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S女小説「ウィークエンドスレイブ」

S女小説「ウィークエンドスレイブ」がKindle本の最新作として出ました。

どうぞよろしくお願いします。

weekendslave

内容紹介

「週末だけ、妻の奴隷として過ごしたい」……そんな理想のSM婚に憧れる啓一が、長身女性の同僚・加奈子を社内結婚で妻として迎え、彼女を週末限定のドミナに仕立てていく。しかし、妻の変貌ぶりは夫の想像を超えていた……。やがて二人は娘を授かり、少女は母親似の美しい女性へと成長する……そして……。

第一章 告白されて
第二章 あなたが望むなら
第三章 友人も一緒に
第四章 浮気は自由に
第五章 私にも犯らせて
第六章 生きていたいなら

本文サンプル

第一章 告白されて

☆1

信号待ち、安田加奈子は、後ろを振り向き、アパレルショップのウィンドウに自身の立ち姿を映す。ベージュのシックなトレンチコートにつま先が尖った黒革のロングブーツ。これまでの自分にはなかった大人びた装いだ。ブーツは先月、二十三歳の誕生日に、恋人の篠塚啓一に買ってもらった。コートはそれにあわせて、ボーナスで手に入れた。悪くない、と自分でも思う。ロッカールームで着替える際に、同僚も褒めてくれた。加奈子は背が高くて美人だから、ハリウッドのセレブみたいだと。もちろん半分冗談だろうけど、そんな風に言われて悪い気はしない。しかし気になるのは、このヒールブーツを履くことによって生じる、恋人との身長差だ。身の丈百七十六センチもある彼女がヒール五センチの靴を履くと百八十センチを越えてしまう。啓一の身長は、百六十八センチしかないから、彼が靴を履いて百七十センチになったとしてもなお十センチ程の身長差がある。彼は全く気にしない、むしろ背の高い女性が好きなのだとさえいってくれるのだけれども、加奈子としてはやはり気になる。
信号が青になって、横断歩道を渡る。すれ違う人々の視線を感じる。特に男性は、大多数が彼女に視線を送る。しかもたいていの場合、見上げるようにして。ぺたんこの靴を履いて、カジュアルな服装をしていたときは、それほどではなかった。加奈子は、男たちの視線に居心地の悪さを感じる一方、いままで味わったことのない快感にときめいてもいた。
約束のフレンチレストランでは、恋人の篠塚啓一がすでに窓際の予約席に待っていた。
「早かったのね、待った?」
「いや、今着いたばかりだよ」
啓一は五つ年上の二十八歳で、加奈子と同じ住宅機器メーカーに勤めている。直接の上司ではないが、職場の先輩である。見かけは中肉中背のごく普通のサラリーマンだ。飛び抜けてはいないが、どちらかといえばハンサムの部類に入るだろう。

二人がつきあうきっかけとなったのは、秋に行われた社内運動会の打ち上げだった。男女六人になった二次会が終わり、帰りが同じ方向の二人は、駅の方へと歩いていた。
「安田さんって、いまつきあってる人とかいるの?」
「えっ? なんですかいきなり」
加奈子は啓一の唐突な質問に驚き、苦笑した。
「いや、どうなのかなって思って……」
「夏まではいたんですけどね。今はフリーです」
「どうして、別れちゃったの?」
「まあ、いろいろと……いいじゃないですか、もう終わったことなんだから……」
「そりゃそうだね……あの……もし、よかったらさ、もう一軒行かない?」
「あ、はい……いいですよ」
加奈子は、もともとお酒が好きな方だったし、実は彼女の方も啓一に好意を寄せていた。加奈子がプレゼンの資料作りで遅くまで残業しているときに、さりげなく手伝ってくれたり、昼食時に仕事上のアドバイスに乗ってくれたりと、同じフロアの啓一はなにかと加奈子に目を掛けてくれた。
啓一がいきつけだというパブの窓際の席に二人は落ち着いた。
「私って、背が高いじゃないですか……」
加奈子は長身コンプレックスを啓一に打ち明けた。
「いいじゃない。僕、背が高い女の人好きだよ」
「え、そうなんですか?」
この日の運動会で、バレーボールのアタッカーとして大活躍した加奈子を啓一は褒め称えた。
「学生時代に、一応レギュラーとしてやってたんで」
「ずいぶんいいとこまで行ったんじゃない?」
「ええ、まあ県大会の優勝までは行きました」
「凄いじゃない!」
加奈子はカクテル、啓一はウィスキーの水割りがそれぞれ二杯目になったところで、彼がいきなり姿勢を正して改まった。
「実は、安田さんにお願いがあるんですけど」
「えっ?」
加奈子は、少し驚いて、思わず口に持って行きかけたグラスを置いた。
「あの……僕とつきあってくれないかな」

そんないきさつで、二人がつきあい始めて、かれこれ三ヶ月が経っていた。ここまではごく普通の男女のつきあいだった。

レストランでコース料理が終わり、デザートとコーヒーが運ばれてきた。
「加奈ちゃん、煙草吸うんだよね……」
「え、あ……う、うん……」
加奈子は、てっきり咎められるものだと思い込んで下を向いた。啓一の目の前で吸ったことはないが、打ち上げの席や社内の喫煙所で吸っているところを見たことがあるのかもしれない。
「吸っていいよ。ここ喫煙席だから」
「えっ、いや、いいよ……」
加奈子は胸の前に両手を掲げて振った。
「あの……さ、吸って欲しいの。僕、女の人が煙草吸うの好きなんだ」
「え……ホント?」
本当のことを言えば、加奈子の体は、食後の一服を欲しがっていた。
「うん、だから、わざわざ喫煙席にしたんだよ」
「そっか……じゃあ、遠慮無く……」
そういって、加奈子は、バッグからシガレットの箱を取り出した。啓一が手を挙げて、ウェイトレスを呼ぶ。
「すみません、灰皿をもらえますか?」
ウェイトレスは、すぐにそれを持ってきて、啓一の方に置こうとした。
「あ、ごめんなさい。彼女の方に……」
「あ、ああ、失礼しました」
加奈子は、灰皿を自分の方に置いてくれたウェイトレスに軽く会釈した。加奈子は少し緊張した様子で、シガレットを取り出し、朱色の唇にくわえた。そして自分で火をつけた。
「なんだか緊張しちゃう」
そういって笑いながら、横を向いて煙を吐いた。
啓一は、改めて彼女を魅力的な女性だと思った。ゆるくウェーブが掛かった胸元まで伸びる長い髪。髪の色がやや明るいのも彼の好みだ。くっきりと整った目鼻立ち。セーターを着ていてもそのボリュームがはっきりと分かるバスト。それにおっとりとした従順な性格。しかし、基本的には快活で、話していても面白い。背が高くて、タバコも吸う。何もかもが啓一の理想だった。
「煙、いちいち気にしなくていいよ。横なんか向かなくて……」
「え……そんな……」
「うん、普通に、ひとりで吸う時みたいに……」
「啓ちゃん、なんか変わってる……」
「あ、でも人にはあんまりいわないでね。こんなこと」
「うん、いわない……」
「僕たち恋人なんだから。遠慮しないで、これからも加奈ちゃんが吸いたいときに、そうやって吸ってね」
「うん、わかった。ありがと」

「やっぱり、かなりの身長差だね」
レストランを出て、加奈子が啓一を見下ろすようにしていった。
「うん、いいじゃない。平気だよ」
それから、近くの行きつけのバーで少し飲んだ。

「休憩行こうか、少し」
バーを出て啓一が提案する。
「うん」
いつものコースだった。二人はタクシーに乗り込み、ホテル街へ向かう。

一度目のセックスを終えて、そのままベッドの上で二人は体を寄せ合って、つらつらとしゃべる。冷蔵庫から缶のお酒を持ち出し、二人で交互に口をつける。三十分から一時間程、そうやって、啓一の回復を待ち、二回目に入る。それがいつものパターンだった。
「どう? 復活した? ボク」
そういって、加奈子は啓一の下腹に手を伸ばした。だいぶ酔っ払っていることもあって、今日の彼女は、少し大胆になっていた。もう、つきあって三ヶ月だ。啓一は、今日、あの大事なことを打ち明けるつもりでいた。
「もうちょっとかな……」
加奈子は、まだ十分な硬度を持っていない啓一のものを大きな手で握っていった。
「あのさ……加奈ちゃん。お願いがあるんだけど、実は……」
「なあに、何でもいって……坊や」
加奈子は、お色気たっぷりに冗談めいていった。
「あ、あの……ブーツを履いてくれないかな……」
「……え? う、うん、いいよ」
一瞬、戸惑ったが、加奈子も何となく刺激的で面白そうだと思った。彼女はベッドを降りて、部屋の入り口に行き、そこで黒革のロングブーツを履いた。そして、真っ裸にブーツだけ履いた格好で、ベッド脇に立った。豊満な胸が淡い明かりに照らされている。
「履いてきたよ……どうする?」
「あ、あの……踏んでくれないかな」
「どこを?」
「どこでも……とりあえず、お腹とか」
加奈子は、ベッドに上がり、壁に手をついてバランスを取りながら、啓一のお腹にブーツの片脚をそっと置いた。
「こう?」
「うん……もっと強く踏んでいいよ」
「これくらい?」
体重を掛けて踏み込む。
「ああううっ……」
「あっ」
加奈子が声を上げる。啓一の下腹部がむっくりと膨張し、ブーツの踵にふれんばかりにせり上がってきた。
「おっきくなってきましたよ、息子さん」
そういって、ブーツのつま先で軽くつつく。
「ああっ、いい、加奈さん……」
「そう、いいの啓一。こんなことされたいんだ、アンタ」
加奈子は、芝居付いたものいいをしながら、ブーツの踵でドスンと啓一の胸を踏んだ。
「あああっ……」
「さあて、どっしよっか……」
「そのまま、上から、犯して……」
啓一は、思い切って、そういってみた。加奈子は黙って啓一をまたいで、腰を下ろし、彼のものを握ると、自身の下腹部に当て、さらに腰を落とした。ずぶりと音がして、彼女は、啓一をきれいに飲み込んだ。
「あああっ、いいっ」
加奈子は啓一と何度か騎上位セックスを行ったことがあったが、こんな雰囲気では初めてだった。とまどいもあったが、男を征服したような妙な快感があった。

☆2

「こんなときも煙草吸いたくなるんじゃない?」
啓一は、ホテルのベッドで今自分を犯したばかりの加奈子にそういった。
「うん……」
加奈子は率直に答えた。
「吸って……」
「あ、バッグの中」
取りに行こうとした彼女を制して、啓一がソファの上のバッグを取りに行って、彼女に渡した。彼女は黙ってそれを受け取り、煙草を取り出すと火をつけて吸った。啓一は、彼女が「ありがとう」を言わなかったことに、逆にときめきを感じた。彼はガラステーブルから灰皿をとってきて、枕元に置いた。そして加奈子に腕枕されるようにして、豊満な胸に顔を沈めた。
「なんだか、男女反対だね、私たち……」
加奈子が笑いながら煙を吐く。啓一は黙って頷く。
「啓ちゃん、こういうのがいいの?」
「うん……だめ?」
啓一は、加奈子の様子を伺いながら尋ねた。彼女は、好奇心と戸惑いの間をいったりきたりしているような顔をした。
「うん……わかんない……けど、啓ちゃんがいいなら、つきあってもいいよ私……」

それから数日後。
「涼子、これからちょっと時間ある? よかったらお茶しない?」
茶道教室の帰り、加奈子は一緒に通っている米沢涼子をお茶に誘った。
「うん、いいよ」
涼子は、加奈子の高校時代の同級生で、同じバレーボール部に所属していた親友である。涼子も一七三センチと女性にしては長身で、栗色のショートヘアが魅力的な美人である。元来成績のよかった彼女は、女医を目指して大学の医学部に通っている。
二人は、川沿いの二階にある行きつけの喫茶店に入った。
「ちょっと、相談があるんだけど」
ウェイトレスが、紅茶を置いて去って行くと、加奈子が切り出した。
「何? どうした? 彼氏のこと?」
加奈子が相談なんて珍しい。思わず、涼子は身を乗り出した。
「うん……誰にもいっちゃ駄目だよ」
「もちろん……どうした?」
「先週、プロポーズされちゃって……」
「よかったじゃない。それのどこが相談なのよ。嫌み? 当てつけ?」
まだ独身の涼子は、冗談めかしていった。
「いや、ここからなのよ……」
「うん、それで?」
「絶対、誰にもいっちゃ駄目だよ」
「わかった」
「彼、実は……ちょっと、私に甘えたり、虐げられるのが好きみたいなの」
「えっ、M男くんなの」
涼子は、まさしく興味津々といった眼差しになってきた。
「うん……結婚したら、週一日は、奴隷として仕えさせて欲しいっていうのよ……せっかくプロポーズしてもらったんだけど、私その場で返事できなくて……どう思う?」
「へえ、啓一さんが、そうだとはね。予想も付かなかったわ」
涼子は啓一のことを待ち合わせ場所で二度ほど紹介されて、それほど話をしたことはなかったが面識はあった。見るからに誠実そうな好青年だったし、涼子も啓一には良い印象を抱いていた。
「いわないでよ……」
「わかってるって……でもさ、別にいいんじゃない。何も困ることないじゃん。逆にそういう人って、尽くしてくれそうじゃない」
「そうかな」
「つきあってあげなよ、週一回くらい……大きな会社に勤めて、仕事も安定してるんだから。結婚したら、加奈子も仕事辞めて、家に入れるじゃない。もったいない話だよ」
「いい人だしね」
「好きなんでしょ」
「もちろん……」
「逆にSだったら、考えろって言うけどさ。Mなら大丈夫だよ、きっと。私なら即OKだね」
ウェートレスが、いくつかのケーキを載せたトレーを持ってきて、二人はそのなかから好みのものを選んだ。
「よかった、涼子に相談して」
「すぐに、返事してあげなよ。彼、不安に思ってんじゃない」
「うん、ありがと」

それから二週間後、啓一は個室レストランで、加奈子に指輪を渡した。給料の三ヶ月分とまではいかなくても、彼なりに精一杯の予算で購入した婚約指輪。それは今時の男性が、誠意を見せるには十分の品だと思われた。
「あ、あの、一応、確認だけど、週一回、土曜か、日曜は、加奈ちゃんの奴隷になるってことで……」
「はい、大丈夫です」
加奈子は、少しかしこまった調子で答えた。
「その日は、もちろん、家事はすべて僕がやるから」
「ありがと、助かるわ」
「いや、そういう感じじゃなくて、厳しくチェックして欲しいんだ」
「あ、わかった……」
「追々、慣れていってね」
「はい、よろしくお願いします」
「もちろん、平日はノーマルで。週に一日だけ、お願いします」
啓一は、念を押すように、加奈子に頭を下げた。

二人は、翌年の春、予定通りに式を挙げ、新婚旅行はサイパン島へと訪れた。本当は、ヨーロッパへ二週間くらい行くのが加奈子の希望だったが、会社の期待を背負っている啓一は、そこまでの休暇を取る余裕がなく、ヨーロッパ旅行は、後々の楽しみに取っておくことにした。

二人はホテルのプライベートビーチに置かれたパラソルの下で、トロピカルドリンクを飲んでいた。サイパン島では、おそらく本国からバカンスに訪れているであろう、たくさんのブロンド女性を見かけたが、長身美女の加奈子は、彼女たちに全く遜色がなかった。昨日、その加奈子に騎上位でたっぷりと責められた快感がまだ、体の奥に残っている。改めて、彼女と結婚してよかったと、彼は思った。
濃いブルーのビキニを着た美しい花嫁は、目の前で、ストローをくわえている。腕は白く、そして、逞しい。やはり、スポーツ経験者の体は違う。
「加奈ちゃんさ、ひょっとして、腕相撲、僕より強いんじゃない?」
啓一は、花嫁の発達した筋肉に目をやって聞いてみた。
「え? やってみる?」
加奈子は、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「うん、やろう」
啓一は、二人の飲み物を、空いている椅子の上にどかした。お互いに右手をあわせ、腕相撲の体勢をつくると、近くにいた白人のカップルが寄ってきて、女性の方が、私たちの握った手に自分の手を乗せてきて、「Ready Go !」というかけ声とともに手を離した。
啓一は、最初、ゆっくりと力をかけていったが、加奈子の腕がピクリともしないので、次第に本気の力を加えていったが、それでも全く動かない。強いとは予感していたが、ここまでの筋力とは正直に恐れ入った。
「ええっ? ホント?」
啓一は、加奈子の顔をまじまじと見たが、彼女は余裕の表情である。「Oh !」と見物人も声を上げる。
「じゃあ、行くよ」
そういうと、加奈子は、ゆっくりと啓一の腕を押し倒していった。テーブルに着くぎりぎりのところで、彼は手をふるわせながら、粘った。カップルたちが応援する。啓一が、真っ赤な顔をして、加奈子を見る。彼女は、クールな笑みを浮かべると、少し力を入れ、啓一の手の甲を一気にテーブルに押しつけた。
見物人から、笑い声と拍手が起きる。啓一は、面目なさそうに彼らに笑みを浮かべた。カップルたちが去って行き、そのばつの悪い笑みを今度は、加奈子に向けた。
「本当に強いね、加奈ちゃん」
「啓一、ちょっと弱すぎじゃない? 男のくせに」
加奈子はあえて、彼が喜びそうなセリフを口にしてみた。
「悔しいなあ。左腕でもう一度挑戦させて」
啓一は、加奈子に調子をあわせるようにしてそういった。
「いいよ……っていうか、アタシ左の方が強いんだけど」
加奈子は、余裕の表情を見せて言う。
「レディー、ゴー」
加奈子のかけ声で、スタートする。啓一に一生懸命力を入れさせるが、自分はびくともしない。夫が疲れ果てるまで、倒そうともしない。
「終わり?」
加奈子は、馬鹿にしたような表情で夫を見つめる。
啓一は何度も全力を込めたため呼吸を荒くしながら、早く引導を渡してくれとでもいいたそうである。
「じゃあ、終わりますか」
そういって、こともなげに啓一の腕を押し倒した。
しかし、全力を尽くしたあげくこういう結果になったことに啓一はとても満足していた。夫は妻より非力なのである。それだけでも彼女に服従する理由に足る。

☆3

新婚旅行から戻り、二人の結婚生活が始まった。平日は、いたってノーマルなどこにでもいる夫婦である。週末に近づくと、加奈子は緊張した。週末奴隷ってどんな感じになるんだろう? しかし、そのことについて、啓一は何も口にしなかった。加奈子の方から聞くのも遠慮があった。金曜日の夕食時、ようやく、啓一がそれについて口を開いた。
「あの……例の奴隷の日だけど、今週は、日曜日ってことでいい?」
「うん、わかった……」
「で、明日さ、乗馬クラブにいってみない?」
「乗馬クラブ?」
「加奈ちゃんに乗馬やってみて欲しいんだ」

啓一は土曜日、加奈子を乗せた車を、山の麓にある乗馬クラブへと走らせた。天気も良く、この上ないドライブ日和だった。

「篠塚様、ようこそいらっしゃいました、担当の高岡です」
啓一が乗馬クラブの受付で名乗り出ると、担当者の女性が奥から出てきて、二人を二階の応接室に案内した。啓一は、土曜日の混雑を予想して、体験乗馬を事前に予約していたのであった。
担当女性と一緒にVTRを見ながら、二人は、乗馬の基本を学んでいった。
「何か、ご質問などありますか?」
VTRが終了して、高岡という女性は、二人に尋ねた。彼女はまだ若く、加奈子と同じくらいだろうか。清廉なお嬢様といった雰囲気だった。
「いえ、特に。大丈夫です。ね」
啓一は、加奈子の方を見た。
「ブーツとかは?」
「はい。乗馬ブーツとヘルメットとボディプロテクタは、こちらで貸し出しいたします」
加奈子の興味津々な表情を見て、啓一は安心した。
高岡という女性にそれぞれのサイズを伝えると、彼女が乗馬用の装具を持ってきて、二人はそれを身につける。啓一の提案で白いデニムを履いてきた加奈子は、乗馬ブーツがとても似合った。それは啓一を予想以上の興奮へと導くほどであった。
「では参りましょうか」
高岡という女性が、二人を、小さな円形の馬場に連れて行く。なかでは老いた二頭のサラブレッドともうひとりの女性調教師が二人を待っていた。
私たちに乗馬を指導してくれる女性は、二人とも紺色の帽子とブレザー、それに白い、キュロットと呼ばれるズボン、そして黒革の乗馬ブーツを履いていた。私たちの手には貸し出された軍手が嵌められていたが、彼女たちは、革の手袋だった。
女性たちの指導の下、私たちは乗馬し、歩行と停止を繰り返した。歩行は常歩と呼ばれるゆっくりしたものだ。
好天のなか私たちはさわやかな気分で初めての乗馬を楽しんだ。

「いかがでした?」
高岡という担当女性は、装具を外して応接室で待っていた二人に飲み物を持ってくるとそう尋ねた。
「とっても、楽しかったです」
加奈子は心からそういった。その様子を見て、啓一は安心した。高岡という女性が半額で乗馬ができる入会を促してきたが、まとまった入会金が必要なので、もう少し考えさせて欲しいと伝えた。
「ぜひ、ご検討をよろしくお願いします」
高岡という女性は上品な笑顔でそういった。
「あと、彼女は、確実に続けそうなので、装具を今日揃えて帰りたいのですが」と啓一は、加奈子と担当女性を交互に見ながら行った。
「ありがとうございます、ではどうぞこちらへ」

「こちらが乗馬ブーツです。機能性でいうとゴムでもいいのですが、通気性、履き心地、ファッション性まで考えるとやはり革がおすすめですね」
「高岡さんが履いてるブーツとズボンがいいですね」
啓一は、加奈子の表情を伺いながら聞いた。
「うん、すごく素敵」
加奈子も本心からそう思っているようだった。
高岡という女性は、黒革のオーソドックスな乗馬ロングブーツとクリーム色のキュロットと呼ばれるズボンを履いていた。キュロットは通常のズボンより伸縮性に富んで、ヒップや脚のラインがそのまま姿に現れる。啓一は、ボディラインが豊かな加奈子にもキュロットをぜひ履いて欲しいと思った。
「では、キュロットからご覧になりますか」
そういって、高岡という女性は、自分と同じキュロットを二人に紹介した。
「私のはクリーム色ですが、白もありますよ」
「白もいいよね」
啓一は、加奈子にそういった。ブーツの黒とのコントラストがより強まって魅力的だと思った。加奈子は、啓一のそういう思いを感じ取り、「うん、白がいいかも」といった。サイズを測って試着して、キュロットは決まった。啓一は、凹凸がはっきりして、想像以上にグラマラスな加奈子に驚いた。
「じゃあ、ブーツの方を」といって、高岡という女性は、二人をブーツ売り場へ案内した。黒や茶の乗馬ブーツがたくさん並んでいるなかから、彼女は自分が履いているのと同じブーツを選んで、取り出した。加奈子の足サイズは、二五・五センチあった。一七六センチの高身長なので、足のサイズも男性並である。
「お色は、黒と茶とありますが……」
「黒ですね、やっぱり」
加奈子の方が、啓一を見てそういった。啓一は満足そうに頷いた。それなりの値段だったが、啓一は調査済みだったし、装具を全部揃えて、どれくらいかかるかそれとなく加奈子に伝えて了承をもらっていた。また、乗馬にかかる費用は、啓一の貯金から捻出するつもりだった。
加奈子が乗馬ブーツを試着する。その凜々しくまた猛々しくもある立ち姿を見て、啓一は、彼女と結婚してよかったとつくづく思った。
「あとは?」
啓一が尋ねると、「あとは、グローブとヘルメットですかね、とりあえず」と担当女性がいった。
「じゃあ、グローブを」
革手袋は大切だと啓一は思っていた。彼は多少興奮した面持ちで、なるべくハードなイメージのする革手袋を選ぶと、「これなんていいんじゃない?」と加奈子に勧めた。彼女は、微笑みながら頷くとそれを装着した。
「じゃあ、これで……」と担当女性に渡す。
「鞭って使わないんですか?」
近くにあった乗馬鞭の棚を見ながら、加奈子が高岡という女性に聞いた。
「乗馬鞭は、主に障害競技で使うようになっています」
「なんかきれいですね。乗馬鞭って、お部屋の飾りにもなりそう」

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