S女小説 荒ぶる女神たち「不用僕の運命」を電子書籍として出版しました。
内容紹介
超女尊男卑へと移ろう世における、男たちの悲哀と絶望
画期的な婦人薬の発明により、女性の知力、体力が大幅に向上し、さらには嗜虐性までが高まった結果、世は超女尊男卑社会へと移行していった。女性主導による専横的な政府は、男を女性に隷属させるための憲法および法律の改正を次々に行い、施行準備を整えていった。地理教員として若草女子高に勤務していた持田(旧姓細野)友弘も、そのような時代の犠牲となったひとりであった。
プロローグ
第一章 女性教師のバター犬
第二章 新任女性に犯されて
第三章 銃を撃つ女生徒たち
第四章 奴隷市場での男売買
第五章 タトゥー美女の浣腸
第六章 処刑に昂ぶる女たち
本文サンプル
プロローグ
「しょうがないよね、そうせざるを得ないことをやってしまったんだから、お前は」
リビングのソファに腰掛けた妻は、足元に正座させた全裸の夫を見据えて言い放った。ゆるくウェーブが掛かったセミロングヘアに包まれた高貴な面持ちが窓から差し込む午後の日差しに白く輝いている。その眼差しは、下僕である夫への蔑みに満ちていた。
「洋子様……私には、まったく身に覚えのないことで……」
ろくに食べ物を与えられておらず、栄養失調寸前の夫、友弘は声を震わせる。
「身に覚えのないものがどうしてあんなところにあるの?」
持田家のパソコンの中から発見されたのは、男が女を陵辱するという、遙か旧い時代の動画ファイルだった。
「し、しかし……洋子様……」
本当に身に覚えのない友弘は、目に涙を浮かべている。
「まだ言い訳する?」
妻の洋子は、夫である友弘の額を制裁用ブーツの尖ったつま先で軽く小突く。今や家庭内の女性は多くが土足履きの習慣だ。
「あああ……洋子様……どうか、お許しを……」
恐怖に夫の両膝はガクガクと震えている。
「読みなさい、声を出して」
友弘はどうか夢であって欲しいと願いながら、さきほど渡された一枚の手紙を両手で持ち上げ、震える声で読み始める。
「世帯主 持田洋子様
この度は、若草女子高等学校射撃部の処刑実習にご協力いただけるということで、誠にありがとうございます。
先般の日程調整通り、二月三日早朝に不用僕を引き取りに伺います。
処刑は五名の女子部員が機関銃にて執り行う予定です。
万が一の事情により中止される場合は、二月二日十五時までに、所有女性ご本人が直接ご連絡ください。
*これ以降はいかなる事由がありましても、処刑は中止できませんので、あらかじめご了承ください。
若草女子高等学校三年一組 射撃部キャプテン(処刑隊長)浅野聖美」
読み終えた友弘の目に涙があふれ、震える手紙の上にポタポタとこぼれる。
「よ、洋子様……どうか……」
「今度、馬鹿やったら、《不用僕》にするっていったよね、アタシ。冗談だと思ってたの?」
世の中は変わった。
女性の知力、体力のめまぐるしい向上を経て、史上初の女性政権が誕生し、国会議員の三分の二以上を女性が占めるようになった。女性優位の風潮が芽生えたかと思うと、それはあっという間に女尊男卑の世の中へと加速されていき、憲法が大幅に改正され、女が男を支配するための新しい法律が次々と制定されていった。
事の発端は、遠い昔に遡る。女子医大研究グループによる画期的な婦人薬の発明がきっかけであった。新しい薬には人間の基礎能力を大幅に高める作用があった。多くの女性がその薬を、初潮の始まる頃から服用するようになったのだった。男女間の力の差は縮まり、追い抜き、さらに、時を経るごとに広がるばかりであった。その妙薬に男性への嗜虐性を高める成分が含まれていると言う事実は、いまだに公表されていない。
そして……夫の所有権は妻にあるという憲法改正に基づいて、ついに昨年頭に、妻は夫を不用僕としていつでも殺処分できるという法律が制定され、昨夏から施行されるに至ったのだった。
「うううう……」
恐怖に震え、怯え、涙を流す友弘を、部屋の隅から、同じく全裸に剥かれた二人の若い男たちが、やはり怯えた表情で状況を見守っている。いつ自分たちも同じ目に遭わされるか分からないからだ。
一妻多夫が憲法により認められている今、古い夫に飽きた妻が、彼を不用僕として処分することは、いともたやすかった。
そのとき、持田家に一人の女子高生が訪ねてきた。
紺のスクールブレザーに白いブラウス、チェック柄のスカートを身につけた女生徒が、若い夫の案内でリビングに通される。
「こんにちは。この度、処刑隊長を務めさせていただきます、浅野です」
さきほどの手紙の差出人である女子高生、浅野聖美だ。
玄関口で土足でかまわないと説明を受けた聖美の足元は黒革のローファーに膝下丈の紺のハイソックスであった。
「ご挨拶はっ」
洋子のブーツのつま先が、友弘の額を強く小突く。
「うがあっ、は、はいっ、すみませんっ……」
不用僕となった夫の友弘は、そばに立つ女子高生を見上げる。二重まぶたと白い肌の持ち主は、ミスコンの上位入賞者として紹介されても何の違和も感じないほどに完成された美少女だった。
しかし、礼儀正しさの中に収まりきれない若さの躍動がみなぎる、その佇まいは、女性上位の世の中にどこにでもいそうな、今風の女子高生の一人でもあった。
友弘は、彼女に見覚えがあった。
―――この少女たちに、自分は殺められるのか……
友弘は恐怖の中にあってなぜか昂ぶるものを感じる。
「こ、こんにちは……も、持田、友弘です……」
よろしくお願いします、と言いかけて、やはり口にはできなかった。死ぬのは恐ろしい。
少女は少し微笑むだけで何も言わずじっと友弘を見下ろした。友弘は、その目力に耐えきれぬように頭を下げ、黒光りするローファーのつま先に視線を落とす。
「この度は、処刑実習へのご協力、ホントにありがとうございます」浅野聖美は、実習材料の提供者である持田洋子に頭を軽く下げる。「何かご質問などあれば、伺おうと思って参りました」
「どうぞ、お掛けになって」
洋子は自分の隣に誘った。
「はい、失礼します」
「手紙!」
洋子に言われて、友弘が手元の手紙を震えが止まらない手で渡した。その様子を見て女性たちはうっすらとした笑みを交わす。
「中止のリミットは……今日の十五時ね」
洋子が壁の時計を見上げると、聖美も一瞥し、「ええ、あと一時間です。私にこの場で言っていただくか、そこに書いてある携帯番号にご連絡いただければ」と、いちおう説明するのが義務であるふうに言った。
「大丈夫。今のところ、そのつもりはないので」
洋子はきっぱりと言い、もう一度手紙を確認する。
「よ、洋子様……」
掠れる声で縋ろうとする友弘を無視し、妻は元夫の手をはねのけるようにしてブーツの脚を組み直す。
「あ、あと、これはお願いなんですが……」聖美が一瞬、友弘を見下ろした。「処刑前にできれば不用僕をボクシング部のサンドバッグ実習にも使用させていただけないでしょうか」
「……ええ、かまいません……女の子に殺される前に、女の子に叩きのめしてもらうといいわ。それにふさわしいことをやったんですものね、あなたは」
洋子は厳しい眼差しを友弘にやった。
「ありがとうございます……彼は一体何を? 差し支えなければ」
そう尋ねる聖美に応えて、洋子は元夫に自らの口で説明するよう命じた。
「なるほど……分かりました。処刑隊のメンバーにも伝えておきます」聖美は友弘の説明を聞いて頷き、洋子の方を向く。「他に、ご質問などは?」
「特に」
もう気持ちは固まったというように、洋子は頷いた。
「であれば、最後になりますが……処刑の直前に、不用僕には命乞いの機会が一度だけ与えられます」
「どういった?」
洋子が、言葉を失った友弘の代わりに尋ねる。
「一年生から三年生の女子で構成される処刑隊は、私を含めて五人で、実習時に長靴を履きますが、それを一人当たりだいたい五分間ずつ舌で舐めながら……」
「助命を乞うのね」
「ええ」
「その結果、隊長の判断、つまり私ですが、助命に値すると判断した場合は、助命確認の連絡を所有女性、持田様の携帯電話にお入れしますので、助命もしくは処刑の最終判断をお願いします」
「ずいぶん、回りくどいことをするのね」
「ええ、処罰の一環としてですが」
「電話に出なかったときは?」
「不通の場合は、無条件で処刑となります。電話連絡は一度だけです」
「なるほど……命乞いで助かる場合もあるの?」
「私たちでいうと、助命の判断が、半々くらいです。助命の場合は、それから電話連絡で、所有女性に最終判断を委ねますが、これも半々かそれ以下です」
「じゃあ、トータルで八割くらいが処刑?」
「そんなところだと思います」
「だってさ、どうする、お前」
洋子が黒革ブーツの甲で、友弘の頬をピタピタと打った。
「はうううっ……ど、どうか……お許しくださいませ……」
友弘の声は震えている。
いきなり処刑されると言われ、手紙を見せられ、担当者として女子高生がやってきて、現実のようで現実でないのではという思いが、友弘の脳裏で渦巻いている。
「ちょっと、やってみな。命乞い。せっかくだから、見てもらいましょうか。若くてチャーミングな隊長さんに」
「あ、あああ……はい……」
友弘は、女子高生が見ている前で、妻の土足を舐めることなど、もちろん抵抗があったが、命が助かる確率が少しでもあがるのであれば、そんなことにかまっている場合ではない。
おずおずと舌を伸ばして、尖ったつま先の裏側をペロリと舐める。確認を取るように妻を見上げ、女子高生の方にも控えめに視線を送る。
「ふっ……」
聖美は小首をかしげ、思わず鼻で嗤った。
「どう?」
洋子が尋ねると、聖美は「いや……ちょっと……こんなの、命乞いでもなんでもないですよ」
憮然として言い放った。
友弘は、それで我に返ったようになり、焦ってペロペロと舌を使い始めた。妻のブーツの靴底を丹念に舐め上げていく。
「ふふっ、そうそう、その調子で必死にやんないと」
新鮮な感覚の虐待を面白がる洋子……早くも汗を額から流して必死に命令に従う友弘……女子高生の聖美は、女性上位時代の典型的な夫婦を、冷静に観察している。
「どうかしら?」
洋子があらためて尋ねた。
「実際、その場にならないと……」聖美は軽くため息をつき、感情のない眼差しを足元の男に与えながら言った。「実弾入りの機関銃を持った女の子たちの足元に跪いてみないと……こんな程度じゃすまないって、そのときにならないと、わかんないかもですね……やっぱり……」
第一章 女性教師のバター犬
☆ 一
―――五年前、二XX一年九月。
若草女子高等学校に教諭として務めていた友弘は当時、未婚であり、旧姓の細野を名乗っていた。
放課後、細野友弘は、担当教科である地理の実力テストの採点をしているところだった。
「細野さん、ちょっと」
肩を叩かれ振り返ると、学年主任の江上則子が立っていた。
「あ、ああ……」
コツコツと鳴らすパンプスのあとを、友弘は緊張気味に着いていく。
階段を上がることが分かって、友弘は愕然とする。職員室の上階にあるのは、生徒指導室ならぬ、教員指導室であった。
紺色のスーツにはち切れんばかりのグラマラスな身を包み、くびれの利いた蜂腰を左右に揺らしながら、階段を上る三十三歳の女性教諭。その後ろ姿は官能的であり、挑発的でもあった。
教員指導室は上位の教諭が、部下や後輩の教諭を指導する部屋である。絶対女性上位の現世にあっては、女性教諭が男性教諭を叱咤する空間となっている。
壁際のソファに腰掛けた江上則子が、「そこ、正座して」と自分の足元を指さす。「え……」と一瞬驚いた友弘だが、これまでにない則子の迫力に、大きく唾を飲み込んで、スリッパを脇に脱ぎ、命令通り跪いた。
「ねえ、あなたちょっと勘違いしてない?」
「あ、うん、え……といいますと……」
もともと、江上則子は友弘の大学の後輩で二つ年下であったが、一浪で入学した友弘がさらに一年留年したため、卒業時には同学年となり、同期として揃って同じ女子高の教諭になったのである。ギリギリの単位で卒業した友弘とは対照的に、彼女は首席卒業のエリートだった。
女性上位政策が打ち出されてからは、女性の出世がめざましく、則子も半年前に、ついに念願の学年主任に抜擢された。平教員の友弘に、はっきりと職位の差を付けた格好である。
「その、うん、てのだよ。やめな」
則子は目つきをなおさら鋭くして言う。
「あ、は、はい……」
「いつまでも同期の気分でいられると、こっちも凄くやりにくいから」
「わ、分かった……いや、いえ、分かりました……」
今日はこれを言うと決めてきたのだろう、江上則子の表情に強い覚悟が見て取れた。それにしてもさすがは元ミスキャンパスである。切れ長の双眸、高い鼻筋、ストレートの黒髪に包まれた美貌は、三十三歳のいま、衰えるどころか、さらに洗練を増している。運動神経も抜群で、大学ではボクシング部に所属しており、プロテストの誘いが頻繁にくるほどの実力の持ち主だった。この女子高でもボクシング部の顧問をしている。
隣の部屋から、女性教師が男子教師を恫喝する声が聞こえる。続いて平手打ちの音……。友弘の脳裏にはその部屋の様子がありありと浮かぶ。もはや、この学校では日常的な光景になりつつある。女性から男性への暴力は、家庭内であろうが、企業、学校であろうが、敷地内であれば、主たる女性の裁量でいかようにもできる。そのように法律で定められている。女性校長が許可通達を出しているこの学校でももちろん、問題ない。
―――まったく、とんでもない世の中になったものだ……
「ねえ、アタシが大学の後輩だからって、ひょっとして、手を挙げないって思ってる?」
「あ、あああ……」
隣部屋の剣幕を聞きながら、則子の気持ちが昂ぶっていく。
「けじめ付けようよ、そろそろ」
そう言いながら、則子が紺色スーツのポケットから、革手袋を取り出した。
「ああああ……江上、さん……」
「江上さん? で、いいの?」
則子は左手に装着した革手袋の裾を引っ張りながら、グーパーを繰り返し、指先をなじませている。
「え、江上、先生……」
「大学の先輩を殴っちゃいけないなんて、変な前例を作りたくないからさ、アタシも」
「せ、先生、僕に悪いところがあったのであれば、改めますので、ど、どうか暴力は……」
「暴力? 人聞きの悪いこと言わないでよ。女性から男性への鉄拳指導は、法の下に保障されてるんだから。うちの学校では特に推奨されてるし、新しい職員手帳にも書いてあるよね。知らないとは言わせないよ」
「は、はい……」
則子の両手におどろおどろしい黒革が完全に装着されたのを見て、友弘はもはや覚悟せざるを得なかった。
「それじゃ、打てないでしょ。膝立ちしな」
則子の革手が伸びてきて、友弘のネクタイをつかみ、さらに自分の方へ引き寄せる。
「くふううううっ……」
「なんて声出してんの、情けない……歯、くいしばんなよ」
「くうっ……」
友弘は、殴るなら早く終わらせて欲しいと思いながら、奥歯を喰い締める。
「目は開けてな」
女性にしてはドスの利きすぎた低い声を出す。目を開けると、黒髪の美貌が冷笑を浮かべている。友弘は美しく強い目力に耐えきれず、思わず首を少し右に向けてしまう。
「目ぇそらすんじゃないよっ」
ネクタイがさらに引きつけられる。
「くううううっ……」
「アタシの目をみな」
額から脂汗をタラタラと流しながら、視線を則子の双眸に戻す。則子の右腕がさっと上がったかと思うと、頬に強い衝撃を受ける。
「はぐうううっ……」
想像していたより遙かに強烈な打撃で、脳震とうを起こしたようになる。
「おらああっ……」
続いて手の甲で返すようにして、反対の頬にもう一撃が放たれる。
「ぐわううううっ……」
さらにもう一発、かしぐ頬をカウンターぎみに打たれ、友弘は体ごと床になぎ倒された。
「ぎゃはうううっ……」
口の中が血の味で満たされていく。殴られることは覚悟したが、このように手加減なしだとは想像していなかった。体がガタガタと震える。
「いつまでも寝てんじゃないわよっ」
パンプスのヒールが友弘の腰を踏みつける。気づけば、則子は立ち上がり、革手袋の手を両腰に当て、鋭い視線で見下ろしている。
「す、すみませんっ……」
友弘は頭をクラクラさせながら、正座の姿勢に戻り、広めに脚を広げて立つ女性上司の足元に視線を落とす。
「すみません? 何に対してすみませんなの、ねえ」
パンプスのヒールが太股に刺さる。
「はがうううっ……」
友弘は何を言えばいいのかとっさには思いつかなかった。
「聞かれてるでしょう、ねえ」
則子はパンプスを左右にツイストさせ、ヒールをさらにねじ込んでいく。
「ぐわああああっ……」
慈悲を乞い願おうと顔を上げるが、視線の先の美女は冷笑を浮かべるばかりで、容赦の気配などかけらも見当たらない。友弘は元後輩でいまでは恐ろしい上司になってしまった彼女に対して、何を言うべきか必死になって言葉を探す。
「私が、お、愚かでした……上司である江上先生に対して、うっかりタメ口を使うなどしてしまった自分を深く反省しています……こ、今後は、そのようなことが一切ないよう努めます……」
「アタシには、今後、最上級の敬語を使うこと。いい?」
則子は興奮の吐息で肩を上下させている。
「……は、はい……」
「他の先生が見てる前でもだよ」
「……わ、分かりました……」
「生徒の前でもね」則子の顔に嗜虐的な笑みが浮かぶ。「女の子たちが見ている前でも、私に恭しく仕える態度でいなさい」
「あああ……」
「返事はあっ」
革の手が拳になって、友弘の頭を殴りつける。
「うがあっ、はいいいっ……しょ、承知いたしましたあっ……」
「アタシが見逃してきたのをいいことに、さんざん調子に乗ってくれたよね」
則子は女性特有の執拗さで、すでに完全に彼女の足元にひれ伏している男をさらに責め立てる。
「ほ、本当にすみませんでした……」
友弘はどうにかして、解放してもらえないかと涙声を出す。
「ふん、それがあなたの謝罪?」
「あ、ああああ……も、申し訳ありません……」
友弘はさらに頭を下げて、声を震わせる。
「床に頭をこすりつけてさ」腿を踏んでいた則子の脚がサッと上がり、今度は後頭部にのしかかる。「申し訳ございませんでしたって、言うのが本来の謝罪の仕方じゃないの? ねえ」
アドレナリンが全開になった則子の勢いはもはや止まらない。
友弘の額が冷たく硬い床に当たって、ゴンと音を立てる。
「うぎゃぐわあああっ……ひいいいっ……も、申し訳ございませんでした……江上先生……」
「それくらいさ、アタシに頭踏まれる前に自分からやってよ。馬鹿なのか? お前」
「い、いえ……は、はい……」
「馬鹿だよな、お前は。そうでしょ?」
「…………」
頭を踏みつけられたまま、酷い言葉を浴びせられ、もはや男としてのプライドが崩壊寸前であった。
「ビンタから、もう一回やり直そうか?」
天から注ぐような美しく冷たい声に我に返り、友弘は江上則子の恐ろしさを肝に刻み込む。
「お、仰るとおり、私が馬鹿でした……」
「でした? お前、やっぱり分かってないじゃない」
則子は踏んだ頭を転がすようにして、そのまま友弘の頬を、横顔を床にさらに強く踏み込む。
「ゆがあああっ……ば、馬鹿です……いまも、そうです……」
「だから?」
「こ、この馬鹿を、どうか、心ゆくまで、ご指導くださいませ……え、江上則子様……」
顔を踏まれた脚がようやく退かされ、友弘は生きた心地を取り戻す。
☆ 二
―――約一ヶ月後、十月某日。
この日も、友弘は江上則子に指導室へ呼び出され、職務態度についてこっぴどく罵られ、平手打ちの体罰指導を受けていた。
「すっかりしょげかえっちゃって、可愛いわね」
二つ年下の女性にそのように言われ、友弘は複雑な思いである。しかし、今や反抗的な態度はもちろん、彼女に対して、どのような意見も申し立ても許されないのだと理解し始めていた。
「せっかくだから、続きの指導をやろうか。それが希望なんでしょ?」
「え……あああ……」
またもや暴力かと、友弘は気を滅入らせる。
「心配しないで。一日に何度も殴りはしないわよ。こっちだって痛いんだから」
そう言いながら革手袋を外したので、友弘は少し安心する。さっきから続いていた隣の部屋のヒステリックな剣幕もいつの間にか収まったようだった。
則子が立ち上がって、部屋のドアの内鍵を閉め、戻りしなスーツの上着を脱いで、テーブル椅子の背に掛けた。
「さあ、おいで」
友弘の背中を叩いて、壁際のソファに腰掛ける。
恐る恐る隣に座った友弘の体がグッと抱き寄せられる。
「あああ……え、江上先生……」
友弘は、想像を遙かに超えた則子の力の強さに驚き、身をすくめる。則子の左腕に肩を抱かれ、淡い色のマニキュアが光る右手で、器用にネクタイが緩められ、シャツのボタンが上から外されていく。
「こ、困ります……本当に……」
友弘は眉毛を八の字にして、まさしく困惑の表情を作り、則子に懇願の視線を送った。同じ大学とはいえ、学年学部が違うので学生時代はほぼ面識がなかったが、ミスキャンパスの優勝者として有名であった彼女のことはよく知っていた。しかし、その頃抱いていた清廉なイメージからは想像もできない暴力に続く、セクハラであった。
「ふっ」
年下の美人上司は、友弘の困惑を鼻で嗤うようにして、かまわず彼のシャツの中に指を滑らせ、アンダーシャツの上から指の腹で乳首を弄り始める。
「はあぅ……」
友弘は思わず、甲高い声を挙げてしまって恥ずかしく思う。
「ほら」則子が笑みを浮かべる。「体は正直じゃない。感じてるんでしょ。乳首、しこってきてるし」
甘いコロンの香りを漂わせながら、友弘の左乳首をつまんで弄り回す。
「はぅあぁ……江上、先生……」
「そろそろ、下の名前で呼んでもらおうかなあ、アタシも」
男性教師が女性教師を下の名前で呼んだのであれば、それは忠誠を誓っている証拠であった。
「あ、ああああ……先生……」
「ねえ、また殴られたいの……」
則子は下着の中に手を滑らせ、友弘の乳首を直につまむ。
「はん、はぅあぁっ……の、則子、先生……」
「アタシのことはこれから、ずっとそう呼びなさい」
「……は、い……」
女性上司の命令は絶対だ。他の女性教師や女生徒の前でも、則子先生と呼ばねばならなくなったことが確定し、友弘に諦めのような気持ちが訪れた。
「コチコチに勃ってきてるじゃない、乳首」
「はぅあああ……せ、先生、の、則子先生……もう……」
「敏感なんだね、ふふっ、その顔、クラスの子たちに見せてあげたいね」
「あぅはぁあ……の、則子先生、それは……そんなのだけは……」
受け持ちの女生徒の前で弄ばれる自分を想像して、顔が熱くなる。
「こっちの方はどうなってるのかしら」
則子の手がスルスルと下へ降り、ズボンのファスナーを開けて、ブリーフの上から、局部をまさぐり始める。
「うううっ……」
「ほら、大きくしちゃって。やっぱり触られて悦んでるんじゃない。正直だね、体は」
則子の手が興奮で膨らんだ友弘の竿をグッと握り、上下にさするように刺激する。
「はううっ……ふあああっ……も、もう……やめて……ください……」
付き合ってもいない女性にこのようなことをされるのは、たまらないと思った。
「やめないわよ。やめる理由もないしね」
女性から男性へのパワハラ、セクハラは、指導の範囲であるならば法律的にも許容されている。
「やめてなんて言えるのは、アタシに忠誠が足りない証拠だよ。この可愛いお口で忠誠をしっかり誓ってもらおうかしら」
「はううっ」
友弘の口を則子の唇が塞ぎ、唾液が送り込まれる。大きな肉厚の舌が、友弘の口腔の中で猛威を振るう。淫欲の衝動にだけ基づいた愛のないディープキスに蹂躙され、友弘の体から力が抜けていく。
「さあ、声を出して、アタシに忠誠を誓いなさい」
則子の右手がブリーフの中に侵入し、友弘のペニスを直に握り直す。
「あはむぅっ……の、則子先生……ち、誓います……」
「何をっ」
握った指にいっそうの力が込められ上下に強く擦られる。
「うくああわあっ……ちゅ、忠誠を誓います……の、則子先生に、ずっと従います、着いていきます……」
「今までみたいに、おざなりな態度は一切許さないからね、いいわね」
則子の親指の腹が亀頭を押しつぶすように刺激する。
「は、はい……しょ、承知しました、くうううう……」
「何? これは?」
ズボンから上げた右手の指に、先走りの液がヌラついている。
「あ、あああ……すみません……」
友弘は、恥ずかしげに目を伏せる。
「生意気にガマン汁なんて出してんじゃないわよ」
則子が先走り液の付いた指を友弘の口を無理矢理こじ開けるようにして突っ込む。
「はうぅ……」
「自分が出したものは、ちゃんと自分で処分してもらわないとねぇ。きれいに舐めな」
友弘は、口の中に突っ込まれた則子の指を仕方なしに舌で触る。かすかに甘酸っぱい味がしたが、自身のものだと思うとさほど嫌な気持ちにはならなかった。
「ほら、フェラみたいに、やってみな」
則子が自身の指を男根に見立てて、友弘の口に抜き差しする。
「はふううっ……はむぅ……」
友弘は、責められる側の、受け身側の快感が少しだけなんとなく分かる気がした。そういう気分になると自分の方から、ちゅぱちゅぱと音を立てて、則子の指を舐めしゃぶり始めた。
「そうそう、もっとヤらしく、やってみせて」
則子は手のひらを広げて、親指の先が、友弘の喉奥につかんばかりに押し込み、左右にグリグリと押し回した。
「はむうううっ、くむっ、くわはあっ……」
友弘の吐きそうに苦しむ顔をしばし愉快そうに眺めたあと、則子はようやく指を出してやる。
「あーあ、私の指、ベトベトにしてくれちゃったね」
則子は友弘のシャツの裾で、よだれだらけの指を拭く。
「す、すみません……」
「さてと……アタシに忠誠を誓うって言ったよね」
「……は、はい……」
友弘は生唾を飲み込んで頷く。
則子は年上の男部下を抱いていた左腕を抜くと、「じゃあ、さっそく態度で示してもらおうかしら」と強い口調で言い、友弘の前髪を鷲づかみにして、乱暴にソファから引きずり下ろした。
「あぐああああっ……の、則子先生……」
もうそろそろ、解放してください……そんな目をして、友弘は則子を見上げる。
「何、その顔は。同情でも買いたい?」
則子はそう言って、髪をつかんだ手を前後に揺さぶる。
「くわううっわっ……」
「だいぶ寂しくなってきたんじゃない? 貴重な髪の毛でしょ。いいの? ふふっ」
則子は、薄くなってきた友弘の後頭部を覗き込むようにして言う。
「ぅううう……」
友弘は密かなコンプレックスをあからさまに嘲笑われて、これまでのどの仕打ちよりも、辱めを受けた気持ちになった。
「の、則子先生の、仰るとおりに、し、従います……どうぞ、ご、ご命令くださいませ……」
「だよね……忠誠を誓うってそういうことでしょ」
則子は立ち上がって、タイトスカートを下ろし脱ぐと、友弘に渡した。
「あ……」
「これから、度々、やってもらうことだからね、訓練だよ」
友弘は、則子の命令に従い、スカートを軽く畳んで、ソファの空いたところに置いた。
「Sit !」
則子が、英語教師らしい、ネイティブに近い発音で叫ぶ。
「……」
「何、ボーッとしてんのっ」則子のビンタが炸裂する。「そう言われたらさ、アタシの足元に正座だろっ」
まるで犬みたいだ、と思いながらも友弘は渋々従う。
「もっと、すばやくっ……少し調教が必要だね……」
そう言いながら、則子はにやりと笑った。
「Garter !」
戸惑う友弘に、則子は、「一度だけしか、言わないよ」と鷹揚な態度で言い、ガーターベルトの外し方を教えた。
ガーターベルトが外れると、則子は黒いショーツを脱いで、それを友弘の後方に放り投げた。
唖然とする友弘に、「ほらあっ」と声を荒げ、平手打ちを食らわせる。
「くわううっ……」
「ご主人様のショーツを取ってこないかっ。忠実な犬だろ、お前はアタシの」