ショートストーリー

若き女性上司たちが支配するオフィス

午前9時。オフィスの静寂を切り裂くのは、硬質なハイヒールの音。大理石の床に響くその規則正しいリズムは、旧時代の遺物と化した男性主導の価値観を粉砕する「福音」として、私たちの耳に届く。
「おはようございます、課長」
私の隣で、親子ほども年の離れたベテラン社員が、震える声で挨拶をする。彼はかつて、この業界で名を馳せた凄腕の営業マンだったという。しかし今、彼の視線は彼女の膝より上に上がることはない。入室してきたのは、弱冠二十五歳の女性課長。彼女の不機嫌を察した瞬間、広大なオフィスに冷気が走り、男たちは一斉に伏し目がちになった。圧倒的な捕食者を前にした小動物の群れ――それが、私たちの実像だ。
彼女がデスクに無造作に投げ出した資料が、ひらひらと床に散らばる。
「……やり直し。これ、日本語のつもり?」
溌剌として若々しく、それでいて冷徹な声。ベテラン社員は反射的に床に這いつくばり、彼女の足元に散った資料を、一枚一枚丁寧に拾い集める。もはや職位の上下というだけではない。そこにあるのは、生物学的な強弱の差という、残酷なまでの真実だ。
私に与えられた任務は、さらに「道具」としての純度を求められるものだった。
彼女のデスクの下に潜り込み、彼女の靴を磨く。それが、この会社で私に与えられた唯一の存在意義だ。デスクの下は、彼女がまとう高価な香水の香りで満たされている。その甘美な香りに脳を痺れさせながら、私は懸命にクロスを動かす。ブーツの黒革が音を立てるたびに、私は自分という人間が彼女の利便性を高めるための専用道具へと変質していく悦びに、背筋を震わせるのだ。
「この程度の仕事もできないのなら、生きてる意味なんてないわよ」
女性の言葉は、男たちのプライドを微塵切りにする。しかし、不思議なことに、その痛みは次第に甘美な熱へと変わっていくのだ。
そして、残業時間のオフィスは、もはや彼女の独壇場だ。ミスをした年上の部下を立たせ、彼女は優雅に足を組み直す。ピンヒールの尖った先端が、男の膝をなぞる。彼は期待と恐怖が混ざり合った表情で、酸素を求める魚のように口をパクつかせている。言葉による叱責は、やがて肉体的な屈服へと形を変えるが、それは決して「暴力」ではない。無力な私たちにとって、女性たちの気まぐれな「指導」こそが、唯一の救いであり、教育なのだ。
接待の場においても、私たちの価値は「装飾品」でしかない。
若き女上司の輝くような美しさを引き立てるため、私たちは地味な服に身を包み、背後で控える。彼女がグラスを空ければ、即座に跪いて酒を注ぐ。彼女の心ない言葉一つで、私がこれまでの人生で積み上げてきた知識も、経験も、すべてが無価値なゴミとして処理されていく。だが、それでいい。女性の足元こそが、男が辿り着くべき唯一の終着点なのだから。
「パワハラ」という言葉は、この社会では死語となった。あるいは、女性たちの特権を鮮やかに彩るためのスパイスに過ぎない。
蹂躙され、尊厳を奪われるたび、私たちの瞳からはかつての「反抗の光」が消えていく。その代わりに宿り始めるのは、陶酔に満ちた隷属の輝きだ。若き女王に支配されること、その圧倒的な力に身を委ねること。その悦びを知ってしまった私たちに、もはや「自由」などという不確かなものを望む力は、どこにも残されてはいない。