボーッと眺めている。眺めながら恋人の彩のことを考えた。
(彼女は自分の恋人がこんなで平気なんだろうか。楽しそうにメイクをしてくれたけれど、内心軽蔑してるんじゃないだろうか。もはや、彼氏と思ってくれていないのかもしれない……。彼氏でなければいったい自分はなんなのだろう……。いや、そんなことより今日はライブだ。サディスティクスのエネルギッシュなステージを思いっきり楽しもう。そのためにこんな格好までしたのだから……)
三駅ほどで繁華街に着く。急ぎ足でホームを歩き、改札を抜ける。街中を歩くひとたちは、そんなに他人を見ていないような気がする。人が多い割りには、視線を感じない。いや、ときどき男性の視線を感じる。ということはつまり……女装が成功しているのだ。なんだか、和也は妙な気持ちになる。

開演三十分前から並んだおかげで、最前列の中央を確保できた。ライブ会場は、二百五十人ほどのキャパシティで、オールスタンディングだ。和也の周りはもちろんオール女子。女性の匂いと熱気が決して広くはない空間に充満している。
開演の時刻が過ぎた。しばらくして、パイプオルガンの荘厳な曲が流れる。ミサ曲かなにかだろうか? 何にしろサディスティクスの音楽とは対照的な楽曲だ。前回のライブもこの曲だったと、和也は思った。ステージの右手から人影が現れて、客席から指笛や拍手、かけ声が起こる。ドラムスのサキが、革のブラジャーとホットパンツ姿で入ってきて、ドラムセットに座る。黒っぽいシャツを着たベースのユリナが左端まで進み、赤いベースギターを身につける。かなり大きく派手な楽器であるが、大柄できらびやかな彼女は、その存在感に置いてまったく引けを取っていない。ネックを握る姿が、堂に入っている。セッティングを終えると、長い黒髪を手ですき、束ねるようにして背中へ回す。
客席からステージを見て右手に位置したギターのカナコは、ひときわ大きな歓声を浴びている。こういったバンドのギターはやはり花形だ。なかでも飛び抜けた感性とテクニックに裏打ちされた彼女のギターは、多くのフリークを釘付けにしていた。アマチュアバンドのものとは思えぬ熱気が、早くも会場を包んでいた。
三人の女性がアイコンタクトを取り、ドラムスがカウントを打つと同時に、BGMをかき消すようにして、大型バイクの爆音のような迫力のイントロがスタートする。ステージ中央にピンスポットが当てられ、黒い革ジャンに身を包んだボーカルのヒトミが登場する。観客のボルテージが一気に最高潮に達する。

和也は呆然とその場に立ち尽くしていた。アンコールが終わり、会場の照明が点り、周りの女性たちが出口の方へと向かっていたが、それでも彼一人、ステージの方を向いていた。すべてが素晴らしかったが、特に真正面の至近距離で見たヒトミの歌声、パフォーマンスが強烈だった。暴力的でありながら、決して粗くはなく、むしろ綿密に執拗に和也の心の内に侵食してきた。和也は、ヒトミに丸呑みされた状態だった。ステージの楽器をスタッフが片付け始めたところで我に返り、出口の方を振り向くと、背中から声を掛けられた。
「ちょっと、すみません」
「あ、はい……」
振り返ると会場スタッフらしき女性が立っていた。
「あの……ヒトミさんが、楽屋の方にって」
「えっ?」
「サディスティクスのヒトミさんが、あなたをバックステージに呼んでますけど、どうされます?」

スタッフに連れられて、和也は会場のフロア前方右手のドアから廊下へ出て、奥へと進む。突き当たりで左に折れ、廊下の一番奥まで歩く。
「なかにいますので……」
スタッフは、ドアを二回ノックし、「はい、どうぞ」というけだるい声を聞くと、足早にその場を立ち去った。
「失礼します……」
和也が部屋の中に入ると、まさしくさっきまで自分の目の前で熱唱していた美女がひとりソファにゆったりと座ってこちらを見ている。
「……うん……アンタ、男だよね?」
長い髪を金色に染めた女性は、ハスキーな声で、確信を持った顔をしてそう言った。
「えっ、いえ、あの……」
「いいから、こっちおいでよ」
ヒトミは首から掛けたタオルで顔の汗を拭うと、それを向かい側に放り投げ、タバコに火をつけた。
「あ、はい……失礼します」
和也はヒトミの隣に少し間を開けて座った。ヒトミのウェーブの掛かった長い金髪は、部分的に赤く染められていて、それが彼女の激しい印象をより高めていた。
「す、すみません……どうしても今日、ヒトミさんのライブが見たくて……」
「それで、女の格好して入ってきたわけ……」
真っ赤な唇がフーッと煙を吐く。
「は、はい……ごめんなさい……」
「……そういうのたまにいるけど、だいたいゲートで引っかかるんだけどね。この完成度なら、抜けられるだろうね……でも、あたしの目はごまかせないよ」
そういって妖しい笑みを浮かべる。
「サディスティクス、本当にカッコイイです。大ファンなんです。ヒトミさんの歌も曲も、ステージングも全部好きなんです。憧れちゃいます……」
和也はしゃべり方まで女性っぽくなっている自分に気づいて、顔を赤らめる。
「声も女の子みたいだね。名前は?」
「和也です。枝元和也っていいます」
「枝元クン、ドアの鍵閉めて」
「えっ、は、はい……」
ヒトミの命令には有無を言わさぬものがあった。
「そこにそのまま立ってな」
ドアの内鍵を閉め、ソファに戻って座ろうとする和也を制する。
「は、はい……」
「あんたいくつ?」
「あ、はい……二十五です……」
「とても、アタシの二つ上のお兄ちゃんには見えないね。三つ下の妹って感じかな。体も小っちゃいし」
「脱げよ、服」
「えっ?」
「え、じゃないよ。洋服脱いで裸になれっつってんの」
和也は戸惑ったが、憧れの女性であるヒトミが言っていることを断るわけにはいかない。ジャケットを脱いで、ブラウスのボタンを外していく。
「もったいぶってないで、さっさと脱ぎな」
ヒトミは苛ついたようにして、タバコの火をテーブルの灰皿で揉み消す。
「は、はい……」
ブラウス、スカートを脱いで、ショーツをストッキングごと下ろす。ウィッグ以外はすべて体から外した。
「……うーん、下半身までかわいいな……まあ、一発試してみっか」
そういって、ヒトミは、和也のものをぐっと握るとソファの左側に掛かっていたカーテンを開けた。そこにはダブルサイズのベッドが置かれていた。
「あっ、ああああああっ、こ、困ります。ヒトミさん……」
彩の顔が浮かぶ。
「女装して、人のライブに紛れ込んどいて、何言ってんだよ。警察につきだしてやろうか?」
そう言われると和也は何も抵抗できなくなってしまった。ヒトミの意のままにベッドに押し倒される。

「仕事何やってんの?」
自分は服を身につけたまま、裸の和也をベッドの上でさんざん弄んだヒトミはソファに座り、事後の一服を着ける。
「……あ、は、い……バイトです……フリーターです」
和也も再び女物の衣服を身につけ、ヒトミの横にそっと寄り添っている。
「私、スタジオ管理してんだけど、バイト来る?」
「えっ、ひ、ヒトミさんが?」
「うん、叔母がオーナーなんだけど。このライブハウスもそうなんだよ」
音楽出版社社長を叔母に持つ、二十三歳のヒトミは、自由に音楽活動ができる環境にあった。
「ぜ、ぜひ……お願いします」
きついばかりのコンビニバイトに嫌気が差していた和也は乞うように返事をした。ヒトミさんの下で働けるなんて願ってもないことだ。

その夜の帰り道、和也は喜びと苦しみの狭間にいた。喜びはもちろん、憧れのバンドのボーカリストに抱かれたことだ。
(しかし、いきなり、キスもなしであんなことを……ヒトミさんはいつもそうなんだろうか。手頃なファンを捕まえて、自分の気分のままに。アーティストというのはそういうものなのかもしれない。だけど、もうダメだ。すっかり虜になってしまった。ヒトミさんが望むなら次もきっと断れないだろう。いやむしろ、自分の方から接近して、もう一度抱かれたいくらいだ。彩ちゃんに悪い。申し訳ない。だけど、これは不可抗力だ。無理矢理、犯されたのだから。いや、そうじゃないだろう。いま、自分から犯されたいって思ったじゃないか。ああああ、どうしよう……)

☆ 二

(やっぱり、凄い迫力だ……)
防音が施されたルームの外にも爆音が漏れ聞こえてくる。和也は、彩に借りたホットパンツのオーバーオールとピンクのTシャツ、それに太ももまであるボーダーのハイソックスを身につけている。足元は花飾りが付いた赤いサンダルだ。
ヒトミが管理する《スタジオ・ピューピル》は、女性専用の音楽スタジオだ。pupilとは《ヒトミ》の意である。電車の高架下にあるこのスタジオは、運の良いことに彩のマンションから歩いて五分ほどのところにあった。ここで働く際に、ヒトミから女装を命じられていたので、和也はここのところ、彩のマンションに入り浸っていた。
(こんな近くに、ヒトミさんのスタジオがあるなんて……)
スタジオ・ピューピルは、実質サディスティクスのための練習スタジオで、空いた時間を他の女性バンドに貸し出していた。そのサディスティクスが、昼の一時から、すでに三時間ほどぶっ続けで、音を出し続けている。その間、和也はヒトミの言いつけ通り、スタジオの掃除やキッチンの片付けをやったが、それが一段落付いたので、スタジオルームのそばに立って、先ほどから演奏を聴いている。スタジオルームの入口側の壁には腰ぐらいの高さに横長のガラス窓が設置されていて、人の気配は伺えるが、なかをよく見ることはできない。
四時半くらいに、スタジオルームのドアが開いた。
「お疲れさまですっ」
和也は出てきた女性たち一人ひとりに準備していたタオルを渡す。スタジオルームの横には、三人掛けのソファが、テーブルを挟んで二脚置かれている。才気あふれる美女たちがタオルで汗を拭いながら二人ずつ座る。
「枝元、ビール四つ持ってきて。瓶のままでいいから」とヒトミが、いっそうハスキーな声で言う。
「はいっ」
その声にゾクゾクッとしながら、彼はキッチンで飲み物の準備をする。
「一番最後の曲、もう少し、テンポ上げたがいいんじゃない?」
「だね……」
「ユリナ、サビ前のブレイクのところはさ……こんな感じで……♪……」
「うん、OK」
メンバーたちの声を背中に聞きながら、和也は、こんなに身近でサディスティクスのお世話ができるなんてなんて自分は幸せなんだろうと思った。
「お疲れさまです、お待たせしました……」
和也は四人の前にハイネケンを置くと、「あ、あの……先週から、バイトさせていただいてます、枝元和也といいます、ど、どうぞよろしくお願いします」
「えっ、男の子?」
ヒトミ以外の三人が和也を凝視する。
「やっぱ、普通は分かんないか……」とヒトミ。
「こないだ、女子オンリーでやったじゃん。あんときにさ、この子、最前列のど真ん中で、女装して立ってたの。気づかなかった? 女ばっかのなかにポツンといて、私には分かったよ、すぐ」
「ヒトミは、そういうの鋭いからね」とギターのカナコ。
「近くで見るから、逆に分かんないのかもね」
ドラムスのサキが、ビールを一気飲みして、タンとテーブルに瓶を置いた。和也は、瓶のまま飲む彼女たちをかっこいいと思った。とても様になっていた。
「いや、彼、絶対女子だよ。私、いまでも信じらんない」と長身ベースのユリナが言った。
「あ、ビール、お代わり持ってきましょうか」
和也は恥ずかしくなり、その場を立ち去りたい気持ちでそういった。
「お願い」
「私も」
「四つ持ってきて」
「今度から最初から二本ずつ置いててもいいかもね」
笑い声にすら華がある。和也は彼女たちこそは、バンドをするために生まれてきたタレントだと思った。それに比べて自分は……。

「お待たせしました」
そういって、お代わりのビールをテーブルに置く和也を見て、ベースのユリナが、「やっぱり、かわいい」といった。
「あなたいくつ?」とドラムスのサキ。
「あ、はい……二十五です」
「結構なお兄ちゃんじゃない」
ユリナとサキは、大学二年生の二十歳、カナコは二十三歳だが、高校と大学で一年ずつ留学したので、大学三年生。皆、同じ女子大だ。ヒトミはスタジオ経営の二十三歳で、カナコと高校の同級生だ。
「こっちおいでよ」
ヒトミが、カナコと自分の間を指さした。
「は、はい…………じゃ、じゃあ、失礼します」
カナコの前を通って、遠慮がちに座る。
女性たちは、年上の男だと分かっても、態度を変えるつもりはないようだった。
「そのお洋服どうしてんの?」とサキが聞く。
「あ、あの彼女のです」
「へえ、彼女いんだ。彼女はどう言ってんの? そういうの」
「あ、はい……楽しそうに、メイクとかしてくれます……」
「着せ替え人形のつもりなんじゃない?」
「もはや、彼氏っていうよりも……」
「気をつけな。男は他で用足りてるかもよ」
「あは……ですかね」
カナコの指摘に、おどけた調子で返すも、和也はハッとさせられる。
「下着は、どうなってんの?」
「あ、一応、それも……彼女の……」
「見せてみろよ」
カナコが男の声音で、デニムのホットパンツの裾をめくる。
「ああっ」
和也は思わず、声を上げる。
「あ、ホントだ、ピンクのレース履いてる」
どれどれ、ユリナとサキが腰を上げて覗き込む。
「きゃあーっ、かわいい」
「や、やめてください……」
「そんなこと言われるとさ、もっとやりたくなるのよ、ウチら」
そういってヒトミが反対側の裾もめくりあげる。二人の女性が、両方から、和也のホットパンツを引っ張り上げる。ピンクのショーツが思いっきり露わになる。
「ハイレグみたいだー」
「やめて……お願い……」
「やめないよ……だって、ウチら、《サディスティクス》だから」

☆ 三

その日は女子高生バンドが練習を終え、ソファでミーティングを行っていた。学校帰りのためか、全員制服姿だった。紺色のブレザーにチェックのスカート。黒のハイソックスとローファーを身につけている。皆長身で脚が長く、そのためか、まるでロングブーツを履いているように和也には見えた。この日、スタジオでのバイトは、夕方で終わるシフトだった。和也と交代するエミリというもうひとりのバイト女性は、すでにスタジオに入っていて、楽器倉庫の方で仕事をしている。和也はこの後、彩と食事デートの予定で、彼女が迎えに来るのを待っている。このパターンは二回目で、前回は、彼女をヒトミに紹介した。そのヒトミは、女性の日のためか朝からイライラしていて、和也は少し悪い予感がした。
カランカランという音とともにスタジオ入り口のドアが開く。
「……こんにちは」
そうっと様子を伺いながら、彩が入ってくる。高架の上を電車が走る音がする。ブワンという警笛が聞こえる。和也はチラとヒトミの方を見る。ヒトミは女子高生たちに占拠されたソファ横のテーブル席に座り、和也が入れたコーヒーを飲みながら音楽雑誌を眺めている。
「こんにちは」という彩に、少し頷いてまた、雑誌に視線を戻す。
和也は彩から、男物の洋服が入った紙袋を受け取り、トイレに行って着替えてくる。ジーンズとチェックのシャツに着替えた和也を見て、女子高生たちが、「あっ、和也君、男の子に戻ってる」とからかった。
「ひ、ヒトミさん、じゃ、じゃあ、そろそろ、時間になりましたので、失礼します」
和也は恐る恐る彼女に言った。しかし、彼女は、雑誌から視線を上げない。
「ひ、ヒトミさん……すみません……」
「オマエさあ、調子に乗ってんじゃないよ」
そう言って彼女が顔を上げると、スタジオの空気が一気に張り詰めた。黒いTシャツに、黒いジーンズ、黒革のロングブーツを履いたヒトミが、体を和也が立つ方に向けて、脚を組み直す。入り口近くに立ったままの彩を見て、「ちょっと彼に言いたいことがあるからさ、あなたそこに座って待ってて」とテーブルの向こうを指す。彩は丸いテーブルを挟んでヒトミと対角の位置にある椅子を引く。ギギギギと脚が床を擦る音が緊張をあおる。女子高生たちもおしゃべりをやめてテーブルの方に聞き耳を立てている。
「そこ、正座しな」
ヒトミは、恋人や女子高生たちが見ている前で、年上の男性アルバイトをブーツの足元にひざまずかせる。土足で歩く床の上に直接だ。
「どうして勝手に着替えてるわけ?」
「あ……す、すみません」
「着替える前に、アタシのところにいいにくるんじゃないの? 二回目だよ。こないだは見逃してあげたけど」
「あ、はい……も、もう一度、着替え直しましょうか?」
「いいよ、バカ。彼女、待ってるだろ」
和也はチラリと彩を見る。彼氏をバカ呼ばわりされて、悲しいか悔しい表情をしているものと思いきや、なんと吹き出そうとしていた。しかし、和也の視線に気づいて、思いとどまった様子だった。ヒトミも、和也を叱りながら、彩の表情が視野に入っていた。ヒトミの指導が興味深い様子だったので、この彼女の男であれば、もう少しシメておいてもいいと思った。
「あと、も一つ言おうか」
「は、はい……」
「アンタ、そこの女の子たちにタメ口きいてたよね」
「あ、は、はい……」
和也は思わず、女子高生たちの方を一瞬振り返る。ブレザーの制服に身を包んだワイルドな女子たちが、じっと見ている。
「立場分かってる? お客さんだよ、あのコたちは。女子高の制服着てるけどさ」
「は、はい……」
「さっきから、はいはい、いってるけどさ、ホントに分かってんのか、オマエ」
そういってブーツのつま先で、和也の額を小突いてみた。
「あっ」
土足で顔を……。いくら尊敬する女性ロッカー、そしてバイトの上司とはいえ、年下の女にブーツで顔を蹴られて、しかも彼女の目の前で……和也の顔は一瞬こわばった。しかし、彼がその次に目の前の女性に見せたのは怒りの表情でも戸惑いの表情でもなく、ぎこちない笑みだった。そしてその顔に見合った謝罪の言葉が口から出た。
「すみません……」
「じゃあ、謝ってこいよ。向こう行って。ホントにそう思ってんなら」
「……は、はい……」
和也は、一瞬右向きに回ろうと思ったが、彩と目線が合わないように左から回り直し、ソファの女子高生たちのところへ床を這って向かった。
「あの……」
「はい」
女子高生たちは、ヒトミの言葉に自信を持ったようで、和也を自分たちより立場が下の者と見なして、強い視線を投げつける。
「さ、さきほどは、言葉遣いがよくなくて……その……あ、ええっと……」
「なに? 謝るんならさっさとやってよ」
大きな目をしたポニーテールのボーカルの女子が口を開いた。
「あ……はい、お客様に、大変失礼な、その……対等な口の利き方をしまして、その……ごめんなさい……」
「ごめんなさいって……」
そういって、ボーカルの女子高生は、ヒトミをチラリと見る。
「それがダメだっていってんだよ。申し訳ございませんって、なんで言えないんだよ」
ヒトミにそう言われ、和也はやっと女子高生たちに、本来の顧客に向けた言葉を捧げる。
「も、申し訳ございませんでした……」

 

S女小説「ガールズバンドグルーピー」

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S女小説 鬼女教官2「奴隷収容所」

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S女小説 鬼女教官「地獄の研修」の続編となります。

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内容紹介

鬼のように厳しい女性教官たちによる奴隷研修。鬼女教官「地獄の研修」続編。
女性上位企業で働くための「地獄の研修」を経て、牧田純一たち五名は、次のステップである「特別研修」に参加させられる。女性オーナーの個人奴隷としての役割が果たせるよう、男たちはさらに屈辱的、陵辱的な日々を強いられることになる。

序章  命あればこそ
第一章 最上級の屈辱を
第二章 鬼女たちの狂乱
第三章 女性専用肉便器
第四章 密かなる銃声
最終章 貴女にすべてを

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序章  命あればこそ

☆ 一

ここはどこだ?
目を覚ました牧田純一は、自分がベッドの上に寝かされていることに気づく。いったん体を起こそうとしたが、あちこちがズキズキと痛み断念した。頭だけ動かして、周囲を観察する。左手には白いブラインドの掛かった大きな窓。右手には、もう一つベッドがある。鉄パイプのシンプルなベッドだ。足元の向こうには、パーティションの役割をする白いカーテンが掛かっている。どうやらここは病室のようだ。鼻と口あたりに鈍痛を感じる。毛布から手を出して、触ろうとして止めた。純一は、少しずつ昨夜のことを思い出し始めていた。
部屋の向こうから足音が近づいてきて、ドアが開く音がする。純一は思わず目をつぶる。カーテンのこちらへ誰かが入ってきた。眠ったふりをする。椅子を動かす音。人の気配が接近してくるのを感じ、そうっと目を開けてみる。
「おはよう」
益岡麻由子だった。普段の事務服に戻っている。純一を蹂躙したときのハードなコスチュームは一時のことのようだった。昨夜は男性のようになでつけていた黒髪もナチュラルにふわりと降ろしている。可憐で美しい平時の彼女だった。
「お、おはよう……ございます」
「いいのよ、そのままで」
麻由子は慌てて体を起こそうとする純一を優しく制して、毛布をかけ直す。
「す、すみません……」
「何も謝ることないわよ……私の方こそ、やり過ぎちゃって……ごめんなさいね」
「いえ……そんな……謝らないでください……お願いしたのは僕なんですから……」
女医の桜井涼子が入ってくる。ここは研修所内宿泊棟の三階にある簡易医務室だった。純一が寝ている部屋は病室で、隣には簡単な診療室がある。
「起きたのね」
「お、おはようございます……」
白衣の涼子に純一は少し首を起こして挨拶する。美しい女性を見るだけで緊張する。失礼をすれば、暴力を振るわれるのではないかという思考が染みついている。涼子は麻由子の隣の丸椅子に腰掛ける。
「どう? まだ痛む? 一応、鎮痛剤は打っといてあげたけど」
「はい、少し……でも大丈夫です……」
純一は昨夜のことをはっきりと思い出す。強烈な顔面パンチを麻由子にもらって、血だらけになりながらも、恐ろしさで彼女のブーツに必死で舌を這わせた。彼の惨めな姿を見て、さらに興奮した麻由子は、彼の体を蹴りまくり、失神させてしまった。いや正確に言うと純一は気を失うふりをしたのだ。殺されないための防御反応だった。
「鼻骨と前歯と、ひょっとしたら、肋骨もやられてんのかな……もう少ししたら、病院につれていってあげるから」
涼子は純一を友人が経営している整形外科に連れて行くつもりだ。学生時代の親友なので、ある程度事情は話せる。
「すみません……ご面倒をおかけして」
麻由子は涼子の方を向いて頭を下げる。
「いえ、こういうときのために、私がいるんだから……」
涼子はそういうと、純一を病院に連れて行く準備をするために、診療室に戻っていった。入れ替わるようにして、女性が二人やってきた。純一が所属する会社の専務、西島直子と研修所主任教官の中田由紀恵だった。二人は共に三十三歳で高校時代の同級生だ。麻由子は椅子から立ち上がり、由紀恵と一緒に直子に詫びた。
「この度は申し訳ありません。少しやり過ぎてしまって……」
所有者の彼女に、預かり物を壊してすみませんとでもいうような謝り方だった。
「いえ、桜井先生にさきほどちょっと伺いましたが、思ったより大したことなかったようで……今日病院につれていっていただけるとのことで、こちらこそ、御手数をおかけします」
直子は、純一の方を見て、「大丈夫だよね」と言う。
「は、はい……本当にもう……皆さん、ご迷惑を掛けて申し訳ございません……」となんとかいったが、歯が抜けていて聞き取りにくかったかもしれないと、彼は焦る。
「そんだけしゃべれるなら、大丈夫だね」と直子。
「研修の方は、しばらく見学中心でやらせるから」と由紀恵が言うと、直子が、「引き続き、よろしくお願いしますね」と頭を下げた。
「あと、ちょっと話があるので、向こうへ行きましょうか」と由紀恵は直子と麻由子を連れてカーテンの向こう側へ行った。
「高田、コーヒー入れてきて」
「はいっ」
一番若い二十七歳の研修生、高田がいつの間にかカーテンの向こう側に待機していた。そのスペースに置いてあるテーブルを囲んで、由紀恵と麻由子と直子の三人は腰掛けた。しばらく雑談があって、高田がコーヒーを持ってきて並べ、壁際に気をつけの姿勢で待機する。純一はベッドの上で、彼女たちの様子を伺っている。カーテン一枚の隔たりなので会話もすべて聞こえる。
「五十嵐さんのことだけど、大丈夫かな」と由紀恵が言うと、「うん、本人もかなり乗り気だから、よろしくお願いします」と直子が応じた。この研修所の主任教官である由紀恵は、直子の部下である五十嵐亜紀を教官としてスカウトしたのだった。年上の男に容赦なく罵声を浴びせ躊躇なく暴力を振るえる彼女の資質があれば、きっと由紀恵が理想とする厳しい女性教官に成長できると考えた。
「益岡さんの方も、よろしくね」と直子が言うと、「ええ、大丈夫だよね、麻由子も」と由紀恵が答えた。
「はい、よろしくお願いします」と麻由子。
「トレード成立だね」と由紀恵が言うのを聞いて、純一は胸の鼓動を高めた。
(麻由子さんが、うちの会社で働くことになったのか……)
その後は、女性たちの会話は上の空で、純一は自分の妄想に入り込んだ。

麻由子が身近になることを聞いて、純一は体の痛みが抜けたように感じた。カーテンの向こうでは、女性たちがまだ、会話を続けている。体をゆっくりと起こす。実際にやってみると痛みを感じたが、なんとか半身を起こして、ブラインドの隙間から外を眺める。眼下にグラウンドと右手には研修室や事務室が入った校舎が見える。グラウンドの向こうは、忌まわしい旧校舎だ。拷問棟である。その風景から、純一は自分が女性宿泊棟の上階にいることを知った。
(ここにはこんな医務室まであるのか……)
グラウンドに迷彩服を着た女性を見つける。織田恵梨香だ。前に三人の研修生を立たせ、説教か何かを行っている様子だ。男たちは、小宮、遠山、生駒の三人だ。恵梨香が男たちの頬を順に張っていっている。それは体がよろけるくらいに激しいものだった。
(相変わらずだ……自分もこの痛みが落ち着いたら、再びあの暴力の嵐の中へ放り込まれるのだ……)
しかしそれは半ば純一が自ら望んだことでもあった。他の男たちにしてもそうだった。

女性たちはコーヒーを飲み終え、部屋を出て行く。由紀恵は、診療室の涼子に一声掛け、再び病室へ戻ってくる。内鍵を掛けると純一が寝ているベッドスペースへやってくる。高田はカーテンの向こうで気をつけの姿勢のまま待機している。純一は由紀恵が何か話してくるものと思い、彼女の方に頭を向けたが、由紀恵は何も言わず、モスグリーンのジャケットを脱いで、純一の右隣のもうひとつのベッドの上に置いた。スカートのファスナーも下ろし始めたので、思わず純一は目をそらす。
「いいのよ、見てて……こっちを向きなさい」
純一は由紀恵の方を見る。整いすぎた顔から鋭い視線が飛んでくる。ストレートの長い黒髪が美しい艶を放っている。そんな完璧な容姿の女性がこれからいったい何を始めようというのか。スカートを脱いだ由紀恵はベッドに腰掛ける。シャツの裾が股間を隠しているが、おそらく例のごとくショーツは身につけていないのだろう。彼女はたいていそのようだった。
「高田っ」
「はいっ」
「こっちおいで」
「失礼します……」
カーテンを開けた高田は、一瞬純一と目が合ったが、すぐに由紀恵に体を向けて、直立不動の姿勢を取る。
「舐めて。舌奉仕……服は全部脱いで」
そういって由紀恵は大股を開く。黒いガーターの紐が見え、股間の奥は黒々としている。
「は、はい」
高田は、作業服の上下を脱いで、床の上に畳み置く。シャツとパンツも手早く脱いで、その上にやはり畳んで置く。
「本当は、牧田にやってもらいたかったんだけどね。さすがにあの顔じゃできないでしょ。ね、高田」
高田は素っ裸で、純一の方を振り返ると、「あ、はい……」と困ったような顔をした。純一への同情心や心配、恥ずかしい気持ち、どことなく恐ろしい心持ち……いろんな心情が交じった複雑な面持ちを見せた。どんよりとした曇り空のような表情だった。窓の外の抜けるような晴天とは対照的だった。
「やって、早く」
「は、はい……」
高田は、眼鏡を外して脱いだ服の上に置き、由紀恵の股間にひざまずく。由紀恵はシャツをたくし上げると高田の頭髪をつかんで、股間に引きつける。
「ああ……」
高田が戸惑いの声を一瞬あげたが、すぐに自分の仕事に没頭し始める。裸にされた小さな若者が、大柄な女性教官の股間を舐めさせられている。由紀恵は、自分をしっかり見ていろとでもいわんばかりに純一の目を見据える。その強い視線に捉えられたようにして、彼も目が離せなくなる。股間への奉仕を第三者に見せることで、由紀恵は興奮を高めているようだった。桃色の唇が半開きになる。シャツのネクタイを緩めて外すとそれを高田の首に巻いてくくり、長い端を自分の手のひらに巻き付ける。高田の首を引き寄せながら、「もっと、舌を動かしな、ちゃんとやらないと、絞め殺しちゃうよ」と言う。高田は、「ううっ」と苦しそうな声を上げる。由紀恵は、白いシャツのボタンを下から外していく。
「もっと上の方……、そう、そこ、動かして、もっと舌を……」
ようやく由紀恵の視線が、純一から離れて、彼女は両手を後ろに突き、天井を仰ぎ見る。シャツの前がはだけて、豊満な胸を包んだ黒いブラジャーが露わになる。片手でフロントホックを外し、ぷるんと露わになった乳を自分自身で撫で触る。
「ああ……」
高田の舌がピチャピチャと音を立て始めた。由紀恵は両手で乳を揉みはじめ、純一の方へ視線を戻す。彼は慌ててそれに応えるように体ごと彼女の方を向ける。
「高田……入れたくなっちゃったわ。一発犯ろうか」
そういうと由紀恵は、二十七歳の赤ら顔に、ベッドに仰向けに寝るよう命じた。

☆ 二

「おお、牧田君、大丈夫だった?」
「牧田さん!」
病院での治療を終え、その晩、純一が研修室に戻ると皆が温かく迎えてくれた。禿げた生駒、自慢の髭を剃って再びマジックで髭を描くよう命じられた遠山、坊主頭の長老小宮、若い赤ら顔の高田……皆心配そうに純一の顔を覗き込む。
純一は、鼻にまだガーゼを当てていたが、他は大丈夫のように見えた。
「ご心配をおかけしてすみません。鼻が折れたとてっきり思ってたんですが、僕の鼻骨は幸い柔らかかったようで、ひびが少し入ったくらいで……放置で良いみたいです。前歯は二本差し歯になりましたけど……肋骨もなんとか大丈夫みたいで……」
「それなら、よかったね、いやよかったなんていっちゃいけないのかもしれないけれど……」
生駒がそう声を掛け、皆、頷く。
「益岡先生に?……」
高田がぼそりとそう聞く。先ほど、由紀恵に無理矢理犯されたところを純一に見られているので、どこかよそよそしく照れくさそうであった。
「ええ」
純一が、返事をすると、「まさか、あの娘がね……そんなに激しいとは……」と小宮が腕を組んで言う。
「そんな言い方したらまた……」と遠山がたしなめる。
「ですよ、小宮さん、我々はそれでなくても目をつけられてるんだから」と生駒が珍しく神妙な顔をして言う。
「でも、今日は、この部屋で寝られるんですね」と純一が久々の研修室を見渡して言う。
「うん、てっきり、あの檻の中にずっといなきゃならないのかと思ってたからね」
「死んでしまいますよ、本当に。人間が寝る場所じゃないもん。あんなとこ」
「先生たちも、いろいろ様子を見ながらやってるみたいだよ」
「織田先生、生かさず殺さずなんていってたからなあ」
「そろそろ、寝ますか、明日も早いし」
「そうだね」
「牧田君は、ランニング免除?」
「ええ、明日までは、いいっていわれました」
「いいなあ、俺も益岡先生に殴られたいよ」
「いいんですか、そんなこと軽々しく言って」
「いや冗談冗談……」
女性たちに受けた仕打ちを思い出したのか、生駒は、顔を引きつらせるようにして、自分の寝床を作り始めた。皆もそれぞれに布団を敷き、早々と就寝した。

第一章 最上級の屈辱を

☆ 一

研修室の壁時計が朝九時を指し示す。廊下から、複数のヒール音が聞こえてくる。男たちの身がグッと引き締まり、背筋が伸びる。扉が開き、美しく厳しい女性たちが入室してくる。主任教官の中田由紀恵、補佐教官の織田恵梨香、上司役の西島直子、五十嵐亜紀、そして女医の桜井涼子。中田由紀恵が教卓に着き、西島直子と五十嵐亜紀、桜井涼子が窓際の席に腰掛ける。織田恵梨香は、教壇の窓際の方に立ち、男たちを威嚇するように見回している。
「起立!」
純一が号令を掛ける。
「気をつけっ」
「礼っ」
「おはようございます」
皆、強く歯切れの良い挨拶をする。
「おはよう」
由紀恵の穏やかな声を聞き、一同は安心して着席する。
「牧田にトラブルがあって、若干、研修が中断してしまいましたが、今日からまた本格的に再開したいと思います……牧田、何か言うことある?」
由紀恵は思いついたように、純一に話を振った。突然のことに純一は慌て、その様子を見て、女性たちが微笑んでいる。純一はとりあえず起立する。
「あ、あの……こ、この度は私のために研修が中断してしまいまして、誠に申し訳ございませんでした」
そういって、純一は、女性たち一人ひとりの方を向いて、九十度のお辞儀をして回った。
「あれくらいで、ぶっ壊れてんじゃないよ、バカ」と二十五歳の元自衛官、恵梨香が言う。迷彩服を着てブーツを履き、長い髪を後ろで結んでいる。
「すみません……」
「みんな、最初に誓約書にサインしたよね」
今日も女性将校のようなスーツとネクタイ姿の由紀恵が、男たちを見渡す。
「何されても、どうなっても、文句言わないって……あれ、冗談でも何でもないからね。分かったでしょ、牧田を見て……」
男たちは、一様に頷く。
「あんなのまだ序の口だからね」
恵梨香がそういって、純一の横を通り、後方に移動する。
「《特別研修》の意味がまだよく分かってないみたいだから、説明しますね」
由紀恵はそう言って艶やかな黒髪をかき上げる。
「以前に受けてもらった通常研修は、従順に女性に仕えるための研修ね。男のプライドなんて言うまったく意味のないものを取り除く作業だったわけ。で、この特別研修は、そこから一歩先に進んで、女性を悦ばせるってとこまでいかなきゃならないわ。あえていうと、この課程を修了した皆さんは、ただの社員じゃなくて、あなたたちを雇っている社長や幹部たちの所有物になるってことなの。分かるかしら?」
皆、うなずくしかなかった。
「それくらいの覚悟があるから、自らここに来たわけでしょ?」
「……」
「返事はどうしたあっ」
恵梨香の怒号が男たちの背中に襲いかかる。
「は、はいっ」
慌てて純一たちは、大きな返事をする。
「牧田、オマエ、死ななかっただけでも、ありがたいと思わなきゃ。そうでしょ?」
由紀恵の妖しい眼差しが純一を射る。
「は、はい……」
「じゃあ、その感謝の気持ちを言葉にしてみたら?」
「は、はい……」
純一は立ち上がる。
「ここにはいらっしゃいませんが、益岡先生に手加減をしていただいたおかげで、鼻も折れずにすみ……このくらいでご容赦いただいて、本当に感謝しています……」
「そうだね……後で、本人に直接言っといたら?」
「は、はい……ぜひ、そうさせていただきます……」
「牧田、オマエ、それくらい自分で気づいて言っとかなくちゃ」
彼の会社の実質トップ、つまりは彼のオーナーである西島直子が横から声を掛ける。三三歳のキャリアウーマンは、ピンクの大きな花びらのヘアクリップで髪をまとめ上げ、ブラウンのスーツをスタイリッシュに着こなしている。
「はいっ、専務、申し訳ございません」
その直後、後ろの扉が開いて、麻由子が入ってきた。手にいろいろと荷物を抱えている。
「あっ」
純一は思わず声を上げたが、由紀恵が「後でいいから、彼女に謝っときな」と言ったので「はいっ」と返事をした。
「じゃあ、益岡さん、それ持ってきて」
由紀恵がそういうと、麻由子は前にやってきて、赤い犬の首輪と鎖の束を教壇に置いた。
「さあ、オマエたち、この首輪をいまから飼い主様につけてもらいなさい」
由紀恵からそう言われるも、男たちは椅子の上に固まったままだ。
「動け、早くっ」
恵梨香がブーツを鳴らして怒鳴ると、男たちはすぐさま席を立ち、教卓の上に乗っているそれを受け取る。純一は赤い首輪と鎖のリードを持って、女医である桜井涼子の元に行く。茶髪のショートカットが印象的な長身美女である。
「お、お願いします」
白衣にロングブーツを履いた彼女におずおずとそれを渡す。彼女は鼻で笑うようにし、「持ってなさい」と鎖のリードを純一に渡す。恵梨香が、生駒に屈辱的な言葉を何度も言わせているのを聞き、女性は皆それにならう。
「お願いって、何のお願い?」
涼子が純一を見下ろして言う。整った歯列が白く輝いている。
「は、はいっ……首輪をお願いします」
「それじゃ、何のことかまったく分かんないじゃない」
涼子は首輪を机の上にいったん置くと、白衣のポケットから、革の手袋を取り出した。恵梨香や由紀恵は早くも、奴隷の頬で景気のいい音を鳴らしている。女たちの怒声が飛び交っている。涼子の手に革手袋が装着される。足元のロングブーツと同様の光沢がある黒革だ。白衣との見事なコントラストが、純一の恐怖心を煽る。
「ねえ」
涼子の革の手が、純一の顎をつかむ。
「は、はいっ……ど、どうか首輪を私の首にめてくださいませ……」
「誰に、お願いしてんのさ」
そういうと、純一の頬を革の平手で打つ。
「あうううっ」
未だ腫れの引いていない鼻に激痛が走る。
「ねえって」
今度は手の甲で反対側の頬を打つ。
「あがうっ」
「聞いてんだよ、答えろ」
ボディパンチが純一の腹部を襲う。
「うぐっ、は、はいっ……桜井先生、ど、どうか首輪を私の首に嵌めてくださいませ……」
女医の涼子は、どの程度までなら大丈夫か、またどのくらい打てば最適なダメージを与えられるか、確かめるように純一をいたぶる。
「お手数をおかけしてすみませんくらいいえねえのかよっ」
恵梨香の恫喝が部屋に響く。
「ひいいっ、織田先生、すみません、申し訳ありません……」と泣き声で謝る生駒の首をブーツの靴底で床に踏みしだいている。
「だってさ」とそれを見て涼子が微笑む。
「は、はいっ、桜井先生、お、御手数をおかけして誠に申し訳ございませんが、私の首に、その赤い犬の首輪をおつけいただけませんでしょうか……すみません、申し訳ございません……」
そういって、純一は地獄の研修で教わった九十度のお辞儀を披露する。
「ようし」
涼子は赤い首輪を手にとって、純一の首に装着する。
「あたしの犬だろ、オマエ、牧田」
「は……わ、わん……」
「ふん……犬が二本足で立ってていいのか?」
ブーツの脚が膝頭を蹴る。
「あ……わん」
そういって、純一は床に四つん這いになる。涼子がしゃがんで犬男の首に鎖のリードを装着する。はだけた白衣の裾から官能的な太ももが露わになる。膝下からその白い肌は、暴力的な光沢を放つ黒革ブーツに包まれている。
「じゃあ、皆さん、いまから各自自分の犬を連れて、旧校舎に行きましょう」と由紀恵が言う。
「いくよ」
涼子が鎖のリードをたぐって引っ張る。純一は首を強く引っ張られて苦痛と恐怖を覚える。厳しい飼い主に怯える犬の気持ちが分かるような気がした。鎖の音をジャラジャラと鳴らしながら、男たちは四つん這いになり、女性のヒールの後を追う。廊下を這っていると、「おはようございます」という若い女性の声とすれ違う。嘲笑が純一の頭の上から降り注ぐが、恥ずかしくて顔を上げて見ることなどできない。すれ違う女性たちのすらりとした足元やスリッパがただ目に入るだけだ。この施設に研修に来る女性は、女優のような顔立ちやモデルのようなプロポーションの持ち主ばかりだった。
純一たちの存在は、ある程度、女子研修生たちの間では認知されているようだった。彼女たちも、早く仕事のスキルを身につけ、女性幹部となり、男奴隷を好きなように使ってみたいと思っているのかもしれない。
階段に差し掛かる。四つん這いで階段を降りるのは、人間にとって予想以上に困難だった。女性たちは、ここに限っては、男たちがスムースに降りられるように協力してくれた。
「犬だったら、もっと上手に降りなきゃ」
涼子は、そういって純一の頭をブーツのつま先で軽く小突いた。
「わ、わん……」
何にしろ、女性からの言葉には即反応しなければいけない。スルーや無視は御法度である。うっかりも許されない。というよりも、そんな失態を犯せば、確実に暴力制裁が返ってくるのを男たちは身にしみて分かっている。
本館と旧校舎をつなぐ屋根付きの廊下は、コンクリートだ。右手には倉庫がある。このコンクリートの廊下を四つん這いで渡るとさすがに膝が痛かった。ズボンを履いているとはいえど、たいして厚くもない生地なので、十メートルほどでも膝が赤くすりむけるほどのダメージを受けた。旧校舎の入り口に着き、先頭の由紀恵は、皆が揃うのを待った。

S女小説 鬼女教官2「奴隷収容所」

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S女小説 鬼女教官「地獄の研修」

S女小説 鬼女教官「地獄の研修」を電子書籍として出版しました。

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内容紹介

鬼の女性教官たちが、”ぬるい”男性会社員を徹底的にビジネス指導調教する。

女性ばかりの会社で働く37歳の牧田純一は、女性上司たちに「ビジネス研修」を受けることを命じられる。スキルが改善されなければ、クビにするしかないと判断されたからだった。ところが彼が参加を強要された「研修」は通常のビジネス研修プログラムではなかった。それは女性上位企業で働かざるを得ない男たちのためのいわゆる「地獄の研修」だった。女性に使われる道具として、またストレス解消の対象として、男たちは徹底的に、虐待され、陵辱を受ける。

第一章 地獄行きチケット
第二章 女軍曹の恫喝
第三章 屈辱の味
第四章 鬼女の標的
第五章 寒空の見せしめ
第六章 天使の拷問

本文サンプル

第一章 地獄行きチケット

☆ 1

「もう、辞めてもらってもいいですか」
三十三歳の女性専務にそう言われ牧田純一は彼女の顔を見る。冗談ではないかと確かめたかった。しかし、西島直子の端正な面立ちに笑みはなかった。
「申し訳ないですけど、うちもそんなに余裕がないので」
確かにこの小規模な会社で営業次長という名の椅子に座りつづけるには、牧田純一の仕事ぶりや成績は心許ないものだった。買収元からの転職だからという甘えがあった。まさかクビを宣告されることなど予想もしていなかったのだ。彼女の口ぶりなら、親会社の取締役にはすでに了承を得ているのであろう。専務の母親でこの会社の社長は、親会社の取締役と愛人関係にあるというのはもっぱらの噂だ。
「あ、あの……西島専務。役職を解いてもらってもかまいませんから、なんとかもう少し置いていただけないでしょうか」
三十七歳の牧田純一は、そう願い出るのが精一杯だった。この年齢で路頭に迷うのだけは避けたい。仕事ぶりに見合わない給料を払いたくないなら、ヒラでもいいから置いてもらいたい。専務室の電話が鳴る。内線呼び出しだ。西島直子は打ち合わせソファを立って受話器をとる。「はい」と返事をして、椅子に腰掛け、外線先と話し始める。
(やはり失敗だったろうか。自分から役職をといてくれなんていったのは……。しかし、もう口に出してしまったものは仕方がない……)
そもそも牧田純一は、親会社では事務職をしていて、営業の仕事は未経験だった。女性だけのチームをまとめ上げるスキルも経験もない。リストラで子会社に回された純一が、このような苦境に陥るのは当然といえば当然だった。五分ほどして、西島直子が純一の前に戻ってきた。
「じゃあ、もう三ヶ月だけ様子を見させてもらいます。役職はなしで、五十嵐亜紀についてください」
「……五十嵐君の部下、ということでしょうか」
これまで部下だった女性が上司になるとは、予想外だった。
「ええ。明日から、さっそく」
「あ……」
「何か不満?」
「いえ……」
「それと、いま気づいたからいうけど、私が電話してる間もただボーッとしてるんじゃなくて、何か調べるとかどこかに電話掛けるとかやったら? その時間だって、給料が出てるんだよ。そういうとこなのよ、あなた」
落ち着いた口調で諭すようにいわれ、それがかえって純一のプライドを傷つけるが、そのような気持ちはおくびにも出さない。
「あ、はい、すみません……気をつけます」
純一はいつもより一段と恭しく、四つ年下の女性専務に頭を下げ、部屋を出て自席へと戻った。

「おはようございます」
次の日、二十八歳の五十嵐亜紀はいつものように、明るい笑顔で純一に声を掛けてきた。
「あ、お、おはよう……ございます」
「牧田さん、よろしくおねがいしますね」
「あ、はい、こちらこそ」
純一は長身で肩幅の広い美女に照れくさそうに挨拶をする。年下女性の下で働くなどもちろん初めてだった。
「牧田さん、とりあえず席を移動してもらえます? 近い方がいいので」
五十嵐亜紀はさっそく最初の命令を純一に下した。仕事ができないことが判明してから、ひとり離れた席に移動させられていたのだが、それを彼女が自分の島に呼び戻した。
「はい」
純一は、荷物を全部移動させると、女性メンバーそれぞれに挨拶をした。社内に男性は彼一人なので、この部署ももちろん全員女性である。純一は、今日から、彼女たちと同じ身分の平社員だ。今年高校を卒業したばかりの女性もいる。部下ではなく同僚だ。
「今日から、五十嵐課長のもとで働かせていただくことになりました牧田です」と冗談っぽくいった。そういう言い方でもしなければやっていられなかった。しかし、女性たちはそれを笑うわけでもなく、純一はなんとなく若い女性たちに侮蔑の眼差しを向けられているのを感じた。

役職がひとを育てると言うが、五十嵐亜紀は営業課長に抜擢されてから、見違えるように変わった。元来の明るい性格に冷静さや明晰さ、鋭さが加わった。チームのメンバーそれぞれに的確な指示を出し、皆の営業成績はもちろん、彼女自身の成績も急速に伸びていった。ただ一つだけ変わらないものがあった。それは牧田純一の成績だった。

☆ 2

「牧田さん、ちょっといいでしょうか」
純一は五十嵐亜紀の部下となって二ヶ月ほど経った火曜日の午後、彼女から、誰もいない会議室に呼ばれた。

「何が問題なんですかね?」
うつむく純一を前にして亜紀がいう。ファイルケースから一枚のプリントを取り出し、彼の前に置く。チーム全員の成績をグラフにした成績表だ。一ヶ所だけ大きく谷間になっているところが彼の数字だった。
「すみません……もう少し頑張りますので」
純一はうつむき、声を絞り出すようにしていった。
「え? いままで頑張ってなかったんですか?」
課長になって成績も給料も上がり、自信を勝ち得た亜紀は、はるか年上の純一にもまったく遠慮のない物言いをするようになっていた。
「いえ……そんなことは……」
「ですよね……いままで、頑張ってきて、それなんだから、一緒じゃないですか? やり方を変えない限り」
「あ……まあ」
まさしく彼女の言う通りだと純一も思った。しかしどうすればいいのか分からなかった。そもそも女性化粧品を男性が売るのには無理があるとも思われた。
「商品の勉強、きっちりやってます? 牧田さんは男なんだから、私たちの倍頑張ってやらないとついてけないですよ」
「はい……」
「そもそも、私や周りの女の子たちにまったく質問しないですけど……それって何か理由があるんですか? 分からなかったらするでしょ、普通」
「いえ、あの……なんか、ちょっと抵抗があるのかもしれません……」
一方的に言われ続けたせいか、純一は少し不満げな口ぶりでそういった。しかし、それを亜紀は見逃さなかった。
「牧田さん、それですよ。そういうところ。男だから、女性に頭を下げてものを聞けないみたいなのがまだあるんじゃないですか?」
ノックの音がする。
「五十嵐課長、お電話です」
「はい」
純一を待たせ、席を立つ。

電話から戻ってきた五十嵐亜紀は、さらに三十分ほど純一に説教を続けた。
「とにかく、今日私が話したことを頭に置いて、この一ヶ月頑張ってみて下さい」
「はい……」
九つも年下の女性上司にこってりと絞られ、純一は屈辱にまみれて自席に戻った。

一ヶ月後、専務室に純一は呼び出された。ソファに座るよう言われる。目の前には専務の西島直子、その隣には営業課長に昇格した五十嵐亜紀が座っている。
「牧田さん、やっぱりあなたはうちの会社じゃちょっと難しいんじゃないかって思ってるの。今のままでは」
直子の口から、純一が予想した通りの言葉が投げかけられる。亜紀に注意され、多少努力したつもりだったが、営業成績の結果は彼女たちを満足させるには至らなかった。
「はあ……」
才気あふれる女性二人に見据えられ、純一はすっかり沈み込んでいた。今後の彼の運命は彼女たちが握っている。
「やる気はあるの?」
直子のその質問にかすかな希望を見いだし、純一は顔を上げる。
「あ、はいそれはもう……」
「五十嵐とも相談したんだけどさ、あなた結局、女性の下で働くってことが理解できてないんじゃないかって……」
「は、はい……」
「正直言うと、もうほとんど諦めてたんだけど、私も、五十嵐も……」
「はいっ」
純一は背筋を伸ばし、女性専務の目を見て続く言葉を待った。
「もしこの会社でもう少し頑張る気があるんだったら、研修を受けて欲しいの。私の高校時代の同級生が教官やってるんだけど」

☆ 3

二週間後、純一は西島直子専務と五十嵐亜紀課長を後部座席に乗せた社用車を運転して山奥の研修施設にやってきた。女性二人も幹部用の研修プログラムを受講するらしい。車を駐車場に駐め、後ろに回ってトランクを開け、女性たちの荷物を取り出す。純一は運転席に戻り、助手席においてあった自分の荷物を取って、車の鍵を閉める。女性たちが地面に置かれた自分の荷物を前に腕組みをしている。
「私たちが自分で持って行くのね? この荷物」
専務が咎めるような目をして言う。
「地面に置いちゃうんだ」
五十嵐亜紀が、やれやれという風にバッグを取り上げ、底についた埃を払う。
「す、すみません……」
純一はとりあえず謝るものの、まさか荷物持ちをやれというんだろうか、という気持ちはぬぐえない。結局、女性たちは自分たちの荷物を手にしてさっさと歩き出す。
「すみません、ホントに」
純一は二人の後を追いながら、もう一度謝る。
「研修が終わる頃に、その横着が直ることを望んでるわ」
専務が純一の方を振り返らずにいう。
(横着って……そんな……女の鞄持ちをするために、働いてるんじゃないんだけど……)
男は決して彼女たちの前で口にすることのない本心を胸の内でつぶやく。グラウンド脇の通路を通り、正面の建物の玄関から中に入ると、「左手の事務室で受付中」と正面の柱に貼り出されてあった。
「あなたはそっちね」
西島直子は純一にそういうと五十嵐亜紀を連れて右の廊下へ歩いて行った。教官をしている同級生を訪ねていったのだろうか。

純一は、靴をスリッパに履き替え、事務室の戸を引いて入る。すぐに若い女性が現れた。まだ二十代前半だろうか。何と愛くるしい顔をしているのだろうと純一は思った。ショートヘアの整った面立ちには、あどけなさと意思の強さが同居していた。純一は、一目惚れしてしまった。女性は、細いストライプが入った紺のベストとスカート、薄いブルーのシャツにスカーフリボン、いわゆるOLの事務服を身につけている。
「研修ですか?」
「あ、はい……明日からの牧田です」
「牧田さん、ええっと、牧田純一さんですね……はい、伺ってます」
胸のネームプレートに益岡麻由子と書かれた女性ははきはきとした口調で話す。その声がしおれかけていた純一の心に張りを戻してくれた。
「こちらへどうぞ」
二十三歳の益岡麻由子は、書類を持って、脇にあるパーティションで区切られたテーブルのひとつへ純一を案内した。
「これに記入をお願いします」
純一は名前や生年月日、住所などを指示通りに書いていった。ものの数分で受付は終わり、スケジュール表やテキストを渡される。事務所を出て、トイレや売店、食堂の場所を教えてもらい、上階の研修室に案内される。縦に長い部屋で、広さは学校の教室くらいある。前の半分には教壇があり、机と椅子が並べられている。そして後ろ半分には、ややクッション性のある大きな赤いマットが敷かれ、五組の寝具が畳んだ状態で置かれていた。マットの外までは土足やスリッパでいいようだ。この部屋で、研修も寝泊まりもするのだという。研修生は五名いるようで、どうやら純一は一番乗りのようだった。
「夕食は、十七時から十九時までの間にとってください」
「はい」
「じゃあ、明日から頑張って下さいね」
益岡麻由子は可憐な笑顔を純一に残して、事務室へ戻っていった。純一は腰を下ろすと、畳んだままの寝具に頭をもたれ、長距離運転の疲れもあって、うとうととし始めた。

純一が午睡から目覚めたら、他の四人の研修生も全員揃っていた。お互いに名前の自己紹介だけすると、夕方六時過ぎ、揃って一階の食堂へ向かった。
食堂へ入ると肉の焼けたいい香りが漂ってきた。入り口に近いところのテーブルに、六、七人ほどの女性グループが談笑しながら食事をとっていた。純一たちに気づいた何人かがチラチラと眼差しを向ける。純一の女性上司たちはまだきていないようだった。食事はバイキング形式で、ハンバーグやサラダや揚げ物など、洋食を中心とした惣菜が所狭しと並んでいる。純一がトレーを持って配膳口に向かうと、厨房の奥からコック服の男性がやってきて、「すみません。こちらは女性専用で、男性はあちらになります」と奥の配膳口を指さし、自分も内側からそちらへ向かった。
男五人は、ひなびた旅館の朝食のような焼魚定食を受け取ると、テーブルに固まって座り、食事を始めた。
「ビール飲んでいいんですかね」と誰かがいったので、純一が厨房内のコックに確認すると、研修前ならいいといわれたので、酒の飲めない二人以外は壁際の自販機で缶ビールを購入した。

☆ 4

翌朝八時、目覚めた研修生たちは自分たちで寝床を畳んで収納し、研修服へ着替え、食堂へ向かう。
「なんかこれ、囚人服みたいですね」
一番若い二十七歳の高田が純一の後ろでいうので、彼も笑って同感だとうなずいた。やや青みがかったグレーの上下作業着は、まさしく罰せられる人間が着るような陰鬱さを持った衣装だった。
和洋の朝食がバイキング形式で準備され、いい匂いを漂わせているが、それらはすべて女性研修生のためのものである。それらのコーナーを通り過ぎて、男たちは男性用のカウンターでコップ一杯の野菜ジュースを受け取ると席について飲み始める。入り口に近い女性エリアでは、女性研修生たちが、談笑しながらホテル並みの贅沢な朝食を楽しんでいる。彼女たちは赤と白のカラフルで上等なジャージを身につけている。
「ちょっとこの差はあんまりじゃないですかね」
禿げで小太りの生駒という四十九歳の男が言う。
「まあ、あちらは企業の幹部候補ですから」と髭の遠山があきらめ顔で、赤黒い液体の入ったグラスを飲み干す。彼は五十四歳だ。
「ダイエットだとでも思いましょうか」
生駒がそういうと向かいに座った六十二歳になる坊主頭の小宮が鼻で笑うようにした。二十七歳の高田はニキビ肌の赤ら顔で黙っている。一番年長の小宮と一番若い高田が眼鏡を掛けている。
「おはようございまあす」
受付をしてくれた益岡麻由子が男たちのテーブルにやってきた。溌剌とした笑顔と声に牧田純一はときめいた。
「おはようございます」
男たちはバラバラのきごちない挨拶を女性に返した。
「今日から皆さんのマネージャーを務めさせていただきます、益岡です。改めてよろしくお願いします」
男たちは照れるようなにやけるような笑みを浮かべながら、彼女の方へ頭を下げる。
「研修の途中で、何か困ったことなどあったら、遠慮なく私にご相談くださいね」

八時半に男たちは指示通り研修室の机につく。研修は九時からだが、そうするようにとのことだった。机は教卓の前に三席×二列の六つあり、左前に牧田純一、前の真ん中に小太りの生駒、右前には髭の遠山、左後ろに坊主頭の小宮、その右で二列目中央には赤ら顔の高田が座っている。その右は空席だ。
「なんで、こんなに早くから待ってないといけないのかな」
生駒が左の席の純一を見ていう。
「ですよね」
純一も同感だ。彼は左の窓の外を見やる。どんよりとした曇り空の下に山の稜線がかすかに見える。窓際に沿ってさらに机が二つ置かれている。研修生の机の島とは独立した配置だ。誰かが座るのだろうか。廊下の足音が近づいて部屋の戸がガラリと開けられる。
「揃ってますか」
マネージャーの益岡麻由子が顔をのぞかせる。それから、純一の方に歩いてきて、「牧田さん、お願いがあるんですけど」
「あ、はい……」
純一は緊張して彼女を見る。
「先生が入室されたら、起立、気をつけ、礼をやってもらっていいですか?」
「あ、級長さんみたいな……」
「うん、そうです」
麻由子が笑う。なんというチャーミングな笑顔なんだろう。
「わ、わかりました」
「あ、ちょっと」
生駒が手を挙げる。
「はい」
生駒の方を向いた麻由子の笑顔がやや緊張の面持ちに変わる。
「なんで、こんなに早くから座ってなくちゃいけないの?」
生駒が怒気を含んだ調子で彼女にいう。
「あ、ごめんなさい……それは、決まりなので……」
麻由子は口の前で手のひらをあわせて、少し頭を下げる。
「決まりっていっても、ちょっと、ね」
その仕草が、あまりにもけなげで生駒は勢いをそがれたようにして、純一の方を見る。
「うん、生駒さん、でも、やっぱり決まりみたいだし、彼女には、その、関係ないっていうか、そういわれても、ちょっと困るんじゃないですか」
純一はつい麻由子のことを思いやってそういう。
「まあ、そりゃそうか……わかりました、あとで先生の方に聞いてみます」
「ごめんなさい。あの、研修開始までまだ時間があるので、テキストの方にでも目を通しておいてください……じゃあ、皆さん研修頑張って……」
麻由子は申し訳なさそうにしてその場を立ち去った。純一は基本的なビジネスマナーについて書かれたテキストをぱらぱらとめくるが、中を読む気にはなれなかった。他のメンバーもどうやら同じようだった。

ようやく九時になり、カツカツとヒールの足音が近づいてきて、戸がガラリと開けられる。モスグリーンの上下スーツにネクタイをした女性が入ってくる。自衛隊の女性将校のような雰囲気だ。長いストレートの黒髪が印象的な美女である。研修生たちに緊張が走る。純一が号令を掛け、皆が立ち上がり、礼をして着席する。
「本日から一週間、皆さんの教官を務めさせていただく、主任の中田です。よろしくお願いします」
三十三歳の中田由紀恵は、うだつの上がらない男たちを見渡していった。
「じゃあ、さっそくですが、自己紹介から初めていただきましょうか。あなたから」
教官に向かって、左最前列に座っている純一を指名した。彼は立ち上がって、「牧田純一と申します」といい、所属している会社やいまの仕事のことなどについて簡単に話した。
「あと、決意表明をお願いします」
純一は入所時に書かされたアンケートの内容を思い出して、ほぼその通りにいった。
「はい、じゃあ次の方……隣のあなた」
純一に続いてそれぞれが同じように簡単な自己紹介と差し障りのない決意表明を述べた。

「ほとんどの方が会社に貢献するという目標を掲げていましたが、この研修の目標は実はそこではありません」
中田由紀恵は、のっけから自信に満ちた表情と声で言う。
「今日ここに集まってもらった皆さんに共通していることがあります。分かりますか? 牧田さん」
「あ、はい」
「立って……いいですか、私が発言するよういったときは、起立して答えて下さい」
三十三歳の女性教官が、四つ年上の男にそうはっきり指示する。
「は、い……」
純一はその場に立つ。室内に緊張感が走る。
「じょ、女性の下で働いている、ということでしょうか……」
「ですね。そこのところをぼかしてもしょうがありませんから、はっきりといいますけど、皆さんは今現在女性に使われている立場です。間違いないでしょうか」
そこで言葉を切って、弱々しい男たちを見渡す。誰一人その強い視線に耐え続ける意思を持った者はいなかった。
「間違いありませんか?」
もう一度、三十三歳の美女に、張りのある声でそう言われ、ようやく男たちは返事を要求されていることに気づく。皆「はい」と小さな声を出す。
「声が小さいですね……もう一度訊きます。間違いないですか?」
教室に響き渡る声を中田由紀恵は出す。五人の男たちは圧倒されて、「はいっ」と声を揃える。
「あの……私、これから一週間、かなり皆さんに意地の悪いこといったり、ときには傷つくこともいうかもしれませんが、覚悟しておいてくださいね」
何人かがそれにも返事をし、残りの者も慌てて続く。
「ただそれも皆さんのためを思ってのことですから、そこはご理解下さい。皆さんを今よりいい状況に導くためです。そもそも、皆さんどうして今ここにいるのか自覚はありますか。自分から進んでここに来られた方はおそらくいませんよね。皆さん、女性上司や会社の責任者の方からいわれて来ているはずです。そうじゃないって人、いたら手を挙げてください」
誰も挙手はしない。
「ですよね。じゃあ、皆さんの女性上司が、どういう思いで、皆さんをここに送り込んだか、わかる人」
皆、無反応である。
「わからないかしら。じゃあ、あなた」
純一の隣の生駒を指さす。四十九歳の小太り禿げだ。
「あ、はい……男女が協力して、より会社に貢献できるようにするためだと思います……」
「どう? 皆さん、それで正解?」
誰も何も言わない。
「あそう。皆いまの意見に同感なんだね……だけどそれは、きれいごとですよね。そもそもその男女は並列に置かれる立場じゃないでしょ。どうなの? その隣」
五十四歳、髭の遠山が指さされた。
「あ、はい……やはり、上に立つ女性が一緒に仕事をやりにくいと思ってるから、ここに我々は送り込まれているんだと思います」
「うん、そうだね。だいぶ近づいた。だけど、もっと率直にいいますね。『使えない』の、みなさんは……今のままじゃ」
そういって、また中田由紀恵は、五人の男性を強い視線で見渡す。反論する意思を持つ者がひとりもいないことを確かめるとあえて、「異論がある人は?」と挑発した。うつむく男たちを見て、心の中で笑みを浮かべる。
「悔しいですか? だったら、ここを卒業するまでに、女性から見て『使える』男性になってください。分かりましたか?」
「はい」
男たちは声を震わせて返事をする。
「会社に貢献できるのは女性だけなの。そこを思い上がらないでちょうだいね。女性が会社に貢献できるように支えるのが、あなたたち男性の役割ね。じゃあ、決意表明、やり直しましょうか。牧田さんから」
「あ、はい」
純一は立ち上がる。
「会社に貢献する女性を支え、女性の皆さんにきちんと使っていただけるよう、頑張ります……」
純一はそういいながら情けなくなってきたが、「うん、そういうことだね。頑張って」と美しい笑みを向けられると、この女性に黙って従おうという気にもなった。残りの男性たちも、半ば強制的に女性に盲従する意思を表明させられた。
「あ、あの……ちょっといいでしょうか?」
純一の隣の生駒が控えめに手を挙げて言う。
「何? 立ちなさい」
「あ、はい……あの……三十分も前からここに座っているよう言われたんですが、それって……」
「不満?」
「いえ……」
中田由紀恵に鋭い目でにらまれ、生駒はたじたじになる。
「それも訓練」
「あ、はい……」
「女性の上司やクライアントに一時間二時間待たされることなんて、これからいくらでも出てくるんだから、それをじっと耐えられるかってこと。三十分くらいで文句言ってどうするの?」
「あ……はい……分かりました」
生駒はまだ何か言いたそうだったが、それを飲み込んで着席した。
「生駒さん、あなた、警告しとくわ。その態度。今日までだからね。明日から本格的な訓練に入ります。私のサブで厳しい教官がつきますから、そういう反抗的なのは一切許されません。気をつけておいてください」
「はい」
生駒はうつむいて着席した。

「じゃあ、いいですか。今日は、企業で働く従業員としての基本的な心構えやマナーを勉強していきます。テキストを開いて下さい……」
純一から順番にテキストを読まされ、区切りのいいところで、中田由紀恵が説明を挟み、質問を受けるが、純一を含め質問をする者はひとりもいなかった。
「質問ないですか? そんな消極的な態度じゃ、明日以降思いやられるわよ」
中田由紀恵は長い黒髪をかき上げて言うが、それでも室内はしんとしていた。
「じゃあ、午前中はここまでとします。テキストの残りは各自学習しておいてください。授業ではもうやりませんので……」
そういって、由紀恵は純一に目配せをする。「起立!」と号令を掛け、皆で立ち上がり、礼をする。
「ありがとうございました」

☆ 5

昼休み、純一たちは食堂でスープだけの昼食をとる。研修中、男性は断食メニューとなっているのだ。
「さすがに、つらいですね。スープだけってのは」
純一がそういうと、「まあ、ダイエットと思えばいいんじゃない?」と生駒が強がって言う。
「どうせ、一週間だしね」
髭の遠山が言うと、赤ら顔の高田が、「一週間って結構長くないっすか」
「確かに、短くはないよね」と純一が言うと、坊主頭の長老小宮が笑ってうなずく。
「でも、いきなりかまされちゃったな。美人先生に」と生駒。皆がうなずく。彼女の厳しさと美しさが男たちの胸に強く刻み込まれていた。
「今日みたいな感じで一週間なら、大丈夫ですね」
高田がいうと、「でも明日から、厳しくなるっていってたじゃない」と純一。
「もうひとりの先生も、美人だといいんだけどな」と生駒が品のない笑みを浮かべて言う。
「いい匂いだな」
女性用エリアの方から、パスタ料理のいい香りが漂ってくる。
「この差別はほとんど拷問ですね」
「ほんと、笑っちゃいたくなるよな……」
女性研修生たちとの待遇の差が、昨日会ったばかりの男たちに一体感をもたらしつつあった。
「ここにいたら余計お腹が空きそうだから、戻ろうか」
男たちは研修室に引き上げることにした。純一はひとり、途中でトイレに寄ったが、そのとき女子トイレから出てきたマネージャーの益岡麻由子と出会い頭になった。
「ああっ、牧田さん……あの、さきほどは、ありがとうございました……」
「えっ?」
一瞬何のことかと純一は思ったが、おそらく、生駒が文句を言ったときにかばってあげたことかと思い起こした。
「あ、いえ……別に……」
「頑張ってくださいね。応援してますから」
「あ、ありがとう……ございます……」
ペコリと頭を下げて去って行く麻由子の後姿を見ながら、胸が高鳴るのを感じた。こんな気持ちを味わったのは、学生の頃以来だ。

十三時少し前に、純一たちはグラウンドに集合した。
「結構寒いですね」
純一が言うと、生駒が「なあに、これから走れば、暖かくなるさ」
「どこまで走らされるんですかね」
「さあ」
「運動なんて日頃全然やってないから……大丈夫かなあ」
「僕もですよ」
男たちが寒風に手を揉み足踏みしながら雑談しているところへ、女性教官たちがやってきた。純一が腕時計を見ると、ちょうど十三時だ。
朝と同じくモスグリーンのスーツを着た主任教官の中田由紀恵とトレーナー姿の益岡麻由子だった。二人ともウィンドブレーカーを羽織り、麻由子は自転車を押してきた。
「はい、じゃあ、横一列にきちんと整列」
中田由紀恵にそう指示され、皆が戸惑いながら横に並ぶ。こんなことをさせられるのも学生以来だと純一は思った。おそらく皆そうだろう。
「点呼を取ります。大きな声で返事をしてください」
由紀恵に名前を呼ばれて、皆、それなりに声を出して返事をする。
「はい……返事はもっと大きくね。明日からはもっと厳しいですよ」
そういわれて、皆苦笑いをする。
「まずラジオ体操をやります」
由紀恵が電話で本部に要請すると、ひさし付きの鉄塔に設置されたスピーカーからラジオ体操の曲が流れ始めた。益岡麻由子がウィンドブレーカーを脱ぎ、皆の前で体を動かす。男たちはそれを見ながら、ラジオ体操の動きを思い出し、すっかり凝り固まった体をほぐす。

S女小説 鬼女教官「地獄の研修」

妄想ショット

夫のしくじりを容赦しない鬼妻

333

「も、申し訳ございません」

必死で謝る夫に妻は容赦の無い平手打ちを浴びせる。

「タバコは切らすなっていってあるよね」

「は、はい……うっかり買い忘れてしまいました。申し訳ありません……」

「オマエのそのうっかりはいつになったら直るの?」

気が収まらない妻は、夫の頬を三十分近く連続して打ちまくる。

口の中が切れ、鼻骨が折れようが、かまわない。

このバカ亭主は、職を持たない能なしだから、体裁をいまさら気にする必要も無い。

私の気分で殴りたいだけ殴り、気が晴れるまで罵倒する。

「ど、どうか、もう……このくらいで、お許しくださいませ……」

「オマエみたいなバカは、死ななきゃ分からないのよ。いっそ殴り殺してあげようか?」

「ど、どうか、命だけはお助けくださいませ……」

「今度、タバコを買い忘れたりしたら、これくらいじゃ済まさないわよ」

「は、はい……承知いたしました。マダム……」

「顔の血を拭いて、服を脱いで素っ裸になって、私のブーツを舐めなさい」

「はいっ、あ、ありがとうございます」

「せっかく与えてもらったチャンスを無駄にするんじゃないわよ。私がいいというまで舐め続けなさい。この馬鹿犬が」

「は、はい……かしこまりました……」

「仕上がりが私の気に召さなかったら、オマエのその生白い背中を鞭で血だらけにしてあげるわ」

WS001929

My Sadistic Girlfriend sado-ladies.com

妄想ショット

血まみれのオマエを想像すると、下半身が火照ってくるわ

WS001921

「奴隷!」

乗馬から戻ってきた妻は、夫をそう呼びつける。

「外で私のブーツがさんざん、砂埃を被ってきたから、それを全部舐め上げなさい」

妻は夫に命令する。

夫は屈辱に耐えながら、命令に従う。

すべては、裏切りの罰である。

夫は仕事先で知り合ったとある女性に、メールで告白された。

それを断らずに、「食事だけなら」とつきあおうとした返事を、妻に見られてしまった。

妻はすかさず、離婚を宣告した。

美貌と代々受け継いだ莫大な財産を持つ彼女には、次の夫など容易に見つかる。

そもそも、彼女自身夫以外にセックスフレンドを現在進行形で三人も抱えているのだ。

自身の浮気は自由だが、夫の移り気は許せない。

そもそも身分からして違うのだ。

夫は三日間ずっと詫び続けた。

彼女が出した答えは、「私の奴隷として一生過ごすならば、この家においてやってもよい」だった。

彼はさんざん迷ったあげく、その条件を飲むことにした。

それほどに妻の美貌と財産は魅力的だった。

さっそく、彼女は夫を丸裸にし、首輪を嵌めた。

「私と二人きりでいる間はずっとそうしていなさい」

「はい」

「私のことはマダムと呼びなさい。それから私には最上級の敬語を使うこと」

「は、はい……かしこまりましたマダム」

ところで、妻は、いまこれから、夫のブーツ舐めの出来不出来にかかわらず、彼を三十発の鞭打ち刑に処すつもりでいる。

そのための一本鞭は、ソファの裏側に隠してあるし、一番奥の倉庫部屋には専用の磔を先週工事業者に設置させたばかりである。

夫の白く柔らかい皮膚が血だらけになることを想像し、妻は下半身を熱く湿らせている。

WS001922

 

妄想ショット

オマエは夫ではなく、犬以下のクズ奴隷だわ

WS001919

行きつけのバーに、その日初めて妻はペットを連れてきた。

ペットとはすなわち、昨年結婚した夫である。

結婚して半年後に妻は夫のM性を見抜き、奴隷として使うことにした。

行きつけのバーは、オーナーの女性がS女であることから、いつしかそういった趣向を持つ女性ばかりが集まるようになった。

彼女たちのほとんどが、夫や恋人を奴隷として所有していた。

「さて、今日はオマエの芸を皆に見せてあげるわ」

妻は夫に、数人の女性客が見ている前で、犬のようにチンチンすることを命じた。

夫は沈黙したままである。

いくらM性の持ち主だからと言って、人前で、ましてや若い美女たちの前で、いきなりそのようなことができるはずがない。

「ど、どうか……お許しください」

「犬のくせに、なぜオマエは人間の言葉をしゃべるの? どうやらオマエは私に恥をかかせたいみたいね」

妻はバーの女主人に許可をもらって、オブジェとして壁に掛けてあった一本鞭を取ると、他の女性たちが見ている前で、二十歳も年上の夫を容赦なく打ち据えた。

「あううううっ、ひいいっ、お許しくださいませ、マダム」

背中を血だらけにした夫が若妻に哀願する。

「この泥だらけの靴底をオマエの舌できれいに舐め清めるのならば許してあげるわ」

そういって、ブーツの靴底を夫の目の前に差し出す。

彼は涙目になりながらも、妻の暴力に恐怖を感じて恐る恐る舌を差し出す。

「この旦那さん、奥さんが履いてる靴を舐めてるわ」

「みじめだわね」

「人間のくずね」

「クズじゃないわ犬でしょ」

「犬の芸もできないんだから犬以下じゃない」

「そう、オマエは犬以下のクズ奴隷でしょ?」

「はい……」

「自分の口でそういいなさいよ」

「はい、マダム、私は犬以下のクズ奴隷です。ブーツをきれいに舐めて差し上げますので、これ以上の暴力はどうかご容赦くださいませ……」

「よほど、私が怖いみたいね。ついでにここにいる女性全員の靴を舐めて差し上げなさい」

「は、はい……かしこまりました」

かくして男にとって長い夜が始まった。

WS001915

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