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S女小説 逆DV相談室「鬼妻に怯える気弱夫」

S女小説 逆DV相談室「鬼妻に怯える気弱夫」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

妻に暴力を振るわれた男がDV相談室へ赴くもさらなる不幸に見舞われる物語。

会社をリストラされて主夫となった小池朋也はキャリアウーマンの年下妻に頭が上がらず、日々彼女からの暴力に悩まされていた。ある日、些細なことがきっかけで、妻が逆上し朋也は前歯を折るほどの激しい暴力を受ける。治療を受けた女性歯科医にDV相談室の存在を聞かされ、さっそく連絡をし赴いてみると、男性専門の担当者として彼の相談を受けたのは、岩橋加世子というサディスティックな性向を持つ女性であった。

第一章 厳し過ぎる妻に虐げられて

第二章 女性担当者の屈辱的な指導

第三章 職場で美女の巨根に貫かれ

第四章 女性たちの肉便器に堕ちる

本文サンプル

第一章 厳し過ぎる妻に虐げられて

☆ 一

「どうしちゃったの、その歯」
 職業紹介所の女性担当者は、唇が腫れ上がり二本の前歯を失った私を見てかなり驚いた様子でした。
「ええ、お恥ずかしい話、妻に激怒されまして……」
「そっか……まあ、これだけ仕事が決まらないなら、さすがに奥様もストレスでしょうけど」
 スーツを着た三十代半ばの女性はいつもの淡々とした口調に戻ります。
「年も年ですし……」
 私は新しい仕事を見つけるには年を取り過ぎてしまった自分を嘆きため息をつきます。
「それは言い訳だよ、小池さん」
 年下女性は、平然と私をたしなめました。
「す、すみません……」
「とにかく、その歯をまず治さないと。面接にも行けないよ、それじゃ」
「は、はい……」
「今日はもう止めましょうか」
「あああ、はい、すみません……」
「あんまり無駄なことさせないでくれる? 他にも面倒見なきゃいけない人いっぱいいるんだから」
 女性は私の後ろの方へ視線をやって言いました。振り返ると、いかにも風体の上がらない男たちがうつむき、順番を待っています。彼らをタメ口で、ときに厳しい口調で次々とさばいていくのは、一回りも二回りも年下の女性たちでした。
「申し訳ありません、出直してきます……」

 翌日、私は自宅近くの歯科医院へ行きました。
「どうされました?」
 受付の歯科衛生士が尋ねます。まだ学校を出たばかりであろう、ショートヘアがよく似合う若くて美しい女性です。
「前歯が抜けちゃいまして」
 私は実際に歯がない口でそう言います。
「あ、はい……」女性は私の口元を確かめるように見て、「あらあ」と一瞬同情の顔を見せましたが、すぐに淡々とした態度に戻り、「保険証をお願いします」と事務的に言いました。「お呼びしますので、腰掛けてお待ちください」

 半時間ほど待って、診察室に呼ばれました。
「あらあら、どうしました?」
 女性の歯科医院長は、目を見開いて言います。目鼻立ちのくっきりした、いかにも知的な美女でした。歳は三十代半ばほどでしょうか。
「ええ、ちょっと……」
 女医の美しさに見とれると同時にあらためて歯のない恥ずかしさが湧き上がってきました。
「とりあえず、仮の歯を入れておきましょうね」
 女医は、若い歯科衛生士に指示を出して歯形を取り、他の患者も並行して診ながら、一時間ほどで処置をすませてくれました。他の人たちは簡単な治療だったようで、診察室には私だけとなりました。
「どうしました? ホントに。唇もめくれちゃってるし」
 あらためて尋ねる女性歯科医に、私は甘えたいような気持ちになり、妻から暴力を受けたことを正直に話してみることにしました。

「……そう……家庭にはそれぞれ事情があるのかもしれないけど……一度、相談に行ってみたら?」
「ど、どこに行ったらいいのでしょうか?」
「DV相談室ってのがあるから。女性から男性へってのも最近は多いって聞くわ……ねえ」
「ええ、らしいですね。テレビでもやってましたよ」
 さきほど受付をしていた女性歯科衛生士が応えるのを聞いて、私は初めて彼女もその場にいることを知り、羞恥で顔が熱くなるのを覚えました。

 私は自宅に戻るとさっそくパソコンでDV相談室について調べ、その部署を擁するNPO法人らしき女性センターへ電話を入れてみました。電話に出たのは若い女性の声でした。
「はい、相談室です。どうされました?」
「あの……」
「男性の方?」
「あ、はい……つ、妻に暴力を振るわれていまして……」
「少々お待ちくださいね、専用の担当に代わります」
 私はてっきり男性の悩みには男性の相談員が対応してくれるものと思いきや、代わって出てきたのは、やや落ち着いた声の女性でした。
「奥さんから暴力を?」
「はい……」
「それは大変ね。いつくらいから?」
 私はこれまでの経緯をざっと担当の女性に話しました。
「なるほど……よかったら、一度こちらへおいでませんか。詳しい話を伺いながらじっくり解決を探っていった方がよさそうなので」
 私は相談員とはいえ、見ず知らずの女性に直接会ってこのような相談をすることに一瞬抵抗を感じましたが、《解決》という言葉に引かれ、担当女性の提案に従うことにしました。

☆ 二

「小池と申しますが……」
 私は声を震わせながら受付の窓越しに若い女性に言いました。怪訝そうな顔をされたので、マスクを外します。彼女は腫れた唇を見て、同情の顔を見せます。
「えっと、小池さん、あ……ああ、はい、伺っています」彼女は手元のノートを見て言いました。「面談のお約束ですね」
 電話を取って内線を掛けている様子です。
「副所長、小池さんが見えてますけど……はい、ではいまからお通しします」
 受付嬢は、近くのドアから出てきて、「じゃあ、いきましょうか」と私を廊下を二度曲がった奥の個室へ案内しました。
「その部屋に担当者がいますので」
 そう言って、受付嬢は元の持ち場に戻ろうとしましたが、私に臆病を感じ取ったのか、ノックをして返事があってから少しドアを開けると、「山本です。小池さんがお見えです」
 少々苛ついた様子で足早に立ち去る受付嬢の背中に頭を下げ、もう逃げられないと、覚悟を決めて部屋へ入りました。

「し、失礼します……」
「いらっしゃい、小池さん。お待ちしてました」
 女性は奥の執務机を立ち上がると、中央の応接ソファに私を座らせ、自分も向かいに腰掛けました。
「はじめまして、岩橋です」
 もらった名刺には女性センターの副所長とDV男性相談部の部長を兼任する肩書きで、《岩橋加世子》と書かれていました。年齢は三十代後半くらいでしょうか。このような組織のナンバーツーにしてはかなり若いと思いました。きりりとした美人で、明るい色のスーツをきっちりと着こなしています。電話で話したイメージどおりの女性だと思いました。
「こ、小池と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ここは、どなたかのご紹介?」
「あ、いえ、自分でパソコンで調べて……あ、でも、その前にかかりつけの歯科の先生にDV相談室のことを教えていただいて。それまでは、こんなところがあることも知りませんでした」
「だいたい男の人ってそんな感じですね。知ってても、相談することに抵抗があるようで、なかなかここまでたどり着けないみたい」
「はい、そう思います……私も、その……先生に電話でお誘いいただけたから参りましたが……」
 いくらアドバイスを受ける身だからといって、年下の女性に、先生は言い過ぎかとも思いましたが、目の前の女性副所長は、その呼ばれ方をすんなりと受け入れたふうに頷きました。
「そうなんですよ。お宅みたいなケース、いわゆる逆DVが増えていることは分かってるんだけど、被虐者が男性の場合、なかなか相談にこられないから……小池さんみたいな方は貴重な存在なの。事例としてストックしたいから、できるだけ具体的な話を聞いていきたいんだけどいいかしら?」
「あ、はい……もちろん。私などのでよろしければ……」
 私はあまり深く考えることなく答えました。
「録音とっていい?」
 すでにコンパクトなデジタル式のレコーダーがガラステーブルの上に置かれています。
「あ……」
「もちろん、秘密は厳守よ。私とあなただけの話だから安心して」
 美人担当者にそのように言われてじっと目を見つめられ、私には「はい」としか返答できませんでした。
「じゃあ、始めますね」
 レコーダーのスイッチが入れられました。
「電話で伺ったことと重複するかもしれないけれど、もう一度聞きます。奥さんからの暴力。歯が折れたのは顔を殴られたから?」
「あ、はい……」
「平手? それともグー?」
「……ひ、平手です」
「平手? で、歯が折れるの? ホントに?」
「……あ、いえ……」
「ちょっと」
 岩橋副所長は真顔になっていったんレコーダーを止めました。私は緊張で身を固くします。
「正直に話してくださいね。なに聞いても驚かないから。事実と違うこと話されるとこちらとしても協力できないし、なんにも解決しないよ」
 少々強い口調で言われます。
「す、すみません……」
「ちょっと待って」
 岩橋副所長は、話を続けようとする私を制してレコーダーを再スタートしました。
「最初からいこうか。玄関先で靴磨きさせられてたんでしょ。で?」
 私は突如厳しさを露わにした女性を前に、すべてを正直に話すことにしました。
「はい……彼女が働いてますので、朝、出かけるときに」
「うん、働いてもらってるんだよね」
「あ、はい、で、もちろん、昼間のうちに、靴磨きはやってるのですが、朝、実際に彼女が履いてみて、艶が悪かったり、仕上がりが気に入らないときは、その……玄関先に呼ばれて、磨き直すよう言われるんです」
 私は恥ずかしさに耐えながら、告白しました。
「ごめんなさい、もう少し大きな声で話してもらえるかな?」
 岩橋副所長は、レコーダーを私の方に押し出しました。
「あ、はい……すみません……」
「彼女が履いたままの靴を、磨いてるの? それは彼女の要望?」
 気のせいか、女性副所長は少し私を小馬鹿にしたような表情を見せました。
「は、はい……以前はいったん脱いでくれていたのですが、いつの間にか……そういうことに……」
「それは、不慣れな家事のミスが続いたり、あなたの仕事がなかなか決まらないことと関係してるのかしら」
「それは……まあ、あると思います……」
 私はなんだか責められているような気分になりました。
「それで? 歯を折られた日は?」
「はい、すみません……突然寒くなった日で、妻が膝丈の革ブーツを履いていくと言い出したんです」
 詳細を口にすることでその日の情景がありありと頭に再現されていきます。
「うん」
「まず、それをすぐ履ける状態にしておかなかったことを叱られまして……」
「殴られたの?」
「はい……平手打ちを……ここに……」
 私はそう言って頬に指を当てます。
「だけど、それくらいじゃ歯は折れないでしょう」
「……はい……」
「続けて。細かくね。状況を」
「……先生が仰られたとおり、それまでいろいろ失敗も続いていて、私の仕事も一向に決まる気配がなかったので、妻の苛立ちはかなりのようでした。私にブーツを履かせるよう言ったのです」
「うん、履かせたの?」
 少しは同情を買えるかと思った私は、女性のあっさりした物言いに戸惑いました。
「はい……情けなくてなりませんでした……」
「それはそうだろうけど。とりあえず事実をありのまま聞かせて」
 岩橋副所長が淡々とした口調で言ったので、私はつい心情を吐露してしまったことを恥ずかしく思い、顔を熱くしました。
「艶がまったく出ていないと、厳しく叱られまして……その場で磨くよう言われました」
「ブーツは磨いてなかったの?」
「私としてはシーズンオフに手入れしてしまったつもりだったんですが……」
「でも彼女から見て、仕事が甘い……できてないと判断されたわけね」
「は、い……」
「それで?」
 女性はうつむいた私の頭を起こすように強い声を出し、切れ長の美しい目から強い視線を送ってきます。私たちの夫婦関係に俄然興味が増した様子でした。
「ブーツは面積が広いので時間が掛かりまして……彼女から、煙草を持ってくるよう言われました……だけど、さすがに私としても夫としてのプライドがありますから、すぐには言うことを聞けませんでした」
「彼女が自分で取ってきたの?」
「いえ……じっと睨まれ、その前に平手打ちもされてましたので……」
「結局あなたが取ってきたわけね」
 女性副所長は鼻で笑うようにして言いました。
「はい……それが、すぐに言うことを聞かなかったことが、さらに彼女をイライラさせてしまったようで……」
「まあ、それはね……で?」
「私に靴磨きをさせながら煙草を吸い始めて……それで……わざとなのかわかりませんが、煙が私の方にふわーっと吐きかけられたようになって。私は実は煙草の煙が苦手でして……少しぜんそくの気があるものですから……咳き込んでしまったんです……」
「うん……」
「それが彼女の目にはどうも大げさでわざとらしく映ったらしく……」
「殴られたの?」
「はい……いえ……」
「正直に言って」
「…………け、蹴られました……」
「顔を蹴られたのね。ブーツを履いた脚で。前歯が折れるくらい強く」
「は、い……」
 私はそのときの状況をはっきりと思い起こすと、あまりの惨めさに感極まり、涙があふれ出てきて、女性担当者が見ている前で、嗚咽を漏らしました。

☆ 三

「いつまでも泣いてたって、解決しないよ。どうすればいいか考えましょう。まずあなたがどうしたいかだよ。一番簡単なのは、暴力を告発して、彼女とさよならする……」
 艶っぽいルージュの唇がきっぱりと言います。
「え!」
 予想外の言葉に私は顔を上げ涙にかすんだ目で、女性副所長を見つめました。
「それだけ酷い目にあってるんだから、しょうがないでしょう」
「そ、それは……」
「嫌? どうして?」
「彼女を愛していますし、彼女がいなければ生きていかれません」
 どちらも本心でした。
「別れたくはないのね。わかりました。彼女なしで生きていけないってのは、経済的な依存が高いということ?」
「は、はい……仰るとおりです」
「その辺、もう少し詳しく聞かせてもらえる?」
 女性副所長の目の前で思いっきり泣いてふっきれたのか、もはやなんでも話す気になっていました。
「家計はすべて妻が自分で管理しています。私の自由になるお金はほとんどありません」
「あなたの貯金は? 一年前までは働いてたんでしょ」
「そ、それが……ありません。お恥ずかしい話ですが、給料も低くて、私の分はすべて生活費の一部に充てられていましたので……」
「今は?」
「食費や生活費のためのクレジットカードを預かってますが、自分のためには一切使えません」
「お小遣いとかは?」
「毎日、千円札か五百円玉を一枚、彼女の気分でどちらかを……たいていは朝、出かけるときにもらっています……ただ、靴磨きの出来が悪かったり、彼女の機嫌の悪いときは、それも最近ではもらえないことがあります……」

「だいたい分かったわ」
 岩橋副所長は私の話をひととおり聞くとレコーダーを止めました。
「私はこれからどうすれば……」
 話すばかりで、一向に解決策をもらえない私は少し焦りました。
「まず、あなたの話を聞いて私が感じたことを言いますね」
 女性はすこぶる落ち着いた態度でじっと私を見つめます。まるで高いところから見下ろされているように錯覚しました。
「はい……」
「ひとことで言うと、あなたリスペクトが足りないわ。奥さんに対して」
「り、リスペクト……」
「尊敬しないと。もっと、女性を。食べさせてもらっているのなら、なおさら。それが足りないから、そういうことになるのよ」
「そ、そんな……」
 まさか自分に非があると思っていなかった私はうろたえました。
「もちろん、暴力はいいことじゃないよ。だけど、奥さんにしてみれば、そうでもしないと、あなたがきちんとできないから、家事も仕事も……じゃないの?」
「……は、はい……そ、それは確かに……」
 自信たっぷりの強い口調で言われると、岩橋副所長の言葉が正論のように聞こえてきました。
「それに、あなたは奥さんとの結婚生活をこれからも続けたいんでしょう?」
「それは、もちろん、そうです……」
「だったら、なおさらでしょ。靴磨きにしても、煙草取ってくるにしても、言われてやるんじゃなくて。むしろ、あなたの方から率先してやるようにすれば?」
「た、確かに、妻にもそのように言われます」
「そりゃそうでしょう!」岩橋副所長はことさら声を大にして言いました。「あなた養ってもらってるんだからさ。それなりのことやってあげないと」
「わ、分かりました。そのように気をつけてみます……」
 私はタジタジになり、半ば逃げるようにして、相談室を出ました。去り際に、自宅と携帯の電話番号を聞かれ、一瞬躊躇しましたが、今後助けてもらわねばならないこともあると思い、正直に伝えました。

☆ 四

―――二週間後。
「い、いってらっしゃいませ……」
 鼻の穴から滴る血を啜って私は、玄関から出て行く妻の後ろ姿に正座の姿勢で頭を下げます。
 家の電話が鳴りました。
「はい、小池でございます……」
 先週、電話を取る際に、うっかり、小池です、と言ってしまって、妻に思いっきり蹴られたすねがまだ痛みます。

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