S女小説「インテリア企画室の鬼女様達」を電子書籍として出版しました。
内容紹介
ホームページ制作業を営む男が、女性クライアントに虐め抜かれる物語「女性様、どうか私にお仕事を」シリーズ第二話。
澤田ホームページ制作室の売り上げが向上しないのは、ひとえに澤田伸吾の怠慢にある。妻であり社長である涼子は、そう決めつけ、彼に厳しく激しい指導を行う。女帝の命による不毛な営業回りの末、伸吾はネイルサロンの店長岸野冴子の紹介で、ようやくインテリア企画室のホームページ制作を請け負えることになるのだが、そこでも彼を待ち受けてるのは、困難に次ぐ困難、暴力に次ぐ暴力であった。女性のストレス解消玩具として、不器用で臆病な中年業者は精根尽き果てるまで陵辱されていく。
第一章 女性室長の横暴と誘惑
第二章 女性チーフの屈辱指導
第三章 新人女性の衝撃的変貌
第四章 嗜虐の恍惚に潤む乙女
本文サンプル
プロローグ
「どうしようもないね、こんなんじゃ」
ソファの澤田涼子は、苛立つように帳簿を脇に放る。
「す、すみません……」
夫の伸吾は、妻であり事務所社長である彼女の足元に正座させられ、小さい身をいっそう縮めている。
「目標達成どころか、ここんとこ毎月下がってきてるじゃない。もう十月だよ。終わっちゃうよ、今年」
澤田ホームページ制作室の女社長は、唯一の社員で部下である夫を厳しい眼差しで見据えた。
「は、はい……」
あまりに強い視線に伸吾は思わず目を伏せる。目の前には素足に突っかけたグリーンのサンダル。今日の彼女は、紺色のワンピースで、胸の大きな膨らみの上には、シルバーのネックレスが掛かっている。伸吾の目線は妻の胸元まで上がって、そこで止まる。五つ年下の彼女とまともに目を合わせることができない。
「ちゃんと見なさいよ、こっち」
強い口調でそう言われて伸吾は妻の顔を見上げる。ややボリュームのある唇に朱色のルージュを引いた美人は、ゆるいウェーブの掛かった栗色の髪を鎖骨にふわりとかかるくらいにセットしている。
「あ、あと残り三ヶ月、今年の売り上げ目標に向けて、一生懸命、頑張りますので……」
夫から妻への敬語は、もはや二人の間でまったく違和感のないものになっていた。
「どうがんばるのよ」
「え……あ……」
「煙草取ってきて」
「あ、は、はい……」
伸吾が差し出したメンソールシガレットを一本抜くと朱色の唇で口にくわえ、彼に火を着けさせる。夫の顔へ向けてふーっと煙を吐き出すともう一度聞いた。
「ねえ、どうがんばるの? どうやったら、もっと受注が増やせるの?」
「は、い……」
「考えてんのかなあ、少しは」
涼子の足からスリッパが落ち、素足のつま先が伸吾の額を小突く。
「ああっ……」
「少しは、ここを使わないと」
妻の足の裏が、薄くなってきた伸吾の頭頂を二三度叩く。
「ごめんなさい、や、やります……ちゃんとやりますので、だからもう……」
伸吾は泣きそうな顔で声を絞り出す。
「何よそれ、できてないから、言ってるんでしょ」
涼子は強い口調で言い放つ。
「は、はい……すみません……」
「灰皿」
伸吾はガラスの灰皿を取ってきて、妻に渡そうとする。
「持ってなさいよ」
伸吾は膝立ちの姿勢で、ガラスの灰皿を両手に持ち、妻が灰を落とすのに備える。
「だいたいさあ、営業回りもしないで、仕事を増やそうって考え自体が甘いのよ。違う?」
「あ、は、はい……」
「回ってきなさい。飛び込み営業、今日からさっそく。そうね……一日五件は最低ノルマ」
「そ、それじゃ、作業ができなくなります……」
ここのところ一段とやせ細った伸吾はガラスの灰皿を持つのも難儀な様子だ。
「やる仕事なんてたいしてないじゃないの。時間は作るものなのよ。五件でいいっていってるのよ。こんな緩いノルマないわよ。普通は」
涼子は伸吾が持つ灰皿にポンポンと灰を落とす。
「あ、あああ……」
営業の苦手な伸吾にはそれでも大きな重荷だった。
「何よ、何か文句あるの?」
「…………その……できれば……作業の方に専念したいので……営業の方は、社長の方で、お願いできないでしょうか……」
迷った揚げ句に口に出した伸吾の懇願に、涼子はうっすらと笑みを浮かべる。
「え?」
頭がおかしくなったのとでもいいたげに笑う。伸吾の背筋に冷たいものが走る。
「い、いえ……も、もちろん、私も少しはやります。営業も。なので、社長の方でもどうか……お願いできませんでしょうか……」
「ふっ……」涼子は鼻で笑う。「面白いこと言うわね、伸吾、お前……置いて、灰皿」
「あああ……すみません、ごめんなさい……」
「灰皿を置け。要らないのよもう」
伸吾は妻の命令に従い、震える手でそれをそっと床に置き、元の膝立ちに戻る。
「口を開けろ、舌を出せ」
「しゃ、社長……りょ、涼子さま……」
伸吾は許しを乞おうとするも、涼子の眼差しに圧倒され、口を開き、おずおずと舌を出す。差し出した舌の上に、紅いマニキュアの指が近づいてきてポンポンと灰を落とす。
「はううっ……」
「ねえ……この会社に対する私の役割は出資と管理。営業を含めた実際の仕事は、伸吾、あなたの担当。それ最初に言ったよね」
そう言って涼子は、伸吾の顔に煙を思いっきり吐きつける。夫は思わず咳き込みそうになるのを我慢する。
そんなこと言われただろうか。彼にははっきりした記憶がなかった。
「覚えてない?」
もう一度火の着いた煙草が伸吾の口元に差し向けられる。彼はすぐさま口を開け、舌を伸ばす。
「あ、あい……」
「そう、じゃあ、思い出させてあげようか……」
涼子はそう言うと、夫の舌の上で、火の着いた煙草を揉み消す。ジュッと音がして、伸吾の舌の上に刺すような痛みが走る。
「うううっ……」
「覚悟しなさい」
涼子は吸い殻を夫の口の中へ捨てるとソファの背もたれにゆったりと背中をあずけ、長い脚を組み直す。
「革手袋。ブーツも」
「しゃ、社長……りょ、涼子さん……」
「聞こえなかった? 早く持ってこないと、もっと酷いことになるわわよ」
伸吾は急ぎ玄関近くの棚から、指導用の革手袋と黒革のロングブーツを持ってくる。その間、こっそり口のなかの吸い殻をティッシュに吐き出し、ゴミ箱に捨てた。
革が艶めく手袋を妻に渡し、「あああ……りょ、涼子さま、どうかお手加減を……」と震える声を出す。
「いいから、早くブーツ履かせな。また、いちいち言わせるの?」
「い、いえ、ただいま……」
伸吾は床に這いつくばるようにして、涼子の長い脚に黒革ブーツを履かせる。ファスナーをチーッと上げる音が伸吾の恐怖心を煽る。
今から年下の妻に、このブーツで嫌と言うほど蹴られ、踏みつけられるのだ。まるで家畜のように。いや、家畜だってそのような扱われ方はしないだろう。女主人の嗜虐心を満たすために、この家の奴隷である自分が奉仕させられるのだ。そうだ。まるで奴隷だ。
「思い出した?」
涼子は、革手袋を装着しながら言う。
「は、はいっ、思い出しました」
靴を履かせ終えた伸吾はすぐに答えて、女主人の顔色をうかがうようにして膝立ちになる。
「何を?」
手足に革を装着した妻に強い口調で聞かれて、伸吾の頭は真っ白になる。
「あ、いえ……」
「何を思いだしたの? ねえ」
涼子がソファから少し体を起こして、革の手で伸吾の胸ぐらをつかみ上げる。
「すみません……ごめんなさい……」
「謝ったって分かんないでしょ。ねえ、何を思いだしたのかって……」
つかんだ胸ぐらをさらに締めてせり上げる。
「……うくううううっ……りょ、涼子さま……」
「また、口から出任せで適当な返事したのね……」
「……申し訳ありません……ゆ、許してください……」
右の革手がさっと上がったかと思うと、伸吾の頬を激しく殴打した。
「あぐううっ……」
胸ぐらを捕まれたまま叩かれたので、衝撃が頬から脳髄にまで伝わり、伸吾は一瞬脳震とうを起こしたような状態になる。キーンと耳鳴りがして、あとから痛みが追ってくるような感覚だ。
「お前が、営業も含めて全部やるっていうから、出資してあげたのよ。忘れたなんて言わさないわよ」
この立場の相違は、涼子の親の遺産を原資とした夫婦間の財力格差が根底にある。
「あ、はいっ、そうでした。わ、私がやります……」
「だから、それは、今更じゃなくて、最初から決まってたことなんだよ。ねえ。お前、ちょっととぼけすぎじゃない?」
「も、申し訳ありません……」
「謝罪は聞き飽きたよ。立て」
涼子は伸吾の胸ぐらを引き上げるようにして、自分も立つ。夫の両肩を持って、打ちやすい距離を取る。
「歯を食いしばれ」
ブーツの脚を少し開いて、妻は夫に命ずる。
「りょ、涼さん……」
夫は懇願の眼差しを妻に向ける。
「口で言ったって分かんないんだからしょうがないでしょ。歯、くいしばんないと、切れちゃうよ。口の中。いいの?」
伸吾は慌てて奥歯を喰い締める。
妻の平手打ちがいきなり頬に飛んでくる。
「はがうううっ……」
二発、三発、四発、五発……強烈な往復ビンタがふがいない部下、情けない夫を襲う。
「ひいっ……あがあっ……あわああっ……ぐわううっ……」
左右に打たれまくり、最後の一撃で、たまらず伸吾は床に崩れ落ち、女軍曹の足元にすがる。尖ったブーツのつま先が窓からの光を受けて妖しく光っている。
「はうああああああっ……ゆ、許してください……涼子さま……申し訳ございませんでした。私は、自分の責任を、りょ、涼子さまに押しつけようとしていました……」
必死で懇願する夫を、妻は肩で息をしながら興奮の眼差しで見下ろす。続きのセリフを促すように無言で見つめる。
「りょ、涼子さま……ど、どうか、このブーツの脚で、私に、少し、気合いを入れてやってください……」
伸吾は、この状況をなんとか最小限のダメージで乗り切れないものかと、あえてそう言ってみる。彼女の怒りがこの程度で収まらないのは明白だ。
「少し……じゃないでしょ、ねえ」
ブーツの脚が上がって、伸吾の首根っこを床に踏みつける。
「あがあああっ……す、すみません……ど、どうか……お気の済むまで……」
夫の申し出に妻は、「そう、じゃあ、遠慮なくやるわよ」と言い、脇腹にまずは一発目の蹴りを入れた。
第一章 女性室長の横暴と誘惑
☆ 一
「失礼します」
「どうぞ」
ドアを開けてくれた女性は、伸吾をオフィスのなかへと招いてくれた。
「お忙しいところをすみません。はじめまして、ホームページ制作の澤田です」
伸吾が戸川インテリア企画室を訪ねるのはこれが二度目である。一度目は、飛び込み営業だったが、そのときはスタッフを通じてすげなく断られた。室長の戸川真帆に会うのは初めてである。年齢は三〇を少し超えたくらいだろうか。いかにも上品で肌つやの良い美女は、スーツではなくて、クリエイティブな職業らしい、エキゾティックなワンピースドレスを纏っていた。
伸吾が名刺を差し出そうとすると、戸川女史も執務机から名刺を持ってきて交換した。
「岸野先生にはお世話になっていまして」
ネイルサロン店長の岸野冴子のことを伸吾はそのように呼んだ。このインテリア企画室は、彼女からの紹介だった。モデルハウスや住宅、オフィスのインテリアをコーディネートする専門事務所だ。室長の戸川真帆を始め、数名のインテリアコーディネーターが集う女性集団である。
「ええ、冴子から電話があって、とても真面目な方だって伺ったから。ごめんなさいね、一度はお断りしてしまって」
真帆と冴子は高校時代の同級生とのことだった。
「いえ、こちらこそ、アポもなく、いきなり伺ってしまって。すみませんでした」
「飛び込みの営業訪問は基本的にとりあえずすべて断るよう言ってあるから」
「あ、ですよね……」
このことは妻の涼子にぜひとも伝えねばと伸吾は思った。いかに自分に無駄な時間を使わせようとしているのか。もちろん、言い方には十分気をつけなければならないが。
「ホームページ、ご覧になりました? うちのいまの?」
「あ、はい……一応、拝見させていただきました」
「恥ずかしいわ。昔いたバイトの学生に作らせたんですけど、素人でしょ? やっぱり」
「あ、そ、そうですね。デザイン自体は悪くないと思いますが、いろいろと改善できるかと思います」
「そうでしょうね……あ、ごめんなさいね。お茶も出さずに。ちょっと待っててください」
「あ、いえ、お構いなく……」
遠慮する伸吾を制し、真帆は席を立つと、手際よくお茶を入れて、持ってきてくれた。
「あ、良い香り……ジャスミンですか……」
「ええ、外寒かったでしょ」
「はい、温まります。ありがとうございます」
なんだか心までポカポカとしてくるようだった。
しばし話した後、「じゃあ、澤田さん。とりあえず、どんなホームページになるのか、簡単でいいので、企画と見積もり持ってきてもらえますか?」と室長。
「あ、はいっ、あ、ありがとうございます」
「あ、でもね、澤田さん……」真帆は少し申し訳なさそうな顔をする。「冴子の紹介だし、澤田さんにお願いしますって、ここで言ってしまいたいんだけど、実はよそからも提案をもらっててね……先週かな……」
それを聞いて、伸吾はがっくりする。妻の顔が目に浮かぶ。この仕事が決められなかったら、どんな目に遭わされるのだろう。伸吾の衣服の下はすでに満身創痍だった。
「あ、あの……戸川先生……」
伸吾は持っていたティーカップを皿に戻すと姿勢を正してテーブルに手をつき、頭を下げた。
「え、澤田さん……」
「ど、どうか、私にお仕事をさせていただけませんでしょうか……」
「ちょっと……澤田さん頭をお上げになって……」
「あ、はい……すみません……」
伸吾が顔を上げると真帆の視線が飛び込んできた。顔が熱くなるのを感じる。
「もちろん、澤田さんの企画と見積もりがもう一社より良ければ、決めますよ……それでは、駄目なの?」
そう言う真帆の耳のピアスがまぶしいほどにキラキラと光っている。
「もちろん、それでかまいません、いやそれが当たり前だと思うんですが……う、うちは妻が社長でして……」
それを聞いて真帆は小首をかしげる。伸吾はこのあとを続けるかどうか迷っている。
「奥さんが社長さんなのね、それで? 差し支えなければ聞かせて。協力できるならばしたいから」
「あ、はい……」
話せるだけ話そうと伸吾は思った。なんとかこの仕事をいただける約束が欲しい。
「ひと言で言うと、凄く怖いんです」
「怖い? 奥さんが?」
真帆は思わず吹き出す。
「あ、いえ……」
伸吾は恥ずかしさで首筋までが熱くなるのを感じる。
「ごめんなさいね。笑ったりなんかして。でも、分かるわ。そう言う家庭もあるわよね。でも怖いって言ったって、女性でしょ。きつくたしなめられるくらいじゃないの?」
「い、いえ……本当に厳しくて……」
「厳しいって、どういう風に?」
「先生、戸川先生……、あの、ここだけの話にしていただけますでしょうか……」
「ええ、もちろん。聞かせて」
真帆は興味津々と言った面持ちになる。
「殴られます。相当に激しい体罰を受けています……」
伸吾が真剣な眼差しで訴えるも、真帆は冗談でしょう、とでも言いたげに「ふっ」と鼻で笑い受け流す。
伸吾は、「失礼します」と言うと、上着を脱ぎ、シャツを腕まくりして見せた。
「あっ」
真帆は思わず声を上げる。伸吾の華奢な腕には無数の古傷と痣があった。
「反対の腕も、このシャツの中もです」
伸吾は胸やお腹を指して見せた。
「そう、なんだ……」
ありったけの同情を引き出せると思っていた伸吾は、真帆のいくぶん乾いた返事は意外に思われた。拍子抜けした。
「あ、あの……」
ホームページ業者は、もう一度、テーブルに手をついて、頭を下げる。
「分かったわ、状況は……」
そのとき初めて伸吾は、彼女の言葉使いが変わったのを悟った。今度は、下げた頭を上げろとも言われなかった。頭を下げたまま、彼女の言葉に耳を傾ける。
「奥さんが怖いから、社長さんが恐ろしいから、仕事くださいってことね」
「……は、はい……」
伸吾はいったん顔を上げて返事をしたものの、真帆の視線の強さに圧倒されて再びテーブルを見る。
「だけどさ、それは、お宅の事情でしょ。ウチとそのことが何か関係があるのかしら? ねえ、顔を上げて」
「はいっ……す、すみません……」 伸吾は悲しそうな目で真帆を見上げる。「か、関係ありません……申し訳ありません……だけど……」女性から同情を引きだすための、いつもの表情をつくる。
「だけど?」真帆は毅然とした態度で業者を見据える。「奥さんに殴られるのが怖いから、なんとかしてください?」
「…………」
「澤田さん、ウチの仕事見てくれれば分かるけど、私、何事も中途半端はいやなのね。ホームページもきちんとやるなら、徹底的にやる。予算だって、ケチなことは言わないわ。質の高いものには高い値段がつくことは私たち自身が知ってますから」
「は、はい……」
洗練されたこのオフィスのコーディネートを見ても仕事の高いクオリティは分かる。スティールの額縁に入れて壁に飾られている図面はどれも高精度で、芸術性すらあった。
「それなりの覚悟がある人にやってもらいたい。あなたにそれがある?」
真帆は明らかに興奮している。伸吾は岸野冴子や妻の涼子に通じるものを彼女にも感じた。
「あ、ありますっ……先生、ございますっ……」
伸吾はありったけの誠実さを目に湛えて訴える。
「本気でやれるって言うなら、考えてあげてもいいわよ」
真帆は状況を楽しみながらも落ち着いた所作でお茶を啜る。
「も、もちろんです」
伸吾はお茶を皿ごと脇へどかすと、テーブルにしっかり手をついて、今度は額がコンと音を立てるまで頭を下げた。
「お願いします……この通りです。戸川先生の仰る通りに……戸川先生のご指示に完璧に従って……最高のホームページをお作りしますので……ど、どうか……私にお仕事をお与えくださいませ……」