小説出版

S女小説 鬼姫劇場(上)「強く美しく残酷な女たち」

S女小説 鬼姫劇場(上)「強く美しく残酷な女たち」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

女性マネージャーに虐待・陵辱を受ける幕間芸人たちの悲劇(上巻)

売れない漫談家である唐谷マキオ(30)は、再起を賭けるべく、とあるストリップ劇場の面接を受けることにした。合格すれば幕間芸人としての身分が保障され、定職にありつくことができる。面接を行ったのは、劇場支配人の娘でマネージャーである高杉千夜(28)という女性。もともと外資系商社のキャリアウーマンだった彼女は判断力や機知に優れ、そのぶん気が強く、たぶんに嗜虐性を備えていた。千夜は、いきなりマキオに芸を演じさせ、辛口の評価を与えるも、思わせぶりな態度を取ってみせる。ここが正念場だと悟ったマキオは、プライドをかなぐり捨て、床に跪いて懸命に採用を懇願したのであった。それが地獄の始まりであるとも気づかずに……。ただ、一目惚れして交際を申し込んだ受付嬢の吉川菜々子(23)だけが、彼の希望のヒロインだった。

第一幕 美人マネージャーの脚揉み当番

第二幕 モデルボクサーの強打に怯えて

第三幕 女性実業家のペニバン逆レイプ

第四幕 大切な恋人に鞭打たれ陵辱され

本文サンプル

第一幕 美人マネージャーの脚揉み当番

☆ 一

「そこをなんとか、お願いできませんでしょうか」
 唐谷マキオは、額が机に着くほどに頭を下げ、女性マネージャーの高杉千夜ちやに懇願した。もうあとがなかった。ここを断られたら、もはや芸人を辞めて堅気の仕事に就くしかない。それくらいの覚悟で赴いたのだった。
「何度も言ってるけど、幕間まくあいの芸人さんは今のところ間に合ってるし……もし、空きが出たら連絡しますから」
 まだ二十代かと思われる美貌のマネージャーはすげなくそう言った。唐谷マキオは、三十歳の漫談師である。かけだしの頃は、漫才師としてコンビを組んでいたこともあるが、喧嘩別れしてからはピン芸人となった。以来、鳴かず飛ばずのまま、今年で芸歴十二年を迎える。所属事務所との契約も切れ、フリーの立場であった。もはや堅気の仕事を探すしかないと観念していたところへ、知人からこのストリップ劇場を紹介され、面接に挑んだのであった。幕間芸人の立場を確保できれば、なんとか定職にできる。そう思った。
「最低の条件でかまいませんので……」
 マキオはもう一度深々と頭を下げる。早、薄くなりつつある後頭部を美女に見下ろされるのは恥ずかしいが、そんなことを気にしている場合ではない。
「そう言われてもねぇ」
 ため息をつく高杉千夜マネージャーにしても、実のところこの職についたのは一年前のことであった。元々外資系の商社に勤めていた才女であるが、今年の初めに支配人であった父親が他界したのを機に、母親に泣きつかれて、引き継いだ次第である。マネージャーだったその母がいまでは支配人の椅子に座っている。
 目の前のマキオのことは、とりあえず会うだけでも会ってみてくれと知人に頼まれたので、そうしているまでのことであった。
「どうかお願いします、私にチャンスをいただけませんでしょうか……実を言うと、も、もし、ここが駄目なら、もう芸人を辞めようかと思ってるんです」
 マキオにしてみれば、相手が年下の女性であろうが、もはや体裁を気にしている場合ではなかった。二人きりの面接であったのも幸いした。もし人目があったりしたら、こんななりふりかまわずの態度に出られたかどうかは分からない。
「そう、ですか……じゃあ、とりあえず、見せてもらえますか? 何も見ないでお断りするのもなんだし……」
「あ、ね、ネタをですか?」
「うん、今、ここで」
「わ、分かりました……」
 ネタ見せをするのなど久しぶりで、本番より緊張する思いがした。マキオは席を立ち、引きつっているかもしれない頬を両手で揉みほぐした。
「はいっ、では、ありがとうございます……」
 マキオは、機会を与えてくれたことに感謝しつつ、汗をかきかき、渾身の漫談を披露した。

「なるほど……なんか、ほのぼのした感じですね。悪くないけど、迫力に欠けるっていうか……声が小さいのかな」
「あ、ありがとうございます……こ、声は、舞台だともっと張れます、この部屋だと少し、遠慮ぎみになっちゃって……」
 マキオにしてみれば、相手はマネージャーといえど元キャリアウーマンで、就任してまだ一年ほどだと聞いている。芸のことはおそらく素人に近い彼女に意見されたことに憤りとまではいかないが複雑な思いを抱いた。それが少し表情に出たのかも知れなかった。
「舞台なら、もっと本気出せるんだ……」
 千夜は真顔でつぶやくように言った。
「あ、すみません……」マキオは慌てた。怒らせてしまったのではないだろうか。「そう言う意味ではなくて……本気では、やりましたけど……ここで大声を出すと耳障りかと思いまして……」
 女性はマキオが慌てる様子をやや面白げに見ている。少し間を開けて、「じゃあ、舞台でもう一度やって見せてもらいましょうか」

「は、はじめまして、唐谷マキオと言います……」
 客席には、踊り子たちや女性スタッフがまばらに座っている。このような劇場にしては珍しく、女性だけで運営されているらしい。
 ほぼ中央の前よりの席に高杉千夜マネージャーがいるのを見つけて、マキオは生唾を飲み込む。こんなに緊張する舞台は初めてだ。
「すみません、ほとんどの方がはじめましてだと思います。なんせ、テレビにはあまり出たことがありませんので……」
 少しの笑いを期待したのだが、誰もクスリとも笑わない。これでさらに緊張が高まってしまった。もともとはあがり症を克服するために、お笑いを始めたことを思い出す。

―――酷い出来だった……
 千夜と二人きりの事務所に戻ったマキオは、すでに諦めていた。少しは笑いが起こったが、あれは自分が笑わせたのではない。笑われたのだ。どもり、突っかかる漫才師を踊り子や女性スタッフたちにバカにされたのだと思った。十年以上もやっているはずなのにあるまじき醜態だ。結果は聞かずとも分かっている。マキオは、一刻も早く逃げ帰りたい気分だった。
「悪くはないかもね……」
 千夜はセミロングのストレートヘアを触りながら、確かにそう言った。
「え……ほ、ホントですか」
「こんなこといっちゃ、失礼かも分かんないけど、妙に素人っぽいところが新鮮ね。計算でやってるの?」
「え、いえ、あ、まあ、多少は……」
 一転して意外な展開になりつつあることに、急な期待感を覚える。素人などと言われるのは心外だが、このままお笑いを続ける道が開けるのなら、ここはひとまず従順な態度を見せておくべきではないだろうか。
「どうします? その気がないなら、それで別にかまわないけど」
 千夜は、一瞬戸惑いを見せたマキオに、やや憮然としている。
「え、い、いえ……使っていただけるのなら、ぜひ……お願いします……」
 マキオは再び机に額をつかんばかりにして、懇願する。頭を下げたまま、美女の承諾を待っているが、その声は聞こえてこない。マキオはたまりかねて、顔を上げる。女マネージャーは腕を組み、黙ってこちらを見つめている。見つめているというよりも、立場が上の人間が、自分の聞きたい言葉を待って上から見据えているという感じだ。
「す、すみません……」とりあえずそう言うしか、元の空気に戻す術はなさそうだった。「どうか、チャンスをお与えいただけませんでしょうか……」卑屈に過ぎる言葉かも知れなかったが、他の誰に聞かれているわけでもない。何が何でもここをくぐり抜けねば、目の前の女マネージャーに首を縦に振ってもらわねばならないと思った。これからまだまだ先の長いはずの人生がかかっているのだ。
「どの程度の覚悟なの?」
 千夜がポツリと言う。
「ほ、本気です……人生が掛かっています……」
 マキオの言葉に千夜はかすかに首をかしげる。言葉に真実味がないのだろうか。三十路に入ったばかりの男芸人は不安を募らせる。つかみかけたロープが手の届かない高さへと無情に引き上げられようとしている。
「お、お願いします……どうか……」
 マキオは席を立つとテーブル脇に移動して靴を脱ぎ、脇へ揃える。生まれて初めてする行いに体を震わせつつ、その場にしゃがみ込み、赤いタイトスカートを履いた彼女の足元に向けて正座を整えた。
「ど、どうか、お願いです、た、高杉、様……」
 マキオは女マネージャーを見上げる。黒っぽいインナーにデニムのジャケットを羽織った美女は、変わらぬ落ち着きでマキオを見下ろしている。唇とマニキュアの真紅が鮮烈である。しかし彼女は、依然として無言のままだ。
「一生懸命、頑張らせていただきますので、どうか、わたくしを使ってやってくださいませ……」
 必死の思いでそう言うと床に向かって深く頭を下げた。黒いパンプスのつま先が、照明を浴びて妖しい光沢を放っている。

☆ 二

「……では、このあと、また、踊り子さんが出てきますのでね。どうも、ありがとうございあしたぁ……」
 まばらな拍手の中、マキオは舞台を降りる。
「お疲れさま」
 舞台袖で見ていた受付嬢の吉川菜々子が、楽屋へ向かうマキオに声を掛ける。清廉という言葉が似合う二十三歳の美女は、一見このような職場にはそぐわない印象だが、昨今の女性客増加に応えるべく、ストリップ劇場の従来のイメージを刷新したいという高杉千夜マネージャーの意向で、先月からこの職場に就いている。元来お笑い好きのようで、休憩中など、菜々子は芸人たちの漫才や手品を舞台袖から見るのを好んでいた。
「あ、ああ、どうも……」
 そんな菜々子にマキオは一目惚れしていた。こんな魅力的な女性との出会いが待っているのならば、プライドをなげうって、年下の女性マネージャーに土下座までした甲斐があったというものだ。
「結構、ウケてましたね」
 菜々子は、頬にえくぼをつくって微笑んだ。拍手はまばらだったが、このような劇場では拍手があるだけでもありがたい。
「そ、そう?……そりゃどうも、ありがとう……そう言ってもらえると……嬉しいね……が、頑張ります……」
 菜々子を見ると年甲斐もなく、少年時代に戻ったような心持ちになる。マキオは照れて逃げるようにしてすぐ裏手の楽屋へ戻った。

「お疲れさん。ウケてたじゃねえの、なかなか」
 手品師の中島が茶を注いでくれる。口ひげを生やした五十代の小男だ。
「あ、すいません。ですかね……優しいお客さんが多かったのかな……」
「んなことねえよ、オイラんときゃ、結構野次られたぜ」
「そうですか?」
 マキオはズズッとお茶を啜ってまんざらでもなさげにする。
 中島は舞台の上では、タキシードを着て上品な語り口で優雅な手品芸を見せるのに、舞台を降りた途端に口が荒っぽくなる。そのギャップが面白くて、そのうちネタにして舞台で話してやろうかとマキオは思った。
 廊下から気の立った足音が聞こえてくる。
―――カッ、カッ、カッ、カッ……
 引き戸が開いて、劇場マネージャーの高杉千夜が入ってきた。
「ほら、何してるの、悠長にお茶飲んでる場合じゃないでしょ」
 千夜はだいぶ年上であるはずの中島を見下げた口調で注意する。
「あ、お嬢さん、すいやせん、すぐ行きますんで」
 中島は千夜にペコペコと頭を下げながら、部屋を出て行く。踊り子たちの楽屋へ行くのだ。幕間芸人は、彼女たちの雑用係でもあった。
「どう? 少しは慣れた?」
 千夜がテーブルを挟んでマキオの前に、さきほどまで中島がいた座布団の上に座る。
「あ、はい……多少は……」
 面接の日から一週間が経っていた。
 マキオはぎこちない手つきで、千夜にお茶を入れる。
「最初に言ったように、三ヶ月は様子見だから、気を抜かないようにね」
「はいっ……頑張らせていただきます……」
 マキオは座っていた座布団を外し、正座の姿勢を再度整えて、千夜の方へ頭を下げる。
「それと……あなたも、来週くらいから、踊り子たちの楽屋に行ってもらわないと」
「は、はあ……」
 気が進まないが、それがここのしきたりらしい。そのような説明や最低限の給金の話は、すべてマキオが土下座をした後に聞かされた話だった。外資系の商社で百戦錬磨の交渉術を身につけた千夜にとっては、一般常識に疎い下層芸人たちの処遇を優位に進めるなど、赤子の手をひねるより簡単なことのようだった。
「踊り子さんたちの稼ぎで、あなたたちの給金がまかなえるんだからね。くれぐれもそこんとこを忘れないように」
 千夜は積極的な態度を見せないマキオに釘を刺す。
「は、はい……でも、ち、千夜さん……」マキオはおもねる気持ちを込めて、思いきって下の名前で呼んでみる。「踊り子さんたちの雑用って例えば、どんなことを……」
「彼女たちが頼んできたことは、何でも」
「な、何でも……」

 千夜が出ていった後、マキオはしばらく、師匠から破門されて流れてきた落語家と一緒だったがその彼が舞台に上がったところで、手品師の中島が戻ってきた。
「中島さん、踊り子さんたちの雑用っていったいどんなことをするんですか?」
 なんとなく聞きづらいことだったが、思いきって尋ねてみる。
「彼女たちが望むことはなんでもだよ」
 中島は口髭を触りながら、千夜と同じ事を言った。
「例えば?」
「例えば……いや、それは自分で確かめな……」
「え……」
 マキオは、中島が口にできないほどのことをやらされるのかと不安になる。

 マキオは、マネージャー室をノックする。
「はい」
「あ、唐谷です。ま、マネージャー、ちょっとお話しが……」
「どうした?」
 千夜はパソコンのキーボードを叩きながら画面に目をやったまま聞く。
「お忙しいところ、すみません……やはり、ちょっと例の踊り子さんの雑用のことが気になって……中島さんに聞いても、教えてもらえなくて……自分で確かめろって……」
 マキオの話を遮るように、千夜は大きくため息をつくと席を立ち、壁際のソファへ腰掛けた。今日は外で打ち合わせでもしてきたのか、ベージュ色のいかにも上等そうなスーツを身につけている。
「煙草、取って」
 千夜は机の上を顎で指して言う。マキオは一瞬、驚いた表情をして、生唾を飲み込んだが、言われるまま、シガレットボックスとライターを手渡した。
「要はね。そういうことをさ、言われなくてもやるようにするの。アタシが煙草吸うって、もう分かってるでしょ?」
 千夜は煙草に火を着けると大きく煙を吐いた。
「……は、はい……」
 マキオは屈辱に身を震わせながらも、若い雇い主の言葉を懸命に受け入れようとする。
「ボーッと突っ立ってないでさ、そこ座んな」
「え……」
 マキオは椅子を探して、あたりを見回す。千夜が顎で指している場所が、冷たい床の上であることを悟ると、今一度確かめるように彼女の顔を見る。
「早くしなさいよ」
 低く厳しい声にマキオは背筋に寒気を走らせ、すぐに靴を脱ぎ、しゃがみ込んで膝を揃えた。
「あとはね……例えば、足を揉むとか」
「あ、足を……揉む? ……踊り子さんたちの……」
 マキオは愕然とした表情をする。それはあまりにも惨め過ぎはしないか。いくら幕間芸人とはいえ、それなりに志を持って芸を磨いているつもりだ。立場上ある程度の雑用は仕方ないとしても、そのような下人のようなことをさせられる筋合いはないのではないか。
「嫌? できない?」
「あ、いえ……でも、それでは、あまりにも……」
 マキオは長い脚を組んだ豪腕美女の顔色をうかがいながらも、なんとか異議を取り合ってもらえないか言葉尻を濁す。
 とたんに千夜の表情が険しくなった。
「ちょっと、あなた勘違いしてるみたいだから、もう一度、きちんと話しようか」
「あ、は、い……すみません……」
「うちに来るお客さんは、誰に対してお金を払ってるの?」
「それは……踊り子さんたちです……」
「だよね、それは説明したはずだよね。何度も」
 赤いルージュを引いた口がきっぱりと言う。
「は、はい……」
「彼女たちがいなけりゃ、あんたら、舞台に立つことできないんだよ。こんなこと本当はいいたくないけど、そのおこぼれにあずかってるだけの立場だってことを分かってもらわないと」
「あ、ああああ……」
「アタシが言ってること間違ってるかなぁ」
「…………」
「だとしたら、これ以上、話することないわ、あんたに。出てっていいよ、いますぐ」
「あ、いえ……すみませんっ……」マキオは焦って詫びた。「やります、踊り子さんたちの言う通りにします」
「どうだか……そんな中途半端な、甘ったるい考えで、この先、やってけるのかなぁ」
 千夜の厳しい言葉と態度に、マキオは不安と恐怖を募らせる。
「お、お嬢さん……」マキオは、他の芸人たちと同様に、最上位に敬う呼び方をした。「本当に、申し訳ありませんでした」床に額がつかんばかりに謝罪をする。
「いまのアンタのまま、踊り子さんたちのところにやるのは不安だなぁ、ちょっと教育が必要かもね」
「は、はいっ……よろしくお願いします」
 マキオは涙目で、二つ年下の美人マネージャーを見上げた。

☆ 三

「もうちょっと、力出ないの?」
 煙草をくゆらせながら、千夜が言う。彼女の足の裏、土踏まずを押し続けているマキオの親指はもはや吊りそうである。
「すみません……」
 教育をすると言われた日から、ほぼ毎晩、千夜はマキオを呼びつけて、足を揉ませている。
「アンタらを売り込むために営業してきてあげてるんだからね、少しは感謝してもらわないと……そうでしょ?」
「は、はい……ありがとうございます……お、お嬢さん……」
 暇な時間の多い幕間芸人たちをイベントやテレビ番組などに派遣する芸能事務所的な機能を思いついた千夜は、持ち前の行動力でさっそく実行に移すことにした。商社時代のコネを生かして営業に回っているところだ。テレビ出演はもう少し時間が掛かりそうだが、ショッピングモールのイベントや結婚式への芸人派遣は、近々にも動きが出そうな感触だった。
「感謝してるの? 本当に」
「はい、それは、もちろん……」
「じゃあ、証拠を見せてもらおうか……」
 そう言って、千夜は三本目の缶ビールを飲み干した。頬をほんのりと染めて、気分良く酔っているようだった。
「しょ、証拠……と、いいますと……」
 千夜は鋭い眼差しでじっとマキオを見つめる。マキオが耐えきれず、目をそらしかけたそのとき、「舐めて」といい、足の指先を彼の鼻先に差しだした。
「あ、ああああ……」
「何? 感謝してるんじゃなかったの?」
 千夜のこわばった表情にマキオは、一巻の終わりになってしまいそうな気配を感じる。
「お、お嬢さん、分かりました。や、やりますので……でも……」
 マキオはようやく、千夜が多分に嗜虐的な性向を持つ女性なのだと察した。でなければここまでの命令を出すはずがない。
「でも?」
「でも、どうか、他には内緒にしておいてやってください……」
 どうにも免れないと観念したマキオは、声を絞り出すようにしてそう言った。

 

S女小説 鬼姫劇場(上)「強く美しく残酷な女たち」