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S女小説 アマゾネスウェーブ2「矯正指導を厳となせ」

S女小説 アマゾネスウェーブ2「矯正指導を厳となせ」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

女性が支配する海自艦内で、ますます激しい矯正指導を受ける男子隊員の物語

アマゾネスウェーブ「血潮の女権革命」続編

海上自衛隊の特別練習艦《ひめぎく》に乗艦する糟屋肇三曹は、女性艦長が発した「特別指導体制」の号令の元、女性幹部や下士官から暴力を含んだ徹底指導を受ける。さらには、当初は遠慮がちだった、二十歳前後の女性海士たちも、幹部たちの全面支援により、男子隊員を積極的に指導し始めたのだった。大海に浮かぶ密閉空間の中で、遙か年下の女性上官にひたすら殴られ、蹴られ続ける中年曹……。ただ、女から男への行き過ぎた指導に疑問を持つ、二階堂留美三尉だけが、肇の心の支えであった。

第五章 女性班長様のブーツ磨き

第六章 美人曹士たちの的になる

第七章 犬なら匂いで嗅ぎ分けろ

第八章 生きたいなら服従すべし

本文サンプル

第五章 女性班長様のブーツ磨き

☆ 二十一

「今日は金曜日か……」
 艦内の食堂から漂ってくるカレーの匂いに気づいて糟屋肇はつぶやく。金曜日の昼食にカレーライスが饗されるのは、海軍時代からの伝統だ。曜日の感覚を失わないためらしいが、確かに不規則な当直生活を繰り返していると、体内時計がおかしくなってくる。
 通常ならば、職歴とともに職位も上がり、きつい当直からも放免されるものだが、肇ら《ひめぎく》の男子海曹の場合は違う。就任したての海士、もしくはそれ以下の待遇で、若い女性隊員たちに厳しくこき使われている。
 肇はバケツを片手に管だらけの狭い廊下を歩く。向こうから若い女性が歩いてくる。女性隊員は職位にかかわらず、男子からはすべて上官扱い。それがこの艦のルールだ。
「お疲れさまです」
 肇は壁に背中をピッタリとくっつけて敬礼し、二十代半ばほどの女性海曹に道を譲る。当初は答礼があったのだが、男子には応じなくてもよいという通達が出されてからは、答礼する女性はほとんどいなくなった。ただでさえ忙しく、それぞれにストレスを抱えている艦内だ。少しでも省力したいのが人情だろう。いまの海曹も、チラと肇を見ただけで、早足に過ぎ去っていった。
 続いて、明らかに新任海士と思われる年頃の長身ウェーブ(WAVE:女性海上自衛官の略称)が急ぎ足でやってくる。よく見ると、新しく肇たちの班に加わった三人の女性海士のうちのひとり、竹内玲奈れいな一士だった。他の女性曹士同様、彼女も紺色迷彩の戦闘服に身を包んでいる。
 基本的にこの艦に乗っている女性は身長一六五センチ以上で、肇ら一六〇センチ以下の男子隊員からみれば、全員が長身なのだが、あえて長身というときは、一七〇センチ以上だ。一七五センチオーバーも珍しくなく、一八〇センチを越える女性海士もいる。その竹内玲奈一士も一七五センチの背丈があった。
「お疲れさまです」
 肇は先ほどと同じように、歩みを止めて体を九〇度回転させ、壁に背中をつける。しかし、握ったバケツを引っ込めるのがわずかに遅れて、玲奈一士の脚にうっかり当たってしまう。
―――ガツッ……
「あっ」
「いったあ!」
 玲奈はやや大げさと思えるほどの大声を挙げて、膝をさする。
「す、すみませんっ……」
「なにやってんのよっ」
 玲奈は両手で肇の頭を挟むようにして壁をドンと突き、上から睨みつける。
「も、申し訳ないです……」
「殴っていいって言われてんだからね、岩村班長から」
「あ、いえ……はい……」
「次は、絶対、許さないかんね……」
 急いでいたのか、今回はまだ躊躇があったのか、竹内玲奈一士は、大きな舌打ちをすると去って行った。同班になって何度か、今日のように怒鳴られ脅されはしたが、これまでのところ、まだ彼女には殴られたことがなかった。
 肇は胸をなで下ろす。
―――しかし、次は絶対やられるな。手を挙げてくるに決まってる……ああいう風にして、ここの女たちは少しずつ距離をつめてくるんだ……
 実際に男子中年曹への教育的体罰は、職位にかかわらずすべての女性隊員に対して、上層部より許可というよりもむしろ奨励されていた。出世にも影響するという噂が立ち、多くの若い女性海士たちが、男たちに体罰を与える空気を探り、タイミングを計っているようだった。
 肇は、気短な女性隊員とすれ違わないように祈りながら、カレーの匂いが充満する食堂を抜けて女性下士官専用の科員室へたどり着く。
 部屋をノックすると、出てきた女性海曹に、「失礼します、二十三班員の糟屋です。岩村班長殿に呼ばれて参りました」
「どうぞ」
「はいっ、失礼します」
 中へ入ると、化粧品と煙草の混じったような匂いがする。科員室は基本的に禁煙のはずなので、女性たちの吐息や体から発散される匂いだろう。とにかくこの艦の女性はヘビースモーカーが多い。
 肇はベッドに腰掛けている岩村亜美三曹を見つけると近づいて敬礼する。敬礼しながら当直あけの頭がクラクラとしてくる。本来ならすでにこの時間はベッドで休めるところだが、これから目の前の上官の当番兵として奉仕しなければならないのだ。彼女が部下であった過去がすでに頭から消え去りつつあった。
 岩村亜美もたった今、当直から戻ったばかりのようでまだ上下迷彩の戦闘服を身につけていて、編み上げのブーツも履いたままだった。
「上官殿、お疲れさまでございます」
「うん、脱がせて」と長い脚を床に放り出す。
「あ、はい……」
 部屋に同僚女性が二人ほどいたのが気になったが、動作が遅れると亜美の平手打ちがすかさず飛んでくると思ったので、すぐにしゃがみ込んで正座する。
「ねえ、なにか気づかない?」
 編み上げの紐を緩めようとする肇に大股を開いた亜美が言う。見上げるとほどいた髪が肩に掛かっている。
「……あ、はい……とても、魅力的でお美しく……」
「ふっ……」二十六歳の女性二曹が、白い歯を見せる。「なに寝とぼけたこと言ってんのよ。靴が汚れてるでしょ、見えないの」
 肇は顔を真っ赤にする。後ろから同僚女性たちのクスクス笑いが聞こえる。
「お前に、そんなこと言われても仕方ないんだよ」
 長い腕が伸びてきて胸ぐらをつかみ、強烈なビンタを一発張られる。
「はうううっ……す、すみませんっ……」
「汚れた靴を磨けって言ってんだよ、脱がせる前にさ。当たり前だろ、そんなこと」
 そう言って女班長は、つま先に鉄板の入った編み上げ靴の片脚で肇の太股を踏みつける。
「あううっ……」
 痛みを堪えながら、バケツに放り込んでおいた靴磨き道具の袋を取り出す。持ってきておいてよかった。
「し、失礼します……」
 膝を踏みつけた靴にブラシを掛ける。艦内には泥などないので、さほど汚れているとは思えない。水しぶきの跡とつま先や縁の方に埃がうっすらとある程度だ。しかし、そんな不満をもちろん口にするわけにはいかない。上官が汚れていると言ったら、汚れているのだし、彼女が満足できる仕上がりにならなければ……そう……殴られるだけだ。
「真ん中の方がやりやすい?」
 亜美はそう言うと、今度は股間を踏みつけてきた。彼女の長い脚は、楽々と肇の急所に到達し、つま先にぐっと力を込める。
「はあうううっ……」
「やらしい声だしてないでさ、ちゃんとやってよ」
「じょ、上官殿……」
 刺激と痛みにもだえながらもなんとか布を靴に当てて、汚れを拭き取っていく。
「クリームもしっかり塗って、艶出すんだよ」
 そう言って、今度は踵で肇の肉竿をグリグリと踏み込む。
「ぐわうううああっ……か、かしこまりましたああっ……」
 女性曹二人が肇の顔が見える位置に回り込んできて、同僚が遙か年上の男部下にセクハラをくわえる様子を見て面白がっている。
「お前たちへのセクハラ、パワハラは上から奨励されてんだからね」
 肇に向けた亜美の台詞に、同僚が、「ホント?」と聞く。
「うん、音を上げて自衛官を辞めたくなるくらいやっていいって。だって、こんな使えない奴らを食べさせるなんて、税金の無駄遣いでしかないでしょ」
「確かに……」
 亜美の同僚は二人とも腕を組んで頷いている。

「いかがでございましょうか。上官殿……」
 肇は、亜美が広げているファッション雑誌を裏から見上げて恐る恐る声を掛ける。亜美は雑誌を脇へ置くと、「どれ」と威厳たっぷりの所作でブーツの艶を確かめる。「ようし、靴磨きはなんとかできるようになったようね」
「あ、ありがとうございます……上官殿に鍛えていただいたおかげです……」
「ふっ……」亜美が蔑みの目で見据える。「男としてのプライドもなんにもないんだね、お前は、ホント……ねえ、知ってる?」近くの同僚に声を掛ける。「コイツ昔さ、アタシの上司だったんだよ」
「え、マジ?」
「ホント。佐世保にいた頃……ね」
「それがいまじゃ、亜美の靴磨き?」用事で離れていたもう一人も聞きつけてまた戻ってくる。「なんでもやるんだね。そのうち、下着だって洗ってくれるんじゃない?」
「やだー、最低」と同僚。
 つられて肇も笑ってしまう。そんな馬鹿な話はないという顔を思わずしてみせる。そうだ、元部下だったのだ、彼女は。かつて自分の下に着いていた女の下着を、娘のような年頃の女子の下着を、五十間近の男が洗うなんて、そんなことができるわけがない。無理だ。
「ふーん」
 亜美が嗜虐的な表情で見下ろす。こんな男に自分の下着を洗わせる気などなかったが、それ以上にいまの顔つきが気にくわない。少しでも女を舐めたような態度を見せるのであれば徹底矯正する必要がある。
「そうだね。洗ってもらおうか」
「え、いえ……じょ、上官殿……」
 肇は二十六歳の長身女性を見上げて本意を探る。
「なに? アタシの下着を洗濯しろって言ってんのよ。ブラとショーツ、それと靴下もね……そこの引き出しのビニル袋に入ってるから、持ってって」
 どうやら冗談ではなさそうだった。
「し、しかし……岩村班長殿……バスでは皆の目がありますので……それに、万が一紛失してしまっては……」
 風呂場で女物の下着を洗濯するところを想像してゾッとする。ものがものであるだけに、盗難にあわないとも限らない。
「それは、お前の責任だよ。なくしたりしたら承知しないよ。大問題だかんな」
「この艦内で男が女子の下着盗んだなんてなったら……」
 同僚が意地の悪そうな口調で言う。
「上の会議に掛けられて、一発解雇だよね……」
「そう、懲戒解雇は間違いないだろうね」
 別の同僚の言葉を、あらためて亜美が言い直す。
 懲戒解雇……肇がもっとも忌み嫌う、聞きたくない言葉だ。
「バスじゃなくて、洗濯室で洗えばいいじゃない」
 再び同僚から声が飛ぶ。
「そうだよね、どうしてそうお前は機転が利かないの? 糟屋」
 亜美が磨きたての靴で肇の腕を蹴る。
「あううっ……は、はいっ……すみません……」
「とっとと段取りつけな……分かってると思うけど、洗濯機使うなんて横着すんじゃないよ。手洗いで丁寧にね。アタシの下着は。安物じゃないんだから」
「は、いっ」
「ほらっ、とっとと靴を脱がせて、脚を揉めっ」
「あ……は、はい……」
 編み上げの紐を解いて黒革の靴を脱がせる。固い床の上に、正座の足がしびれてくる。苦痛にゆがむ顔を亜美が意地悪そうな目で見下ろしてくる。
「靴下も脱がせて。それも洗っときなよ、もちろん」
「か、かしこまりました……」
 黒い靴下を脱がせて、香ばしい匂いとともに下着のビニルに入れる。
 揉めと言われてもどこからどう手を着けていいのか迷っていると、「んとにお前は、なんにもできないね……」素足のつま先で額を軽く小突かれる。「土踏まずを親指で押して、それからふくらはぎだよ……糟屋……カス、お前はこれから『カス』でいいね」
 背中で女性二人の笑い声が起こる。
 ファッション雑誌を手にした亜美の脚をひとしきり揉むと彼女は「眠くなってきた」と肇に部屋の掃除を命じ自分は下着だけの姿になってブランケットに潜り込んだ。
 肇も眠い目を擦りながら、なるべく音を立てないように床を掃き、持ってきたバケツに水を汲んで、命令されていた部屋の拭き掃除を一通り済ませた。手抜かりがないか、肇なりに念を入れてチェックすると、科員室に戻って少し仮眠することにした。

☆ 二十二

「糟屋くん、昼だよ」
 寺井に起こされ目を覚ます。時計を見ると一三時五分前だった。カレーの匂い漂う食堂へ向かう。女性曹たちの食事サポートは、別班の男子曹たちが行っていた。
「食事当番なしはありがたいね」
「しかも今日はカレーだし」
 二十三班(岩村班)の男たちは眠い目を擦りながらもカレーライスとサラダの載ったプレートを前に幸せそうな顔をしている。
「いただきます」
 六人がそれぞれに手を合わせて昼食を始める。
「大丈夫かい、ちゃんと噛める?」
 肇は向かいに座った片山を心配そうに見る。眼鏡の片山は誰の目にも明らかなほど顔を腫らせている。彼がこれまで少し顔を腫らせて戻ってくることはあったが、それは艦長に殴られていたからなのだとようやくわかった。
「ええ、なんとか。まだだいぶ痛いですけど……」
「先生には診てもらった?」
「はい……それくらいなら大丈夫と……」
 片山は苦笑いをしながらスプーンを口に運ぶ。
「何が大丈夫だ」隣の寺井が憤る。「気が狂ってるよ、ここの女どもは、まったく……」
「寺井さん……」
 向かいに座る赤ら顔の関島がなだめる。寺井は関島と一緒に、たしか杉浦香織伍長の相手をさせられたはずだ。おそらく寺井は自分と同じような惨め極まりない役割を強制されたのだろうと肇は想像した。
 取り繕っていたような幸せが次第にしぼんでいき、いつも以上にどんよりとした空気が男たちを包んでいった。

「なにやってんの」
 洗濯室の洗い場で水を流し下着を洗おうとした肇を、見回りに立ち寄った第三分隊の若い女性海士長が咎める。
「あ、すみません……班長の命令で下着を洗濯に……」
「ていうか誰? あんた」
「あ、第二分隊の糟屋です。申し遅れました……」
「応急長の許可は? 聞いてないわよ」
「あ……それは、まだ……」
 水事情のよくない艦内では真水の使用については厳しく管理されている。もちろんそのことを知らないわけではなかったが、洗うものがものだけに、こういう場合、どう上にお伺いを立てて良いものか迷いながら洗濯室まで来てしまった。たまたま誰もいなかったのでいまこっそりやってしまえば大丈夫だと勝手に判断してしまったのだった。
「あなた、アタシたちの許可もなしに、勝手に水使ってるの?」
 女性はことを大げさにする意図を多分に込めて、大声を放った。
「も、申し訳ありません……」
 まだ二十代前半と思われる迷彩服女性に平謝りする。

 肇はどうすればよいか分からぬまま、士官室の二階堂留美分隊士を訪ねた。まさに新任海士の気分である。女性がつくった独自のルールで動いているこの艦では最下層の立場であることがあらためて身にしみた。
「そう……岩村班長も言い出したら聞かないから、そこはとりあえず従っといた方がいいでしょうね」
 留美は仕事の手を止め、脇に起立する肇を見上げて言う。立場としては留美の方が亜美より上であるが、現場の下士官とはなるべく良好な関係を保っておきたい。聡明な彼女は、ここは静観すべきと判断した。
 一方肇としては、男部下に女物の下着を洗わせるなどと言う暴挙をいさめてもらうことを少しは期待していたので多分にがっかりとした。
「だけど、応急長はよく知ってる先輩だから」
 留美はここから離れた壁際の席でパソコンを開いている西谷美玲二尉のところへ肇を連れていく。
 二十七歳の応急長は留美からの説明を一通り聞くと、「そうね……下着洗うのは別にかまわないけど……ひとり分のために貴重な真水を使うのは困るわ。五人分とか、それ以上まとめてやるのなら、許可出せないこともないけど」
「そうですか……」留美が肇に変わって返事をする。「五人分以上なら大丈夫ですね」

「ど、どうすれば……」
 肇は席に戻った留美に指示を仰いだ。
「聞いてたでしょ」
 仕事の資料をめくりながら、ぶっきらぼうに言う。よほど忙しい様子だ。
「やはり五人分の下着を、でしょうか……」
 まさか男の下着を混ぜるわけには行かない。かといって下着の洗濯許可を直接頼める女性など、この艦内にいるはずもなかった。
 留美は無言で仕事に集中している。
「分隊士殿……お願いできませんでしょうか……」
「私に頼むことじゃないでしょ。そこは班長に相談して」
 留美はいらついた調子で応える。こういうときの彼女には逆らわない方がいい。一見、柔らかい物腰だが、根は気丈なのだ。
「……うう……は、はい……ありがとうございました……お忙しいところをすみませんでした……」
 肇は仕方なくすごすごと退散する。

「どうでした? 洗濯の件は」
 夜の巡検の帰り際に、二階堂留美が聞く。
「そ、それがまだ……班長になかなかお会いできず……いまからまた相談に行くつもりです……」

 

S女小説 アマゾネスウェーブ「血潮の女権革命」