S女小説「ネイルサロンの女王様達」を電子書籍として出版しました。
内容紹介
ホームページ制作業を営む男が、女性クライアントに虐め抜かれる物語。
ホームページ制作業者、澤田伸吾のオフィスにある日、一本の電話がかかってきた。クライアントの病院で受付をしていた朝霧麻衣子という若い女性からだった。彼女はすでに病院を辞め、知人に誘われてネイルサロンの運営に新しく参加すると言う。そこのホームページを伸吾に依頼したいとのことだった。ちょうど売り上げが下がってきていた折で、伸吾は、妻でありオフィスの社長である涼子から尻を叩かれ、打ち合わせに出向く。待っていたのは麻衣子とサロンの店長姉妹の美女三人だった。幸福な仕事とつかの間喜んだ伸吾だったが、ほどなく美女達に駄目出しをもらい、妻にも厳しく叱咤される。仕事を手放さないために、伸吾は美女達の無理難題や欲望に応えなければならない。男の気弱な態度が女性たちのS性に火を着けてしまい、状況はどんどんエスカレートしていく。
第一章 与えられたチャンス
第二章 逆セクハラ・デート
第三章 美女の下で打ち震え
第四章 仕事が欲しいのなら
本文サンプル
一章 与えられたチャンス
☆ 一
「もうちょっと、しっかりやんないとさ。どうしようもないわよ、これじゃ」
「う、うん……頑張ります……」
帳簿を見ながら妻の澤田涼子が、夫の伸吾にいつもの説教を始める。
「うん、じゃないでしょ」
「あ、はい……」
仕事中は、夫婦ではなく社長と従業員の関係だ。そうするよう涼子から言われているので伸吾は彼女に対して敬語を使わねばならない。少々屈辱的ではあるがいたしかたない。
長年、広告制作の会社に勤めていた伸吾だったが、五年前に独立してホームページ制作業を始めた。想像以上の苦戦を強いられるなか、二年前に妻が遺産相続したのを契機に彼女の提言で法人化した。妻の涼子が社長を務めるというのが資金を提供する彼女の条件だった。年齢のこともあり、再就職は困難だと思われた伸吾はそれを受け入れざるを得なかった。法人と言っても妻が社長で社員は彼ひとりだ。
「そもそも、営業に回ってるの?」
「い、いや……今のところは紹介で……」
長年、制作畑でやってきた伸吾は営業は大の苦手だった。
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ。こんな状態が続くんだったら、あたしいろいろと見ていくからね……」
これまではどちらかというと放任していたが、そろそろ締めていかねばと、涼子は考えていた。
「わ、分かった。いや、分かりました……」
月に一回の帳簿チェックですらプレッシャーなのに、これ以上干渉されてはたまらない。
「じゃ、じゃあ、仕事始めますので……」
伸吾は妻に一礼すると、そそくさと社長の部屋を出て、自分の仕事部屋へ戻った。澤田ホームページ制作室は、マンションの一室だ。自宅の隣がちょうど空いたので法人化と同時に購入したのだった。
伸吾がパソコンを立ち上げたと同時に電話が鳴る。
「朝霧ですけど、分かります?」
声の主は思いがけない女性だった。
「も、もちろんです。朝霧さん、いまどちらに?」
澤田伸吾は、朝霧麻衣子のことを思い出す。クライアントの個人医院で受付をしていた、二十六歳の美女だ。何ヶ月か前に、用事で医院を訪ねたときに先月辞めたと聞いてがっかりしていた。
「それなんですけど、ネイリストの知人がネイルサロンを開業するので手伝ってるんです。私もスタッフで入ることになってて」
「そ、そうだったんですね」
「ええ、で、ホームページを作りたいんですけど、知ってる人がいいなってことになって。澤田さんだったらって思ってお電話してみたんです」
「あ、ありがとうございます。ぜひ、よろしくお願いします……」
「よかった。じゃあ、店長に話してみますので、打ち合わせの日程はまた改めて相談しますね」
「はい。了解しました。ありがとうございます……」
電話を切ると、背中に気配を感じた。
「新規?」
妻、いや、社長の涼子が伸吾の後ろに腕を組んで立っていた。社長とは言っても彼を監督するだけなので、スーツなどかしこまったものではなく、ブルーのワンピース姿だ。それでも長身美人の彼女が着ると、上に立つ人間としてのオーラが伝わってくる。伸吾は思わず圧倒される。
「ええ、あ、はい、社長。ネイルサロンさんからホームページ制作の依頼です。須賀医院さんからの紹介で」
伸吾はなぜか受注のいきさつを詳しく話す気にはならなかった。特に朝霧麻衣子のことは黙っていようと思った。
「あ、そ。頑張って作って」
「は、はい……」
一週間後、澤田伸吾は、電車で一時間ほどの街へ、打ち合わせに向かった。
「は、はじめまして、澤田と申します」
喫茶店で彼を迎えてくれたのは、朝霧麻衣子と店長の岸野冴子、そして冴子の妹、陽子だった。
いきなり三人の美女を前にして、伸吾は緊張した。朝霧麻衣子が魅力的な女性だと言うことは分かっていたが、店長の岸野冴子、そしてその妹の陽子も劣らぬ美貌の持ち主だった。美しさに加えて、岸野姉妹は長身でもあった。年齢は朝霧麻衣子が二十六歳、岸野冴子が三十二歳、妹の陽子が二十四歳だった。伸吾の胸が年甲斐もなくときめく。
「麻衣子ちゃんから、ある程度のことは聞いてると思いますけど、ざっと説明しますね」
名刺交換や簡単な自己紹介のあと、店長の岸野冴子は、そう切り出した。切れ長の目が魅力的な美人である。朝霧麻衣子が色白で清楚な、いかにも女性らしい魅力だとしたら、店長の冴子は背も高く、目鼻立ちがくっきりして、シャープなイメージがある。濃いフェロモンとともに芸術家のような強い気を発していた。畏怖も多少感じたが、初対面ということもあって物腰そのものは柔らかだった。妹の陽子は、年齢通りのフレッシュな魅力にあふれていた。面立ちは姉に似ているが褐色肌の健康そうな美人だ。これまではマンションの一室を使って岸野姉妹で口コミだけでやっていたのだが、スポンサーが新しくついたのでサロンを戸建で新築して開業することになったらしい。
「了解しました。オープンは二ヶ月後ということですね」
伸吾は冴子に確認する。
「ええ、間に合います?」
「すぐに取りかかれば、大丈夫だと思います」
「そうですか、じゃあ、まずは見積もりをお願いします」
「あ、はい……分かりました」そう言いながら、伸吾は妻の顔を思い出した。この仕事はなんとしてもものにしなければならない。彼女にこれ以上あれやこれやと口出しされないためにも。
「あ、あの……岸野店長、もしよろしければ、サーバーの準備など始めててもよろしいでしょうか……」
「サーバーって?」
朝霧麻衣子が尋ねる。
「は、はい……ホームページを格納するコンピュータを、レンタルなのですが、早めに準備した方が、確実にオープンに間に合うと思いまして……」
伸吾は、はったり混じりの説明を素知らぬ顔で行った。
「そうね。じゃあ早めにやってもらっとくか……」
店長の冴子が独り言のように言ったが、妹の陽子がすかさず口を挟んだ。
「お姉ちゃん、他にも見積もり取ってたんじゃないの?」
「あ……そうだった。澤田さん、悪いけど、それはちょっと待っていただけます?」
「あ、はい……すみません、ちょっと、先走ってしまって……分かりました……」
伸吾は少々ばつが悪い思いをして、愛想を含んだ笑みを美女達に振りまいた。
「ごめんなさいね」
朝霧麻衣子に冷静な目でそう言われ、伸吾は穴があったら入りたいほどだった。その目はまるで、私に恥をかかせないでよとでもいいたげであった。伸吾は一瞬、背筋に寒いものを感じた。
「どうだった?」
オフィスに戻ると、さっそく妻の涼子が報告を求めた。
「うん、あ、いや、はい……おそらく大丈夫だとは思いますけど、相見積もりになってるみたいで……」
「紹介じゃなかったの?」
「……のはずなんですけど……どうしましょう……」
「どうしましょう、じゃないわよ。とにかく企画と見積もりつくって、紹介してくれたひとに、念押ししておきなさい……ところで誰からの紹介なの? 院長先生?」
「いや、それが……」
伸吾はあまり隠してもよくないと思い、朝霧麻衣子のことを話した。
「うん、じゃあ、その彼女にうまいこと取り入って。きっちりものにしなさい」
妻で社長の涼子は女性ばかりのクライアントということについては、特段、心配する様子もなかった。浮気するほどの甲斐性などないと思っているのだろう。彼女の興味は伸吾がきちんと利益を上げてくるかどうか、そのことにしかないようだった。
その夜、伸吾はさっそく企画と見積もりを作成し、ネイルサロン店長の岸野冴子にメールした。スタッフで紹介者でもある朝霧麻衣子にもCC(同報送信)しておいた。
しかし、それから一週間、彼女たちからなんの反応もなかった。
「どうなってるの? ネイルサロン」
今日も妻で社長の冴子が尋ねてくる。
「も、もうそろそろ、依頼がくると思うんですけど」
「だって、相見積もりとられてるんでしょ。そんな悠長なこと言ってていいの? そもそもメールはきちんと届いてるんでしょうね」
「……だと思いますけど」
「だと思いますけどお? そんな調子だから、いつまでたってもまともな売り上げが上がらないのよ。すぐに電話しなさい。今すぐにっ」
「は、はい……」
伸吾は渋々、携帯電話を取り、少し迷って、店長ではなく、朝霧麻衣子の方に連絡を取ってみた。
☆ 二
「ごめんなさいね、正直言ってまだ迷ってるの」
店長の岸野冴子が伸吾の目の前で、資料を比較しながらそう言う。今日は彼女たちが事務所として借りているマンションの一室に呼び出されている。冴子の左右には側近の二人、朝霧麻衣子と冴子の妹、陽子が座っている。
一昨日、伸吾は麻衣子に電話したのだが、店長に直接会って話した方がいいんじゃないのと言われ、さっそくアポを取って出向いたのだった。
「あの……率直に言っていただいてかまいません。迷われてるのは、料金の問題でしょうか、それとも内容の方でしょうか……」
伸吾は上目遣いで女性店長の顔色を伺う。この案件を絶対に取ってこいと、妻の涼子からは至上命令を下されている。
伸吾の言葉を受け、冴子は苦い笑みを浮かべ、右隣の麻衣子の顔を見る。すると麻衣子が言葉を発した。
「店長、私に遠慮することないですよ、思ってること仰ってください」
「そう。じゃあ、言わせてもらいますね……率直に言って、どっちもです。もう一方の制作者さんより、料金が少し高めだし、内容も……その方は女性なので、よく私たちのこと分かってらっしゃるようで。もちろん、麻衣子ちゃんの紹介だから、お宅にお願いしたいのはやまやまなんですけどね……」
想像以上に強い球を投げられ、伸吾は焦った。
「あ、あの……料金はご都合にあわせます。内容も、皆さんの……」
店長の冴子が伸吾の狼狽ぶりを楽しむかのように微笑んで首をかしげる。
「あ、あの……皆さまのご希望に添えるよう、できる限りやりますので……」
「できる限り?」
冴子がおちょくるように言う。
「い、いえ……ご要望に添えるまで……」
伸吾は部屋の空気が急激に冷えていくような感触を覚える。
「澤田さん」朝霧麻衣子の顔から笑みが消える。「そういうときはさ、完璧にって言わなきゃ。完全に私たちの要望に応えてくれるんでしょ? じゃないんですか?」
「あ、は、はい……」
「何か、はっきりしませんね……」
冴子がため息をついて、手に持っていた資料を机に放り出した。伸吾が朝方まで掛かってつくった企画書が無造作に散らばる。
「い、いえ……やります、やらせてください……皆さまの……」
「誰? 皆さまって……」
麻衣子がすかさず口を挟む。その笑みには嗜虐的な趣が見て取れた。以前、病院の受付にいた頃には見せなかった表情だ。
「店長さま、朝霧さま、そして陽子さま……皆様方のご要望に添えるまで一生懸命やりますので……」
思いも寄らぬ麻衣子の言動に戸惑いを感じながら、伸吾は緊張の声を出す。
「ホントに?」
冴子が念を押す。
「は、はい……」
「うち、意外とサディスト揃いだから、マジで厳しいこと言うかもよ。いいの?」
冴子の口調が明らかに変わった。脚を組み直し、伸吾を見下している様子だ。サディストという言葉を聞いて耳を疑ったが、冗談でもなさそうだった。
伸吾の脳裏に、一瞬、ここまで言われるならば、断った方が良いかもしれないとの思いがよぎったが、妻の厳しい顔が浮かんでそれをかき消す。
「はい、分かりました……ど、どうか、よろしくお願いします」
「ふふっ……まだ決めてないわよ。これから、三人で話して近いうちに連絡するわ」
冴子のセリフに、麻衣子が同意の笑みを見せる。彼女も伸吾を明らかに見下している。冴子の妹である陽子は、多少同情的な眼差しだ。彼女に取り入ることができれば、なんとかうまく進めることができるのではないだろうか、と伸吾は一条の光を見た気がした。
「す、すみません……早とちりしてしまいまして……では、ご連絡をお待ちしてますので……」
「その前に、見積もり出し直してよ。希望の金額はあとで伝えるから」
店長の冴子が、ワンレングスの髪を触りながら言う。
「あ、は、はい……承知しました……」
「何やってるのよ、いったい」
事務所に戻って事の成り行きを報告すると、今度は妻の説教が待っていた。
「ごめんなさい、思ったより気の強そうなお姉さん方で……」
「ふん、丁度良いじゃない。せいぜい鍛えてもらいなさい。そのお嬢さん方に。それとさ……事務所の掃除、もっときちんとならない? そう言うところにあなた出てるのよ。だから、いつもこんな展開になるわけ。分かるでしょ……」
「は、はい……」
早く見積もりを再提出せねばと思いながらも、妻の小言を聞き終わるまではそれに取りかかることもできなかった。
「アタシの部屋も、きれいに掃除して……」
冴子は社長室の部屋の掃除も伸吾に命令した。これまでは自分でやってくれていたはずなのだが、伸吾は次第に自分の立場が弱くなっているのを感じた。
「は、はい……」
「今すぐ」
「え、あ、あの……社長、ですが、先方様から、見積書をすぐ出すよう、言われてまして……」
「じゃあ、早くやんなさいよっ」
涼子が声を荒げる。
「はいっ」
伸吾は肝が縮む思いがした。
翌日、朝霧麻衣子から伸吾に電話があった。
「礼の件、発表するわね」麻衣子はもったいぶってそう言った。「澤田さん、お宅に決まったわよ」
「あ、ありがとうございますっ」伸吾は電話の相手に頭を下げる。「……じゃあ、さっそく取りかかります。いえ、取りかからせていただきます」
「うん、よろしくね……」
業者とはいえども年上の男性として敬意を示してくれていたかつての彼女はもういないようだった。
「あの、朝霧さん……」
「麻衣子でいいわよ」
「ま、麻衣子さん……店長さまにお礼にお伺いしておかなくてよかったでしょうか」
「そうね、ホントはしといた方がいいのかもしれないけど、彼女も設計士さんとの打ち合わせとかで忙しいから、私からよく言っとくわ」
「あ、ありがとうございます……助かります、麻衣子さん……」
「じゃあ、しっかり頼みますね、澤田ちゃん」
「あ、は、はい……」
伸吾は、病院の受付で彼女を初めて見た頃を思い出す。短大を出たばかりでとても初々しかった。あの色白美女に、ちゃん呼ばわりされる日が来るとはよもや思わなかった。
さっそく伸吾は、ホームページの制作に取りかかった。女性向けのサイトはあまり経験がないので不安だったが、二週間ほど掛けて、なんとか形にした。朝霧麻衣子に連絡を取る。
「いつ、お持ちしましょうか?」
「ちょっと待ってて」
受話器の向こうで話し声が聞こえる。店長の冴子と相談している様子だ。
「とりあえず、メールで送ってって。その後、打ち合わせしよ」
「あ、はいっ、承知しました」
サイトの完成ファイルをクライアントの女性たちに送り、伸吾は返事を待ったが、三日経っても四日経っても音沙汰がなかった。
「そろそろ、電話してみたら」
妻の涼子にそう促され、伸吾は憂鬱な気分で麻衣子に電話を掛けた。
―――厳しいクライアントさまでなければ、あれほど魅力的な女性もいないのに……
そう思いながら、彼女が出るのを待つ。
「はい……」
「あ、麻衣子さん、澤田です……い、いま大丈夫でしょうか……」
「ええ……」
「メールの方、見ていただけましたでしょうか……」
「あ、ああ、うん……」
彼女の反応に不安になる。
「い、いかがでしたでしょうか……」
「うーん、ちょっとピンとこないかな……」
いきなりそのように言われ、伸吾は一瞬言葉に詰まった。しかし、決済をするのは店長のはずだ。
「店長さまは、ご覧いただけたんでしょうか」
「もちろん、見てるわよ」
麻衣子は明らかに不機嫌な声でそう言った。伸吾はしまったと思った。彼女をないがしろにするつもりで言ったのではないのだったが、女性に接するときは言葉使いに細心の注意を払わなければならない。しかし、店長の冴子がどう思うかが一番大切であることには変わりない。なにしろ、決裁者なのだから。
「店長さまの方は……」
伸吾は気を振り絞るようにしてもう一度尋ねてみた。麻衣子は、「ちょっと待って」と言い、受話器の向こうで何やら近くにいる女性と話している。店長の冴子がそばにいるようだった。
「今日、こっちにこれる?」
「きょ、今日ですか……」
人に会う用事はなかったが、作業するつもりだった。夕方から夜にかけてつぶれるなら、徹夜確定だ。麻衣子は無言で伸吾の返事を待っている。女性たちが譲歩する気配はみじんもなかった。
「は、はい……承知しました……伺います」
「……」
肝がきしむような沈黙があった。
「あ、う、伺わせていただきます。すみません……」