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S女小説 名門私立S女学園1「学級支配」

S女小説 名門私立S女学園1「学級支配」を電子書籍として出版しました。

内容紹介

名門女子高で過ちを冒した男性教諭が、受け持ちクラスの女生徒たちに脅され虐げられる物語

既婚者である男性教諭は、新任の女性教諭と不倫関係に陥ってしまう。二人は同じ一年一組を受け持つ担任と副担任であった。恋に燃えさかる男女は、あろうことか神聖な職場を愛の巣と化してしまう。さらに、そこにはひとりの目撃者がいた。一年一組のクラス委員長を務める女生徒が禁断の場面を記録に収めてしまっていたのだ。美少女の内面に沸々と湧き上がる嫌悪はやがて濃い嗜虐の色を帯びていく。かくして、男の悲劇は始まったのだった。

第一章 教師たちの甘い秘密

第二章 愛する人に頬打たれ

第三章 体育倉庫での生本番

第四章 教え子の騎上位責め

第五章 美人教師の尿を飲む

第六章 女生徒に捧げる尻穴

本文サンプル

第一章 教師たちの甘い秘密

☆ 一

「気をつけっ、礼」
 クラス委員長である早川沙樹の溌剌とした声が教室に響く。
 稲田弘信が六時限目の授業を終えて、一年一組の教室を出ようとすると、「先生」と同じ声に呼び止められる。
「どうした? 早川君」
「ちょっと、ご相談したいことがあって……」
 ボブヘアがよく似合う美少女は、まっすぐに目を見て言う。
「そう……分かった」
 弘信は相談室で待ち合わせる約束をして職員室へといったん戻った。
 稲田弘信が勤務するのは、さくら女学園高等学校。歴史のある私立の女子高だ。生徒の自主性を重んじる自由な校風が特徴であるが、毎年国公立大学や有名私立大学に多数の卒業生を送り込んでいる名門進学校でもある。弘信の担当教科は数学で、彼はこの春から、沙樹が属する《一の一》の担任でもあった。

 約束の時間に相談室へ行くとすでに早川沙樹が机の向こう側に着席していた。
「あ、先生、すみません。お忙しいところを」
 白い制服ブラウスとチェックスカートの美少女はいったん立ち上がって軽く頭を下げる。六月からの衣替えで半袖になったばかりだ。白くて長い腕も印象的である。
「もう慣れたかい? 入学して二ヶ月経つけど」
 弘信は、気が張っている様子の沙樹をリラックスさせるように優しい口調で声がけしながら向かい側に座る。
「はい、だいぶ……」
「それで? 今日は?」
「あ、いえ……大したことじゃないんですけど、あの、今日の授業で、少し分からないところがあって……」
 そう言って沙樹は脇に用意しておいた数学の教科書を広げる。
 弘信はかすかに膨らんだ胸元を見て思わず生唾を飲みそうになる。
「授業のことだったら、教室で聞いてくれていいのに」
「あ、そうですね……でも、クラス委員のことでもちょっと、ご相談があって……」
 沙樹は慌てて付け足すように言った。
「そう、分かった」
「で、ここなんですけど……この赤線引いてるとこの数式がいまいちピンとこなくて……」教科書を差し出し、弘信が読みやすいよう回転させる。「あ、私、そっちへ行ってもいいですか」
「あ、うん……」
 一見控えめに見えて、いざというときには物怖じせず大胆な行動を取れる性格のようだ。クラス委員長にただ一人立候補したときも、弘信は少し驚いた。
 沙樹は弘信の隣の椅子を引いて座る。
「これは、指数法則だよね……」
「あ、はい……」
 弘信が説明を始めると、沙樹は椅子をずらして身を寄せてきた。シャンプーの優しい香りが、三十八歳の男教師の鼻腔をくすぐり、モヤモヤとした気持ちにさせる。
 ―――間違いない……
 早川沙樹は自分に気があるのだと、弘信は思った。これまでの長い教師経験からそう言える。必要以上に質問をよくしてくるし、この相談室で二人きりにさせられるのも一度や二度のことではない。
―――やれやれ……また、この誘惑に耐えなければならないのか…… 
 しかも相手は新世代のミス桜女子と言っていい、とびきりの美少女である。変な気を起こしそうになる前に突き放しておくか。ただ、聞かれた質問には専門教諭として応えねばならないし、クラス委員として悩みがあるなら担任として相談に乗るのは当然だ。弘信は、数学の不明点に対して、メモ用紙に書き込みながら、懇切丁寧に説明する。説明するほどに、沙樹の質問も増えてしまい、それだけで半時間ほどが経ってしまった。
「あ、早川君悪い……」弘信は腕時計をチラリと見やって言う。「このあと、先生方と会議なんだ。クラスの悩みはまたにしてくれるかな……」
「あ、分かりました……ありがとうございました……」
 沙樹は残念そうな顔を見せると、メモを挟んだ教科書を小脇に抱えて席を立ち、一礼すると出ていった。
「ごめんね、早川君」
 弘信は清楚なブラウスの背中に声を掛けて、職員室へと急ぎ戻った。

☆ 二

 職員会議を終えて弘信は自席へ戻り、授業やテストの準備他、上に提出するレポートなど黙々と残業を行う。周囲の教師が一人去り二人去りして、ついに弘信一人きりになったところで、携帯電話からメッセージを送る。
 しばらくして、一人の女性教諭がやってきた。
「お疲れ様です」
 副担任の石坂真由美は、この春新任したばかりの養護教諭、いわゆる《保健の先生》である。栗色のセミロングヘアを輝かせる二十三歳は、目鼻立ちの整った正統派美人である。色白でどこかハーフっぽい雰囲気も持っている。
「お疲れです、あっちでやろうか」
 弘信は後輩の美人教諭を、今日も入り口近くの応接ソファへ誘う。簡易の応接や教職員のちょっとした休憩に使われているスペースだ。
「どうでした? 今日のクラスは」と弘信が問う。
「特に変わりはなかったようです。保健室に来た生徒もいません」
「そっか……じゃあ、明日のホームルームですけど……」
 二人はそれぞれ担任、副担任として話し合いを進めていく。一段落ついたところで、真由美が冷蔵庫へ飲み物を取りに行った。ペットボトルのお茶をコップに注ぎ、両手に持って戻ってくる。テーブルに置いてソファに座り直した彼女の肩を、弘信がそっと抱き寄せる。
「あっ……、稲田先生、だめ……です……」
 そう言う唇を、こちらに向かせて優しく唇で塞いだ。

 弘信が真由美と男女の関係になったのは、二週間前のことである。その日はいまのクラスを受け持って初めての授業参観だった。高校教師になって、この学校へ勤務するようになって、かなりの年月が経つ弘信であるが、この授業参観ばかりはどうにも慣れずずっと不得手だった。今回も準備から当日の授業と神経をすり減らし、希望者への三者面談も経てすべてが終わった夕刻には、ヘトヘトに疲れ切っていた。
「よかったら、打ち上げがてら一緒に食事でもしませんか?」
 弘信の方から誘ってみた。これほどの美女だし、付き合っている彼氏のひとりくらいはいるだろう。もし断られたら素直に引き下がろうと思っていたが、彼の提案はあっさりと受け入れられた。
「ええ、いいですよ、どこ行きます?」
 真由美は、誘われるのを待っていたようにすら思える歓迎の笑顔を見せて言った。
 行きつけの中でもとっておきの店を選んだ弘信だったが、あまり人目に付くのもよくないと思い、個室をあらかじめ予約して別々に向かった。

「なんか私たち怪しい関係みたい」
 グラスを合わせると、真由美は笑った。一気に疲れが癒やされる思いがした。
「そう?」弘信も照れて笑う。「だけど、一緒に肩を並べて校門を出てさ、そのまま飲みに行くのもね」
「それは確かに……でも、ホント授業参観って緊張しますね」
「疲れた?」
「いえ、先生ほどには。私は横で見てただけですから」
「いや、石坂先生のナイスフォローのおかげで、今回は随分と楽だったよ」
「それなら嬉しいですけど……でも、お疲れになったんでしょ」
「まあね……それはそれなりに……」
 ばつの悪そうに言う弘信を見て、真由美は吹き出すように笑った。
「やっぱり……すみません、次はもっとお役に立てるよう頑張ります」
「いや……実は昔、モンスターペアレントというか……女性なんだけど、凄いひとがいて、それがトラウマになっているというか……」
「あ、そうなんですね……」
 弘信の顔から笑みが消えたのを見て、真由美も申し訳なさそうにして真顔になる。
「いや、ごめん」弘信は慌てる。「今日はよそう、そんな話。石坂先生にゆっくり癒やしてもらいたいから」
「ええ、私でよければ……」
 そう言う真由美のグラスはほぼ空になっている。
「強いんだね、お酒」
「なんか喉渇いちゃって……お酒もきらいでは、ないですね」
 真由美は悪戯っぽく笑った。最高の笑顔だと弘信は思った。ビアグラスを煽って空にし、二人分のお代わりを注文する。

 いい気分に酔って、弘信はこのまま家に帰るのがもったいない気がしてくる。
「カラオケにでも行ってみる? 歌うの好き?」
 酔いに任せて誘ってみた。
「好きですよ。たいして上手くもないですけど」
「いいよ、僕も下手だから。じゃあ、ちょっと行ってみよっか」
「はい」
 真由美がトイレに立った間に、妻に(遅くなりそう)とメールを打ち、会計をすませた。

 カラオケボックスでは、先に座った真由美の隣に弘信も座る。最初は、遠慮気味に距離を取っていたが、飲み放題のアルコールが進み、曲を歌うごとにお互いが接近し、ほとんど肩と腰がくっつくほどになる。
「ぜんぜん上手いじゃない」
 弘信は、感じたままを言ってみた。
「いえ、先生こそ」
 さすがの真由美も頬を赤らめている。さっきの店からトータルで十杯近く飲んでいるのではないだろうか。だいぶ酔っているようだ。
「ほら、曲入ったよ」
 弘信のリクエストで、真由美が歌謡曲の懐メロを歌う。たまらなく愛おしくなり、抱きしめそうになるが、すんでのところで思いとどまる。ところが、歌い終わった真由美は靴を脱ぎ、「酔っちゃった」と弘信の太股を枕にソファに横になってしまった。
―――え……
 弘信は歌いながらドギマギする。曲の間奏になって、下を見ると、仰向けの真由美が目をつぶっている。
―――寝ているのだろうか……
 気がついたら、薄オレンジの唇に自身の唇を当てていた。

 カラオケ店を出た二人は、手をつないでホテル街へと向かったのだった。

☆ 三

「おはようございます……」
「あ、お、おはよう……」
 翌日、多少気まずい空気はあったものの、弘信は努めてこれまで通りの担任と副担任の関係で真由美に接した。
―――あれは一夜限りのことだ……彼女にしても、こちらが妻帯者と知ってるのだから……
 しかしそんなふうに真面目ぶった考えをしようとすればするほど、日に日に真由美への思いが募っていくのだった。

 一週間後、弘信が夕食に誘うと真由美は素直に応じた。そして二人はごく自然にホテルへと足を運んだ。
「どう考えてるんですか? 奥さんいるのに」
 事を終えたあとのベッドで真由美が尋ねる。
「……あ、いや……」
 そう言われると何も言えなくなる。
 弘信が困り切った顔をするのを見て、真由美は悪戯っぽく笑う。
「いいですよ、このままで。私は……こんな感じで……ぜんぜん……」
「あ、ああ……」
 真由美の笑顔に逆にとまどった弘信だったが、彼女がせっかくそう言ってくれるのだったら、久々の恋愛を自分も満喫しようと思った。

 そしてそれから数日後の今、二人きりの職員室。入り口近くのソファで、担任は副担任に唇を重ねた。
「い、稲田先生……」真由美は慌てる。「いくらなんでも、ここでは……学校ですよ……」
「うん……だから……かえって……」
 弘信は胸を高鳴らせ、もう一度真由美を抱き寄せ、接吻する。
「あああ……」
 今度は真由美も脱力して素直に応じた。

 その頃、早川沙樹は、ひとり居残りの部活を終えて校門を出ようとしていた。美術部の部室で水彩画に没頭していたのだ。ふと、担任の稲田弘信の顔が頭に浮かぶ。
―――クラス委員のこと相談に行ってみようかな。でも、こんな時間だし、さすがにもう先生もいないか……
 とりあえず職員室の方へ回ってみることにする。
 校舎に入り廊下を進むと、扉の窓から明かりが漏れている。
―――あ、誰かいる……
 そっと窓から職員室の中を覗いてみた。
「あっ……」
 沙樹は目を疑った。いったん扉から体を外して深呼吸をし、もう一度窓を覗く。
―――信じらんない……
 無意識のうちにポケットからスマートフォンを取り出し、カメラのレンズを窓の向こうの被写体に向ける。音が漏れないようスピーカー部分を親指でしっかり押さえながら、無我夢中でシャッターを切った。

 舌を入れあい、唾液を交換するディープキスまで進むと弘信は、真由美の大きな胸をブラウスの上から揉み始めた。
「あああ……だめ、それは、ここじゃ……」
「ねえ」どうにも収まらなくなった弘信は、いまにも真由美の服を引き剥がさんばかりだ。「保健室、行こうか」

 担任と副担任がソファから立ち上がるのを見て、沙樹は慌てて職員室を離れ、階段のスペースに身を隠して様子を伺う。しばらくして、職員室の明かりが消え、二人の男女が出てくる。職員室の向こうに隣接する保健室へと入っていった。沙樹はそっとあとを追う。
 保健室の扉にも窓はあるが、すりガラスになっていて、中の様子を伺うことはできない。沙樹は唇を噛みしめ、大人たちの密室をあとにした。

☆ 四

 翌日、弘信は担任を務める一年一組での授業を終えた後、教卓前を横切って出て行こうとする沙樹に声を掛ける。
「ああ、早川君」
 沙樹は無視して出て行こうとする。
「ねえ、早川君っ」
 沙樹は、振り返って弘信を睨みつける。
―――おお……機嫌が悪い日かな……
 女子高勤務が長い弘信は、気まぐれな女生徒たちの態度に慣れてはいる。
「こないだの続きやろうか? あの相談」
 弘信は周囲に気を遣いながら、クラス委員の悩み相談について促す。
「ああ、もういいです。解決しましたから」
 沙樹はつれなく言うと、足早に教室を出て行った。

 数日後の放課後、早川沙樹は保健室の扉をノックした。
「はい」
 中から石坂真由美が返事をする。
「早川です」
「どうぞ」
 沙樹が中へ入ると、執務机に向かっていた真由美がこちらを向いた。
「どうした?」
「ちょっと、お腹が痛くて。少しの間、横にならせてもらっていいですか?」
「ええ、もちろん。大丈夫? どうしたのかな。お腹のどのあたり?」
「下の方なので、たぶん生理痛だと……」
「お薬あげようか?」
「大丈夫です。ちょっと休んだら落ち着くと思いますので」
 気丈に言う沙樹を真由美は二床あるうちの奥のベッドへ寝かせ、執務机に戻って書類の整理を再開する。養護教諭は一般教諭に比べて暇だと思われているのか、教頭や上司の教諭から雑用的な仕事を押しつけられることが多かった。新任で覚えることもたくさんあるのでここのところ残業続きである。しかし、そんなストレスを和らげてくれているのが、弘信の存在であった。
 その彼から今日もショートメールが送られてきた。
 真由美はベッドのカーテンをそっと開けて見る。沙樹がうっすらと目を開けて天井を見ている。
「どう? 具合は?」
「ええ、だいぶ……」
「じゃあ、もう少し休んでなさい。先生、ちょっと職員室に用事があるから」
「分かりました……私ももう少ししたら、帰りますので……だいぶ落ち着いたみたい……ありがとうございます……」
「そう……そこ、そのままにしといていいからね……お大事に……」

 真由美は保健室に教え子を残して、職員室へと急ぐ。弘信はすでにソファで待っていた。真由美は誰もいないのをあらためて確認するように職員室全体を見回すと、弘信の元へ駆け寄り自分の方から抱きしめて口づけをする。
「ああ、早くこうしたかった……」
「僕もだよ」
 ホームルームの打ち合わせもよそに、二人は時間を惜しむようにして愛を確かめ合う。
「行こうか」
「あ、待って」
 弘信が立ち上がろうとすると真由美が制した。保健室にはベッドで休んでいる生徒がいることを告げる。
「そうなんだ……」
 弘信はややがっかりした様子を見せる。
「待ってて、ちょっと見てくる」
 真由美は、着衣の乱れを直して立ち上がると、職員室を出て行った。

 真由美は保健室へ入って、「早川さん」と声を掛けてみる。返事がないので、奥のベッドのカーテンをめくるとブランケットはきちんと畳まれ、ベッドは元のままにきれいに整頓されていた。そして、一枚の紙片が置いてあった。
「石坂先生 ありがとうございました。おかげですっかり落ち着きました。お先に失礼します。 早川沙樹」
 真由美は、丁寧な字でそう書かれていた紙をポケットにしまうと、職員室で待つ弘信を呼びに戻った。

☆ 五

―――翌週。
「時間も過ぎたし、今日はこの辺で終わります……」
 六時間目、最後の時限と言うこともあり、つい熱が入って、弘信は授業時間をオーバーしてしまう。真由美との関係が充実してから、仕事にも俄然意欲が増してきている。
 クラス委員長の早川沙樹の「起立!」という声が心地よく響く。
―――今日のご機嫌は大丈夫かな……
 そう思いつつ窓際の一番前の席に目をやる。
「礼!」
 沙樹の表情に柔らかさを見て、弘信はホッとする。
「ありがとうございましたっ」
 皆が帰り支度や部活への移動を始める中から、その沙樹が教卓へ近づいてくる。
「稲田先生、今日、相談室、いいですか?」
「あ、ああ……大丈夫だよ……」
 沙樹の顔にはかすかな笑みが浮かんでいる。それを見て和やかな気持ちになるも、女性の扱いは、特に思春期の女子は難しいと弘信は思う。

 ノックの音があって、「失礼します」と声が続き、相談室のドアが開く。
 約束の時間から十分ほど遅れて、早川沙樹が現れた。
「すみません、遅くなっちゃって……」
 その言葉とは裏腹に、まったく悪びれたふうがないのが弘信の心に引っかかった。
「なんだい、相談って、クラス委員のこと? あまり時間がないから……」
 弘信は、生徒に待たされたことに少々苛立ちを見せながら言う。悪いのは彼女だが、あからさまに怒ったりしては、またややこしいことになる。
「いや、もうクラス委員のことはいいんです……アハッ」
 十六歳の美少女は、たまたまダジャレになってしまったことに、照れ笑いして愛らしい唇に手を当てる。
―――すっかりご機嫌は戻ったようだな……深刻な相談でもないようだ……
 そう思うと収まりかけていた怒りが込み上げてきた。言うべきことは言い聞かせなければならない。
「なんだよ。相談があるなら早く言って欲しいな。たいしたことじゃないんだったら、時間取らせないでくれないか。先生はそんなに暇じゃないんだ。そもそもどうして遅れてきたんだよ。十分も待ってたんだぞ」
 弘信は一気にまくし立てた。
「そんなに怖い顔しないでくださいよ、先生……たいしたことあると思いますよ……」
 その態度と言い草がもはや普通ではなかった。
「いい加減にしろよ、キミ……」
 弘信は声を震わせる。
「待ってください」
 沙樹はそれでも落ち着いた様子で、ポケットからスマートフォンを取り出した。
―――いったいなにをしてるんだ……
 弘信は手首のボタンを外して袖をまくり始める。これ以上の無礼があるならば、教師を侮辱するのであれば、もはや手を上げざるを得ない。女子高での体罰は覚悟がいるが、そうなったらそうなったときだ。
「えっと……あ、これだ、これ、見てもらいたいんですよ」
 沙樹はそう言ってスマートフォンの画面を弘信の方へ向ける。
―――え……
 弘信は言葉を発しようとして、それを飲み込んだ。一瞬、何のことか分からなかった。男と女がキスをしている。見覚えのある場所で……職員室のソファだ。男は自分で、女は副担任の石坂真由美である。
「ふふっ」
 沙樹は何も言わず、意味ありげに微笑むだけだ。
「は、早川君、そ、それ……」弘信はパニックに陥るが、なんとか取り繕えないかと必死で頭を回転させる。「ああ、それは、たまたま、ちょっとふざけてて……」
「ふざけてて?」沙樹はにやつきながら首をかしげる。「職員室ですよ、これ」
「ああ、打ち合わせの流れでね……雰囲気で……そういうことだってあるさ……」
 なんとか強気に言ってのける。
「ああ、そうですか……じゃあ、これも打ち合わせの流れのフンイキ?
 保健室のベッドで、半裸になって絡み合う、弘信と真由美の姿があった。
「こ、これは……どうして……」
―――ああああ……これは、駄目だ……
 万事休すだと思った。
「先生、大変だったんだから、これ撮るの……音が鳴らないカメラのアプリをインストールしたし……ずっとベッドの下に隠れてて、体痛いし……」
「は、早川君……」
 弘信は思わずスマートフォンに手を伸ばそうとする。すかさず沙樹が手元に引っ込め、そのままスカートのポケットにしまう。
「相談っていうのはぁ……こういうの見てしまったんだけど、どうしたらいいでしょうかってことなんですよぉ」
 成績優秀なはずの沙樹が、あえてそうでない女子のような口調を真似て言う。
「早川君……ど、どうか……」
「何?」
「け、消してもらえないだろうか……」
「どうして? ……」
「そんなのが表沙汰になったら……」
「ふふっ、自業自得でしょ。アタシ、ホントにショックだったんだから。稲田先生も、石坂先生も尊敬してたのに……」
「頼む。この通りだから……」弘信は机に両手を突き、頭を下げた。「消してくれないか……」
「なあんか、言葉が上からだな」沙樹は冗談っぽく言う。「お願い、じゃないんですか」
「お、お願いです……消して、もらえませんか……」
 弘信が顔を上げると、ボブヘアの似合う美少女は面白くてたまらないという表情でこちらを見ている。
「先生、奥さんいらっしゃいますよね?」
―――ああああ……
「奥さんはもちろんですけど……担任と副担任が不倫なんて、私たちに対してもすっごい裏切りですよ」
「す、すみません……」
「もうちょっと、ちゃんと謝ってください」
「も、申し訳ありません……」
 弘信は机に頭をつけるようにして詫びる。
「そこに、土下座して謝って。先生」
 沙樹は興奮したまま、顎で床を指して言った。
「は、早川君……」
 弘信は、沙樹の表情をよく確かめるように覗く。
「冗談で言ってるんじゃないですよ、アタシ」
 弘信は観念して席を立った。内鍵を閉めると、女生徒の方へ回って、脇にスリッパを脱いだ。

☆ 六

(保健室で待ってる)
 その日、ほとんどの職員が仕事を終えて職員室からいなくなるころ、弘信の携帯にメールが入った。真由美からだ。背徳的な刺激にすっかり取り憑かれてしまったのか、校内での交接は、いまでは弘信よりも、むしろ彼女の方が積極的になっていた。
 弘信が保健室へ入ると、白衣を着た真由美がいかにも官能的な眼差しをしてこちらを見ている。紅い唇は、濃いめのルージュを塗り直したようだ。
「待ってたわ……」
 真由美は両手を広げて、弘信の抱擁を迎えようとする。
「そ、それどころじゃないんだ……」

 翌々日の放課後、真由美の待機する保健室に、ノックの音があった。
「はい、どうぞ」
「失礼します……」
 入ってきたのは早川沙樹だった。真由美は驚いたが、表情には出さないように努めた。
「ど、どうした? またお腹?」
「いえ、ちょっと気分が悪くて……少し横にならせてもらっていいですか?」
「え、ええ……どうぞ……」
 真由美は手前のベッドに沙樹を寝かせる。
 ドギマギする気持ちを抑えながらも、執務机に向かって今日中にやっておかねばならない仕事を進めた。

 半時間ほどして、書類作成にめどがついたところで、沙樹の様子を伺ってみる。ベッドのカーテンをそっと開けて覗く。
「どう?」
「ああ、ええ、だいぶよくなりました……」
 沙樹はそう言って体を起こし、ベッドに腰掛けた。
「どうした? なんかあった?」
 真由美は覚悟を決めた表情をして、丸椅子に座り、沙樹の顔をじっと見つめる。
「ちょっと、ショックなことがあったから……そのせいかも……」
「聞いたわ、一昨日、稲田先生から」
「そうなんですね」
「どうするつもり?」
「どうするつもりって?」
「とぼけないで。アタシたちの写真を撮って、稲田先生を脅したんでしょ」
「脅してなんていませんよ」
 余裕めいた沙樹の態度に、真由美は貯め込んでいた苛立ちと怒りを募らせる。
「うそ、おっしゃいっ」
 気がついたら、沙樹の頬を強く張っていた。
「ううっ……」
 沙樹は驚いて副担任を見る。
 真由美にしてみれば、教え子に手を挙げるなどもちろん初めての経験だった。教え子だけでなく、これまで一度も他人に暴力をふるったことなどなかった。
「ご、ごめんなさい……つい……」
「いえ……でも、びっくりした……」沙樹は打たれた頬を手で撫でながら言う。かすかに手形がつき赤らんでいる。「で、稲田先生はなんて?」
「別れることになったわ。当然だけど……」
 真由美の言葉に、女の未練がにじんでいる。
「ふーっ」沙樹は天井を見上げて大きく息を吐き、ベッドに後ろ手を着いて、頭の中を整理する。「……稲田先生を呼んでもらえますか……」

「鍵掛けといた方が、よくないですか?」
 沙樹は保健室に入ってきた弘信に言う。弘信は一瞬、真由美の方を気にして、しかしすぐに女生徒の指示に従った。
「は、早川君……」
 弘信が何か言おうとするのを制して、沙樹は「ええっと……」とひときわ大きな声を出す。まるでこの部屋の主導権は自分にあるとでも言いたげに。
 所在なさげにしていた弘信が向かいのベッドに腰掛けようとするのを見て、「ちょっと自分勝手過ぎやしないですか?」と部屋の外にも聞こえそうなくらいの大声を出し、二人を脅かす。
「稲田先生は、床に正座してください」
「早川さんっ」
 真由美がたまらず声を挙げる。
「聞けませんか? アタシの言うこと」
 沙樹の口調がいっそう強まる。
「わ、分かった、分かったから……」
 弘信はスリッパを脱いで脇にやり、冷たくて固い保健室の床に正座した。真由美に、この場は沙樹を刺激しない方がいいという視線を送りながら。
「稲田先生」沙樹は弘信を見下ろして言う。「石坂先生と別れるんですって?」
 

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