電車の座席に座って読書をする二十代の女性に、靴磨きの男が仕事をねだる。女性が履いているのは、つま先がとがったハイヒールの黒革ロングブーツだ。仕事にありついた男は、さっそく、脚を組んだ女性の右脚のブーツを磨きはじめる。当然ブーツは履いたまま。女性は脱ごうとするそぶりさえ見せない。足元で男にブーツを磨かせたまま読書に戻る。失礼のないように、慎重に丁寧にブーツを磨く男。きちんと磨けているか、女性の鋭い視線が時折男を射る。もう片方の脚をきっちり磨かせた後、女性は「いくら?」と男に問う。値段を聞いて、財布から小銭を取り出すと、女性は男に恵むようにして渡す。男は仕事をいただいたことへの感謝と次への期待を込めて、ぎこちない笑みを浮かべる。女性は蔑むような視線を返し、再び本の世界へ没頭する。